381 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/10/07(日) 17:08:59.94 ID:8T++Fwu10
いつもの夜空、いつもの風、いつもの空き地、いつもの土管の上。
クレイヴはいつものように、周りにメス猫をはべらせ、夜を満喫していました。
そこに一匹の猫が現れました。体の細長い白猫です。
彼の名前はゲルム。このまちを統括している猫のクレイヴの右腕です。
「どうしたゲルム」
クレイヴは低いうなり声で、ゲルムに問いました。
ゲルムの顔は真剣そのもので、何か思わしくない事態が起こっているのだと、クレイヴにもわかりました。
「クレイヴさん。トマとアベルが殺されました。二匹とも、腹をかっさばかかれて」
「なんだと?」
クレイヴの目が鋭くなり、触覚がぴんと逆立ちました。
「誰がやった!? 例の片耳の野郎の仕業か?」
「わかりません。ただ、背中に十字の傷がつけられていました」
「……まさか、やつらか…?」
ただならぬ雰囲気に、クレイヴの周りにいたメス猫たちはこそこそとその場から去っていきました。
苦虫を噛みつぶしたような顔をするクレイヴに、ゲルムは重たい口を開きました。
「バジリスク……でしょうか」
382 名前: スパンキーと片耳の猫 投稿日: 2007/10/07(日) 17:10:17.10 ID:8T++Fwu10
ゲルムの言った言葉に、クレイヴはわかっていながら、体の毛が逆立つのを抑えられませんでした。
野良猫には大きく分けて二種類あります。
一つのまちで一生を過ごす猫。そしてもう一つは、まちからまちを渡り歩く猫です。
旅をして生活をする猫を、渡り猫と言います。
通常、渡り猫はまちの猫から歓迎される存在です。
いろんなまちを旅しているものですから、渡り猫はまちの猫にとって一番の情報源なのです。
しかし、渡り猫の中には、凶暴な武闘派な猫もいるのです。
その猫たちはまちを荒らし、食べ物とメス猫を頂くと、また次のまちで同じことをします。
そういう猫を荒らしと言います。
そして、全国のまちを荒らしまわり、猫たちの間から最も恐れられている荒らしの集団がいます。
それがバジリスク。全員で何匹いるのか、ボスは誰なのか、誰も知りません。
「もしバジリスクのやつらの仕業なら、おそらく偵察隊だけが来ているのだろう。
まちを把握してから襲うのが、やつらの手口だ」
そう言った後クレイヴは犬の遠吠えのような鳴き声を出しました。
これは緊急集会の合図です。
「ゲルム。すぐに伝令を出せ。今から一時間後に集会を行う」
「わかりました」
ゲルムは全速力で空き地から出て行きました。
一匹になったクレイヴは爪で土管をひっかき、十字の傷をつけます。
その十字の傷を見て、クレイヴは喉から出しているようなうなり声で、言いました。
「……戦争になるな」
続く
最終更新:2008年09月17日 22:51