19 名前:
◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:20:41.91 ID:W0LKa/4O0
溢れるばかりの活力と膨大な気力が基盤となり俺は動き出す・・家族の事や会社の経営状態に世界の経済の
様子、これを常日頃から考えながら歩み出す。大学卒業と同時に十条と一緒に立ち上げた会社はとある人物の
出会いのお陰で今や本社をアメリカに残して世界的にも名を残せれるほどの大企業に育ってきている、しかし
会社が成長したがって行くにつれてトップである俺の立場はより一層重要になってくるもので気がつけば自分の
体を顧みずに仕事をするようになり・・それがたかってついに倒れてしまった。
そのまま病院に搬送されて精密検査を受けた後に仕事禁止の自宅療養への命令を受けたのだが、その時の
周りの反応は凄まじいものだったと記憶している、特に沙織には目の前で泣かれてどうしようかと焦ってしまったほどだ・・
「だが・・何もせずに家にいるのは変な感じだ」
それにしても家で居続けるのはどうも微妙な気分で変な感じだ、仕事をしていたときは月に1度で帰れるか帰れない
程度のものだったので今いち空気と言うものが解らない、こんな事を留美に言ってしまえば即座にど突かれそうな
感じがするのだが多分知られているのかもしれない。
子供達は幼年期の真っ只中で両親の存在が重要視される年代なのだが自分の仕事の事もあってか中々構って
やれないのが心情だ。しかし自宅療養と言う形でこうして長期的に家でいられるのもいい機会なのかもしれない。
「おとーさん、起きたの?」
「來夢か、おはよう」
部屋に来たのは次男坊の來夢、現在6歳で可愛さが余りあるものだ。顔立ちは俺よりも沙織に酷似しているので
男なのが恐ろしいものなのだが自然と俺の方の遺伝子が徐々に働くことだろう、それに來夢は人見知りが激しく
大人で言うと俺や沙織にしか懐かないのが心配なのだがこの場合は成長するに連れて何とかなるだろう、それに
身体が余り丈夫ではなく今まで入院しなかったのが幸いだ。
20 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:22:17.41 ID:W0LKa/4O0
「皆は起きているのか?」
「うん、お母さんはもうお仕事に行ったけど兄ちゃんは起きてる」
「そうか・・」
ゆっくりと立ち上がるとそのままリビングへと向かう、時刻は11時を過ぎており良くここまで熟睡してしまったもの
だと感心している。会社にいた頃は精々眠れても長くて4時間、普段は2時間程度しか仮眠が出来なかったもので
酷いときには全く眠れずに仕事をぶ通しでやったほどだ。
今思えば身体を壊しかねない生活を常日頃送っていたのだろうと自覚してしまう。リビングへ向かうとテーブルの
上にはちょこんっと食事が置いており9歳になる長男坊が同い年である十条の娘と和気藹々と遊び回っていた。
「元気なものだな・・」
テーブルに置いてあった朝食を食べながら元気盛りの子供達の姿を見ているとどこか癒されるものを感じる。
それにしてもこの朝食は一体誰が作ってくれたのだろうか? 俺達夫婦はお世辞にも料理と言う料理が全く出来ない
ので一切手をつけてはいない、俺の周りに料理が出来る人物と言えば十条ぐらいしかいないのだがあいつは今頃
俺が抜けた穴を何とか必死で埋めているので時間的にも余裕は余りないだろう。一体誰が作ってくれたのだろうか・・?
