安価『蜜柑』

1.ただいま~と玄関を開けると、見慣れない靴が一足。

もう来てるんだと思いながらローファーを脱ぎ我が家に上がる。

2階から物音が聞こえているので、今は2階に居るのだろう。

今日は久々に泊まっていくと言ってたから、部屋の準備でもしてるのかな?



2.私の部屋も2階にあるので、鉢合わせるのがなんとなく嫌で、

1階の居間に入った。真ん中にドンっと構えるコタツに潜り込む。

コタツに入ればスカートのスソとか、座り方とか気にしなくていい。気楽だな。

コタツの上には、カゴの中に蜜柑が入っていて、それを一つ取り出す。

毎年、親戚から送られてくるこの蜜柑は冬の蜜柑にも関わらず、甘くて、私は好きだ。



3.一つを丁寧に剥いて口に放り込む。

スッパイ・・・。珍しいな。

思わず顔をしかめていると、階段を降りる音が聞こえてきた。

トントンっと軽い音で、同じリズムで聞こえてくる。

その音がなんだか時限爆弾の秒読みみたいで、急いで蜜柑を飲み込んだ。

フッと息を吐くと心の準備をする。



4.それでも、気持ちは落ち着かず、それを待ってもくれず、ガチャっと居間のドアが開く。

亮ちゃんが、お久しぶり、お邪魔してるね。と言った。

うんとか、はいとか何とか返事をした。



5.もう部屋着に着替えたのかラフな格好だ。

薄手のセーターに、ぴったりしたジーンズ。

服の上からも分かるぐらい、胸は大きくて、

ジーンズから分かるお尻はちっちゃかった。

スタイルいいなぁ・・・。

胸もちっちゃくて、幼児体系な私からすれば憧れる。

本当にキレイになったなぁ・・・。



6.亮ちゃんは私の2つ上のイトコだ。

中学の時はおんなじ中学校に通ってて部活も同じテニス部。

勉強もできて、テニスも上手い。

私の憧れだった。



7.中学を卒業した亮ちゃんは少し遠い場所にある高校に進学した。

中学の時は毎日のように顔をあわせていたのに、今日会うのは卒業式以来、9ヶ月ぶりぐらいかな。



8.私の向かいに座った亮ちゃんは蜜柑を一つ取り出した。

少し手荒く蜜柑を剥く仕草は昔と変わらない。

そんな亮ちゃんの顔を正面からみつめながら

蜜柑をもう一房口に放り込む。

そのスッパさと、その他もろもろで自然とため息が漏れた。

ため息つくと幸せ逃げるぞ♪なんて亮ちゃんに突っ込まれる。

ぞ♪って・・・。そんなんじゃなかったじゃん。亮ちゃん・・・。



9.こんなことになるなら、私が亮ちゃんの童貞を奪えば良かった。

幼児体系な私じゃ見向きもしてくれなかったかもしれないけど。

今みたいに何もせずに後悔するよりはずっとましだった。



10.亮ちゃんは、今年のも甘いでしょう、というと本当甘くて美味しそうに蜜柑を食べている。

私が選んだのがはずれだったのかな?

それに習って口に含んだ“私の”蜜柑はやっぱりスッパくて、

なんだか悲しい気分になり、もう一度小さくため息をついた・・・。


おしまい。


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最終更新:2008年12月05日 01:41
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