『過去話』2008 > 11 > 20(木)

とある路地裏、2人の雄が満身創痍になりながらも己のプライドを賭けて拳で雌雄を決し合う。
周りにはその屍が無残にも転がっている・・

「中野ォォォ―――!!!!」

「相良ァァァァ―――!!!!」

ガクラン姿で殴りあうこの2人の名は華奢な体つきの方を中野 翔、そしてこの筋骨隆々の男の名は相良 聖と
いった。この2人が出会ったのは当人達からすればほんの些細な事で似たもの同志こうやって拳をぶつけている。
しかしながらその決着は未だについておらず、そして今日も・・

「コラーッ!!! 貴様ら何をしとるか!!!!」

「こんな時に・・」

「チッ、またポリかよ」

いつもいつも寸での所で邪魔が入りお陰でこの2人の決着は中々つかない、そして今回も傷つきながらいつもの
セリフを残してその場から脱兎のごとく逃げ出す。

「今度までにてめぇとは絶対に決着つけてやるからな!!!」

「うるせぇ!! 俺だっててめぇを完膚なきまでにブッ倒してやる!!!!」

互いにいつかの再戦を誓い合いながら暗闇へと消えて行く・・

「チッ、なんであいつと喧嘩する時にいつもいつも邪魔が入ってくるんだ」

考えられる限りの経験をフルに活用して裏道という裏道のお陰で追って達を巻いた聖、いつものように自宅に帰り
徹底的にやられたところを自分で治療する。しかしながら素人療法には代わりないので力加減など気にしておらず
体が悲鳴を上げる、しかしながら聖にとっては耐えることが強さの秘訣なのでもう日常のうち。

「イテテテッ・・俺とした事が結構やられてしまったな」

筋骨隆々の聖は力は無論の事、丈夫さもかなりのもので普通の正拳ですらも平気なのだが中野の拳の威力は
その聖の肉体を容赦なく痛めつける。手当てして普通に身体は動かせるものの少しばかりの痛みが身体に刻み
込まれ神経に遅れが生じてしまう。それを身体で感じながら聖は先ほどの喧嘩について自分なりに考える。

「あいつの動きは俺とは正反対だ・・ならば磨くしかあるまい」

攻撃こそ最大の防御・・聖は更なる力を磨くためイメージトレーニングをしながら就寝につくのであった。
考えているのは勿論、宿敵との死等の末・・


一方の翔の方も傷つきながらもそっと自宅に帰って先ほどの聖と同じように適当に治療しながら先ほどの喧嘩を
思い浮かべる。翔の治療法は聖とは対照的に身体を労る事を重視しているので痛みも余りない、だけども聖の
拳は常人と比べてもかなり重く掠っただけでもかなりの激痛が走るので痛みを和らげるにはかなり時間が
掛かるが・・翔は自室でこれまでの経過を必死に思い出す。

「全く、なんで奴とやりあう時になったら邪魔物が出てくるんだよ」

今までにも翔と聖が喧嘩をした時も先ほどのような警察官に出くわしたり、はたまた2人の喧嘩を聞きつけた
他校のならず者達が一斉に掛けつけ2人に怒涛のごとく襲い掛かられたこともあった。そのような理由が
合ったので2人とも喧嘩の決着の際には必死になってしまうのだ・・

「この決着・・いつか絶対につけてやる!!!」

右手の拳を固く握って決意を新たにするが・・いきなり自室の扉がぶち破られ思わぬ人物が現れる。

「お兄ちゃん、うるさい!!!」

「つ、椿!!」

「それにまたこんな遅くまで・・一体何をしてるの!!」

彼女・・というより少しばかりの幼さが残るこの少女は翔の妹である椿嬢。傍目から見ると何ら変哲もない
普通の少女ではあるが兄が翔の時点で壮絶な苦労を歩む事になるが語ると長いので割合させて貰う、椿は
毎度の兄の振る舞いを考えても頭が痛くなり時間の無駄なので溜息混じりの言葉しか出ない。

「まぁ、今更何を言ったって仕方がないけど・・この前みたいな事になったら今までの事をパパやママにぶちまけるからね」

「わ、わかってるって!! あの時はお前にはかなり迷惑を掛けたし反省はしている!!!」

過去に翔は警察の厄介になった事があり、簡単な尋問が終わって元の場所へと返される事となったのだが・・
両親への発覚を恐れた翔は身元引受人の欄になんと椿の名前を書くと言う暴挙に出たのだ。警察の方も
まさか、たかだか中学生の身元引受人に小学生の妹が出てくるとは思いもよらなかったため唖然としながら
その場を見送ってしまったと言う経歴がある。その後は当然のごとく椿からの会話は0で口は愚か見向きも
されてもらえず、流石の翔も自分の行いには反省したのか暫くは椿に尽しながら過ごしていた模様、そんな努力が
実ったのかようやく口を利いて貰えるレベルまで信頼を取り戻したようだ。

「まぁ、一回は立ち上がれないほどボロボロになった方がいいんじゃない」

「フッ、俺には無縁の言葉だな」

「だめだこりゃ。じゃあ明日も早いから寝るね」

「ああ、お休み」

少しばかりの苦笑を残しながら椿は部屋から立ち去る、それに合わせて翔も考えるのをやめて素直に床に就くのであった。


翌日の朝・・1日の始まりと言うものではあるが2人の日常は対象的なものでその落差には驚くばかりだろう。
まずは聖サイド、いつものように5時に早起きをするとまだ痛む身体を酷使し続けながら部屋に備え付けてある
サンドバックで拳を鍛えると腹筋や背筋に加えてスクワットとこれらを300回、3セットをこなしてから
ようやく朝食に入る。相良家のリビングには少しばかり気が強く全てを制している母親とサラリーマン特有の
哀愁漂う父親の姿があった、トレーニングが終わった聖も椅子に座ってテーブルに置いてあるおかずに
箸をつけるが・・母親の小言がまた始まる。

「聖、あんたまたなんかやらかしたでしょ!!! 担任の先生から電話が掛かってきたわよ!!!!」

「・・思い当たる節がありすぎてわからねぇな」

「全くこの子は変に弱いものイジメや喧嘩ばかりして・・」

「誰が弱っちぃ奴なんざいじめるか!!! あんなの虐める価値すらねぇよ!!!!」

いつものように母親の小言に反論しながら聖は茶碗片手に母親に自分の持論を語る、聖にとっては弱者など
どうでもいい存在なだけであって興味すらない。聖は常に喧嘩をする時は自分よりも強いものに歯向かうことが
誇りであって格下相手に騒動を起こすのは小物と判断していたため名前が広がっていたのだ。

「俺をそこらへんに蛆虫のごとくいる下衆と一緒にするんじゃねぇ!!!!」

「ああ言ったらこう言う・・誰に似たのかしら」

子供の性格に嘆く母親に対して父親の方は何か思い当たる節があるのかぽろっとそれが言葉に出てしまう。

「そ、それは君の性格だと・・」

「あなたは黙ってらっしゃい!!!」

「う、ううっ・・」

(情けねぇ親父だな)

