73 名前:
◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:43:52.66 ID:OaXfLUV30
料理と言うのは奥が深い、様々な調味料と組み合わせる事で無限の組み合わせが存在する。そんな僕は家の事情
から料理を始めて今ではデパートリーも増えるに増えて自分は何が作れるのかがよく解らないものだが、食べる人
は皆僕の作ってくれた料理を美味しいと言ってくれるので嬉しくなってしまうものだ。
そんな僕もスクールを卒業して進路はヨーロッパにある名門の料理専門学校・・僕、平塚 來夢(18)の学園生活は
中々刺激的な日々が続いている。
「ふぅ~、今日の実習はスペイン料理か」
「ゲッ! あそこの料理苦手なんだよな」
「デビットは中東の料理は苦手だよね」
友人との会話は心休まるもので会話の傍らで次の授業の準備を進める。この学校は名門と謳われるとあって
授業も各国ごとに教師が本場の料理を教えてくれるシステムだ、それに一ヶ月に一度に大規模な実習テストがあって
各国の先生の総合的で厳しい判定を経て成績によってランクがつけられる。
ランクが上に上がれば上がるほど授業内容も厳しくなるが、それに見合う報酬も得られる。僕も一応は最高ランクで
ある特上クラスに在籍しているのでそれなりの恩恵を受けながら授業をこなしている。それにしても偶然なのがこの
学校の筆頭スポンサーは平塚グループ、つまり僕の父さんが資金援助をしているので少し複雑な心境なのだが
そういった優遇などされていない、そういった学校なのだここは・・
74 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:45:02.38 ID:OaXfLUV30
「お前は特上でいいよな。俺なんて中級どまりだぜ・・」
「でも下級の人は月に何人かは学校を辞めているよ」
現に一番下で下級と呼ばれる人達の中では毎月にこの学校特有である完全実力主義の教育方法に耐えられない
人や年齢制限に引っかかり無念の涙を呑んだ人など様々だ・・事実、僕が入ってきた頃に仲良くなった友人も
やめてしまった人が数人いる。だから僕は彼らの分まで頑張って行かなきゃいけないと思っている。それに僕だって
いつ特上クラスから下級クラスに下がるかは解らないしこの学校では何が起こるのかは全く予想がつかないのだ・・
「それにしても1年前に入学して3ヶ月弱で特上にまで登り詰めるとは・・大したもんだ」
「僕はただ料理作ってただけだよ。それに卒業までまだ4年はあるし・・」
この学校は料理人育成のための専門学校だけあって卒業までの期間はすこぶる長いので高校と言うよりかは
大学みたいなものだ。それに料理の勉学だけではなく一般的な教養も同時に行われるので遊びに出かける暇は限り
なく少ない。だけどもアメリカに住んでいたと言うこともあったので英語の訛りが少し変わるだけで基本的に生活する
には余り苦ではない、小さい頃から兄貴たちと一緒にさせられた教育の成果が出ているようだ。
「しかし日本人ってのは適応力が凄まじいな。おまけに容姿も完璧と来ればモテるはずだ」
「ちょ、ちょっと!! 僕は女体化はしてるけどアメリカにいる頃はモテたことは余りないよ」
アメリカにいた頃はちょっと変な人はいたものの基本的に男時代と同じでモテたことはあまりないし男性を異性として
感じた事は余りない。それに自分の病気の事もあるのでそういった感情を抱くのに踏み切れないのだ、現に僕は
アメリカから送られてくる薬を今でも服用はしている。
相手にはできるだけ自分の事では迷惑を掛けたくはないし、それに何よりもどんな反応を示されるのかと思うと・・怖い。
75 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:46:44.93 ID:OaXfLUV30
「日本人で特上クラスといえば・・確かトウホウ? トウオウって奴が居たな」
「トウジョウでしょ」
「そうそう、確か・・」
「ケンジ・トウジョウ。日本人だよ、僕とは違って完全な日本育ちだけど成績はいい方でしょ?」
「まぁ、英語に訛りがあるが・・特上だから優秀なのは違いないな」
僕の他にも日本人で特上クラスに在籍して入る人が1人だけいる、その人の名前は東条 賢治・・アメリカ育ちの
僕とは違って完全な日本育ちの日本人で英語のニュアンスにも何ら訛りがない。だけども特上クラスに在籍して
