安価『お涙頂戴の三文芝居』

 まったく、なんて茶番だ。
 生まれて初めて彼女ができて、一週間で手をつなぎ、二週目でキスをし、いざ三週目という処で僕が女になってしまうだなんて。
 まったく、本当になんて茶番だ。
しかし仕方ない。なってしまったものは、どうしようもないんだから。
 きっぱりと、別れよう。

「ってわけだから、僕達……」
「やめて!」
「う……え?」
 あまりの大声にたじろぐ。
「そんな……別れようだなんて、言わないで……」
「だ、だって、僕が女になっちゃったし……」
「だから何!? 女同士が恋人になれないだなんて、そんな理屈ないでしょう!」
 なんて、茶番だ。
「は………はは」
 おかしくなってくる。僕は一体、独りで何を悩んでいたっていうんだ。
「はははっ! まったく、その通りだね!」
「ふ、ふふ。ね、そうでしょ?」
 まったく、茶番だ。B級だ。お涙頂戴の三文芝居でだって、今どきこんなに優しい造りはしていない。
 僕らが一しきり笑った後、少し沈黙が流れた。
「………それじゃあ、さ」
「うん、改めて」

 よろしく。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年10月25日 11:56
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。