少しばかりの吐息をつきながら聖はそのままご飯を平らげると適当に準備を済ませると玄関を出て
一応本業である学校へと向かって行く、しかしながら聖にとっての戦いは玄関を出た時に始まるのだ・・聖は
いつものコースで学校に向かっていると1人の老人と対峙する。

「チッ、またてめぇかよ・・小学校の頃からしつけぇな」

「フフフ、ここであったが百年目。今日こそは白黒ハッキリさせて貰うぞ!!」

この老人は聖の近所にある合気道を主とした道場の主、年を食っていながら武道で生きた実績もあってか
腕前もかなり立つようで聖自身も吹っ飛ばされたことが何度かある。こんな光景も聖の日常になっているので
いつものように身構える、老人の方も聖に応えるかのようにゆっくりと闘気を放つ。

「まぁ、てめぇが勝ったら俺を道場に入れるって約束だからな。あり得ない話だが・・」

「その若さでその力・・貴様のような逸材を他の奴らに渡してなるものか!!」

「俺は格闘技なんざ興味はねぇ!!! 男ならこの拳さえあればそれで充分だ!!!!」

言葉と同時に両者の体が動く。――しかし勝負は一瞬のうちに決まる、吹き飛ばされる老人の肉体。決して老人は
油断していたわけではない、聖の放った右の拳に合わせて合気道特有である防御の体制に入って見事に
受け止めていたのだが・・その衝撃は老人の体の許容量を超えてしまい吹き飛んでしまったのだ。

「うぉッ!! ・・また更に力をつけたおったな」

「これで59998勝目。残念だったなジジィ」

「今度こそお前を入門させて貰うぞ!!!」

「好きに言ってろ・・じゃあな」

右の拳を少し摩りながら聖はゆっくりと学校へ向かうのだった。


そして翔サイド、彼もまた聖同様にトレーニングをして家族と一緒に朝食を取る。しかしその空気はピリピリとした
相良家とは違って温和で穏やかなものだ、翔はトーストを食べながらのんびりとくつろぐ。

「ところで翔・・学校は楽しいか?」

「ああ、適当にこなしながら息を抜いてる」

(本当は暴れてるくせに・・)

椿は内心溜息をつきながらトーストを食べる、この家で翔の本性を知っているのは椿だけでその他大勢は翔の
事は極普通の学生で振舞っているのだ。逆に考えれば椿は翔の全てを握っているので本当の立場的には上なの
だが椿はそれを行使しない、行使してしまえば何かいけない気がするから。

「翔、学校も良いけどそろそろ彼女でも作ったら。早くしないと女体化してしまうわよ」

「あのなぁ、俺はまだ彼女なんて作らねぇし童貞だって当に捨ててる」

突然の母親の問いかけに翔はやれやれと思いつつ素直に事実を述べる、この世界には15、16歳で女体化して
しまうというとても奇妙で変哲な病気・・女体化シンドノームが存在する。この病気は翔が生まれる前に発見されて
おりその年数はかなり長く、治療法は未だに確立されていない。年頃を迎えた翔もそろそろ女体化が近い年齢で
あるので未だに童貞ならばヒヤヒヤするものなのだが、どうやら童貞はきちんと捨てているようだ。

これには椿も少しばかり驚きを隠せないようで素直に言葉が出てしまう。

「へぇ~、お兄ちゃんってもう童貞じゃないんだ」

「当たり前だろ、誰が好き好んで女になるか!! それに俺が女になったら今より大変になりそうだな。椿もそう思うだろ?」

「えっ、それは・・」

突然の言葉に椿は一瞬体ごと固まってしまう、もし翔が女体化してしまえば性格の矯正は絶望的で今までの
振る舞いは変わらないだろう。それに女体化という事は今の自分と“同姓”になってしまうので苦労も今までと
比べて遥かに凄いものだと容易に想像できる。まだ“異性”のほうがリスクも少ないだろうしタッチできる度合いも
あまりないのでリスクも少ない、兄としての姿勢も少しばかり疑問に感じるのにこれが姉となると心労はかなりの
ものとなるのは間違いないだろう。

「・・やっぱり今までの方がいいわ」

「だろ? だから俺は童貞を捨てたんだよ。てことで行くぞ椿」

「あっ、ちょっと待ってよ!!」

言葉と同時に翔はトーストを食べ終え、食後のコーヒーを啜りながら優雅な朝食を済ませるとカバンを持って
玄関を出る、椿もそれを合わせて同じようにランドセルを背負って翔の後を追う、母親は2人の行動に追いつき
ながらいつものように出送る。

「気をつけてね。・・あらら、遅かったか、お父さんも早く行ってくださいね」

「うむ」

中野家の朝は温和である。

翔の学校は小中一貫校で妹である椿も当然ながら自然の慣わしのように通っている、先ほどの温和で
和やかな空気とは一変して二人の間では刺々しさを含んだギスギスした空気が流れていた。

「ところでお兄ちゃん」

「何だ?」

「・・一応聞いて置くんだけど暴走族とかとは付き合いないわよね」

自然の成り行きで翔の担当を任されている椿とすれば交友関係は常日頃把握して置かないとまずいことになる。
ただえさえ翔は人当たりの良い性格の持ち主なので最新の交友関係を常に把握して置かないと自分の身が
危なくなってくる危険性があるのだ。

「あ、ああ・・大丈夫だ。出来るだけそういった奴らとは関わりたいとは思わないし関わろうとも思わん」

「ま、関わってないだけ安心したわ。これ以上なんかあったら本当に家族の縁を切ろうと思ってたし」

「おいおい、サラッと怖い事言わないでくれよ」

実の妹にここまで言われるとヒヤッとしてしまうものがあるが翔自身も今までの行動を振り変えると該当しまくり
なので否定する事が出来ない。

「だったらちょっとは言われないようにしたら?」

「へいへい・・」

朝から胃の痛くなるような思いをする翔であったがこれは自業自得。

登校して教室に入る、傍から見れば何気ない行動ではあるのだが人間生活を営む上では何気に大事な事で
精神的に尤も気が緩む時間帯である。そんな微笑ましい朝の光景ではあるのだがこの空気はとある人物の
来校によって物の数秒で崩れ去ってしまう。あらかた生徒が全員揃った教室の中、それぞれが思うがままに
時間を潰しながら過ごしている中で教室のドアが勢いよく開く。

「・・」

「お前ら、相良さんのお通りだぞ!!!」

「「「「「「「うっ・・・」」」」」」」

先ほどの温和な空気が一転、聖の登場により教室内は重苦しく周りは言葉も出ず息すら呑む事しか
出来ない、それに自称腰巾着が居る事によって自然と周りの怒りが増幅されて声に出てしまう。

「さぁ、相良さん。こっちにどうぞです」

(何だよあいつ・・)

(腰巾着って男として最悪だな)

(ホントホント)