21 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:23:09.44 ID:W0LKa/4O0
「あっ、父さん起きたんだ?」
「ああ・・香織ちゃんも着ていたのか?」
「こんにちわ。おじ様」
「おはよう」
ぶっきら棒の長男坊とは違って礼儀正しくお辞儀をする香織ちゃんに思わず驚きを隠せずにいるがいつものように
応対をする。これも親の躾が行き届いている証拠だろう、両親の顔が見てみたいものなのだが残念ながら一人は
会社で忙しいだろうしもう一人は今頃あの世で大好きなギャンブルでも講じているのだろう。そのため香織ちゃんは
その殆どを家で過ごしていることが多いためこうして泊っているのも珍しい話ではない。
それにしてもここまで母親似の女の子も珍しいものだ。
22 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:24:11.12 ID:W0LKa/4O0
「そうだ。この食事は誰が作ってくれたんだ?」
「誰だろう? おじさんじゃないのかなぁ」
「あんたねぇ、そんな事あるはずないじゃない!! パパは今頃おじ様の代わりに缶詰状態でいるのよ!!」
「なんだよ!! そのくらい解るよ!!!」
「おいおい2人とも・・」
いがみ合いながら喧嘩する2人は俺の事などお構いなしにとっかえひっかえの言葉の応酬が始まる。
しかしながら今更始まった事ではないのでただ単に見守るが子供ながらその応酬は凄まじい。
23 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:24:54.72 ID:W0LKa/4O0
「どこがわかってるのよ! おじ様はね仕方なく休む事になったのよ!!」
「その代わりにおじさんが会社で行ってるんじゃないか!! 父さんの休養はすぐに終わるよ!!」
「おいおい2人とも俺はこれでも仕事はしてるんだが・・」
「そんなに早く終わるわけないじゃない!! だったら休養とは言わないわよ!!」
「そんな事解らないだろう!!」
「あの・・2人とも?」
どうやらこの2人は俺の意見など眼中に入っていないようだ、しかしながら香織ちゃんを見ていると母親である
石崎の面影と性格をバッチリと受け継いでいるし十条譲りの健康さを見せつけてくれる、多分石崎が健康であった
のなら香織ちゃんみたいな感じになっていたのかもしれない。
それにしても慶太にもああいった負けず嫌いなところがあるのは少しばかり驚きだ、俺はあまりそういったところが
ないらしいが沙織は若干であるがそういった負けず嫌いな部分がある。しかしそれも極僅かなので慶太見たいな
きらいはない、もしかしたら留美の性格が隔世遺伝してしまったのかもしれないな。
24 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:26:07.43 ID:W0LKa/4O0
「まぁ、2人ともそこらへんで落ち着いて・・」
「大体、あんたはああ言えばこう言うなのがムカつくわよ!!!」
「それはお前だって一緒じゃないか!!!」
どうやら声すらも届かないようだ、それに足元を良く見てみると來夢が少し涙目になりながらズボンの裾を強く
引っ張っている。しかしながら子供慣れしている十条や母親である沙織はともかくとして俺はこういったのにも
慣れていないのでどうやって収拾つけなければいけないのかが余りよく解らない、もう少し休暇を取って家族の方に
廻しておけば良かったのだが後悔しても後の祭りなので深く考えるのはよした方が良いし身体にも障る。
しかしながら相手が子供と言うこともあるのでベターな案を考える・・
25 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:27:07.49 ID:W0LKa/4O0
「2人ともお昼にドライブに行かないか? 天気も良いし」
「えっ! ドライブ!! 行く行く!!!」
「俺行きたい所あったんだよな!!」
(ふぅ、どうやら収まったようだ。日本と違ってアメリカは広いから暇つぶしにはなるだろう、それに昼飯も浮くし一石二鳥だ)
我ながらうまく行った事に安堵の吐息をつきながら俺はゆっくりと車の鍵を取り出して準備を進めようとするが
硬直している來夢のお陰で身体が動かせずにいた。どうやら來夢は先の言い争いがまだ終わっていないと思って
いるようだ、そのまま來夢を抱き上げると今の状況を把握させる。
「來夢、皆でドライブ行くか?」
「うん」
行き先に言い争いながらも仲良くしている慶太と香織ちゃんを見た來夢はようやく現状を把握して2人の元へと向かい始める。