いるのだけあって実力に加えてその学力も学校の中ではトップクラスの成績に入るもので容姿もカッコイイ部類に
入るので女子からの人気も絶大だ。これまた歳も同じで僕と一緒に入学していたこともあってか少しばかり印象に
残っている、彼は僕より一足先に特上クラスへと進学したので実力はかなりのものだと思う。
76 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:47:56.26 ID:OaXfLUV30
「ま、お前達はいいよ。俺は今年で上級に行かなかったら親から学校辞めろって言われた」
「そんな、デビットは頑張ってるじゃん。夜中で必死で努力しているのも・・」
「努力はしても実力はつかなきゃダメさ。俺の親はスラム出身でね、成り上がりで店を経営してたんだが・・
今度のテストで上級に行かなかったら帰って来いっとさ」
また旧友が一人去るかも知れない、もうこの学校で人が去るのは慣れてきたのだがやっぱりどこかやりきれない
ような気がするのも確かだ。だから僕に出来る事は励ましの言葉を送るしかない・・
「でもちゃんと実力はついているはずだよ。結果なんてわからないものだよ、自分次第だからね」
「・・そうだな、少し頑張って見るよ」
この学校で級友と呼べる人物は殆ど厳しい授業に耐え切れずに辞めて行って目の前にいるデビットは今残って
いる数少ない級友のうちの一人だ。彼が辞めてしまえばまた一人級友がこの学校から立ち去ってしまうこととなる、
何だかやりきれない気持ちだけども宿命は仕方ない。
僕はただ、デビットがこの学校に残り続ける事を祈るしかなかった。
78 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:52:51.48 ID:OaXfLUV30
次の授業の準備を完了して調理室へと向かうと、既に準備のために何人の人達かが修練に明け暮れている。
その中で一際目立つ日本人がいる、彼こそこの学校で最年少の特上進級を果たした人物・・東条 賢治君だ。
東条君は包丁を研ぎながら精神を集中させている、僕もそれに合わせて厨房にある鍋の感覚を確かめている
隣にいた東条君が静かな口調でゆっくりと僕に話しかける。
「今日は珍しく遅い到着だな」
「まぁね、東条君はいつになく早いね」
「当たり前だ、修練は怠らん」
東条君は努力の天才だと僕は思っている、だからこそ北欧と言う不慣れな環境での言葉の壁の克服や何よりも
この学校で最年少の特上クラス進級は生半可な努力じゃ成しえないものだ、それを可能にする東条君は常人とは
努力の量が違うのだろう。
「・・そういえばこれから中華料理の授業だったな」
「うん、僕としては点心の方がありがたいんだけどね」
「点心か、確かに丁寧なお前ならぴったりの科目だな」
「そ、そうかな・・」
彼は人を貶したりは絶対にしない、先生のみならず他の生徒の得意技などを細かく見ているので誰が何を得意なの
かを瞬時に把握している。
79 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:53:36.06 ID:OaXfLUV30
「おっと、講師が来たようだな。話は終わりだ」
「うん」
講師の人が来ると途端に周りの空気が一気に変わる。
僕も含めて皆は必死に教えを自分の糧にしようと必死だ、前の授業はスペイン料理で今回は中華料理の授業と
僕にとっては結構ハードなスケジュールだがこなすしかない。小さい頃は少しばかり体が弱かった僕だけども
今では日常生活に苦など感じないものでハードな授業も毎日こなして慣れてきている、今回の授業も
きっと大丈夫に違いないと僕は思っている。
「今回は中華の基本である炒め物、各自3分以内に指定の料理を作り上げる事!」
「面白い」
「頑張るしか・・ないね」
「では、まずはチンジャオロース!」
先生の指示が飛ぶと、周りは一斉に食材を切り始めて僕も中華鍋に火を掛けて持っていたピーマンを中華包丁で
瞬時に千切りにすると目の前にある牛肉や竹の子も先ほど切ったピーマン同様に細かい千切りにする。そして
先ほどの中華なべに全ての食材を入れて火が通ったのを確認するとお玉に調味料を要れて味を整えてまた更に炒める。鍋の中にある全ての調味料がいたまってなおかつ味も完璧なのを確かめると