「おい、うるせぇぞお前ら!!! 相良さん、どうぞこちらに・・ウベッ!!!」

傍目も気にせず怒鳴り散らす小心者であったが、その顔面に聖の拳がクリーンヒットする。

「うるせぇ、とっとと俺から消えろ!」

「ヒ、ヒィィィ!!!」

小心者は小心者らしくわが身を考えてすぐさまその場から消える、周りも五月蝿い腰巾着が居なくなって怒りが
静まるものではあるのだが未だに聖の存在で空気が思い。

(でも相良ってあれだよな・・)

(ああ、全くああいったのが居ると堪ったもんじゃねぇよ)

いくら腰巾着が居ないとはいっても聖に対する愚評は変わらないもので聖としては居心地が悪いはずだと
思われるのだが当の本人はそんな事など知らん顔で余り気にしていない模様、そもそも聖にとって孤独とは
当たり前なので一々考えても仕方がない。そんな聖ではあるが考えていることは唯一つ・・来るべき翔との
決戦についてだ。

(あの野郎がこうくるって考えたら・・こっちはこれで対抗するしかねぇな)

決着の日はまだ遠い・・


さて一方の翔はというといつものように教室に入り、優雅に読書を楽しむ。その凛々しい姿に自然と女子生徒の
視線が一心に翔に集まる、男子諸君ならそんな翔の振る舞いが気に入らないはずなのではあるが翔は普通に
そこらに居る男子生徒の集団に歩み寄る。

「よぉ、調子はどうだ?」

「中野か、丁度いいトコに来てくれた。数Aのここの問題わからねぇんだよ」

「俺も俺も。あれはチートってレベルじゃねぇんだよな」

丁度この集団は昨日の宿題について悩んでいるようだ、2人揃えて突きつけられた難題について頭を捻る男子に
対して救いの手を差し伸べる。

「ああ、これか。俺も苦労したけどこいつはこの式をここをこうやって使っていけば解けるんだ」

「なるほど」

「解り易い・・」

「他にもやり方はあるんだがこっちの方が解り易いからお勧めだな」

翔の解説に全員がまじまじと注目する、実の所このクラスでの翔の信頼は男女共に厚いもので周りには
目論見通りに真面目で優秀な生徒を演じているので生徒は勿論の事、教師からの信頼もそれなりにある。

「でもちょっとこれは難しすぎる。多分出来ている奴の方が少ないだろうな」

「へー、でも中野が言うんだからそうに違いないかな」

「確かに」

「そうだ、あと他の教科も見てやるよ」

「「助かるぜ!!」」

こうして翔は孤独一辺倒の聖とは対照的に周りとの信頼を更に深めていく・・


表の顔と裏の顔・・それらをうまく使い分けてる翔、華やかな教室とは一変して薄暗い場所・・こんなところを
好んで出入りする人物などすぐに限られる、いつも見せる社交的で朗らかな表情とは違って今の翔の表情は
少し凶暴さを含みその笑みは危険な匂いすら伺えるがそんな翔を3人の野郎がいつものように出迎える。

「よぅ、お前ら! 無事に生きてるか~」

「来て早々、人を勝手に殺すな」

「二面性優等生の翔君登場だ」

「生きてる生きてる。それにしても中野君はあの相良相手によく立ち向かえるね」

「まぁ、こっちもあちこちやられたけどな」

軽く肩を回しながら翔はいつもの調子の良さを仲間にアピールする。
彼等と翔の付き合いはかなり長く、幼稚園の頃からで最初はお互いにいがみ合ったり何度も喧嘩し合ったり
してきたのだが、いつの間にか仲良くなっていると言うものだ。喧嘩の実力も翔には及ばないものの個人個人は
普通の不良程度なら普通に倒せるし、なによりも最大の武器はその団結力なのでチームワークも目を瞑って
でも互いを補強し合えるほどだ。

彼ら3人に共通しているものといえば“絶対に中野 翔が大将”っといった考えで翔自身もそれを深く受け
止めており、自分の事のように彼らの身を第一に考えているのだ。

「それよりもさすが狂犬だな、一人で俺達3人を戦闘不能にして中野と互角にやりあえるんだから
そこら辺は認めざる得ないな」

「だよなぁ~。自分を卑下するつもりはないけどあの強さは化け物クラスだわ」

「俺達の団結力をたった1人で力任せにぶち破る奴がいたとは正直驚きだな。翔君が互角で嬉しいやら哀しいやら~」

3人ともそれぞれの経験を元にして聖について分析しあっている。彼らとて伊達に喧嘩の数は踏んではいないが
聖の存在そのものが彼らの経験論から則った今までの相手とは次元が違うのだので、彼らとて聖の実力は
嫌でも認めざる得ないのだ。

「だけどな、あいつとやりあってるとなんかこう・・不思議な感じがするんだよな」

「「「はっ?」」」

「ほら、漫画でもよくあるだろ? あんな感じだ」

翔の言葉に呆然としてしまう3人、余り聖については話題に出さない方が吉と見る、そんな空気を読んでいるのか
翔が現在の懸案事項を語る。

「そういえば最近、土句高校が調子に乗ってるな」

「あそこの連中はつい先日に何でも3年の連中が2年や1年に鞍替えされたらしいぜ」

「後輩を抑えきれんようじゃ高が知れてるな」

「そういや俺なんてこの間は複数で喧嘩売られたぜ。まぁ、返り討ちにはして置いたが」

「何だと!! ちょっと出向く必要があるな。お前達、今から行くか!!!」

「「「了解!!」」」

喧嘩と言えば団結力が早いこの4人・・ものの見事に土句高へと向かうのであった。

「ヘヘヘッ、お前達を倒せば俺達が最強だ!!! 噂に名高い殺戮の天使にその守護団!!!!」

「お前達を倒したら、次は狂犬野郎をぶっ飛ばしてやる予定だから心配するな!!!!!!」

さてさて、土句校へと向かった4人ではあったのだが、名前の知れた彼らが受ける歓迎は当然手荒いもので
即座に周りに囲まれる。しかしこんな状況など彼らにして見れば日常に過ぎないので周囲をよく観察しながらも
普段と何ら変わりない軽さを発揮する。

「だとよ。どうする皆の衆、俺はこのままパパッと片付けたいんだがこっちとしては
喧嘩も売られた分ちょっといつもより多めにしたいんだが」

「でもやりすぎると目立つし・・いつもどおりで良いんじゃね?」

「やっぱりここは我らが大将 翔君の意見も伺うしかないな」

「「ですよね~」」

喧嘩だと言うのにこの軽さ、対峙する土句高校の連中は異様な不気味さを感じてしまう。だからそれが声に出てしまう・・

「てめぇ等には緊張感ってものはないのかよ!!!」

「若い奴はすぐに頭に血が上ってダメだね。んで、大将の意見は?」

「そうだな・・あんな奴らごときにあいつの名前を出されるのは少し癇に障るな、いつもより少し多めにやっちゃおうぜ!!」

「「「オッケー!!!」」」

彼らの軽い態度が相手に更なる怒りを助長させる、そして更に彼らは増援を呼びその数は同盟を結んだ
他校の生徒も含めてのべ40人近く膨れ上がる。しかし彼らの表情はいつもの感じで4人揃って仲良く人数を
数えつついつもの軽いノリでのんびりと構える、既に相手の集団の怒りはかなりのもので中には憤慨の
表情を浮かべているものがちらほらと見受けられる。

