「なー」
「んー」
この前のことがあってから一週間、高橋は本当に毎日来てやがる。ただハロウィンネタには飽きたのか、あんな奇抜な恰好では来なくなったし、いたずらをされる心配もないようだった。
「毎日毎日なにしに来てるんだよ、もうハロウィンネタも使ってないみたいだし」
「……お前の童貞を奪いに?」
訂正。いたずらされる心配は残っているらしい。
「それ本気でいってるの? 初めの日はかなり本気っぽかったけど」
はじめの日以来、こうなんかあのときみたいに……押し倒されたような状況にはなっていないから、あの時もその場のノリでの悪ふざけだったとおもっているんだけど。
そもそも高橋に俺の女体化をとめてくれるような義理はないと思うんだよな。さすがに友達ってだけでそこまでしてくれるとは思えないし。
いやまあ本気なら嬉しい訳だけど。正直俺はあれから、こいつが家にいる間はドキドキしっぱなしだ。小心小胆なので顔にでないよう必死に取り繕ってはいるけれど。
ばれるなんて考えるだけで恥ずかしい
「んー。マジだよマジマジ」
「じゃあなに、俺がやらせてーっつったらしてくれるわけ?」
すると高橋はその大きな可愛らしい瞳でこちらのほうを見つめると、色気のある笑みを浮かべて
「したいの?」とだけ言った。
うわ、何だこれすごい照れるんだけど。高橋の表情が本気だ。綺麗なのにすごいエロい感じがするとかいう高等な表情をしてやがる。なんでこんな破壊力のある表情を女になったばかりのこいつが会得しているんだよ。
「ふーん、お前もまんざらでもないんだな。そんなに顔を真っ赤にするなんてさ」
そんなことを言う高橋は、どこか嬉しそうだ。何故かは分からないけれど
「え、何がだ」
けど、あんな表情をされたら誰だって真っ赤になるだろうに。こいつ、案外自分の表情の威力を分かってないらしい。
「いや、俺みたいな元男に好かれてるの」
――へ?
えーと? 今なんか妙な単語が聞こえた気がしたんだけど。こう、なんか、高橋が俺のことをす、好きだとかなんとかいうような感じのような気がするような……。
いやまて早まるな俺、単純に友達として好きってだけかもしれないだろ。というかそうじゃなかったらどうしたらいいんだ。喜べばいいのか? よし、すごい嬉しい。
「ん、どうした? 顔がさらに赤くなったぞ。……実は熱があっただけでしたとか言うなよ。喜び損になるから」
「……い、いや、何でもないぞ。うん、何でもない。熱なんてあるはずもない」
「そうか、ならいいんだけどさ」
うん、どうしよう。さっきの言葉が気になって仕方ない。ほんとにどんな意味で言ったんだろう。……それっぽい質問して探りを入れるか。
「なあ、さっき俺のこと好きとか言ってたけどそれは本気じゃないよな」
ええ直球です。え? そんな細かい探りを入れるなんて技能俺にはないですよ。当然じゃないですか。
「いや本気だけど。なに? もしかして気づいてなかったってやつ? だからさっきすごい顔赤くなったのかお前」
「……いや、気付かないだろ普通。だって俺らもともと友達だったし、この前のもちょっとした冗談だと思ってたし」
「いや、さすがに好きでもないやつにあんなことはしないだろ。冗談でも」
やばいやばい、高橋がほんとに俺のことが好きだなんて……もとから友達だったとは言ってもさすがに照れるし焦るね、こんな可愛い子に好かれてると思うと。
けどなんでだ? 俺は普通に友達してただけなのに、なんか好かれるようなことしたっけな。
「いつから? そして何で好きになったのさ。俺みたいなやつのこと」
はいはいまた直球。うんそろそろヒットくらい打たれても仕方ないね。でも変化球なんて投げる技量はありません。
「お前、それを本人に聞くのかよ。まあ答えてやるけどさ。
ただ、いつからって言われてもなあ、ほら、こういうのって気づいたらなってるもんじゃん。だからいつの間にかって感じなんだよね、俺としても。
けど、なんでって方はちゃんと理由があるんじゃないかな。
……お前、女になった元男によく話しかけられるだろ。俺みたいに前から仲の良かったやつ以外からも」
唐突に聞かれて思い当たる。そういえば確かに多い。
名前をいわれても元の顔が思い浮かばないような娘からも話しかけられたことがあるし、高橋だって前はこんなに家に入り浸らなかった。けど、それが何か関係あるのか?