27 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:28:38.16 ID:W0LKa/4O0
数分後、子供達3人を車に乗せると適当な場所をドライブを楽しむ。やはり休日はこうして家族のんびり過ごすのが
一番だ、今まで仕事やらなんやらで抱え込んでいたものも嘘のようだ。俺のように精神的な病気や女体化に悩む
現実もこのような広大な土地に来れば一時的に消失が出来るもので案外良い療法になると俺は思っている。
子供達もあれから特に目立ったトラブルはなく、3人仲良く昼食を食べながら子供らしく過ごしながら時間が流れて
くる、俺自身も親としての自覚が甦ってきているのか今が愉しく思えて来るものだ。
「おとーさん」
「どうした來夢?」
「次は何処に行くの?」
「そうだな・・」
今まではブラブラと車で回っていたので子供達も景色ばかりではさぞ退屈していただろう、ここいらで何かしらの
退屈凌ぎを考えなきゃいけないな。子供というものは好奇心旺盛で飽きっぽいのが特徴みたいだ・・
28 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:29:34.10 ID:W0LKa/4O0
「んじゃ、俺はレジャーランド!!」
「何言ってるのよ! ここはベターに海よ海!!」
「海なんて遠いじゃないか!! ここはレジャーランドだよ!!!」
「遠いから景色見れていいじゃないのよ!」
「あ、あの・・2人とも?」
また始まってしまったとたんに來夢はフォークで持っていたマッシュポテトを持ったまま硬直してしまうし、俺はまた
ぶり返したトラブルをどう収めようかと必死だ。ここはまとめて2つを取るのもありだが海があるレジャーランドなど
あるかもしれないがあるとしてもここから遠いのは確実だろう、マンハッタン等の都市部はなるべく避けて通りたかった
のだが・・言い争ういは例の如く盛り上がりようを見せており、しかも日本語で話すので周りの注目も凄まじいものだ。
29 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:30:39.28 ID:W0LKa/4O0
「だ・か・ら! あんたも少しは妥協しなさいよ!!」
「海のほうが無理があるほうだ! それに水着とか準備してないじゃないか!!!」
「う、うるさい!!!」
ここいらで俺が何とか案を提示するものなのだがこの2人を納得させる案などそう簡単には思い浮かばないもので
俺も必死に考える。來夢のほうもポテトを持ちながら先ほどの泣きそうな顔でじっと俺の方を見つめてくる、頼むから
ますます俺の心が痛むから辞めてくれ・・沙織譲りの顔つきで見られたら何だか余計に辛い。
ここはどうすれば良いのだろうか? 双方の案を取り入れても余り効果はないのは明白だし、かと言って別の所を
提案してもそうそう簡単にこの2人が引っ込むはずがない。色々な考えが俺の頭の中をぐるぐる回っていると、先ほど
から泣きそうな顔であった來夢が罵詈象音のなかでポツリと声を出す。
「あ、あの・・僕、動物園がいいな」
「動物園か・・それいいな!」
「そっか! 流石來夢ね!」
どうやら來夢の案は無事に承諾されて俺達4人は動物園へ向かう事となる、俺とすれば本当に來夢には感謝したい
ぐらいだ。どうやら3人の中では來夢が一番優遇されているようで2人ともすんなりと次の行動に移す、本当に子供と
言うのは単純だけどよく解らないものである。
30 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:32:19.69 ID:W0LKa/4O0
目当ての動物園へ向かうと平日と言うだけあってか家族連れが少なく結構空いていた、まぁ却ってその方が余計な
事にも巻き込まれないので子供3人を連れている俺としては楽な方なのだ。2人は持ち前の好奇心と行動力で
あちこち行動しながら様々な動物と触れ合い、俺はその後を追いながら來夢と一緒にのんびりとしながら散策を楽しむ。
平穏な時間がただただ流れながら俺はこのまま穏やかで心地よい時間がずっと続くかと思うと笑顔を禁じえない。
そんな事をただずっと考えていたその矢先、休憩がてらに動物園の中にある店で一息ついていたとき一本の携帯が
鳴り響く、誰だろうと思いながら電話に出てみると平穏な時間が潰される事となる。
「もしもし・・」
“・・休暇とは大層な身分だな”
「――ッ!! あなたがどうしてそれを・・」
“随分と惚けたようだな。俺が貴様達の事を見ぬけぬと思っていたのか?”