「ふざけやがって・・お前ら、こいつらを畳んじまうぞ!!!!」

「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!」」」」」」

野郎たちの勇ましい掛け声がゴング、完全に連中は翔達を格下とみなしすぐさま拳が振り出されるが、しかしながら
彼らが現実をすぐに見る事となる・・

「あがががっ・・」

「ちょ・・調子に乗ってるわりには―― 噂どおり強ェ―――ッ・・・」

ものの数時間で土句高の連中は全て屍に成り果てる。倒れている連中の姿はそれぞれ違ってくるもので
翔を除く3人はいつもより多めにボコしてはいるものの、翔が手を掛けた連中はその重たい拳をフルに
活用されて体の隅々まで痛めつけられており動くには時間が掛かりそうだ。
それに翔は相手を殴る時は自然と常に薄らと笑みを浮かべながら殴り、相手を徹底的に叩きのめすので
この姿から“殺戮の天使”の仇名をつけられるまでになっている。

ちなみに余談ではあるが、聖の場合は殴られた相手が血だらけの場合が多いので“血に飢えた狂犬”と
呼ばれる所以となっている。そんなこんなで喧嘩は終了となったのだが、見せしめとして残された最後の
一人は幸か不幸なのかよく解らないが開いた口が塞がらない。一方の例の4人というと少し傷ついては
いるものの普段動くには支障がないぐらいピンピンしており、仲良く手を合わせながら先ほどと変わらない軽口を叩き合う。

「よっしゃ、これで最後の1人だな。やっぱ天使様の守護をしている俺達は幸せもんだ」

「毎度の事ながら翔君との団結力が物を言うね」

「これで喧嘩売られた分、スッキリさせて貰ったぜ! やっぱり中野が大将してくれると安心だ」

「皆の衆、落ち着きたまえ。さて・・これで俺達に喧嘩を売ると言うことが良く解っただろ」

「あっ、あああ・・」

もはや最後の1人は震えて喋ることすらままならぬ状態だ。
しかしこれで翔達の実力は嫌でも見せつけられ、しかも身体ごと味合わされたので否定しようがない。

更に翔はドスの聞いた声で相手に更に脅しをかける・・

「まぁ、相手があいつならお前達は更に血を見る事になっただろうな。・・これで二度と俺達に手を出すんじゃねぇぞ!!!!!」

「は、はいっっっっ!!!!!!!」

残された相手は仲間そっちのけでこの場からすぐに消え去る、彼らに逆らってはいけないと言う事を
本能で感じたようだ。彼らもこの場から去り、全てが終わって仲良く歩いて帰宅する時・・守護団の3人のうちの
一人が翔に先ほどの行動に疑問を感じたのかその理由を問うていた。

「中野君、最後の奴は逃がしちゃっていいの?」

「あのなぁ、全ての奴ら〆ちまうと意味がねぇだろ。
最後の1人ぐらい生き証人として残しておくのも必要なんだよ、そうしたら俺達の恐ろしさが自然と伝わるわけだからな」

「でもさ、中野君・・そうしたら次第にまとまってちょっとばかり厄介じゃない?」

「そん時は全員ブッ倒すまでだ!!!」

翔の意気込みと共に時間は穏やかに過ぎてゆく・・


翔達が喧嘩を繰り広げていた頃、聖も別の学校相手に1人単独で喧嘩を繰り広げていた。
倒れている連中は先ほどの翔とは対照的に全て血だらけで立ち上がる余裕すらない、彼らはそこそこに
名を上げている弗高校の生徒達で相手があの相良 聖であれば当然やる気も上がるものだが・・ものの見事に
やられてしまう。

「フンッ、弗高の奴らは強ェ奴が居るって聞いてたが・・間違いだったようだな」

「アガガガッ・・」

「まぁ、どうだろうがそれも今日までだろうけどな」

更なる聖の一突きによって最後の1人はものの見事に沈んでしまう。全てが終わった後、血だらけの拳を
まじまじと見つめながら少しばかりの虚しさを感じ取る。

「チッ、こんな奴らばかりを相手にしても満足できねぇ。次は狭威高の奴らをブッ倒すか!!」

元々、聖は後ろ盾すらない完全孤独な一匹狼なので弱みを握られることすらない。だけども孤独だからこそ
満たされぬ“モノ”が確かに存在する。それが聖を喧嘩に駆り立て体中が言葉では表しがたい興奮とスリルで
体が奮いあがる状態だ。
彼にして見れば喧嘩など2の次で一番の目的は自分の欲求を満たすことだが、しかしながらそれが
満たされた事は一度もなく鬱憤とした毎日を送っている。

そして満たされぬまま聖はただ独り、狭威高へと向かっていく。全てを満たすために・・


女体化というものは男性にとっての衝撃はすさまじいものがあり、思春期という微妙なお年頃になると
言うのだから複雑さが容易に伺える。女体化シンドノームと名付けられ発覚されてかなりの年数が経って
いるのだが未だにその定義や具体的な症状などは解明はされていない。
そんな世間の事情などお構いなしに既に童貞を捨てた翔ではあったのだが、意外な悩みに頭を抱えており
現在はその元凶である人物と携帯で喋るがその表情は鬱々しいものだ。

「またお前かよ・・あの件は断っただろ」

“あー、それ先輩に言ったら却下された。
ほら、やっぱり名の知れてるあんたがうちらのチームに入ってくれると凄く助かるんだけど”

「断らせて貰う、てめぇらみたいな奴らと一緒にされたくはない。まぁ女体化を回避できた事は感謝はしてるがな」

“そっちが何言おうが勝手だけど近いうちに先輩らがそっちに遊びに来るかもね。そんじゃ、そういうことで”

強引に電話を切られ、少しばかり頭を抱える翔。しかし今更後悔したとしても状況が変わるわけがないので
何とかして対処法を考えなければならないだろう、幸いとして仲間内の間では話していることなので大きな火種に
なる事はなさそうだ、だけども自分の私情のために仲間を巻き添えにする真似はしたくはない。

「・・ダメ元で相談するかな」

少しばかり自分が汚いと思いつつもいつものように携帯で仲間を呼び出す翔・・仲間は翔の連絡を受けてものの
数分で集合する、全員が集合したのを確認すると翔は重たい口を開く。

