『15、16歳位までに童貞を捨てなければ女体化する』
こんな理不尽にしみったれた現象を造りだしたのは、いったい何処の馬鹿だ?
部屋のドアノブに手をかけながら、悶々と考えを巡らせてみるものの。
怒りの矛先は定まるわけでもなく。
取り留めのない恨み辛みが、ただ浮かんでは消えていくだけだった。
私が女体化の憂き目を見たのは、ちょうど一週間前だ。
異性に嫌われぬよう、清純な青年でいようとしたのが、皮肉にも仇となったのだ
ろう。
浮き世はかくもままならないものである。
それにしても、女という器は些か不憫でならない。
階段の昇降運動1つをとっても、男とは全く勝手が違う。
これほどまでに勝手の悪い肉体をよりしろに、私はこれからの数十年を生きてゆ
かねばならないのか。
行く末に一抹の不安感さえ感じつつ、私はドアノブを回し部屋へ足を踏み入れ―
――
たのだが。
「今更ながら……いえ!!
遅ればせながら、ただいまより貴殿の支援活動をさせていただきたく存じます
!!」
「・・・はあ?」
……ドアを開けたら、部屋に軍人がいた。いや冗談抜きで。
「えーと、どちらのテレビ局の方ですか?」
あまりに超現実的な現状を前に、思わず突飛な質問をしてしまった。
異常な状況下においては、異常な行動こそが正常な反応である―――
どこぞの研究者が言ったと思しき言葉が、頭をよぎる。
なるほど確かに的を射ているな、そう考えると自然と口元が綻ぶ。
現に、目の前の現実を差し置いて斯様な思考を働かせられる程度に、私は異常だ
った。
「はっ!小生はニュー速VIP軍所属、田中裕和二等陸曹であります!!」
「えっと、帰ってくれるかな」
―――そしてまた、この自称軍人もまた異常であった。私とは違った意味で、だ
が。
軽く目眩を感じたのは、おそらく気の迷いだろう。
……そもそも、ここは平和の国ニッポンである。
軍隊などという物騒な集団とは、およそ無縁な法治国家である。
民家に職業軍人が上がり込むなど、まず考えられない事態である。
ともすれば、想定しうる可能性は1つ―――
「あー、悪ふざけが過ぎると関節キメるよ」
「マジごめん」
田中裕和と名乗るこの馬鹿が、私にとって見知った友人である、ということくら
いなものだ。
「で、和裕くんはどういった気概でこんな愚行に走っちゃったのかなあ?」
「・・・あー、いやまあ、その・・・なんだ?
女体化に少なからずショックを受けてるであろう友人を、俺なりに元気づけよ
うと思ってだな」
「もうやだこいつ・・・」
尤も、こんな馬鹿と顔の知れた仲なのだとは考えたくもないのだが。
まあ…少しだけ気が軽くなったので、今回は良しとしよう。
………いや、別に『曲がりなりにも自分を気にかけてくれていたのが嬉しい』と
か、
そんなことは一切ない。断じてないぞ。ないんだからな。
最終更新:2008年10月26日 03:35