1.冬も深まる今日この頃。
さすがに履き慣れた制服のスカートだが、この季節は寒すぎる・・・。
皆どうやって耐えているのかなぁ?なんて考えていると、いつもの商店街に人だかりが出来ていた。
なんだろう?とみていると、年末恒例の福引きをやっているみたいだ。
2.少し興味を持って覗いてみる。
参加賞のポケットティッシュをはじめに1等の温泉旅行まで。いかにも福引きって感じだ。
そんな中3等の商品に目が向いた。携帯ゲーム機だ。
そういえば、隆司くんがこれ欲しがってたなぁ。
3.次の日、学校に行くと隆司くんが教壇に上がっていた。
HR5分前なので、ほとんどのクラスメイトが集まっている。
『この中で福引き券がいらないヤツは俺が引き取ろう!』
いかにもらしいなぁ、と思って少し可笑しくなった。
その小さな小さな、僕の笑い声が隆司くんに届くことは無いけど。
4.僕と隆司くんは親友だった。
いつも教室の隅で本を読んでいる僕と、クラスの中心で馬鹿やって人気者な隆司くん。
なんで、仲がいいのって皆に不思議がられていたけどね。
6.あの日から、僕の隆司くんを見る目は変わってしまった。
しゃべるのも恥ずかしくなってしまって・・・。
隆司くんは優しいから、そんな僕に嫌われたとでも思ったのだろう。
いつの間にか僕に話し掛けることは無くなってしまった。
それでいいんだ。隆司くんのためにもそれでいいんだ。と僕が言う。
自分の気持ちに嘘をついていいの?と私が言う
7.いつの間にかちょっとしたお笑いライブになっていた隆司くんの心からのお願いは、
担任の先生の登場と共になし崩し的に終わった。
座っている僕の横を通過する隆司くんを見ていたら、不意に目が合った。
8.時間にして数秒。
隆司くんの足が止まった気がする。
僕を見ていた気がする。
顔が赤くなるのを感じて、恥ずかしくって顔を伏せようとしたら、先に隆司くんはそっぽを向いて歩いていってしまった。
その、耳が赤くなっていた気がした。
熱く語っていたから、興奮してるんだよ。と僕が言う。
隆司くんも恥ずかしかったんじゃない?と私が言う。
9.次の日、隆司くんはまたしても教壇に上がる。
『昨日はありがとう。3回出来たぜ!そして、これが戦利品です!』
と3つのポケットティッシュ。笑いが起きる。
『福引きも今日が最後。俺は今4枚福引き券を持っているから、1回引く為には後一枚必要だ。下さい!!』
熱いシャウトが轟くけど、さすがに今日は誰も持っていないみたいだ。
10.ポケットに手を入れると、福引き券が一枚。
昨日、欲しかった本を、お小遣い前だけど無理して購入した。
前みたいに話せるようになるだけで良いんだ。と僕が言う。
もっと近づきたいんじゃない?と私が言う。
気が付いたら立ち上がって手を挙げていた。
11.『一枚あるよ。』
みんなが驚いていた。それを気にせず、隆司くんだけをずっと見ていた。
隆司くんは少し驚いたように“私”を見た後、
すごく嬉しそうに『ありがとう』って言った。
私は自分によく出来ました。と言ってあげた。
おしまい。
最終更新:2008年12月05日 20:17