「実はな、俺が付き合ってた奴が居ただろ」

「ああ、例の・・」

「中野君も危険な女と付き合えるなって感心してたけどね・・」

「それってチームの一員の奴か、なんか言われたのか?」

「俺がチームに入らなかったら学校に乗り込むってよ。・・本当にすまねぇ!!!!」

申し訳なさ一杯で翔は自分のしでかした事に頭を下げるしかない、突然の翔の対応に仲間達は少しばかり
戸惑いの表情を見せてたのだが、いつものように軽口を叩き合う。

「頭を上げてくれよ。こんな事俺達には日常じゃないか」

「そうそう、チーム相手なら相良とやりあうより100倍はマシだぜ」

「ま、そういうわけだから気楽にしようぜ」

「お前ら・・恩に着るぜ」

互いの友情を確かめあった4人、ちなみに傍から一部始終を見ていた椿嬢は“バカじゃないの・・”と簡潔に
呟くとそのまま自分の部屋へと戻るのであった。


再友情を確かめた4人はその後での対抗策に着いてかなりの話し合いが行われたのだが、様々が案が
思い浮かびすぎて決定打と呼ばれるものが隠れてしまう、とりあえずは総力戦で片をつける事は一致はした
もののその過程については中々まとまらない状況だ。

「う~ん・・中々まとまらねぇな」

「やっぱり総力戦となると慎重に事を進めないと・・」

「でも、やっぱりここは一致団結でパパッと片付けるのもありじゃない?」

「いやいや、相手が相手だから情報が掴みづらいもんだ。ここはまず情報を集めるのが吉だと」

このようにそれぞれの意見がバラバラで思うように策が練られないのだ、彼らの喧嘩のやり方は多種多様で
慎重にかつ相手の情報を出来るだけ集めて計画よく仕留める方法もあればその裏を掻いて純粋に力押しの
戦法を取るなど・・孤立無援で常に表立って相手をやりこむ聖とは対象的なのだ。

「でも事前の情報がないと動けるに動けないもんだ」

「こっちの力量を分散させたら総力戦にはならないし・・」

「まぁ、俺達が意見出し合うよりも我らが天使様の意見が重要じゃね?」

「「だね」」

「おいおい・・」

突然に指名された翔ではあったが事が事なので中々簡単には言えず、暫くじっと考えていたのだがとある事を思いつく。

「そうだ、逆に考えるんだよ。相手の出方を考えるんじゃなくこっちから直接奴らに伺うんだ、総力戦だから
単騎決戦に持ち込むしかないしな。相手に与える動揺も大きいし、慎重にするのも重要だけどもそこまで余裕がない。

それにこっちが少ないのを最大限に利用できるしな」

「「「おおおおっ!!!!!」」」

まさに背水の陣ではあるのだが、活気的な翔の案に周りは多いに活気付きすぐに賛同の嵐が鳴り止まない。
満場一致で翔の案は承認されて4人は日時を事細かに話すので合った。


さて、途中退場して勉強をしていた椿嬢であったが宿題に行き詰まり、少しばかりの気分転換を考えていた。

「やっぱり勉強は難しいな、あのお兄ちゃんはああ見えても勉強だけは一人前に出来るんだから
世の中は不思議なものよね・・」

だけども嘆いても何も変わらないのは当然なので、椿は天井を見上げながらも部屋にいたって持っている
漫画は全て読み飽きてしまったし面白くとも何ともないので思い浮かぶのはこれしかない。

「・・コンビニ行ってこよ」

軽く準備を整えて椿は静かに自宅から外出する、既に外は星空が目立つこの時刻・・こんな時の女性の一人歩きは
危険なものではあるのだがあの兄に慣れている椿は悠々自適にコンビニ向かって歩く。

「たまには夜の散歩ってのもいいものね・・うわっ!」

思わぬところでぶつかってしまった椿、明らかにしかも物ではなく人の感触であったので椿にはちょっとした
恐怖心が生まれていた。椿が不意にぶつかってしまった相手・・それはなんと兄の宿敵である相良 聖その人で
あったのだが、そのような事情を全く知らない椿は現在の聖の印象は得体の知れない大男だ。
椿は恐る恐る目を凝らして聖を見上げるが、数々の不良を怖れさせてきた聖の容姿はすさまじいもので
しかも夜という環境も合ってかその恐怖心が助長されてしまう。

「あ、あの・・す、すみません――!!! あまり周りをよく見てなかったので・・」

「おい・・」

無言のまま聖は右手を差し出して倒れてしまった椿を起き上がらせようとするのだが、椿にとったらそれが
却って恐怖を煽り立てる。

「あ、あの・・私は大丈夫ですのでこれで失礼します――ッ!!!!!」

「・・・」

まるで脱兎の如く、兄譲りの身体能力を振るに駆使してその場から立ち去り家へと一直線に向かう、一方取り
残された聖は差し出した右手を差し出したまま固まってしまう。腕っ節は強い聖ではあるが心の方は女性の
如くかなり繊細で傷つき易いのだ・・

(俺って周りからそんな風に見られてたのか・・)

このことが原因で聖は女性に対して少し億劫になってしまい、この事が後の人生を大きく変える事になるとはまだ先の話・・


正面突破、それは愚直ながらも尤も確実で突き進めて行けれると言ったメリットも存在はするが
その反面としてのデメリットはそれをも覆すほど大きい。場所は破棄されて今は不良たちの溜まり場と
なっているとある工場跡地・・経営していた会社が大きかったのかその規模もかなり広く、その大きさは
野球ドームが1つ立つぐらいだ。
翔達4人は返答を突きつけるため、工場跡地には単車やヤンキー使用の改造車が多数確認されており
その空気も非常に重々しいものだ。

「随分と歓迎されたものだな」

「それはお気に召したようで・・返答は?」

「態々、俺達がここに来た。それでわかるだろ」

そのまま翔達は臨戦体勢になり“返答”を彼らに突きつける、翔の返答が重々しい空気を更に刺激して
更に場を凄まじいものへと変化を遂げる。沈黙が暫し続く中で彼らの代表と思われる人物が歩み寄って返答を返す。

「まさかお前ら俺達相手に喧嘩を吹っかけるとはいい根性してるな。
今回来てるのは俺達だけじゃない、あの金武愚が増援に駆けつけてるんだからな!!!」

「「「「な、なんだってー!!!!!」」」」

金武愚という言葉に反応してしまう4人、それは単騎戦を望む彼らからして見れば絶望的にもほどがある。

「お、おい・・金武愚ってあの金武愚なのか!」

「あの伝説のチーム・・」

「金武愚といえば走りもさることながら組織力もデカイし、喧嘩に関しても負け知らず・・」

「迂闊だった・・ こいつらがあの金武愚と繋がっているとは――ッ!!!」

4人は周りを良く見てみると金武愚と思われる特攻服を着た人物がチラホラとおり、どうやらハッタリでは
ないようだ。暴走族の勢力と言うのは一部地方のみに限られるのだが、こと金武愚に関してはその勢力が
全国規模なのでその存在は凄まじいのだ。

「ま、お前らの運命は決まってるけどな。・・お前らこいつら畳んじまうぞ!!!!!!」

「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」

総長の掛け声と共に連中は一斉に翔達へ向かい始め、翔達の信念を賭けた乱戦が始まる・・


工場内に響く野郎達の叫び声、いきなりの乱戦に最初は戸惑っていた翔達ではあるが彼らは単身でもそれなりに
強いため、今の所はそれなりに成果を上げていたのだが相手の数が多いので劣勢なのには変わりないので
いつ敗れてもおかしくはない。