電話の主に俺は絶句してしまう。俺の実質上の支配者でもあり、会社の実権を握っているとでも過言ではない
この人物・・過去に俺が出会い会社の再建を手伝って貰い俺達に徹底的に全てを叩きこんだ、かの葉山家の当主だ。
まさかこの人に直接電話が掛かるとは思ってもみなかったものだが断りはちゃんと要れたはずなのだが・・
31 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:32:40.90 ID:W0LKa/4O0
“ま、副社長の方から聞いたが体調を崩してるのは本当らしいな”
「ええ、担当医師の書類とかもそちらに送った筈ですが・・?」
“フフフッ・・そんなもの作ろうと思えば簡単に作れる。貴様には教えたはずだがな”
「私の・・解任はなさらないんですか? 仮にも社長である私は休養とはいえ結果的に退いてしまう形に・・」
“何を言っている。貴様の会社の事は貴様達が決めろ・・”
いくら休養とはいっても結果的には会社を退いてしまう形となった俺の立場は厳しい物となるだろう、俺と対立する
派閥の幹部達がここぞとばかり揚げ足を取って俺の解任を求めるかもしれない。それに俺の会社に関知しないと
いいつつもこの人の息のかかった人間が俺の会社の社員にチラホラといるから油断は出来ないものだ。
この人にとって俺などあらゆる手段を講じれば解任しようと思えばすぐに出来るし代わりの人間ぐらい簡単に見つけ
出すものだ、あらゆる隙を見せずに合法的かつ目立たないようにひっそりと何ら躊躇すらなく人一人消すだろう。
悔しいが今の俺にはまだこの人に抗えるぐらいの力はない・・
32 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:33:44.28 ID:W0LKa/4O0
「奥方様のご体調はいかがですか・・? 挨拶をしたいのは山々ですが仕事で忙しいものですから」
“貴様はもう仕事を言い訳にできる立場でもあるまい。まぁいい・・あの女は相変わらず何を考えているのかわからんよ。
病院へ搬送されたら少しはまともになるかとは思っていたのだがな”
この人は奥方様が元から嫌いらしい、唯一本家の血筋を引く奥方様の存在はこの人にとっては快く思っていないの
だろう。最も奥方様のほうもどちらかと言えばこの人とは違って別の意味で恐怖心を感じてしまうことがあり、あの人と
一緒にいると自分が自分でなくなるような強烈な毒を奥方様は持っている。この夫婦は俺達夫婦とは違ってとても
異質であまり関わらない方が利口なのかもしれない・・
“貴様相手に少し話が過ぎた。貴重な休暇を楽しむんだな、平塚社長・・”
「・・」
電話を切ると先ほどとは一転して何とも言いようのない虚しさと現実味を感じてしまう、折角こうして休暇を取ったのに
こんな感じになってしまえば意味すらなくなるだろう。
「おとーさん、どうしたの?」
「あ、ああっ・・何でもない。次見に行くか?」
慌てて來夢達を連れて動物園を回りまくる俺達・・現実逃避とは女々しいものである。
33 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:34:57.35 ID:W0LKa/4O0
「ふぅ、疲れて眠ってるか・・」
帰りの車の中、遊び疲れて眠っている子供達は今頃はつかの間の夢の中だろう。思わぬ出来事もあったが、それらを
差っぴけば非常に素晴らしい出来事だったものだろう。
「おかーさん・・」
「今度は私が・・むにゃ」
「俺も・・うにゃ」
寝言が何とも可愛らしいのはこの時期だけかもしれない、何も考えずただひたすら遊んでいるのを見ているとこっちと
しても微笑ましいものだ。幸い動物園が自宅からそんなに遠くなかったこともあったのでものの数時間で自宅にたどり
着く、ふと空を見上げると夜の空が顔を出しており星が出始めるのはもうちょっと時間の経過を待った方がいいだろう。
自宅に帰ったとき、なにやら美味しそうな匂いが立ち込める。
35 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:37:52.81 ID:W0LKa/4O0
「あれ・・? 何だかうまそうな匂いだな。十条か??」
ついつい匂いに釣られて家の中に入って行くとそこには思わぬ人物が家にいた。
「あら、お帰りなさい」
「ぶ、部長さん! なんでここに・・それに沙織は?」
「沙織ならちゃんといるわよ。会ってきなさい」
部長さんに言われるがまま、俺はリビングでのんびりとくつろいでいる沙織の方へと向かう。それにしても心なしか
部長さんの言葉が少し棘がある、やっぱり沙織の事を思うと気が気ではないのだろう。その肝心の沙織はと言うと
