『鈴木ヒロミチには夢がある』(3)

~これまでのあらすじ~
高校に入学したら4月生まれの親友リョータが
リョーコになってしまっていた鈴木君(俺)
そんなリョーコをうっかり口説いてしまい
石化した友人佐々木も加わって、どうなるか、どうもならないか…
gdgdは続く

「というわけで、中庭にやって来ました。」
「ん?何言ってんの?」
「いや、神の啓示的お約束というヤツでな…。」
時は放課後、俺はリョーコと一緒に中庭にやってきていた。
文化部も運動部も、入学式の2週間、中庭でまとめて
勧誘活動をやるのが決まりらしい。

「あ、鈴木サンにリョー…」
「柔道、やらないか」
「え、いやボクはぁぁぁぁ~!?」

こちらに気づき、合流しようとした佐々木がいきなり柔道着のイイオトコに引きずられていく。
…各部、部員の獲得に必死のようだ。

「いや~、色々あるねぇ。」

リョーコの言うとおり、そこかしこで、色々な部の勧誘のパフォーマンスが催されている。
運動部は主にグラウンドや体育館でやっているからだろう。
実際中庭に展開しているのはほとんどの文化部と、一部の運動部だけのようだが
とにかく祭りっぽい。というくらい派手にやらかしている。
バスケ部の配っているチラシが「キラッ☆」のイラスト入りだったり、
弓道部がゴッドゴーガンなコスプレをしていたりと妙な点は気にしないことにしたほうが良さそうだ。

とは言え、ヲタク全開で中学の頃、部活の先輩から「タッキー」のニックネームを頂いた身としては、
向かうべきトコロは決まっていた。
なお、タッキーなるニックネームは、某滝沢ではなく、「オタッキー鈴木」の略である。

それはさておき、目指すは漫研かコンピュータ同好会、なければ美術部か文芸部。
自分の経験…と言うには中学だけなので自信はないが、
こういう部の必ずどこかに、ヲタクのすくつはあるハズなのだ。
俺としては、高校でリア充デビューを目指すよりは、楽な道を選びたい。
灰色生活ドンとこいだ。

「あ、ねぇ。あれそうっぽくない?」

リョーコの指差す方に目を向けると、そこには
『漫画研究会』と書かれた小さなノボリがあった。
文字の周りには、どう見てもカエルの軍曹殿と伍長殿なシロモノが
可愛く描かれているが…。

「ホントに募集してるのかな。アレ。」

その横で机に座っている少女は、つまらなさそうに
カバーをつけた本を読みふけっていて、周囲に全く興味が無い感じである。
正直言って声をかけづらい。

「…どうしようか?」
「いや、どうしようかったって。」

入部手続きは「勧誘期間中の募集受付」でしか認められていない。
詳しいコトは省くが、とにかくこの学校ではそういう決まりらしい。
…が、これでは勧誘のポーズだけなのか、と変に勘ぐってしまう。
実際中学の文化祭の頃、自分がPC部の発表受付になった時は、
面倒臭くて、人来るな人来るなと念じた前歴があるため、
当番や義務でやらされている人間の気持ちもわかる気がするのだ。

「少し、様子を見ようか。」
「ん?うん。」

ここで声をかけて新入りが歓迎されるのかされないのか、
ハッキリさせるのがベストだとは思う。
思う、が、思うだけで俺はそれが実行できるような人間ではない。
少し離れた芝生に座り、気取られないように漫研受付の様子を眺める。

「…誰も来ないねー。」
「そうだな。」

様子見を始めてから、リョーコがそう呟くまで約30分間。
周囲の浮かれムードに対し、受付の彼女の無関心さからなのか、
それとも、元々漫研自体人気が無いのか、
受付に声をかけるどころか、近づく人間すらゼロであった。
その間にあった変化といえば、受付の彼女が、読んでいる本を
鞄にしまい、二冊目に取り掛かったことくらいである。

「ねぇ、まーだこうしてるワケ?」
「えぁ?そ、そうだなぁ…。」
「はぁ…。」

ダメだこりゃと言わんばかりに盛大にタメ息をつくリョーコ。
うん。わかるよ。俺が些細なコトでヘタレてるのは自覚してる。
でもやっぱこーゆー場で冷静なヒトってなんか関わりづらいじゃん!