お皿に移して完成だ、残り時間を確認すると45秒ちょっと・・どうやら時間内に完成したようだ。
80 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:54:06.91 ID:OaXfLUV30
「ふぅ、何とか間に合ったみたいだ」
「まだ遅いな」
「やっぱり東条君は早いね。どれぐらいで完成したの?」
「お前より45秒前・・2分ジャストだ」
やっぱり東条君は凄い、僕でも時間は掛かった料理をいとも簡単にそれも手早く完璧に作ってしまうのだから
その実力に行きつくまでの努力は凄まじいものだ。
「調理終了!! 次は麻婆豆腐、時間は35分!」
「お喋りする暇はなさそうだ」
「うん」
再び包丁を握りながら僕達は熱い環境の中で料理を続けるのであった。
81 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:56:26.48 ID:OaXfLUV30
連続して作られた中華料理は幾多にも及び、最後の料理である餃子とシュウマイの作成に取り掛かっている。
勿論生地から作らなければならないので制限時間は5時間というものだが、それでもギリギリだ・・生地と同時に
餡も作り上げなければいけないのでかなりの重労働だ。餡が出来たのを確認すると寝かせて置いた生地の
出来具合を確認する、大体耳たぶぐらいの柔らかさがあればいい・・指で生地の固さを確認すると丁度良い固さと
なっていたので予め用意しておいた蒸し器を確認すると生地を2つに分けて餃子用とシュウマイ用に分けて慣れた
手つきのまま、餡に生地を包み込んで整形をする。
全てが終わった後にシュウマイを蒸し器の中に入れて餃子を中華なべで茹でる、ここからは時間との勝負だ・・
1秒でも遅れてしまえば折角の味が消えてしまう。
「さて、ここからだ・・」
両方に目をやりながら自分の中で時間を計算して餃子とシュウマイそれぞれのベストなタイミングを導き出して湯で
上がった餃子をお玉からすくってお皿に盛りつける、シュウマイのほうも蒸しておいた蒸篭ごと取り出して中を
確認する、中のシュウマイは見事に皮が空けて餡が見える上出来のものだ。これで課題全ての料理が完了した
事となる、その間のご飯は休憩中に課題で作った料理を食べていたのでそこは問題ない。
時間のほうを見てみると残りは1分・・どうやら間に合ったようだ。置いてあるシュウマイと餃子・・我ながら見事な
出来だと思う、少し眺めていると餃子とシュウマイが一個ずつ消えてしまう。
「ふむ・・味は悪くない。隠し味の海老のすり身も見事に利いている」
「東条君、いつの間に・・料理は終わったの?」
「ああ、少し前に・・と言っても10分前だ。少し待ってろ」
そう行って東条君は自分の厨房に戻るとそのまま待つ、数分後に東条君が再び戻ってくると取り皿を持ってきて
くれており取り皿にはシュウマイと焼き餃子が並んでいる、見た目的にも問題なく味の方も問題ないだろう。
82 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:57:06.37 ID:OaXfLUV30
「喰ってみろ」
「うん、じゃあ早速・・」
僕は手始めにシュウマイに箸をつけて一口、口にする・・するとシュウマイからは何とも言えない味が口一杯に広がる。
「おいしい、僕のとは違って風味も良いし皮に人参を練りこんであるからほんのり甘い」
「流石だな。味覚の方も大したものだ」
「こう見えても調味料を含めて食材は沢山食べている方だからね。それに餃子も美味しいよ」
餃子の方もシュウマイとはまた違った工夫が施されていて口の中から何とも言えない味と身体を優しく温めてくれる
ものが感じられる。
「これも美味しい・・凄いよ」
「お前のシュウマイと餃子も中々だ。見た目も味も悪くはない、それに短時間と言うことも考慮すると優秀だ」
「でも東条君だって僕より早く・・しかも美味しい料理を作っている」
「これぐらい鍛錬を積んでいる人間なら誰だって出来る。俺はまだまだだ」
そう言って東条君は取り皿を戻すとそのまま後片付けを始める、考えて見れば彼は自分の事はあまりよく言わないし
言いたがらない。少しは自分を褒めてもいいとは思うのだけども東条君からはそれを感じずむしろ迷惑だと思って
いる感じだ。
84 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 14:59:38.21 ID:OaXfLUV30
