「おーい、いないのかー?」
コンビニの袋をテーブルに置きながら、中空に問うが返事は無い。
「ったく、自分で呼んでおいて留守かよあいつ…。」
ここはとあるマンションの一室。友人のミツル、いやミチルの部屋だ。
色々と落ち着いたから適当に遊びに来いと言われ、
ホイホイやって来たは良いが、家主不在ではどうしようもない。
いつものノリで、入って待つことにしたのだが…。
「ここに来るのも久しぶりだな…。」
夏休みにも毎日のように遊びに来ていた部屋をぐるりと見渡す。
壁のハンガーにかけられた女子の制服以外は、特に変わってはいないものの、
どうみても男の部屋であるここでそれは逆に、妙に目立っていた。
高校に入ってすぐに意気投合した友人が女体化したのは2週間前。
見知らぬ美少女にいきなり話しかけられてキョドりまくったのを、
ヤツに大笑いされたのは今でもよく覚えている。
―「いいか、こんなんでも俺は俺だからな!」
と、どう見ても別人の顔と名前で言われ、
当初は不思議な気分になってしまったものだ。
あれから学校で手続きだ買い物だなんだとヤツは忙しそうだった。
微妙にいつもと違う何かが、俺をここから遠ざけていたのだ。…恐らく、精神的に。
「はー…。」
マジメにこれからのヤツとの付き合いをどうしたモンかと、
無い脳みそ絞りながら考え、出ない結論に溜息をつくと、
―ガターン!!!
何か聞こえた。風呂場の方からだ。
ガラッ
風呂場の扉を開けると、
扉についたスリガラスの向こうに、変な体勢の人影が見えた。
「ありゃ、いたのか!?」
「うおぁッ!?来てたのか!?」
俺の問いかけに驚いた様子で答える肌色の人影…ミチルだ。
「反応無いから入らせて貰ったよ。てか何があった。」
「ああ、そか。こっちは大丈夫。ちょいスベッって転んだだけ。」
「てかお前気配無さすぎだろ。今まで気づかなかったぞ?」
「そりゃお互い様だろう」
「まぁいいや、部屋で待ってるぞ。」
「あいよー。悪いね。」
これだけ呑気な返事が返ってくるのなら大丈夫なのだろう。
友人の所在と無事を確認して部屋に戻ろうとした時、
俺の目にはあるモノがとびこんできた。
「これは…!!」
今までなら見る事の無かった「ソレ」を、
俺は手にとってしげしげと眺める。
「おぉい、出るんだからどいてくれー。」
「あ!あぁ、わかった」
風呂の中から突然かけられた声にビビってしまい、
俺は「ソレ」を思わずポケットに突っ込んで、脱衣場を後にした。
―数時間後
「ふぃー、すっかり遅くなっちまったなぁ。」
某対戦ゲーのヘタレプレイヤーの俺は、ゲーヲタミッチー師匠のコーチングを延々受け続け、
結果、時計の針は午前の1時を指すまでとなってしまったのだ。
「そだねぇ。…今から帰んの?」
当然の疑問を投げかけてくるミチル。
あの後シャワーからあがってきたミチルは、タンクトップにハーフパンツと
ラフすぎるというか、完全に無防備なくつろぎスタイルでずっといるのだ。
本人に自覚があるのかすらどうか不明だが、少なくとも俺はドキドキしっ放しだ。
そのせいで、ゲームにもロクに集中できずにミチルにヤジられることしきり。
情けない話だが、正直言って俺はもう帰りたい。
しかし同時に、帰るのもダルいラインだ。
「明日休みなんだし、泊まってけよ。」
そんな俺の思いを知ってか知らずか、平然と言い放つミチル。
―「いいか、こんなんでも俺は俺だからな!」
唐突に、ミチルが最初に言い放ったセリフが頭をよぎる。
どうやらミチルはあくまでも「いつも通り」のつもりらしい。
「じゃ、そうするかねぇ。」
俺はそう言って平静を装い、再び絨毯の上にどっかと座り込み、
結局、ミチル師匠のVS講座は2時過ぎまで続いた。
―更に2時間後
俺は眠れぬ夜を過ごしていた。
あの後ミチルが1時間ちょっとでダウンしてしまい、やるコトが無くなったのだ。
もはや俺用と化している毛布を引っ張り出し、被って床に転がっているもの、
一向に俺に眠気は訪れなかった。
ていうかミチルさん、寝ちまったからベッドまで運んだけれども、
途中で「うぅん…。」とかモゾモゾやられちゃ、それだけでも童貞の俺には威力が高すぎますって。
ただでさえ、抱え上げた時に寝顔でビンビンになっちまったのに…。
やはり、やるしか。
俺が帰りたかったもうひとつの理由、ポケットの中の爆弾、つまりは「ソレ」。
俗に言う「しまぱん」と呼ばれるそれをポケットから取り出し、
俺はトイレへと向かった。
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
なんて某ルイズコピペを思い出しながらも、トイレで「使う」
長時間、バレたらヤバいなんてLvじゃない爆弾をポケットに抱えたままだった俺は、
もはや完全に頭を何かに焼かれていたのだろう。
初めての現物の「良さ」に思わず声が漏れていた。
「ハァ、ハァ、あぁ、もう…!!」
何事も、やりすぎというのは良くないのだろう。
今に集中しすぎて、俺は近づく気配に全く気づかなかった。
「はい、ストップ。そこまで。」
