『スパンキーと片耳の猫』6

友達の作り方を教わったスパンキーは、誰と友達になればいいか考えていました。

(クレイヴが友達になれば、たぶんもういじめられることは無いにゃあ
 でも話すのが怖いにゃあ……)

その時スパンキーが思いついたのは、あのカタミミでした。
カタミミは最近ここに来たので、友達はいません。
それ以前に彼は友達や仲間が欲しいとは考えていませんでしたが。
それを知ってか知らずか、スパンキーはカタミミと仲良くなりたいと思ってきました。
しかし、カタミミがどこにいるのか彼女は知りません。

(お散歩してみるかにゃあ)

考えるのに疲れたスパンキーは、夜のまちを散歩してまわることにしました。
そのとき、目の前をさっと一匹の猫が通りすぎました。
ゲルムです。ゲルムはスパンキーに気付くと、顔だけ向けて言いました。

「おいスパンキー。これから緊急集会だ。お前の仲間にも空き地に集まるよう言っておけ」
「わ、わかりましたにゃあ」

スパンキーが言い終わる前に、ゲルムはさっさと言ってしまいました。

「何かあったのかにゃあ……にゃにゃ、気が重いにゃあ」

集会嫌いのスパンキーは、肩を落としました。
また仲間にも言っておけとゲルムは言ったのですが、スパンキーはひとりぼっちです。
それがまた、スパンキーの気を落とさせました。
集会が始まるまでまだ時間があるだろうとふんだスパンキーは、
空き地とはちょっと離れた商店街に向かいました。
真夜中なので商店街に人間はいません。
何か食べ物でもないかと、スパンキーが辺りを見渡している、そのときでした。

「兄者。メスがいる」
「弟者。しかも可愛いぞ」

スパンキーが振り返ると、二匹のよく似た猫がそこにいました。
二匹とも目尻が下がった顔つきをしていて、鼻の形以外に区別がつきません。

「久しぶりにナンパでもしてみようか」
「兄者のナンパ成功率を考えると、全く期待できないな」

スパンキーはちぢこまって相手の出方をうかがっています。
二匹の猫は見慣れない顔で、声のニュアンスからまちの猫でないことがわかりました。

「なるほど。では体だけ頂く方向でいこう」
「うむ。名案だな」
「にゃ、にゃあ!」

スパンキーは一目散に逃げ出しました。
しかし兄者と呼ばれた猫は俊敏な動きでスパンキーの前に回り込んできます。
後ろを振り返ると、弟者と呼ばれた猫が身構えていて、逃げることができません。

「可愛いお尻をしているぞ、兄者」
「それは俺のお尻だ、弟者」

じりじりとにじり寄ってくる二匹に、スパンキーはなすすべもありませんでした。
その時、近くを偶然通りかかった猫たちが、この状況に気付きました。

「おい、てめえどこのまちから来た猫だ?」
「このまちで勝手なことしてんじゃねえぞ」
「こいつしめてやろうか」
「噛み殺すぞお前ら」

四匹の粗暴な猫が集まってきました。
兄者と弟者は特に慌てることもなく、言いました。

「兄者、俺は白いやつを二匹やる」
「ならば俺は、三毛猫とくろいやつだな」

二人の会話はそれだけでした。

「俺たちとやる気かてめえ!? こっちはお前らの二倍――」

黒い猫がそう叫んだとき、既に兄者の爪が喉に突き刺さっていました。
そのまま無造作に地面にたたき付けられ、首から噴き出した血が月の光にきらきらと輝きました。

「ぎゃあ!」
「ぐおぅ!」
「にぃぎゅ!」

四匹いた猫は瞬く間に殺され、辺りは血のにおいで充満しています。
スパンキーは逃げることも忘れ、ただ恐怖で小さくなっていました。

「汚れてしまったぞ弟者。イケメンが台無しだな」
「安心しろ。最初から台無しだ」

そう言いながら弟者は死体となった四匹の猫の背中に、十字の傷をつけていきました。
それが終わると、二匹の猫はゆっくりとスパンキーの方を振り返ります。
月の光を受け、二匹の猫の目が艶めかしく光りました。
その時でした。

「随分と派手にやってくれたじゃねえか、バジリスク」

月の下、黒い大猫が牙をむき出しにして、たたずんでいました。
その後ろには百匹近い猫の集団がいます。
黒い大猫、クレイヴは今にも飛びかかりそうな程怒っていました。

「まずいな弟者。ここは戦略的撤退といこうか」
「そうだな。お嬢さん、また会おう」

兄者と弟者は同時に走り出しました。

「追え!」

クレイヴの声で、百匹近い猫の集団が一斉に追いかけ始めます。
しかし兄者と弟者はもう見えないほど遠くに行ってしまっています。
彼らの足の速さを考えると、追いつくのは難しいでしょう。

「大丈夫か、スパンキー」
「あ、ありがとうございますにゃ……」

クレイヴはスパンキーが無事そうなのを確認すると、次に近くに散らばっている死体を
確認しに行きました。一匹一匹の背中を確認し、十字の傷を見つけていきます。
全部確認すると、近くにいたゲルムに言いました。

「間違いない。バジリスクだ。あと数日で本隊が来るだろう。
 非常警戒線を張るぞ。隣町に使者を送って、連携を取るんだ」
「わかりました。すぐに手配をします」

ゲルムはそう言ってまた風のように走り去っていきました。
スパンキーはまだ足と尻尾を震わせていました。
いつもの夜、いつもの月、いつもの風、いつもの商店街。
血の匂い、猫の死体、ざわめくまち、バジリスク。
スパンキーの日常は、しばらくお預けのようです。

続く


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最終更新:2008年09月17日 22:57
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