「時間切れ! これで授業を終了、制限時間内で料理が完成しなかったものはこの後、課題授業を課す。以上!!」
「ふぅ、ようやく終わった。時間内に課題の料理は全て作ったし・・寮に戻ろう」
授業も全て終わり、僕は自分の寮へと戻る。
この学校には多くの生徒が在籍しているため学生寮も沢山完備している、それに寮の方も一部屋ずつそんじょ
そこらのマンション以上の設備を備えているので住み易さはかなりのものだ。教室から寮までは歩いてすぐ
なのでそのまま道なりに歩き寮へと戻り自分の部屋へと向かう、過去にこの部屋にもルームメイトはいたのだが
皆この学校の実力制度に耐え切れなくなって辞めてしまったので今は僕1人だ。
いつものように干してあった服を取り込んで小まめに片付けるとタオルを用意してシャワーの準備をする。
「女になって身体に慣れたのはいいんだけど、いつまでも彼氏なしってのもな・・」
シャワーを浴びながらようやく見慣れた女の体を見定めながら今の自分を思い詰めて見る、全世界で流行病と
なっている女体化シンドノームのお陰で見事に男から女の体に変化してしまってとんでもない置き土産を残して
くれた物で今のなお僕を悩ませる病だ。
85 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:00:58.46 ID:OaXfLUV30
「母さんは僕と同じ歳だったころは既に父さんと付き合って言ってたよね」
僕の両親は職業が一際目立つものだが当の本人達は至って慎ましい生活を送っている。だけども僕の歳には
2人とも既に出会っており今のような付き合いが形成されていると聞いているし少しばかり羨ましく感じてしまうが
今の自分の事を考えると重たい現実が僕の身体に突き刺さる。シャワーを浴び終えタオルで身体を拭くのだが
どうもこの瞬間が変に感じてしまう、歳を重ねるごとに少しばかり大きくなっている胸と細めのウエスト・・そして
下のほうを見ると長年親しんでいた男の象徴がなくなり代わりに女のものが佇んでいる、もう慣れた光景だけども
心境としては複雑なものだ。
「ま、考え込んでも仕方ないか・・服を着替えてメールでも見るか」
ドライヤーで髪を乾かすとそのまま用意して置いた新しい下着と服を着てパソコンを開く・・とはいっても
インターネットよりももっぱらメールが主ではあるけれどもこうして家族の様子が見れるのもいいものだ。
86 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:02:59.63 ID:OaXfLUV30
「へぇ~、兄貴は相変わらず香織さんと一緒にマンハッタンにある大学に通ってるんだ。
まぁ、大学在学中には結婚はしないだろうし・・でもあの2人ウブだからな」
兄貴とその恋人香織さんは高校卒業と同時にマンハッタンにある名門の大学へと進学して2人でのんびりとやって
いるらしい、まぁ互いに不器用な2人はそれが幸いしてそれ以上に溺れることもなく今の生活を謳歌していると
香織さんから送られてくるメールには書いてある。アメリカとヨーロッパは決して近くはない距離ではあるがメールだと
一瞬で届いてしまうのだから文明の進化と言うのは凄まじいと思う。
「でも・・2人とも僕とは違ってなんだかんだ言って繋がってるんだよね」
僕にはない物をあの2人は持っている、それが正直羨ましいがないものを羨んでいても仕方がない。薬を飲み
ながら僕はのんびりと天井を見上げる、この薬は徹子さんを通じて毎月アメリカから送られてくるものでその効力は
今の僕の病気の進行を遅らせるものだ。僕の病気は女体化によって併発したガン・・あらゆる薬を投与しても絶対に
消滅しないこの特殊なガンは驚異的な丈夫さを誇るが幸いな事に進行速度は極めて遅く発祥してから2年・・未だに
初期症状のままだ。傍から見れば安堵するべきだろうけど僕にとってはそれが却って恐怖を増徴させてそれが更に
身体に巣食う、生涯ずっと僕はこれと付き合っていかなければならないのだがいつかは共存できることを信じている。
だけどもやっぱり一人では辛い・・そんな自分の中での葛藤をしている時に部屋からインターフォンが鳴り響く。
「こんな時間に誰だろう・・?」
今はもう夜を廻っている、大半の生徒は寝静まっている時間帯だ。そんな時間に僕を尋ねるのはいったい誰なのだろうか?
