266 名前:
◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 17:49:34.19 ID:pUoBKqBc0
宇宙には様々な惑星があり世界があって文化が築かれる、これはそんな世界の中でのお話・・舞台は何処にでもある
中学校の教室の一角でひっそりと行われようとしている。
「さて、終わった終わった。お昼どうしようかな」
「おおっ、同志椿。弁当はどうした?」
「今日はお母さんが父さんと記念日に旅行してるからなし、購買部で買うよ」
彼女の名前は中野 椿、趣味はゲームに幼少時代から培ったピアノ。友人である祈美と一緒にいつもと同じ何気ない
日常を謳歌している、顔やスタイルも平均的で成績の方も標準なので良くも悪くもなく平凡で極普通の女の子だと
思われがちなのだが・・彼女にはとある人物のお陰で思いがけない苦難に立たされる、そんな時だらけた制服に
耳にピアス・・整った体つきで髪は脱色して染められている・・いわゆる不良と呼ばれる人間が低姿勢のまま椿の方へ
歩み寄る。
267 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 17:51:39.46 ID:pUoBKqBc0
「椿さん! 購買部でしたら俺が行ってきますよ!!」
「あ、ああ・・別に1人でも」
「大丈夫ッス! それじゃ行ってきます」
突然の行動に溜息しか出ない椿・・といってもこんな事はもう既に慣れているので取り合えて追記はしない。
これでも一時期と比べたらまだマシな方なのだ、椿の兄はその筋では知らぬものはいないと言われ武勇伝を残した
殺戮の天使、中野 翔。この兄の存在で椿の苦労は運命付けられたとでも言っていい、もっとも最近はいつぞやの
ファミレス事件の影響かお陰で大人しくはなりつつあるのだが・・特に入学したての頃はとにかく大変だったのだ。
「でも椿が入学した時は大変だったね。最初は上級生下級生問わずカバンを持たれるわ、購買部のパンを
根こそぎ買ってこられたりしての女王様振りだったけど、2日目にはこの学校のスケバン達が雪崩の如く押し寄せて
まさにカオス」
「あの時は大変だったわよ、誤解解いてもらうにも結構時間掛かったし・・あのバカ兄貴は何処まで私に迷惑を掛け
たら機が済むのかしら!!!」
「まぁまぁ、今はこの日常が待っている。おっ、このスレはクォリティたけぇ」
相変わらずマイペースな友人に呆れつつもこの生活も悪くはないと思っている椿であった。
268 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 17:52:45.71 ID:pUoBKqBc0
先の不良が買ってきたパンを受け取るとそのまま2人はいつもの昼食場所である音楽室へと足を運ぶ、ここなら
余計な人物とも会わないし椿がゆっくり落ち着いて昼食が取れる場所なのだ。
「ところでさ、祈美のお兄さんって何してるの? よく家のお兄ちゃんとつるんでるみたいだけど」
「う~ん、一応高校生だけど生意気にも彼女がいるんだよねこれが」
祈美の兄である辰哉は椿の兄である翔とは繋がりが深く、度々翔やその彼女である聖から名前が出るので
その存在は椿も把握していた。まだ出会ったことはないのだがその存在はどこか自分と同じ匂いを感じさせるもの
だった。それに辰哉には特定の彼女がいる、その彼女も翔の彼女である聖とはすこぶる仲が良いのと祈美の話でも
たっぷり話は聞いているのでその存在も頭の中に入っている。
「ああ。知ってる知ってる、確か狼子さんだっけ?」
「そう!! あんなに萌える彼女をゲットした兄貴は本当に幸せ物だね、きっと毎日あわよくばセクロスを・・」
「ハハハ・・あまり人の恋路は邪魔しちゃだめよ」
「何を言う、同志椿よ!! これはヲタクとしての本能なのだ、あんな極上な萌え対象を前にして何をする!?