「よっと!」

くだらない自動ループ思考をしている俺を尻目に、ストンと芝生から立ち上がるリョーコ。

「ほら、行こ。」
「へ?あ、ちょッ!」

リョーコにいきなり腕を引っ張られ、立ち上がらせられる。
デジャヴ。というか今朝見た。美少女に引っ張られてゆく俺。
結局俺は、こうなってもリョータに頼りっぱなしなのか…。
そう考えている間にも、リョーコに引っ張られて漫研受付の前へ

結局30分の時は、俺に取るに足らない些細な決心を起こさせる時間でしかなかったようだ。
引っ張った反動でブン投げられるようにして、受付の机の前へ出る。
流石にこの距離にまで近づいたとなると、受付の彼女もこちらに気づいたようだ。

「あ…「あれ~。お客さん?」

あのー。と言おうとした瞬間、いきなり呑気だがデカい声が背中にかぶさってきた。
何事かと振り向くと…そこには

1/12スケールくらいのアッガイがいた。

「アッガイだ!でっけぇ!いやちっちぇえ!」
「…部長。ホントに着てきたんですか、ソレ。」

思わずクチを滑らす俺と、半ば飽きれ気味にそのアッガイに言い放つ受付嬢。

「そりゃ~、先代が折角残して行ったんだし~、ある物は使わないと~。」
「…部長がそのままいてくれた方が、部員は集まると思いますが。」
「えぇ~。それじゃ~楽しくないじゃな~い。」
「楽しくなくても、集めないと廃部なんですよ?」
「部員を集める、楽しくやる。両方やらなきゃならないのが、部長のツラいトコロだね~。」
「片方はいらないです。今は。」
「え~?部員集めなくて良いの~?イズミちゃんガンバ~。」
「そっちじゃないですって…。」

外野を無視して延々妙な会話を繰り広げる部長と呼ばれたアッガイとイズミと呼ばれた受付嬢。
アッガイの方が部長のようだが、声と口調からして相当奔放な女性のようだ。
2人の会話に完全に置いてけぼりな俺とリョーコ。

「というわけで~。」
「歓迎。」
「漫研、入るよね~?」

2人は唐突に話をこちらに振ってきた。

「何がなんだか、わからない…。」
「あらあら、ここでL~?なかなか素早いわね~。」

俺の呟きを即座に拾って反応するアッガイ部長。
ポスポスと机の横にまわってあいてる椅子に座り込み、更に2つ椅子を出してきた。

「ほらほら座ってくださいな~。」
「あ、はい。」

促されるまま座る俺たち。

「イズミちゃ~ん。これ外してぇ~。」
「人が来るたびに外すつもりなら、着てこないでくださいよ…。」

どうやら目の前にいるアッガイコスは一人では脱げないシロモノらしい。
受付のイズミ嬢(で確定だろう)に手伝ってもらって、
アッガイ頭を外した中から出てきたのは…

「ふぅ、こんにちは、部長の隅田川ユリカと申します。」

めちゃくちゃ俺好みの顔して微笑んだ童顔少女だった…。

「…。(ぽけー)」
「あらー。やっぱりいきなりアッガイはびっくりさせちゃいましたかね~。」
「部長、それ違うと思います。」

可愛い。というかめっちゃ俺好み。
灰色時代上等だと思っていた俺に突如舞い降りた天使。いやアッガイだけど。
彼女できなくても良い!この人が部長なら俺死ねる!

「…。(ギュッ」
「ほぎゃあ!」
「あら、やっぱりびっくりしちゃった?」

突如尻に走る痛み。
この場で俺にこんなことするのは一人しかいない。

(突然何しやがる!)
(なーにがー?)

小声でリョーコに文句を言うがとぼけられてしまった。
全く意味がわからない。

(こんな時にいたずらとかな…!)
「クスッ」
「ん?」
イズミ嬢が少し笑った気がしたが…?

「さてぇ、それじゃあ漫研の説明するねぇ~。」

部長のユリカさんに話を持っていかれる。やっぱ可愛い。
リョーコが嫌な目つきで俺を見ているが意味がわからないので放っておくことにする。

「と言っても、特に無いんですけどねぇ~。あ、学祭の時期に~、部誌の製作に参加はしてね~。」
「これだけ守るコトが出来れば、あとの活動内容は漫研らしからぬモノでなければ大きく問わない。」

バッチリの連携で解説を始めるユリカさんとイズミ嬢。やっぱユリカさん可愛い。

「でも~。あれ、なんだっけ?部員?」
「…部長、また忘れてますね。ではここからは、私から話します。」

「「?」」
2人顔を見合わせる俺たち。何か特別な事情がありそうだ。

「現状、この漫研には私と部長しか部員がいません。一言で言えば廃部寸前ってコトです。」
「は、廃部…?」
「私たちが去年入った時に、この部には3年しかいなかった。それが卒業したため、今2年の私たちしかいないんです。」
「あれ、じゃあお二人は3年の先輩じゃあ無いと」
「そう。今もこの部に3年はいない。話を戻すと、この学校で部として認められるには最低3人必要。」
「え、じゃあ…。」
「そう、2人しかいない。期間中に最低1人入れるコトが、この部の存続の条件。」
「期間終わった時、2名以下の部は解散させられちゃうんだよ~。」
「な…。」

なんという僥倖…ッ!そして漫画的展開…ッ!
廃部寸前の漫研と助けを求める美少女2人…ッ!
そしてキーパーソンは…
俺…。
俺。
俺ッ!