「はぁ~い・・東条君!」
「平塚、少しいいか」
「う、うん・・まぁ立ち話もなんだから入ってよ」
尋ねてきたのは東条君で内心驚きつつも一応部屋の中に招き入れる。それにしても一体何の用事なのだろうか?
87 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:04:03.78 ID:OaXfLUV30
「こんな夜更けにどうしたの?」
「急にすまない、少し英語を教えてくれないか・・」
「う、うん・・別に構わないけど」
「助かる。この意味についてだが」
少し意外な理由だったけど彼は生粋の日本人だから英語には慣れていない、しかもこの学校には殆どが白人や
黒人と言ったヨーロッパやアメリカを故郷に持つ人間なので日本人は数えるほどかいないし、その中で完全に
英語を解せる人間はいると思うけども同じ特上クラスの縁できっと馴染みのある僕を尋ねてきたのだろう。
東条君が出したのは年に数回だけの帰国が許される届けの書類、本来ならそういった部分は学校側が配慮する
のが筋ではあるがこの学校は料理のみならずあらゆる環境でも対応できる人物を育成するためという理念もある
のでこういったの書類も自分で書かなければならない、僕とは違って日本人である東条君にしてみればかなりの
難読だろう。
「これは日本語に訳すと帰国に関する諸注意、そしてここが帰国に関する費用について」
「そうか、費用は学校が出してくれるのは有難いが・・こういった書類を書かされるのは勘弁だな」
「仕方ないよ。そういった方針なんだし・・」
ポツリポツリではあるけども東条君との会話もゆっくりと進む、思えば入学以来、東条君とはこういった会話を
するのは始めてだ・・少しだけ彼に興味を持った僕は雑談を繰り返す。
88 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:06:05.55 ID:OaXfLUV30
「そういえば日本ってどんな感じなの? 僕、あまり来たことないから・・」
「いろんな場所がある、特に外国と比べると自然豊かな山は多いな」
僕は日本にはあまり来た事がない、尤も小さい頃はたまには来ていたようだけども昔の事なので余り記憶はなく
どこかおぼろげな感じだ。アメリカにいた頃は忍者や侍がまだいると信じられているけど父さんや母さんを見ても
余りそんな感じがしない。だけど日本はいいところだと叔母さんや母さんからよく聞いている、一体どんなところなのか・・?
89 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:06:41.89 ID:OaXfLUV30
「東条君って・・やっぱり東京出身なの?」
「いや、俺は田舎の方の出だ。東京には数えるほどしか行ったことない」
「そうなんだ」
日本の代表料理といったら美味しい和食の数々がすぐに思い浮かぶ、僕もアメリカの食事よりも和食の方が好き
なので作る割合が頗る高い。
「東条君の実家ってどう言うところなの?」
「料亭だ、と言っても小さな料亭だがな・・俺自身はこの学校の進学に消極的だったんだが両親が進学しろって
言われてな」
「いいご両親じゃない」
「まぁ、世の中を見てこいっと言われたからな。何考えてるのか解らん」
だんだんと分からなかった東条君の素性もようやく解ってくる、僕とは違った環境で育った彼はその才能を遺憾なく
発揮して今の立場にいるのだろう。それに彼から聞ける話は一つ一つがとても新鮮でもう少し話を聞いていたい
感じもするが残念ながら時間がもう遅いので長く引き止めて閉まったら明日にかなり影響が出てしまうだろう、この
学校は朝の授業でもかなり早い。
91 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:15:10.27 ID:OaXfLUV30
「よし、これでいいな。付き合ってくれて感謝する」
「でも無事に書類ができて良かったよ。それに東条君について知らなかったことも知れたし」
「そうか・・平塚は帰国しないのか」
「うん、僕はアメリカだし時々母さんと会うから」
母さんは仕事柄でこのヨーロッパに来る事が多いので時間の合間に会うことがあるので家族についてはある
程度把握している。父さんとも仕事関係でたまに会うこともあるけれども数からすれば母さんの方が圧倒的に
多い、やっぱり世界的な女優にもなると映画やドラマの撮影のために世界中を飛びまくっているのだろう。
