安価『穴埋め』

「悔しかったら、俺に何かやってみろよ。」
 ヤツの右ストレートが僕の腹に一発食い込む。とっさのことで避け切れず、思いっきり喰らってしまい、その場に屈みこむ。
また今日もか、とついため息が出てしまう。いつもいつも、僕はヤツからイジメられている。
理由なんか聞いたって、理不尽な答えしか返ってこないということは分かっている。だから聞かない。
何も言えない僕も悪いのだが、言ったらもっとひどくなることは間違いないと確信している。だから言わない。
不登校になるのも一つの手だが、家にいれば親が怒る。「学校に行って勉強しなさい」と。
親にイジメのことを相談したって、「自分でどうにかしなさい」と相手にしてくれない。
友達なんかいないし、親に相談したって相手にされない。どうしたらいいんだ?っていつも思っていた。
だから僕は思う。ヤツを殺さない限り、僕に平和は来ないのだと。

 その次の日、ヤツは可愛らしい女の子になって登校してきた。なんだ、こいつ童貞だったのか。
いつも周りの奴らに見栄張ってるから、てっきり童貞じゃないかと思ってたよ。
真っ白な肌に、か細くなった腕。あんなに大きかったのに、俺と同じくらいの背丈になってる。明らかに以前のヤツとは違う。
女性になったんだから、ヤツもイジメてこないだろうな、と安心していたら大違い。以前と変わらず、同じようにイジメてくる。
しかし、女性になったからであろう。力は全くと言っていいほど衰えている。昨日と同じようなグーパンチを食らったが、全然痛くない。
これはチャンスと思う。僕は心の底で軽くほほ笑んだ。

 翌日、現代文のテストがあった。中間テストとか期末テストとか、そういう類のテストではない。理解度を確認する程度なので、穴埋めの問題だ。
「ここはこうだな・・・ あれはどこに入れればいいかな・・・?」
 頬に手をつきながら、スラスラと解いていく。見直しなんかしない。だって僕がこんな簡単な問題を間違えるはずないもん。
でも今日はじっくりと考える。だって後半の問題がさ、他の皆より難しいんだもん。
「あれはどうすればいいかな? コイツをここに埋めれば・・・大丈夫かな?」
 誰にも聞かれないよう、一人でブツブツとつぶやく。思った以上に難しいんだ。
終わりを告げるチャイムが鳴っても、僕にはまだ問題が残っていた。だけど解答用紙は問答無用に回収される。
「もう時間なんだ。 思ったより短かったなぁ。」
 椅子の背に思いっきり寄り掛かり、思いっきり背伸びをする。色々と悩んだが、充実した時間だったと満足。
僕の穴埋め問題は、まだまだ終わりそうにない。


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最終更新:2008年10月15日 00:30
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