どうやら俺は女になったらしい。最近はやりの女体化ってやつだ。いや、いい世の中になったもんだね、ほんと。
ただのブサだったおれが、まあそれなりに見れる、っていうか可愛い女の子になれちゃうっていうんだから。
まあ、おれはこの女体化って現象をそれなりに楽しんでるわけだ。どうやら少数派らしいけど。
というわけで今日はメイド服ってやつを着てみたよ。なんで持ってるかって? そりゃ俺が女体化する前から軽く変態入ってたからじゃないかな。
……いやガチで引くのはよしてくれ。冗談だ。これは姉が喜々として持ってきただけで、俺が前から持ってたなんてことはない。本当だ。女装癖なんて持っちゃいないよ。
でもどうだ、かわいいだろ。いやー誰かに見してやりたくてさ、この恰好。とりあえずお前を呼んでみたわけだけど、どうよ実際、このかっこ?
「いや、どうよって言われても……」
友達に呼ばれてきてみたら、なぜか可愛いメイドが出迎えてくれて、何があったのかと思ったら……。
くそう、一瞬でもときめいちまった自分が悲しい。
「こうなんか、ぐっと来るんじゃないか?」
「ねえよ」
お前だって知らなければきただろうけど、さすがに可愛くなったとはいえ友達にいきなり欲情するほど性欲を持て余してはいないのさ、俺は。……多分だけど。
「なんなんだいきなりそんなことを聞くなんて、おまえはあれか? 俺に超可愛い似合ってるって言われてうれしいのか?」
「おう、うれしいぞ。だから聞いたんだ」
「うぇ?」
「なんかなー、女になったばっかなんだけど結構順応しちゃってるぽいんだよねーおれの頭。だからー、可愛いとか言われても結構普通にうれしいんだわ」
なんだこいつ、すでに女の子気分とか早すぎだろ。そういやさっきかるく変態入ってたとか何とか言ってたの、まさかマジなんじゃあ……。
「というわけなんだけどどうよ、かわいい? 似合ってる?」
って、あー、だめだ。なんかもう仕草とかが普通に可愛いどうしよう。元男が首なんて傾げるなって言いたいところだけど無理。もっと傾げてくださいかわいいんで。
とりあえすこれが軽く変態入ってたからだとしても許すね、俺は。
「んー?」
「あんま顔ちかずけんでくれ、照れるから」
「ほほー、友達の顔で照れちまうのか、お前は」
「仕方ないだろかわいいんだから」
なんか目の前にトマトが出現した。
「……照れるじゃないか」
「お前が聞いてきたんだろうが」
「まあ、そうなんだけどな。やっぱ結構うれしいね、ほめられると
……そうだな、お世辞でもほめてくれたお礼として、何か好きなセリフを吐いてやろう。この俺が、お前に」
「好きなセリフ?」
これまた何とも微妙なお礼だ。
「そうだ。なんでも好きなことを言ってやるぞ。このかわいい声と顔と恰好で」
案外いいかもしれない。確かに今のこいつの声はかわいいし、メイド服なんて着てるもんだからいろいろと楽しめるセリフを言わせられそうだ……。
「うーん」
けれど何がいいだろう、候補がありすぎて一つに絞れない。
けれど、こういう時に選ぶべきはやはり王道。そうだ、みんなが知ってるあの台詞。
「うん、あれにしてくれあれ。ほらメイドといったらこの台詞っていうあれだ」
「あれか」
少し遠まわしに言ってみたが伝わったらしい。けれど、どこか不満そうなのはなんでだろう。自分から言い出したことなのに。
「うーん、恥ずかしいな」
「ほら、はやく」
「仕方ないな……」
「お帰りくださいませ、ご主人さま」
なんだこの嫌がらせみたいな台詞は。
ただ、後から聞くにこれは俺が悪かったらしい。
こいつは少し先に教えてくれたのだが、おれにはもっと言わせるべき台詞があったんだ。
そう、メイド服に絡んだセリフではなくて、もっと簡単な、たった四文字で、「す」からはじまって「す」で終わるあの言葉を、こいつは言わせてもらいたかったらしい。
結局、その言葉は俺が言うことになったわけだけど。
最終更新:2008年10月08日 22:28