安価『ハロウィン』

「とりっくおあとりーと?」
なんかチャイムが鳴ったので玄関に行ってみれば、なんかカボチャ被ってマント羽織った女の子がこんなことを言ってきた。しかも疑問形。
自信ないならちゃんと調べてくればいいのに。というか今は十月十日、ハロウィンにはまだ遠い。
そして明らかに聞いたことのある声。カボチャの目から見える顔にも覚えがある
「とりあえず高橋、そのカボチャはとれ」
「えー、結構かっこいいと思ったんだけどなあ」
しぶしぶとカボチャをとる高橋。かっこいいってどんなセンスだ。流石すぎるぞ。
「まあいいや、とりあえずもう一回。とりっくおあとりーと」
くそう可愛い、一月前までは男だったくせに可愛い。そりゃあもうお菓子なんていくらでもあげたくなるくらいに。けれど
「まだハロウィンじゃないんだから、蕪の菓子なんて持ってないないぞ」
「蕪の菓子とか、細かいこと気にするね」
「そうか?」
一応ハロウィンには蕪の菓子ってのが決まりだろう。
「そうだよ、だから蕪のじゃなくていいから菓子をくれ。じゃないといたずらしちまうぞー」
そうか、蕪の菓子じゃなくてもいいのか、だが残念なことに、
「うちには菓子の買い置きなんてのはねーぞ」
高校生の息子一人しかいないしな、親もわざわざ買っておくなんてことはしないで食べたい時に買ってくる。俺もそうだし。
「ふーん、じゃあ、いたずらをしないといけないね……」
「だからまだハロウィンじゃないっていうのに」
高橋は俺の意見を華麗に無視しつつ、マントを脱いだ。中に来てる服は意外と普通で、前開きボタンの黒いシャツに、黒いフレアスカートだった。
シンプルだけど似合ってるな、とか考えていたら、いきなり突き飛ばされた。痛い。
「んふふー」
高橋は突き飛ばされて倒れてる俺の上に馬乗りになってやがる。おいおいあんまり痛いいたずらはいやだぞ俺。
「あんま痛くすんなよ」
思ったことをそのまま言うと、高橋が噴き出した。
「この状況でその台詞、ありえねーよ」
「いや、ただあんまり痛いいたずらはいやだな~って思っただけなんだけど」
「じゃあ何、素? マジありえねー。超面白いよ、おまえ」
うん、なんで俺はこんなに笑われてるんだ。マジでわけがわからんぞ。
「とりあえず、おまえは女か。とだけつっんでおこう」
「ますますわけがわからんな」
「気にすんな、実際に痛くしないでっていうのは俺のほうってこった。このいたずらは」
「? お前が痛いってそんないたずらなんでするんだよ」
「いや、お前がこのままだと女の子になっちゃうんじゃないかと思ってね、それを止めようと」
なるほど、おれの誕生日はハロウィンの翌日、十一月一日だし、それで俺は十六歳になるし、
なんか今十六歳まで童貞だと女の子になることがあるらしいし──こいつはそれで女の子になったし──、俺は童貞だし。
「ってことはまさかいたずらって……」
「そ、えっちな悪戯」
そうかそうかエッチなことしてくれんのかー。お菓子あげないでよかったー。って。
「いやいやいやちょっとまて、いくらなんでもそれはいろいろまずいだろう」
「なんで、俺とじゃいやか?」
「いや、そうじゃな、いやこの際そうでいい。お前とエッチなことなんてしたくない」
「そうだよな、元男とえっちするなんていやだよな」
あれなんか高橋泣きそうなんだけど、どうしようどうしよう。ああ泣き顔も可愛いんだろうなって何考えてんだおれ。
「いやちがうんだ、元男だからとかそういうんじゃないんだ」
「じゃあなんでいやがるの」
「だってさ、俺らもともと友達だっただろ。それが高橋が女の子になったからって、こう……そういうことをして、俺は女の子にならないで済みましたって。そういうのなんかいやじゃん。
友達のおまえにさ、そんな無理させてまで俺は女の子になりたいなんて思ってないんだよ。
お前は俺が友達だからそういうことをしようとしてくれてるのかもしれないけどさ、俺はお前が友達だから、そういうことがしたくないんだ。
わかりにくいかも知んないけど」
言い終えて高橋のほうを見ると、いやな感じの笑みを湛えて、こちらのほうを見ていた。
「いやーほんとおもしろいなーお前、まさかちょっとした泣きまねでそこまで心情を語ってくれるなんてね」
「こ、このやろう……」
涙は女の武器とは言うけれど、ちょっと使い方が悪質なんじゃないかな、今のは。
「さすがに悪いから、俺の気持ちも少し語ってやろう。ひとつだけな。
俺がこんなことをしている理由は、お前が言ってるようなややこしいことじゃない。」

「ただ単純に、したいから、だ」

「え?」
「これで文句はないはずだ。さあ続きを始めよう」
「え、え、え、え、え、え、え?」
「なあ祐樹」
高橋が今日初めて、おれの名前を呼んだ。
「あんまり、痛く……しないでね?」


そのあとダッシュでコンビに行ってチョコ買って、高橋に渡してかえってもらいました。
帰り際に「ああ、おれハロウィンまで毎日来るから、この恰好で、よろしく」って言って行きました
さてどうしよう

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最終更新:2008年10月08日 22:30
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