背後からの突然の声。
振り向くと、何故か開いた扉の前には、仁王立ちしたミチルが立っていた。
「ヒトん家でなーにしてるんだ?変態野郎。」
「あ、え…!?なん…。」
「しかも鍵閉めないとは、大したクソ度胸だな。」
迂闊だった。焦りすぎて鍵閉め忘れたのだ。
「ほれ、パンツはいてちょっとこっち来な。」
こうなってはもう、言い逃れはできそうも無い。
素直に俺はミチルについてトイレを出た。
「で、なんでこんなコトしたんだ?正直に言ってみ。先生怒らないから。」
テーブルを挟んで対面で座る俺とミチル。
下を向いて黙ったままの俺に、ミチルはイラついた視線を向ける。
「おぉい、言わなきゃ伝わらねーぞぉ。」
そう言われても、様々な思いが頭の中をグルグル回って考えがまとまらない。
こんな状態で発言しても、恐らく墓穴を掘るのが関の山だろう。
時間を取りたいが、現状でそれは許されないだろう。
頭の回転が悪い自分の頭が恨めしい。…などという冷静さは次の一言で吹き飛んだ。
「まったく、ぱんつのドコが良いんだか…。」
「んなッ!しまぱんを馬鹿にすんなぁ!?」
「そーいうコトじゃねぇよ馬鹿。」
「は?」
「オメーがしまぱん見つけて、思わず取っちまったのなんて予想はつく。
そんなコトよりもだ、中身に興味は無いのかって聞いてるんだよ。」
「中身…?」
「そう、中身。穿いてた人間だよ。」
「そりゃ、あ…いや…。」
「他の要素で遠慮はするな。有るのか無いのかだけ言ってみろ。」
「そりゃあ有るよ!大有りだよ!無い方がどうかしてる!」
「そうか、じゃあなんでトイレに行った?それで満足なのか?」
「…何が言いたい。」
「言われなければわからないか。」
「……。」
「俺はな、別にお前がぱんつ取ってセルバしてたのを怒ってるんじゃあない。
俺もその衝動はわかるつもりだ。お前はまだ男だしな。だがな、
さんざスキを見せ続けても、一向に目の前の女に反応しないお前に怒ってるんだよ!」
「だって…お前は、その、友達じゃないか…。」
「ほう、ならばお前はその友人のぱんつを使ってセルバする変態なのか。」
「ぐっ…。」
「返せない、か。情けないヤツだ。」
「……ひとつ聞いて良いか。」
「俺が聞いてるんだがな。まぁ良い。何だ。」
「何故そうまでして、俺を煽る?何をしたいがわからんが、安い挑発には乗らないからな。」
「…それが、まだ理解できないというわけか?」
「…まだ?何がまだなんだ?」
「まったく、こりゃ筋金入りの頑固者だな。…もう良い。何もかもアテが外れた。」
「だから一体何が…」
俺が問い返すよりも早く、諦めたように相好を崩したミチルは、
微笑みながら俺の横にやって来ると、素早く俺の肩を掴んで押し倒した。
多少勢い良く倒されてしまい、軽く絨毯に頭を打ち付けてしまった。
「いって!?おま…!」
しかし文句を言うヒマもなく、即座に唇で唇を塞がれる。意味がわからない。
さらに混乱する俺の考えなど知らぬ存ぜぬ省みぬと言った調子で、
ミチルの舌が俺の唇を割り開いて入ってくる。話では聞いたことあったけど、いきなり…!!
散々俺の口内を舌で蹂躙しつくしたミチルは、組み敷いた俺の上で、
口の端にひっかかった涎の糸を舌で舐め取りながら、力強く言い切ったのだ。
「もう知らん!俺は今からお前を犯す!」
「でぇぇぇぇええええ!?」
もはや俺には流れに身を任せるしか、選択肢は残されていなかった。
―翌日
俺はミチルが起きだす前に服を着て、彼女の前で固まって待って見せていた。
「…オハヨウゴザイマス、ミチルサン」
「お、おはよう。昨日は…。」
「ヤメテ、モウヤメテ、ワタシノライフハトックニゼロヨ。ビュリンガー、デキマセン。」
「あちゃ、やりすぎたかな…。」
結局俺は、あの後ミチルの気迫に押され、成すがままされるがまま、
愛し合った。というか一方的に愛された。
ミチルの欲求は底なしで、俺は搾り取られるだけで…。
「ヒー。コワイヨー。」
「あ、あれー、ちょっとー?」
俺の怯えた演技にひっかかり、ミチルはすぐに心配そうな顔をする。
少しはやり返してやらないと気がすまない。
「で、でも、俺の誘いに乗らないお前が悪かったんだからな!?」
「ブフッ!」
奇妙なミチルの弁解(ツンデレ風味)に思わず噴出してしまう。
「ん?もしかして遊んでた!?」
「いえいえ、俺はいたってマジメですよ?」
「マジメに壊れられてたまるかっつーの。」
「少しは心配しろよ。」
「したよ。」
「ホントに?」
「うん。」
ミチルは俺の胸に顔をうずめるように抱きついて来て、呟いた。
「俺の彼氏を自分で壊しちゃったんじゃないかって、すっごく心配した。」
昨夜の艶っぽい表情とは打って変わってひどく安心したようなミチルの笑顔に、
俺は再び、ドキッとさせられた。
「お前、変わったな。」
顔がニヤけるのを見られまいと、照れ隠しにそっぽを向きながら言うと、
俺の彼女からは、意外な答えが返ってきた。
「ううん、やっぱり俺は俺だよ。だって―
今も昔も、お前のコトが大好きなんだからさ!」
おわり
最終更新:2008年10月05日 14:32