人間ってびっくりだよね。
最近そう思う。
親戚の安太郎が「銃で撃たれたときも一応生きていたいじゃん?」という無茶な理由で体内に鉄板入れちゃったり、祖父が徳川埋蔵金を探す旅に出ちゃったり、
従姉妹のかなみちゃん(4歳)が鳩と格闘して勝っちゃったり。
もうなんでもありだよね、人間って。
でもさ、でもさ、童貞だったからって女体化することなくね?
そんなことを一気に言ったら、友人の信二がため息を吐いた。
煙草の紫煙が同時に吐き出され、俺は顔をしかめる。未成年のくせに煙草を吸うな馬鹿野郎。
「セキは、女体化すること知ってたんだろう。彼女作らないほうがおかしい」
「出来るかーっ!こっちはダサいモテないそんな男子高校生だったんです!おかしいよ、おかしいよ、なんで俺はスカートをはくはめになったんだよ!この学校おかしいよ!」
「女子なんだからおかしくないだろ」
「三島の学校は女体化しても学ランでもよかったもん!」
「それ、マニアから人気が出ちゃって問題になったの知ってるか?」
「うそーん!知らんわーい!」
場所は学校の屋上。俺たちがギャーギャー騒いでも許される場所だ。
屋上の鍵が壊れたのは、去年卒業した先輩がこっそり壊したからだ。ちなみにその先輩は、俺の小学校時代の先輩で、近所に住む人だ。
「うふふ……」と笑いながら、常に黒魔術系の本を持っている変人だが、根は悪くない。
俺のスカートが風に揺られる。ちょっとだけ伸びた髪が風で乱れ、手で直した。
「女体化したなんてびっくりだよ。安太郎が体の中に鉄板入れたときよりびっくりした」
「お前んちの安太郎は何者だよ」
「えー、多分……ジャーナリスト?」
「多分って」
「安太郎はどうでもいいよ!奴が肉体改造したのは今に始まったことじゃないんだし!刺青入っているし、羊も豚もさばくの慣れているし、奴は変人なんだ」
「つか、野生の民?」
信二は笑い、俺は屋上の手すりによりかかった。
コンクリートの床に座り、見上げた空は青い。
青くて青くて、ちょっとだけ、不安になる。
安太郎は今、銃弾が飛び交う国の空の下にいる。その空とこの空が繋がっているなんて信じられない。
「あーあーえっちしたかったー!女じゃ出来ねー!」
しんみりとした気持ちを吹き飛ばすように叫んでみる。
「出来るじゃん」
「出来ねーよ!やだよ、女の子のふにふにした太ももの感触を味わいたかった」
「自給自足できるじゃん」
「自給自足なんてやだー!いーやーだぁあああ!」
俺は自分のスカートを捲って、ふにふにした太ももを撫でる。これはこれで…ってあるかー!なんか虚しくなってきたぞ!
「あのさ、セキ。俺、一応男なんだけど」
「欲情なんてしないだろー。俺、男だったもん」
「いやいやいや、女の子だろ」
信二と目が合った。女の子。
「やだなぁ」
洩れた本音。だって嫌だよ、つい数日前まで俺、男だったんだよ。
いきなり全てがひっくり返る。世界が同じようで違う。
俺はそんなに頼りない顔をしてたんだろうか、信二が頭を撫でてきた。
畜生。
余計、なんだか虚しくなってくるだろうが。
最終更新:2008年10月05日 13:39