「うらぁぁぁぁ!!!」

「グハッ!!」

「チッ、これじゃ切りがねぇ」

この劣勢はそう簡単には覆せるものではないので何とか迫り来る野郎たちを倒し続けるのだが次々と増えるので
焼け石に水なのが現状、せめて仲間達の様子を確認したいのは山々なのだがこう沢山の野郎たちを相手がいると
それが出来ない、仲間達も翔と同様に1人1人散らばり野郎達を倒し続けてはいたものの苦しい戦いを強いられる。

そんな中で総長は愛車のバイクに跨りタバコを吸いながらその様子を翔の元カノと一緒にじっくりと見つめていた。

「さすがに殺戮の天使という名前だけあって結構やるな」

「ふーん。でも私が中野と付き合ってくれて正直助かってるでしょ?」

「ああ、仲間に入ればそれでよし。倒せる事が出来ればこっちの名前もかなり上がる・・
こっちは手を汚さなくてもいいものだ」

タバコを吸いながら総長は機嫌良くしながら今後の予想図を既に頭の中に描き続けている、元カノのほうも
総長に寄り添いながら悪戯に微笑み今後の予定を聞く。

「中野が潰れたら次は“血に飢えた狂犬”の相良 聖ね。また中野みたいに女体化に付け込んでやるの?」

「あいつは最初から潰す。強いのはいいが1人で戦い続けている奴などここには不要だ・・一匹狼ほど
潰し易いものはないしな」

「怖い人ね」

「ハハハハッ!!!! 俺達を差し置いて粋がっている奴らは片っ端から処理しないとな。フフフ・・アッハハハハハハ!!!!!!!」

総長の高笑いが建物中に響き渡る中で肝心の翔達はというと何とか野郎達を倒し続けて何とか仲間達との
合流を果たしていたのだがその姿はとても痛々しい物で激戦の様子が伺える。

「ハァハァ・・お前ら大丈夫か?」

「・・何とかね、他は大した事はないんだけど金武愚の連中がかなり強くてね」

「こっちもだ。連中を見くびってたな・・」

「まさか金武愚との連中と関わってたなんて予想外だ・・」

背水の陣というのは爆発力も凄まじいが同時に脆さも伴う諸刃の剣・・今回はその脆さが出てしまったといえよう。
だけども4人は最後まで諦めずに戦い続ける。だけども数々の激戦によって体力を消耗した4人の動きは鈍って
しまうもので何とか迫り来る野郎達を倒し続けるが・・ついに自慢の統率力も相手の力押しにヒビが入る。

「うわっ!!」

「お、おい!!!」

「俺なんかに構うな!! 前を見ろぉぉぉぉぉ!!!!!」

「? ・・――ッ!!!!」

顔面に走る激痛・・翔が竦んでしまった隙にもう1人は翔の鳩尾めがけて手痛い一撃を加える、翔の危機に
仲間達はすぐにでも駆けつけたい思いにとらわれるが翔の危機を皮切りに野郎達の息は活気付きその快進撃を
許してしまう。

その翔はというと傷ついた身体で拳を翳して何とか殲滅をするものの体が言う事を聞かずじりじりと追い詰められ
まさに窮地に達していた。

「チッ・・こんな奴らごときに追い詰められるとは」

「流石のお前でもここまでのようだな。お前らには散々手こずらされて来たが・・それもこれで最後だ!!!!」

全てが潰えてしまったと肌で感じた翔は自分の最後を悟り、静かに目を瞑る・・それを見た野郎達は自分達の
勝利を確信して湧きあがる興奮と打ち震える身体を何とか抑えながら最後の一振りを翔に放とうとする。

「フフフ・・死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!! ウゴッ!!!」

「ど、どうし・・ウゲッ!!!」

突如として翔を追い詰めていた野郎達は謎の激痛を受けて倒されてしまう、目を開けてみれば突然の光景に
翔は驚く他がない。恐る恐る周りを見回していると・・なんとそこには信じられない人物がいた。

「お、お前は――ッ!!!」

「随分と情けねぇ面ァだな・・天使」

翔の窮地を救ったのは血に染まった木刀を片手に持った永遠の宿敵でもある相良 聖・・彼が何のために
ここに居るのかは謎ではあるがとりあえずは窮地を救われた翔ではあるが何故だか納得が行かないものだ。

「どうしてお前がここに・・」

「てめぇと言うものがだらしねぇな。この隙に決着でもつけてやるか」

「だろうな・・お前が俺に手を貸すなんてあり得ないしな」

冷静に構えを取る翔、状況が状況だがこんな時に宿敵と鉢合わせしてしまって感情が先走ってしまうが聖は
そんな翔を軽く見下しながら愛用している木刀を一振りさせて翔を制止させる。

「フンッ、今のお前を倒したってうれしかねぇ。それにてめぇを倒すのはこの俺だからな!!!」

「てめぇがどう言おうが俺には関係ねぇ。それに今回の事は俺の不手際で起きたことだ、俺は仲間の所へ行かせて貰うぜ!!」

そのまま翔は仲間の元へと向かうが聖は更に語気を強めて翔に驚くべき事を言い放つ。

「おい!! 今回だけは特別だ、俺も手を貸してやる。あんなちんけな奴らにてめぇを倒されるのだけは納得いかねぇしな!!!」

「何の真似だ。何が目的だ!!」

「・・てめぇがそんな事を言ってられる状況か?」

「クッ・・」

確かに聖の言うように今の状況を考えて嫌でも誰かの手助けが欲しいのは明らかで、しかも聖が加わると状況は
簡単にひっくり返る。しかし翔は素直に喜べられないのが心情ではあるが仲間達の事を考えるとそんな事を考えて
いる場合ではない、暫しの沈黙が流れる中で翔は決断を下す。

「てめぇに借りを作って助けられるのは癪だが・・この際しかたねぇ!!!」

「まさかてめぇと一緒にやり合うとはな・・暴れてやるか!!! てめぇとの決着はその後だ!!!!」

「上等!!! 行くぞ狂犬!!!!」

「そっちこそやられんなよ天使さんよ!!!!」

夢の共闘・・この2人が手を組むとは誰が予想しただろうか? その惨劇は後々に語られる事となる“血染めのカーニバル”と・・

先ほどまでは絵に書いたような快進撃を続けていた野郎達であったが突如とした聖の来襲によってその状況は
ひっくり返されてしまう。その聖はと言うと木刀片手に迫り来る野郎達を片っ端からなぎ倒していた・・

「うおりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ガハッ!!」

「ウゲッ!!」

「な、何でこいつがここに・・」

彼らからしてみれば聖の来訪は予想外にも甚だしいもので驚愕の表情を浮かべながら成す術もなく聖に倒される。
それに聖の出現に驚いているのは何も敵だけではない、仲間達も聖の出現により一瞬だけ動きが止まってしまった
ほどだ。

