安価『姉』

とても気に入らないことがある。
それは俺が女の子になってしまった事でも(そもそもこれは昨年の話だ)、百八十センチにとどこうかという身長が、百三十センチ未満なんていう超ウルトラミニマムサイズになった事でも――いやこれは少し関係があるのだけど、直接的にはこれじゃあない。
親友だったやつとの関係が、恋人になったことは、認めたくはないのだが嬉しいし、そいつが会うたび小さくて可愛いだなんで言ってくれることも嫌じゃない。
問題は俺との関係が兄弟から姉弟に、さらについ最近姉妹になりやがった妹のことだ。
妹のやつは、俺とは違って背が高い。元の身長から十センチ位しか縮んじゃいないだろう。俺と並べば三十センチ以上は妹のほうが高いのだ。
さらに妹は胸もあるようで、カップは65のFとかほざきやがる。胸囲は八十九らしく、「もうすぐじーになっちゃうかもー」とかいう台詞をはきやがったときは本気でイラッと来た。
とは言っても、だ。元々俺は男だったわけだし、妹の方が女らしいからって、そこまでは嫉妬しない。
いざとなったら、妹は綺麗で俺は可愛いんだとかいう台詞で、気持ちの整理もつけられる。
けれど、その妹の方が調子にのって「これじゃあお姉ちゃんが妹みたいだねえ」なんて言われるのが、我慢ならないのだ。
さらに母親までもが同調していやがって「佑香もそのうちお姉ちゃん見たいに大きくなれるからね」なんて言ってくるのだから、腹もたつってものだろう。
まあ、分からなくはないんだ。知らない人が俺たち姉妹を見れば、そりゃあ俺の方を妹だと思ってしまうだろう。
けれど身内にそんな、あえてコンプレックスを刺激されるようなことを言われるのは、流石におかしいだろう。
しかも俺の方は精一杯嫌なんだってアピールしているってのにだ。
しかも最近は俺の事を名前にちゃん付けで
「佑香ちゃ~ん。お姉ちゃんと一緒にお風呂入ろっか」
そう、こんな具合の発言がデフォルトなんだから困ってしまう。
「ほらほらお姉ちゃんと一緒に入れば佑香ちゃんだって少しはおっきくなれるかもよ?」
「うるせぇぞ澄香。だいたい姉は俺だって何度言ったら分かるんだ。この鳥頭が」
調度苛々している時にこんな事ばかり言っていやがるので、何時もより大分厳しい口調で返してやる。
「駄目だよ佑香ちゃん。女の子がそんな言葉遣いじゃあ。
それに、こんなにちっちゃくて可愛いんだから、佑香ちゃんは私の妹なの。もう決めたの」
――うるせえ、お前こそたった一月でそこまで馴染んでんじゃねえよ。それにお前にそんなことを決める権利はねぇ。
そんなことを言ってやろうと思ったのだが、ふとあることに気付いた。
こいつらは、俺がこう一々嫌がっているから、それが面白いからこんなことばかり言っているじゃないかということに。
ならそうだ、一度くらいこいつらの言う通りにしてやれば、きっと飽きてやめてしまうじゃないだろうか。
そう考えてから、言葉を発した「……うぅ、ごめんねお姉ちゃん。まだ言葉遣いに慣れてなくて、ちょっと乱暴になっちゃうことがあるの。さっきは考え事してたから、ついあんな言い方になっちゃったの」
なんだか自分の発言が気持ち悪くて泣きたくなったけれど、一度決めたからには最後までやり通してやる。
「それにね、佑香もお姉ちゃんと、お風呂……入りたいな」
言い終えてからそっと澄香の様子を伺うと、顔を真っ赤にしているのが見てとれた。
これは、効果ありか?
「……佑香ちゃん。ち、ち、ちょっと待っててね。お姉ちゃんやることがあるから、その間にお風呂に入る準備をしておくんだよ」
そう言い残すと澄香は部屋を出てどこかに行ってしまった。
ていうか、結局風呂には入るのか。
まあ、澄香は綺麗だから、一緒に入るのはそんなに嫌じゃない。
ね。お姉ちゃんやることがある「おか~さ~ん。佑香ちゃんが私のことお姉ちゃんってよんでくれた~うれしい~」
キッチンの方から響く声。これが用事? あれ、もしかして俺の作戦。大失敗?
「あら澄香良かったじゃない。それにね、お母さんからもとっても楽しいお知らせがあるの」
母の言葉から、とてつもなく嫌な予感。さっきの失敗なんて比べ物にならないような嫌なことが、間違いなく起こる。
俺の直感が、そう告げていた。「今日ね、お父さんのつくってくれた診断書を持ってね、偉い人のところに行ってきたの」
診断書? なんのだろう。
時期としては澄香の女体化に関わっていそうだけど、多分、そうじゃない。十中八九、俺に関係したなにかだろう。書かれた覚えなんてないけれど。
「それでね、うちの佑香が女の子になっちゃったショックで、自分の事を小学生だって言うんですって言ってきたらね。
佑香ちゃん、小学六年生クラスに編入になるって。戸籍の上での年齢も変えてくれるんだって。外見的には問題ないし、うちの国、女体化した子には随分融通がきくものねぇ」



俺は泣いた。本気で泣いた。人生ではじめて夜通し泣きつづけた。

数日後、俺の彼氏も泣いたらしい。小学生と付き合っているロリコンになっちゃったよ。だそうだ。
……いや、俺と付き合っているあたりもとからロリコンだろうに。


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最終更新:2008年12月04日 22:18
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