「そういえば平塚の両親について聞いてなかったな」
「僕の父さんは平塚グループの統帥で母さんは女優のSAORI」
「平塚グループと言えば世界中にいろいろな企業を展開して影響力は高い、それこの学校の最大のスポンサーで
あるあの平塚グループか!」
流石の東条君も声が高くなる、考えてみれば父さんの会社は世界中に支社があるぐらいなので規模がかなり
大きいし影響力も凄まじい物だ東条君が驚くのも無理はない。
92 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:15:41.00 ID:OaXfLUV30
「それに母親があの大女優か・・でもなんで今まで黙ってたんだ?」
「公表したら学園生活がメチャメチャになってしまうからね、それに言われのない事言われるかもしれないし・・」
「じゃあ、なんで俺には言うんだ」
「僕も家族の事言ってなかったしね」
何とかごまかしては見たのだけども何で話してしまったのかは自分でもよく解らない、だけども東条君なら言っても
大丈夫だと言う確かな確証が僕の中で感じられる。
「アメリカの時は色々面倒だったからね。それに東条君に言ってもいい気がしたんだ」
「そうか・・」
僕も兄貴や香織さんみたいな関係が正直羨ましい、あえて口には出さないけども安定していて理想的だ。
それに昔からあの2人は嫌でもお互いを意識し合っていたりしてたのでそれがいい風に動いているのだろう、今は
少しばかり忙しいが時間に余裕が出来たら僕ものんびりと見つけていくのもいいかもしれない。
94 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:16:55.19 ID:OaXfLUV30
「平塚は何でこの学校に入学したんだ?」
「昔から家事とかやってたからね。僕の家はああ見えても皆、家事は出来なかったから必然的に僕が担当したんだよ」
「意外だな。だけどもいい傾向だ」
「ハハハ、でも最初は料理らしい料理できなかったんだけど雑誌とか見よう見まねで自分で試行錯誤してたら
できるようになったんだ」
やはり初めの頃は何度か失敗を繰り返していたのでよく指にバンソウコウを貼りながら毎日毎日材料を切って
練習しているうちにいつの間にか料理が出来てしまって今では自分のデパートリーがよく解らないほどだ、それから
淡々と料理や家事をこなしていて今に至る。
95 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:18:27.10 ID:OaXfLUV30
「まぁ、色々失敗をしてやったから良かったのかもしれないね」
「失敗か・・確かに最初は悔しいものだが乗り越えるとかなり大きな物になる」
「そうそう、多分それが良かったんだよね」
東条君も云々とうなづきながら僕の話に耳を傾けてくれる、思えば僕もこんなに自分の事を他人に話したのは
始めてだ。それに東条君と話すと妙な親近感が湧いてくる今までに自分の事はある程度の人に話してきたし
アメリカでもそれなりの友人はいるし仲良くはしているけども出会ってまだそんなに経っていない東条君にここまで
自分の事を話せるのは少しばかり怖い気もするが悪い感じはしない。
「さて、すっかり話しこんじゃったな。明日も早い・・今日は感謝する」
「あ、うん。・・僕もありがとう」
「変な奴だ」
少し笑いながら東条君はそのまま部屋を去っていく、それにこの学校は朝早くにも授業をするので今から寝ないと
明日がきつい・・そのまま僕は就寝につくのであった。
96 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:21:07.77 ID:OaXfLUV30
それから数日の時が経った休日・・僕は軽く準備をして部屋を出る、今日は母さんが仕事でヨーロッパに来て
いるので終わってから会うのだ。やっぱりこの学校に通っていると両親と会うのは少し贅沢だなっと自分でも
思うけどもやっぱり嬉しい、平日だと寮の帰宅時間も結構厳しいものだけども休日だけは少しばかり緩いので
嬉しいものだ。少しばかり視線が気になるものの待ち合わせ場所に向かいながら溢れかえる胸の高まりを
抑えつつ芸術性の高いヨーロッパの町並みを歩いていく・・やっぱり芸術の都と言うだけあって目の保養になる。
「でも母さんの仕事ってヨーロッパでやるのが多いなぁ」
