1.閑古鳥が鳴いている。
かぁかぁ~と。
違うか・・・。それはカラスだな。
今日も雨降り、金も無い。
2.我が『如月探偵事務所』に来る客は殆どが迷い猫探し。
イメージとちょっと違うんだよな。
俺が旅行でかけても殺人事件とか起こらないしさ。
今日は片付けた仕事の依頼人が金を払いに来る日だ。
一ヶ月前の依頼に来た日を思い出す。
確か、今日みたいな雨の日だった。
3.「オジさんが、探偵?」
「そうだが・・・。なんだ、坊主、ココは遊びで来る場所じゃないぞ。」
「坊主って・・・。そんなこと分かってるよ。」
「・・・。分かってるならなんの用だ?」
「人。」
「人?それがどうした?」
「人、探してほしいんだ。今から一ヶ月以内に。」
4.雨の日に現れたのは中学生のガキが一人。
久々の客だと思ったのだが。
取り敢えず、料金の説明から初めて追い返すつもりだったが、なんとか払うの一点張りで。
最悪、両親に請求だな。
後で親の仕事でも調べることにして、依頼内容を聞いてみる。
タバコをつけると嫌そうな顔をして、初めて子供らしいと思った。
5.「で、捜す相手っていうのは、坊主の同級生の女の子か。転校したのはいつの話だ?」
「一ヶ月前。」
「ふ~ん。その時に住所とか、連絡先とか聞いてないのか?」
「聞いてない。そのあと先生に聞いたんだけど、個人情報だから教えられないって。」
「世知辛い世の中だね・・・、まったく。」
「セチガライ?」
「いや、なんでもない。つまり、坊主がどう頑張っても八方ふさがりってことだな。」
「うん。」
タバコをふーっと吐き出す。
しかし、まぁ、坊主の話を聞いた限りでは、みつけるのはそう難しい話しではなさそうだ。
どうせ、今は仕事もないし、暇つぶしにはもってこいだろう。
6.「じゃっ、最後に質問。」
「なに?」
「なんで、その娘を捜したいんだ?」
「それは・・・。」
「引越し先を本人から教えてもらってないってことはそんなに仲が良かった訳じゃないんだろう?」
「そんなことないよ!だって・・・。」
「だって?」
「来年、こっちに帰って来るんだ。高校入るときはこっちに戻ってくるって。だからその時は聞かなかった。」
「ん?そうなのか?だったら、今焦って捜す必要も無いだろうよ。」
「駄目。僕、その時は知らなかったんだよ。授業、真面目に聞いてなかったから・・・。」
「なんの話だ?」
「僕、来月、15歳の誕生日なんだ。だから、その前に決めておきたいんだ。」
「15の誕生日・・・。」
「その子に告白する。駄目なら、男辞めるつもり。」
7.あぁ、そうか。そんなこともあったか。
自分の人生があまりにもだらしなくて、
自分には早々と関係なくなってたから忘れてた。
女体化。中学も終わりに差し掛かれば、その言葉の重さはなかなかのものの様だ。
8.翌日からのんびり仕事を始める。まずは住んでいたマンションの管理人、管理会社。
続いて、近所を回り、近くの商店街へ。
どうにもこうにも、公的になればなるほど、個人情報ってうるさい。
世知辛いね。ホントに。
でもまぁ、借金で逃げてるわけでもない、闇にまぎれているわけでもない、事件に巻き込まれているわけでもない。
見つけたのは約束の一週間前。
9.「オジさん。あの時は色々ありがとう。」
「あぁ、気にするな。仕事だからな。」
「ううん。それでも一生懸命探してくれて嬉しかった。ありがとう。」
そう言って、背を向けて、ドアへ向かう。
その帰り際の小さな背中に声をかける。
10.「坊主、後悔はしないのか?もっと、他の選択肢もあっただろう?世の中、金があれば割と何でもできるしな。」
「・・・。分からない。でも、今はしないと思ってる。」
「そうか。」
「それと・・・。」
「うん?」
「もう、坊主じゃないよ。」
見送ってからタバコに火をつける。女性の前では極力吸わないのが俺のポリシーだ。
15、16でこれからの人生に大きく関わって、
かつ自分だけでは決められない選択肢を与えられるって結構、酷なもんだよな。
依頼人を見て思う。あの当時の自分をもっと大切にして、もっとちゃんと考えておけば良かった。
雨に消える煙と一緒で、もうどうしようもないけどな。
おしまい。
最終更新:2008年12月05日 00:55