「あ、あれって・・相良じゃないか!!」

「しかも俺達と一緒に奴らに立ち向かってる・・中野君は何をしたって言うんだ!!」

「でも翔君も納得しているようだしここは素直に喜んでもいいかも・・」

「おい、そこのなまっちょろい天使のお守り軍団!!!!! 
今回は俺様が特別に手を貸してやるが・・これが終わったら中野諸共てめぇらも血祭りに上げるから覚悟しろ!!!!!」

「「「こいつ等にやられるより・・ここにいる相良にやられた方がまだマシだ!!!」」」

仲間達はお互いに鼓舞し合いながらこの難局を気合で乗り切る・・そんな中で先ほどまで味方の優勢を見ながら
悦に浸って高みの見物をしていた総長とその彼女は吸っていたタバコがぽとりと地に落ちて総長の方は驚きの
余り言葉を失い、彼女の方は激昂した表情で総長の方に詰め寄っていた。

「相良 聖だと・・」

「何でよ! 最初と全然違うじゃないの!! そもそも本来あの2人はいがみ合っているんでしょっ!!!!!」

「うるせぇ!!! 俺だってここで相良が来るなんて誰が予想できるか!!!!!」

総長は元カノを力づくで引き離すと自然とバイクのアクセルを吹かす。そんな状況の中で彼らは着々と敵を
なぎ倒し、遂には金武愚の連中も含む全ての敵を殲滅を果たす、普段から聖の愛用している木刀は
今回も倒してきた相手の血が滲み出てる。

「これであらかたは片付いたな。またこいつが血に染まったぜ」

「そのようだな」

聖と翔は互いにボロボロで体のあちらこちらからは痛々しい傷が目立ち、自力で立ってるのが不思議なぐらいだ。
2人は辺りを見回しながら今回の激闘を思い浮かべる、宿敵同士である彼らが一時的に手を組み共闘するなど
とは彼らとてまさに夢にも思わなかっただろう。翔の仲間達も手痛い一撃を何度も喰らったようで互いに肩を
支えあいながら何とか踏ん張り立ち続けて先ほどの2人と同様に築き上げた屍の山を見つめ続ける・・

「てめぇには借りを作っちまったな」

「何ならチャラにしてやってもいいんだぜ? まぁ、そうしたらてめぇは俺に貸しを作ったままになるけどな」

「何だと!!!」

「おおっ・・怖い怖い。まぁ、満身創痍のてめぇだと今の俺には到底敵わないだろうけどな」

「言わせておけば!!!」

そういって翔は聖に立ち向かう、聖もそんな翔に応戦していつものように激しい殴り合いが始まる。
仲間達は今すぐにでも翔の元へと向かいたかったのだが怪我が酷すぎてその場に立ち竦むことしか
出来ない、それにあの2人に手を出してはいけないような気がするのだった。いがみ合いとも呼べる翔と聖の
争いは暫く続くがそんな2人を狙う不穏な影・・その影とは先ほどの総長で自分の愛車のバイクに乗り込み
2人目掛けてバイクを一直線に走らせる。

「死ねェェェェェェ!!!!!」

「「――ッ!!」」

2人は何とかバイクをかわそうとするのだが本能のままに動いていた体が突然の危機に反応してしまったので
体が喧嘩を終えた直後の満身創痍の状態になってしまい反応が急激に鈍ってしまう、それにバイクのスピードは
かなり早く当たってしまえばひとたまりもないだろう。

2人にバイクに激突してしまうその刹那――・・翔は咄嗟に聖を突き飛ばすとそのまま向かってくるバイクを見据える。
そして猛スピードで駆け抜けるバイクは翔と衝突してしまって翔はそのまま倒れてしまう、ただ翔が倒れたのは
バイクの横・・吹っ飛ばされたのではなくバイクの横に逸れて倒れている。総長の運転ミスなのかはたまた翔の体が
命の危機に反応して身体を横に逸らしたのかは良く解らないところだ。

ただ、その衝撃は今の翔にとっては激痛が凄まじい物で吐血をしながら立ち上がれず這いつくばっていた・・

「「「中野・中野君・翔君!!!!!!!!!!!!」」」

「ガハッ!! これで・・・か、借りは返した・・ぜ」

「クソッ・・バカな事しやがって!!!」

聖は悔しさが滲み出て翔の方をじっと見続ける、現在の聖が感じるのは決闘の邪魔をされた純粋な“怒り”・・
そのまま聖はその根源となる物へと睨みを利かせながら視線を向ける。

「この野郎ォ・・俺達の邪魔をしやがって!!!」

「心配しなくてもてめぇも中野の後をすぐにでも追わせてやるし、ついでに周りの奴らも一緒に旅立たせてやる!!!!」

「一端の頭で能書き垂れている貴様に誰がやられるか!! てめぇのような奴は女体化した方がまだマシなほうだな!!!!」

「うるせぇ!!! だったらまずは貴様からだ!!! 相良 聖!!!!!」

そのまま総長はバイクのアクセルを更に吹かして聖に狙いを定める、聖も言葉は自信たっぷりだったものの
身体の方は既にボロボロのため殆ど気力でやっているのが現状だ。だけど聖にとってはそんなものは既に関係なく
ただ単に自分との決着がつけられなかったの怒りの方が遥かに大きい、聖はそのまま総長をじっと見据えながら
一言吐き捨てる。

「やってみろよ・・」

「じゃあ・・てめぇの望み通りに引きずり回して最終的には殺してやる!!!!!」

すでにガタが切れ掛かっている総長はついにバイクを走らせようとアクセルとクラッチに手を掛けてバイクを
走らせようとしたその瞬間・・突如として総長は何者かによってバイクから吹っ飛ばされてしまう。

「アガッ!! て、てめ・・」

「・・去ね」

「ウゲッ!!!」

総長は相手を突っかかろうとするのだが更に顔面に蹴りを入れられてしまい顔を抑えてしまう。
突如として現れたこの人物・・バイクに跨りながらも、そのいかつい顔立ちと聖にも匹敵するその雄雄しい
肉体に特注の特攻服は見るもの全てを威圧させる。その姿に聖もただただ呆然としてしまう・・

「す、すげぇ・・」

「フッ、面汚しめが」

周りを見ながら謎の人物は言葉を吐き捨てる、そんな光景が続く中で忘れ去られた翔の仲間の1人が何かを
思い出したようで恐る恐る解説を始める。

「あ、あの格好・・間違いないよ!! 金武愚の総長である冷夏だ・・」

「「なんだって!!!」」

金武愚の総長は初代統帥である冷夏の名を引き継ぐのが伝統となっている。しかしながら初代の冷夏については
謎が多く、調べるのは金武愚の中ではタブーとされているので知る物は誰も居ない・・噂では女性というの
もあるのだが未だに真相は藪の中である。総帥冷夏はタバコを吸いながら威圧感たっぷりの眼光で聖を
じっと見回し、聖もまた冷夏を見据え続ける。