母さんは職業柄で撮影のために様々な世界を飛び廻るのだが割合的にはヨーロッパが頗る多い、でも考えて
みればよく映画祭とかにも出席していたりしているのでそこらへんも考慮するとやっぱりヨーロッパの方が多いの
かもしれない。でも映画際の時は子供の頃はよく盛り上がっていたけども毎回父さんの方は少しばかり複雑な
表情をしていたのが子供心によく残っているがあれは嫉妬心だろうと思う。そんな事を思い出してあるいていると
既に待ち合わせ場所には母さんとそのマネージャーである茜さんがが着いており少し驚きつつも僕もそれに合わせる。
「母さん、早いんだね」
「仕事が早く終わったからな。來夢も元気そうで何よりだ」
意外にも早く着いていた母さんに驚きつつも全然変わらない姿を見て安心してしまう。母さんと少しばかり語り合うが
やっぱり久々に会うと無性に喜びを感じてしまうものでついつい一緒に来てくれている茜さんを忘れて暫しの会話を
楽しむ。
97 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:22:44.88 ID:OaXfLUV30
「今日は何の仕事だったの?」
「撮影と雑誌の取材・・それにTVの収録だな」
「相変わらず凄いね」
やっぱり注目をかなり浴びている母さんの立場になると本業以外にも様々な仕事が舞いこんで来るのだから
すごいものだ。
「それじゃ沙織、久々に親子水入らずを楽しんできなさい」
「いつもすみません先輩。それじゃあ、行くか」
「うん。茜さんも有難うございます」
「いいのよ。それじゃあ行ってらっしゃい」
気を利かせてくれた茜さんにお礼をするとそのまま僕は母さんと一緒にヨーロッパの街へと消える。
98 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:24:29.89 ID:OaXfLUV30
適当にヨーロッパの町並みを散策しつつ店で休憩を取る、それにしても母さんと2人でいるとさっきから感じる
視線がより感じてしまうのは気のせいなのだろうか?
「そういえば前に母さんと会ったのは3ヶ月前ぐらいだったかな?」
「そうだな・・あの時も撮影の終わりに寄ったんだったな」
しみじみと昔の事を思い出しながら母さんと語り合って話題は小さい頃の思い出話へと変わる。
「そういえばさ、兄貴と香織さんが赤ん坊の頃ってどうだったの? 大変だったの」
「ああ、確かに大変だったが・・同時に楽しかったな」
やっぱり子育てとなると母さんも色々と大変だったのが伺える、何せ兄貴と香織さんの性格を考えるとその苦労は
計り知れない。
99 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:28:03.06 ID:OaXfLUV30
「そういえば來夢を妊娠した時に一番喜んでいたのは香織ちゃんだったな」
「そうなの! なんか意外だなぁ・・」
「ああ、やっぱり兄弟が欲しかったんだろうな。來夢を妊娠した時には毎日ずっと家で様子を見にきて
私のお腹を見ながらなにやら語りかけてたよ」
案外僕が香織さんを姉のように慕っているのもそれが要因なのかもしれない、それにしても僕が母さんの
お腹にいた頃に香織さんがそんな事をしていたのは驚きだけども少しだけ嬉しく感じてしまう。僕が女体化して
一番喜んでいるのは父さんや兄貴ではなく香織さんだったのかもしれない、今考えると女体化してから色々付き
合ってくれたのは香織さんだし教えてくれたのも香織さんだ。そう考えると妙に辻褄が妙に合うし自分でもどこか
納得してしまうのが不思議だ、やっぱり香織さんは僕が女体化して嬉しかったのかもしれない。
100 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/09/10(水) 15:29:06.22 ID:OaXfLUV30
「そういえば來夢・・いい人は見つかったか?」
「えっ! どうしたのいきなり?」
「何となくな・・」
正直母さんからこんな質問をされるとは驚きだけども母さんも母さんなりに僕を心配してくれているのだろう。
「そうだね・・まだ母さんの言ういい人ってのは解らないけど何となくそれっぽい人は周りにはいるかな」
「そうか、まぁ・・のんびりと待つよ」
「母さんらしいね、今は僕も今を生きるよ」
母さんの言葉に心の底から安堵しながら時間はゆっくりと過ぎて行くのであった・・
―fin―
最終更新:2008年09月22日 23:21