いつもの表情といつもの様子で何ら変わりなく俺に接してくれる・・
36 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:38:34.94 ID:W0LKa/4O0
「その様子だと今日は充実してたようだな」
「まぁな、今まで仕事で家庭に出られなかったのが残念だ」
「私だって似たようなものだ。それにしてもよくあの3人の面倒を見れたな」
「ああ、これでも親だからな」
少しばかり自分でもキザだと思うが親と言うものは偉大だと思う、姉2人に囲まれていた俺は良心の存在がちょっと
ばかし薄いのだがそれでも大きさ等はちゃんと自覚しているものでそれは沙織も同じ事に違いない。
「沙織は3人とはどのように過ごしてるんだ?」
「別に大した事はしてない。ただ一緒に話して遊びながらゆっくりと過ごしている・・お前も一緒だろ?」
「そうかな? よく解らないけど・・」
「そんなものだ」
沙織はくすりと笑いながら視線を舞台の台本に移す、しかしながら沙織は俺よりも家にいる割合がすこぶる多い。
やっぱり母は強と言った所であろうか? 今までの事をゆったりと思い出していると俺はとある疑問に直面してしまう。
37 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:39:24.26 ID:W0LKa/4O0
「そういえば起きたら飯がおいてあったんだが、あれは・・」
「それは私が作った奴。沙織が料理苦手なの一番知っているでしょう?」
「部長さん・・じゃ、子供達のも」
「私が全部やっておいたの。綺麗に食べてくれたわ」
まさか部長さんがここまで器用だったなんて意外だ、この人には弱点と言うものがないのか・・
「沙織、いつまで台本呼んでるの。ご飯できたわよ」
「すみません、部長・・いつもありがとうございます」
「今更何言ってるのよ。昔はよく私がやってたじゃない。子供達も待っているからさっさと行きなさい」
そういえば子供達を車の中に置き去りにしっぱなしだった、いつの間に家の中に入ったのだろうか?
沙織は部長さんに合わせてリビングに足を運び俺もそれに合わそうとするが無言で部長さんに制止された。
38 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:39:49.18 ID:W0LKa/4O0
「あ、あの・・」
「・・休養は取れたの」
「ええ、まぁ・・」
部長さんに無言で迫られると怖い、真理に叱られているときの事を思い出す。
「説教なんて今更しないわ。お互いにもういい大人ですものね・・」
「は・・はい」
「沙織、心配してたわ。本当はまだ仕事があって本人はやれるって言い張ってたけど切上げさせたわ」
「解っています。病室で泣かれましたから・・」
ハッキリ言ってこの人は沙織のマネージャーだ、俺には解らない沙織の健康状態や精神的な症状を随一に見ている
のだろう。口でははっきりと言わないが多分、今回の俺の休暇騒動について一番腹を立てているのはこの部長さんだろう。
39 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/07/17(木) 17:40:31.03 ID:W0LKa/4O0
「まぁ、今更あーだこーだと考えている暇なんてないわ。今が大丈夫なら明日も大丈夫でしょ」
「強いんですね」
「これでも沙織には私の全てを注いでるからね、甘い考えや弱さなんて当に捨てたわ。あなたも似たようなものでしょ?」
「ええ」
「世間じゃ昔と同じように女体化がどうのこうのって騒いでいるけど、大事なのはどう自分を楽しませて過ごすかよ。
何も考えず、迷わずにただちょっと前向きに楽しく過ごせばそれでいい・・堕落的で道楽な考え方だけど現実を知った
人間はそこまで考える余裕は難しいわ」
少し自嘲気味になりながら部長さんはただぽつりぽつりと言葉を漏らす。考えて口に出すのは簡単だが行動に移す
のは非常に難しい、皆が皆そうはいかないだろうが俺の周りの人間はきっとそれを行動しているから充実感を
味わっているのだろう。俺はちょっとばかしそれが出来ない不器用な人間かもしれない。
「さて、辛気臭い話はこれでお終い。早くご飯でも食べてちょうだい」
「はい。・・部長さん」
「何? 私はこれから明日の朝ご飯の準備とかで忙しいんだけど・・」
「夫婦共々ありがとうございます」
「・・人にお礼言う暇あったら自分や家族に構いなさい」
準備のためにそそくさと立ち去る部長さんであったがその姿はどこか偉大なものを感じてしまうのであった。
―fin―
最終更新:2008年09月22日 23:18