ぎゅむ
「ほぎゃあ!」
またリョーコに尻をツネられた。なんだこいつ、ヒマなのか?
とりあえず今の俺は気分が良いので許してやるコトにしてスルーした。

「できれば5名は欲しいけど、今は存続が最優先。」
「というわけで~、ここまで聞いたら入ってくれるよね~?」

おもむろに入部届けを机から取り出すイズミ先輩と
俺が入るコトをめちゃめちゃ期待した顔で俺に微笑むユリカ部長。

元々漫研があれば入るつもりだったんだし、部長がモロ俺好みの美少女。
存続のために俺(じゃなくても良いはずだが)を必要としていて
しかも部員は俺が入っても3人っきり…。断る理由は無い…が。

向こうがこちらを必要としているのなら、安売りするのもどうかと、
ちょっと思ってしまったのである。
我ながらアホな思考ではあるが、それこそ女子とロクに話した覚えが
今朝方まで無いような人間がいきなりコレでは、調子に乗るのも仕方が無いというものだろう。

「う~ん、しかしそこまで少人数と言うのも…。」

本心ではそんなコト微塵も思っていない。むしろ美少女2人と放課後ウッハウハである。

「えぇ~!?私たち見捨てられちゃうのぉ?」
「……千里の道も一歩から。あなたに最初の一人になって欲しい。」
「そういえば、できれば5人欲しいと言ってましたが、それは?」
「最低の構成員が3名、これは部として認められるだけ。」
「5人以上になると、空き教室を使える権利が貰えるんだよ~。」
「だから、最低で1人確保。更に2人は加えたい。」
「…なるほど、俺が入っても部室の保障は無いわけですか。」

漫研で部室が無いのは痛い…とも思うが
無いとなればそれこそどちらかさんの家でグッフッh

むぎゅう

「ほぇゃぁ!」

リョーコによる尻ツネ3回目。今までで一番力が込められていたような気がする。

「テメさっきから何しやがる!」
「アンタの考えなんてお見通し。真面目に考えてあげなよ。」
「おま…エスパーかよ。」
「心は伝わるものよ。アンタも察しなさい。」
「ムチャを言うな。」

「フフフ…仲がよろしいのね。」

リョーコと妙な会話を繰り広げていると
ユリカ部長に笑われてしまった。恥ずい。でも部長可愛い。

「そちらのコは入部するの?見たところ、付き合いのようだけれど。」
「私は、こいつが入るようならついていきますよ。」
「ふぅん…彼女さん?」

ユリカ部長の目がちょっと怪しげな感じになる。何なのだろうか。

「ち、違いますよこんなヤツ!ただ私は腐れ縁だしちょっとは興味あるしえーと」

真っ赤になって否定するリョーコ。
まぁ、元リョータなんだから当然ではあるのだが、
こうやって目の前で女の子に全力で否定される、というのもなかなかに悲しい。

「そう、良かった。」

そう言ってユリカ部長は微笑んだ。

「あの…良かった…って?」

もしかして脈アリか?相思相愛?ひとめぼれ?年上の彼女?
と内心めちゃくちゃ期待したが、それはあっさり勘違いだったとわかった。

「彼女と別れたとかでぇ、片方来なくなるようじゃ困るのよ~。」
「残る可能性は高いほうが良い。まとめて消えられたりしても問題になる。」
「でもぉ、こうなるとど~しても入って欲しいよね~。」
「そうですね。ここで2人入れば、1人入れるだけで部室保留です。」
「お片づけしなくてすむね~。」
「そうですね…。最悪4人でも、いれば引き払うのは楽ですし…。」
「やっちゃう~?」
「そうしましょう。」

漫研2人を包む怪しい雰囲気。
小芝居臭いコトをやっていた時と違って、こっちにその意図は伝わってこない。

「あの…?」
いつの間にかアッガイコスを脱いでTシャツ短パンの着ぐるみの中の人スタイルへと
軽装化していたユリカ部長は素早く俺の後ろに回りこみ
ガシッ
俺を羽交い絞めにした!