暫し互いが沈黙し合う状況が続く中で聖が先に口火を切る。

「てめぇがあの金武愚の総長か・・」

「威勢はいい小僧だな。それにしてもこんな小僧に俺らのメンバーがやられたとは腑抜けな奴らだ。まぁそれよりも・・」

「アガガガッ・・」

「たかが女に俺らを動かしやがってこりゃ本格的に解らせないと他の奴らに示しが着かないな」

総長の亡骸を見つめながら冷夏はチラッと視線だけ移すと、そのまま聖の方に視線を戻す。

「俺達をどうするつもりだ・・襲われたとはいえ仮にも金武愚の連中に手を出したんだ、ただじゃすまないのはわかってる」

「そうだな、キッチリと落とし前と・・言いたいところだが俺達はてめぇ等みたいな雑魚には手を出さないんでね。さっさと帰りな」

「舐めやがって――ッ!! さては俺等が怖いんだろ」

威圧感たっぷりの視線を送る聖ではあったが冷夏はタバコを吸いながら全てを見抜くかのような視線で射抜くと
冷たい笑みを浮かべる。

「・・餓鬼が。この金武愚 第43代目冷夏の俺だと言う事が解ってるのか?」

「ハン! 餓鬼なのはお前等のほうだろ、集団でしか行動できないてめぇらの方が餓鬼だぜ!!!! この俺が――・・」

最後まで言おうとした聖ではあったが突如として鳩尾に衝撃が走る、どうやら冷夏に殴られたようだ。
突然の痛みに聖は言葉すら出ない・・

「グハッ!! き、汚いぞ・・」

「阿呆が、喧嘩の最中に話しこむ奴がどこに居る? そこら辺はまだまだ餓鬼だな。ポリが来ないうちに消えな、じゃあな」

「チ、畜生ぉ・・」

虚しくも聖はその場にガクッと倒れこんでしまう、冷夏はそのまま失神してる総長をバイクにくくりつけると
猛スピードで走り去る。やっと思いで立ち上がると冷夏の姿は既にない、聖の中に途方のない虚無感が広がる・・

「あの野郎・・」

「相手が悪過ぎるぞ、金武愚の総長に手を出すとは無謀にもほどがあるぞ」

「・・何だ起きてたのか」

聖の元へやってきたのは先ほどまで倒れていた翔、どうやら先ほどの光景を一部始終見ていたようで流石の翔も
金武愚相手には手を出しづらいようで聖が無事に健在している事に心なしか溜息が出てしまうものだ。

「翔君、大丈夫なの?」

「いくら丈夫の中野でも立てるのか・・」

「ところで中野君、どうして相良と居るんだ?」

「えっ? そ、それはその・・何だ。成り行きと言うか」

事の経緯を何とか説明しようとする翔ではあったがやはり言葉では伝えづらいもので四苦八苦しながらも仲間達に
事情を説明しようとする、そんな光景を見てた聖は段々アホらしくなって愛用していた木刀を抱えながらその場から
立ち去ろうとする。

「・・おい、てめぇ等。次ぎ会ったときはぶっ殺してやるからな!!!」

「待て!! ・・今回は助かった、感謝する」

「ハッ! 情けねぇ野郎だ。・・まぁ、夜道には精々気をつけることだな」

「てめぇはそんな事しねぇだろ」

「クッ・・バカな事言うんじゃね!!! じゃあな」

そのまま聖はこの場から立ち去るがその表情はどこか変だったと仲間達は感じていたようだ。余談ではあるが
これを機に聖が翔達に出会ったのはこれが最後である・・


あの惨劇から数ヶ月、何とか親にごまかしつつ椿嬢の協力の元で怪我を治療した翔は何とか自分の本性を
隠しつつ中学を卒業して仲間達との暫しの別れを経た後に降りかかった幾多のドラマを経てようやく正真正銘の
彼女というものを作る事が出来た。その彼女は容姿だけは文句ナシなものの、性格の方はかなり個性的なのに
加えて因縁も凄まじいものだが何とかそれらを認め合っているつもり。

今日は久々に仲間達との再会を祝いながらもその彼女を紹介するつもりである。仲間達はと言うと昔話に華を
咲かせているところであった。ちなみにそっち方面からは既に身を引いているようだ。

「しかし、中野に彼女が出来るとはな」

「まぁ、前の事があるから慎重にはなっているだろうけど」

「だけど翔君ってあの噂があるよね」

「・・ああ」

彼等も卒業してからは翔とは出会ってないものの翔の噂については人づてから聞いている“あの中野が相良と
付き合っている”っと・・それに加えて聖についてはある日ぱったりと噂が消えてしまったので噂の信憑性が妙に
増してしまうものだ。

「まぁ・・噂は噂だからな」

「そだな」

「相良も今の俺達と同じように大人しくしてるだろ」

期待と不安が入り混じる中で仲間達は待ち合わせ場所へと向かう、すでに翔は彼女と共に待ってくれており
仲間達は互いの再会を喜ぶ。

「よぉ、お前等。元気にしていたか」

「久しぶり!!」

「俺は中野とはちょっとしか高校に通ってなかったが・・あれから元気そうだな」

「隣に居るのは・・もしかして彼女?」

「まぁ・・そんな感じだな」

「「「(か、可愛い・・)おおおおおお!!!!!!」」」

興奮が冷め止まぬままで3人は仲良く翔の彼女の方に視線を向ける。彼女の方はパッと見でもスタイルは
抜群で顔もバランスよく整っており女性としての調和が完全に取れている感じがするもので3人は翔が
こんな凄い彼女を見つけたのかと思うと噂の存在は完全なデマと判断する、それにこれを機に仲良くなれば
あわよくば友達でも紹介して貰えるだろうと考えた3人は彼女に話しかけようとする。

「えっと、名前は?」

「俺達、翔君とは取っても深い仲なんだよ」

「おいおい、仮にも中野君の彼女だぜ? もう少しスマートに話しかけろよ」

やきもきをしながら3人は順に質問を浴びせるが肝心の彼女の方は押し黙ったままで言葉を発しようとはしない。
しかしながら質問を加える彼等に嫌気が差したのか・・空気が徐々に重くなりながらついに口火を切る。

「・・久しぶりだな、天使のお守り軍団!!!」

「「「えっ!! その口調はまさか・・」」」

「ああ!! ・・俺様こそ血に飢えた狂犬こと相良 聖だ!!!!!」

「まぁ・・そう言うことだから」

「それよりも昔みたいに畳んじまうかな・・」

拳の関節を鳴らしながら聖は昔と変わらぬ瞳孔で3人を睨み上げる。今の彼等にとって目に映るのは
美少女ではない、記憶や身体に染み込んだ男時代の相良 聖の光景がより鮮明にリアルタイムに甦ってくる。

絶体絶命に危機に彼等はどう立ち向かうのか知恵を出し合い考えるのであった・・

 

―fin―


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最終更新:2008年12月04日 23:24
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