「やっぱ思い当たるみたいだな。俺も後から知ったんだけど、それには理由があってさ、女体化したやつらん中で噂になってるんだよ。
お前は女になったやつにでも前と変わんないで接してくれるいいやつだってさ」
「いや、さすがに変わらないってことはないぞ、やつらみんな顔がいいから話してるとすごく照れるしさ」
「んー、その発言はちょっと気になるけど今はいい。そして前と変わんないってのはそういうことじゃない。わかりやすく言えば、下心がないってことかな」
「……それってそんなに言われるようなことか? 下心がない奴なんてほかにもいくらでもいそうな気がするけど」
それち、なんかそんな言われ方をすると、俺がイ○ポ○ンツみたいに思われてるようで結構いやなんだが。
それに、実際女体化した元男子達に、下心なしで優しい奴がそんなに珍しいのかな。
普通の女子に下心なしで優しくする人よりも多い気がするんだけれど。
……まあ俺にはどちらにも下心なんて出せるような勇気はない訳だが。
「いや、それがそうでもないんだよ。下心のないふりをする奴はいっぱいいるけれどさ。ほんとにないって思えるのはお前くらいらしいぜ。俺がそこに惚れてんだから間違いないよ」
「いやおれだって心んなかはエロいことでいっぱいかも知れんよ。案外さ」
「……あそこまでされても逃げる男がよく言うよ」
うう、確かにそれを言われるとどうしようもない、けどあの時は心の準備ができてなかったし仕方ないだろ。……とか言うとまたお前は女かって笑われるんだろうな。
「実際、相当人気あったみたいだよ、お前。そのフラグの立てっぷりは一級フラグ建築士ってあだ名がつきかけたくらいだからな。元男限定のだけどさ」
「あった。つきかけた。ってことは今はそうでもないのか?」
「ん、そうだね。なに、未練でもあったの?」
ちょっと拗ねたような表情で高橋が尋ねてくる。
いや、ないと言えばうそになるかも知れんが……まあこいつは好いてくれてるわけだし、こいつはとっても可愛いし、別にいいか。
「いや、そんなにはないけどさ、なんで人気がなくなったのかは気になるよね」
「んー、それはだな。俺が、お前と付き合ってるって言って回ったから」
「……まじか」
「まじまじ、こう、外堀から埋めていこうと思ってね」
「なるほど、俺には逃げ場がないわけか」
「そゆこと。で、どうするよ。俺はお前のことが好きなわけだけど、付き合う?」
「……逃げ場は?」
「ないんじゃないかな」
「おうけい、付き合おうか、高橋さん」
本当、ひどいことをする彼女が出来たもんだよね。まったく。すごく可愛いって言うのは救いだけど。あ、顔じゃないよ、性格な。
「それは俺のことを好きだと受け取ってもいいんだろうな?」
「んーと、まあそういうことでいいんじゃないかな。まあ俺だって気になってもいないような女の子を、毎日毎日家に入れたりはしないってわけだね」
「……そうか、うん。うれしいね。やっぱり。けど、言葉もほしいかな、やっぱり」
くそう可愛い。こんなことを言われちゃあこっちも言うしかないだろう。俺みたいな恥ずかしがりにこんなセリフを言わせるなんて、高橋はひどいやつだよね、ほんと。
「好きだよ、高橋」
我ながら、歯が浮くどころか砕け散るかと思うようなセリフだな。頑張ったよ俺。
「基本、そこは名前だろう」
ところが高橋はご不満らしい。……ええと、高橋の名前は元の名前の明弘から一字をとって、読みを変えて、漢字をあてた
「好きだよ、朱里」
「うん。祐樹、俺も好き」
うん、とってもかゆいな。だけどとっても気分がいいね。
まあ付き合うって言っても何か特別な変化がある訳じゃないだろうし、高橋となら何やってても楽しいしってことで。これからの毎日がとっても楽しみだよね。うん。
「さて祐樹。これで俺たちは正式に付き合ってるわけだ。もう文句はないよな」
「ん? 何がだ」
くそう。人がせっかくきれいに終わろうとしてるってのに何なんだ一体。
「エロいこと。しようぜ」
「……お前俺の下心のないとこがいいんじゃなかったのかよ」
こいつ実はエロいこと大好きなんじゃないかな、この前のこともあるし。
「いやいやそれとこれとは別。……だってお前もう誕生日は真近ですよ。彼女の俺としてはお前に女になられちゃ困るわけで」
「ちょっとまて、俺にも心の準備ってものがあってだな……あ」
「おまえは女の子かっての。そこはおとなしくやりたがっとけばいいんだよ。ほんとにもう時間ないんだから」
「そうはいってもな、俺はあんま体調悪くなったりしてないしきっと大丈夫だと思うぞ」
「だめだ。もしもの事があると嫌だし……決めた、今絶対にするぞ。わかったな。押したおすから。今、俺が。
だいたいもう俺たちは付き合ってるんだから何も変なことじゃないだろうに、なんでそこまで緊張するかな」
どうしようこれ、もしかして、というかやっぱり今回は……。
逃げ場、ないよね。
最終更新:2008年12月05日 01:32