それは決まっているはずだ!!!」
祈美は特定の人には理解しがたい特殊な趣味を持っている、まぁそれを省けば椿にとっては気の合う友人では
あるし自分の兄や周りのごろつきと違ってまともな方なので何ら苦にはならない。ただ少し暴走癖が高いのか
自分の本能には忠実なのが玉に傷と言ったところであろうか、手持ちのパンを全部食べ終えるといつものように
ピアノの前に座る、この状態となった祈美を収めるのも手馴れている。
269 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 17:53:25.36 ID:pUoBKqBc0
「確かこんなフレーズだったわね・・」
椿の特技はピアノ、そのキャリアは幼少時にまで遡り小学生の頃にはグランプリを受賞している。
更にはピアノをずっと弾いているので自然と絶対音感が身について曲のフレーズとかを何度か聞いて覚えれば
ピアノで忠実に弾く事が出来るのでちょっとした椿の特技となっている。
椿は祈美が前に好きだった曲をピアノを弾き始めると先ほどまで熱論を繰り広げていた祈美は水を打った様に
静かになり、ピアノの音色を大人しく聞く、それを確認した椿も1曲弾き終えるとそのまま指を休める。
「よっ、大統領!! YOU、その才能を活かしちゃいなYO」
「あのねぇ・・これぐらい昔からピアノを嗜んでいる人間なら誰だって出来るものよ」
「このブルジョアめ、この口がこうせるのか!!」
「ちょ、ちょっと!! やめてよ~、お詫びに何か好きな曲弾いてあげるからさ」
「ほぅ! ではネクサスのテーマである英雄でも弾いてもらおうか」
「はいはい・・確かあれはギターがあれだからピアノでするとこんなフレーズよね」
祈美の好きな曲は殆ど覚えているので椿は記憶を頼りに曲を弾き上げる、音楽室では曲を聞きつけたヲタたちが
ひっそりと聞き耳を立っていたと言う情報が確認されている。
270 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 17:54:24.29 ID:pUoBKqBc0
同時刻、舞台は代わり高校の屋上で2人の男のくしゃみが響き渡る。
「風邪引いたかな・・」
「俺もです。誰かが噂してるのかな」
まさか自分達の妹がネタにして盛り上がっているとはこの2人は思いもよらないだろう。過去のファミレス騒動で
翔は貰ったばかりの給料が全て消え当分は自宅生活、辰哉は女の恐ろしさと言うものを身を持って思い知り以後は
慎ましやかの行動をしている。
その他の面々も翔と共にお金が消えて大人しくしている、当の翔は内心はこれだけで済んだと思うと内心ホッとしている。
「ま、当分俺達は大人しくしているし何にもないだろうな」
「そういや、最近柔道部の人達が先輩探してますけど・・何かしたんですか?」
「はぁ? 何であの筋肉バカ共が何の用だってんだよ。ここ最近は大人しくしてるんだけどな」
最近は翔の方も落ち着いてきているようでそういった喧嘩はしていない、だけども名前の方と影響力は未だに健在で
女体化した聖と同じく今でもツートップを飾っている、それにしても翔は柔道部が自分を探している理由が皆目見当が
つかない。
271 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 17:55:36.63 ID:pUoBKqBc0
「それに部活内で揉めたとしてもそういう専門は応援部が手際よくやるもんだろ。俺にはようはないと思うんだが・・」
「どうなんでしょうね? もしかしたら先輩を勧誘しにきたんじゃ」
「はぁ? そんなはずねぇだろ。第一俺はあんまスポーツとか好きじゃないし、ああいったのは格闘技をしている
あいつの専門だ」
「それもそうですね」
暫く、談笑を楽しむ2人であるが・・噂をすればやってくるものはやってくるものである。数人の人数と一緒に2人の
目の前にやってきたのは筋骨隆々で他の数人とは違っていかにもなオーラを放っている人物・・3年生で柔道部
部長を勤め更には風紀委員会の頂点に立つ五十嵐 務(いがらし つとむ)が友好的な表情をしながら翔の前へと
歩み寄り、翔の方も一応ではあるが無言で応える。
「やぁ、貴重な時間を割いてすまないね」
「どうやら俺を勧誘しに来た・・にしては歓迎が手厚いな」
「君に話があるんだ。少し時間をくれないか?」
「どうせならここで話したらどうだ? 先公だって誰もいねぇよ、それに態々別のところに行かなくても
ここで話せば済む話だ、それともあんたは俺が恐ろしいからご自慢の後輩が一緒に居なきゃ話せないのか?」
務の表情が一瞬ではあるが笑みを無くすが再び表情を和らげながら温和に本題を翔に話しかける。
272 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 17:56:33.17 ID:pUoBKqBc0
「それもそうだ。中野君、率直に言おう。
実は他でもない・・君に我が柔道部に入ってもらい私の右腕になってもらいたい、今の君ならそれにぴったりだし
悪い話ではないと思うが・・」
「ふーん・・悪いが折角の有難い申し出だがパスさせて貰おうか。