「え、ちょっと!?」
「さ~、入部届けにサインする~。」

動きこそ、口調に似合わず素早かったものの、
やはり小柄の少女と言うべきか、拘束する力はとても弱く
モヤシの俺でも簡単に振り払えそうだったのだが…。

後ろから漂ってくる少女のかほりがそれを許さなかった。
着ぐるみを脱いで汗だくの少女から漂うHOTなかほりに拘束されてしまったのだ。
…しかも先輩、胸あたってます。

(あててんのよ、とか言ってくれないかなぁ)
なんて思いつつ、僅かばかりの抵抗をするが、やはり離れられない
否、離れたくない。
キモいとでも何とでも言うがいい。俺はキモヲタだ。

「…それだけじゃまだ弱そうですね。」

自分でもキモい思考に多少引きつつ少女臭を堪能していると
イズミ先輩も目の前に現れた。近いですって。

「…こちょこちょ。」
「わひゃ!ちょっ!やめれあひゃひょひゃふぇひゃ!!」

無表情で俺の脇腹をこちょがしまくるイズミ先輩。
前門のこちょがし美少女、後門の羽交い絞め美少女。
これでオチないヤツがどこにいる…

「ほらほら~、サインサイン~。」
「うぇひゃほひょひぇふひゃ!しまふ!しまふからへひゃひょひゃ!」
「…。」

イズミ先輩、無言だけどちょっと楽しそうなのは気のせいですか。

「入るの~?入るのね~?」
「…それなら」

バン!

机を叩く大きな音で3人の動きが止まる。
音の主は受付机の傍に立つリョーコだった。

「…これで良いんですよね?」

微妙に引きつった笑みを浮かべながら、
リョーコは入部届けを机に叩きつけていたのだ。
こちょがされて笑いすぎたせいだろうか、リョーコの背後に何か見えた気がした。
すぐに離れていくユリカ部長とイズミ先輩。ちょっと、いやかなり惜しいが
リョーコの背後に見える何かに気圧されて何も言えなかった。

「あ、う~ん。じゃあ受理しますね~。鈴木ヒロミチ君に…佐藤リョー…コちゃん、ね?」
「ぇぁ!?俺の分も勝手に!?」
「何さ、入るって言ってたじゃない。」
「いやしかし勝手にだな…。」
「は い る の よ ね !?」
「あ、あぁ…。」

今更ここで否定して入部を取り消しても意味は無い。
俺は漫研の部員となった。

「じゃあ、これで部は存続だね~。」
「部室のためにあと一人。」
「よろしくお願いします。先輩方。」

一応丁寧に挨拶。

「あ~、ユリカで良いよ~。ね、イズミちゃん?」
「…私はまだでしたね。牧野イズミ。よろしく。」
「ぁぅ、スルーされたぁ。まぁいいやぁ、よろしくねぇ、タッキ~。」

「…は?」
「フフ、イズミちゃん、まだみたいだよ~?」
「当然、ここまでノーヒントで気づいたら超能力者。」

オタッキー鈴木。縮めてタッキー。
リョーコ曰くのヒロミと同じく、そう俺を呼んでいたのは…
中学時代の1年先輩、隅田がw…

「あ…すみ…」
「フフ、ようやく気づいたみたいね~。」
「ちなみに私もそう。」
「ま、牧野先輩です…か?」
「そう。」
「そっちも、タッキーの傍にいるっていうコトは~。」
「リョータです。お久しぶりです先輩。」
あっけに取られる俺と、割と冷静なリョーコ。
そうだ、リョーコのコトで頭がいっぱいだったけど
先輩方だって、そうなっている可能性はあったんだ…!

「でもなんで…!」
「「え?面白そうだったから」」
平然と同時に言い放つ2人。
みんな考えることは一緒かよ…!

「まだ勧誘だから、今日はもう帰って良い。」
「あ、はい。じゃあ失礼します…。」

イズミ先輩に言われてリョーコと2人、帰路へ

「はぁ…。」
「いや~、残念だったねぇ、ヒロミちゃん?」
「うっせぇ!」

俺の周りをクルクルと動くリョーコは妙に上機嫌だったが、
俺は落胆で、それを気にしている余裕はなかった…。



後日、5人目が入ったと連絡を受け、
教室に連れてこられた佐々木がまたもや石化していた事は、
余談ということにしておこう…。

つづく かも

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最終更新:2008年10月05日 14:27
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