安価『がんばれそしてありがとう』

「ねえ、聞いてるの?」
「え? ああ、うん。聞いてる、聞いてる」
 慌てて返事をするが、もちろん聞いてなどいなかった。
「でもホラ、メールで告白なんて味気ないって言うか……、どう思う?」
「ワタシに意見求めるのぉ?」
 急にそんな色恋話を持ち出されても。
「だってさ、佐々木さんてば去年までオトコノコだったじゃない? オトコの気持ちとか私なんかより分かるんじゃないのかなー、って」
「思い越しだよー」
 これは本当。確かに他の人よりオトコの気持ちは分かるだろうけれど、こと恋愛に関しては全く分からない。分からないからこそ、オンナになったわけだし。
「けど、確かにメールで言われるよりかは、直接言ってくれた方が嬉しい、かも?」
「やっぱりー」
 阿部さんは「よおし」と、小さくガッツポーズを作った。
 そんな姿を見て、知らず微笑む。
「あーあ、でもショックかな」
 ポツリと聞こえるように呟いてみる。
「何が?」
「だってさ、ワタシってオトコだった時は、阿部さんのこと好きだったんだよ?」
「え? ………ええ!?」
「そんな憧れの人が、目の前で平然と他の人が好きだとか言って、しかも相談してくるんだよ?」
「え、え、あう、…………ごめんなさい?」
 阿部さんはみるみる小さくなっていく。その姿を見て、より一層笑顔になる。
「んふふ、なーんてね。冗談だよ。ちょっとからかってみただけ」
「な、なによう! 今ちょっと、本気で慌てたんだからねっ」
 阿部さんは顔を赤く染めて講義する。けれど、
 これはウソ。ワタシは本当に、阿部さんに恋していた。
 だけど、だからこそ。
「頑張ってね」
「うん、頑張る」

 そして、ありがとう。


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最終更新:2008年12月05日 01:25
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