俺は人の上に立つ立場でもねぇし自分のことは自分で決めるよ」
「何だと!!」
「貴様、さっきから礼儀と言う物を知らんのか!!」
翔の対応に務が引き連れた柔道部員の数人が野次を飛ばすが、務は冷静に右腕一本で制止するとそのまま笑みを
浮かべたまま翔に話す。
「そうか、でも君の意思は尊重するよ。ではまた会おう・・行くぞ」
「「「「「「はい!!!!!!!!!」」」」」」
務と柔道部数人は鮮やかに去って行く。あまりにの光景に辰哉は途中から口を開くことすら出来なかったが、彼らが
帰った事によって重々しい空気はなくなり再び平穏が取り戻せたのでようやく口を開くが翔の表情は少し険しい。
273 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 18:02:01.39 ID:pUoBKqBc0
「ふぅ、何だったんだ」
「気にいらねぇな・・」
「えっ、どういうことですか?」
「ああいった手合いに限って本性を隠してるものだ。表向きは人畜無害、人当たりの良い人物を演じているん
だろうが・・本性はただの下衆だ。事実、さっき鎌かけた時にそれがハッキリと見えた」
翔の言葉に辰哉は絶句させられる、五十嵐 務という人物はこの学校に置いては英雄扱いで柔道部は無論の事で
他の一般生徒からの信頼はすこぶる厚い。その務の本性が今の辰哉には信じられなかったのだが翔は今まで
独自の喧嘩経験論から務の本来の人物像をはじき出す。
「ああいう奴っての本性を曝け出すのは簡単だが、過程を練るには少しばかり骨が折れる。
今は大人しくした方が無難だ」
「でも、仮にそうだとしたら連中は先輩を引きいれようとしているのかあるいは貶めようとしているのかわかりませんよ。
ですからここは情報を集めても・・」
「下手に行動したら奴らの思うつぼだ。探りを入れたらかえってこっちが自滅をしてしまう・・
だから今は泳がせていても問題はない、それにまだ俺とやりあうって決まったわけでもないからな」
「それにしても先輩ってすぐに行動に移さないんですね。意外です」
「そりゃあいつの場合だ、俺はどちらかと言うと事前に作戦立ててから行動に移す方だ」
翔の苦笑と共に時間は過ぎていく・・
274 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 18:03:39.64 ID:pUoBKqBc0
翔たちが何かしらの出来事に巻き込まれているのを他所に本来の彼女達は和気藹々と食事を楽しんでいた。
「♪♪」
「おいおい、少し離れろって・・飯食いづらいぞ」
「あんた本当に懐かれてるわね」
聖もツンと一緒に昼食中ではあるのだが、たまには雰囲気を変えてみようと狼子達と一緒に食事をする事となった
のだが・・前回の一件で聖に懐き始めた刹那はずっと聖にまとわりついているのでおかげで聖の方は少し昼食が
取りづらい状況にある。
「ちょっと、狼子。なんとかして俺に少し飯食わせてくれ!!」
「あ、はい! おいで刹那」
「・・」
狼子の機転によって刹那から開放された聖はものすごいスピードで残りを平らげると一息つく、子供ならまだしも
自分と余り歳の変わらない刹那に懐かれたと思うと少しばかり複雑な心境だ。
275 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 18:05:40.48 ID:pUoBKqBc0
「それにしても刹那がここまで聖さんに懐くなんて驚きですよ。俺でもここまでするのに時間掛かったのに・・」
「でも狼子ちゃんにも心を開けているのはいい傾向じゃないの?」
「ええ最初の頃と比べてると大分マシになった方ですよ」
「へぇ・・」
狼子とツンが談笑を続けていると刹那がじっとツンの食べ物を見続けている、ツンは常日頃から料理を嗜んでいる
のでお弁当は勿論の事、デザートも自家製で見た目も綺麗で保存状態も良好だ。ツンはその視線を感じると持って
いたデザートを切り分けると静かにデザートを刹那に差し出す。
「!!」
「はい、沢山あるから食べていいわよ」
「おおっ!!」
「・・あ、ありがとう」
しっかりとお礼を言いながら刹那はツンからケーキを受け取ってむしゃむしゃと食べ始める。
276 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2008/08/05(火) 18:06:02.41 ID:pUoBKqBc0
「ツンさん、ありがとうございます」
「別にいいわよ。狼子ちゃんも食べる?」
「はい! いただきます」
刹那同様に狼子にもケーキを渡すと狼子も美味しく食べ初めて教室はのほほんとした雰囲気に包まれる。
「しかし、女ってのは甘ったるいものが好きなんだな」
「あれ? あんたって甘いもの嫌いだったっけ?」
「まぁ、どちらかと言うと好きじゃないな。俺、辛党だし」
「意外ね・・」
実際の所、聖には卵アレルギーの影響で全く食べれないわけで本人はそこまで嫌いではないのだが・・
後に判明するのはもう少し。とりあえず花形の方はいつもの平穏を何ら不自由なく過ごしていくのであった。
最終更新:2008年09月22日 23:39