うわぁもう無理。マジで無理。
大体なんで男がファミレスでウェイトレスやらなくちゃならんのだ。そこはウェイターだろう常識的に考えて。
いやまあ俺だって鏡を見れば常識的に考えること事態が間違ってるのはわかる。
だって、朝起きたら女の子になってましたなんて事態は常識じゃあおこらない。近頃は常識でもおこりえるって事になりつつあるみたいだけど俺は認めない。あり得ないんだこんなこと。
しかも、こんな状況におかれた俺を助けてくれる立場だろう母は、なんだかとっても嬉々として学校には休みの連絡をいれたかと思えば。
素早く俺を連れ出して、次々と衣服の類いを買い漁る旅へと出発し、ただでさえどこか追い詰められたような気分だった俺を、さらに追い詰めてくれやがった。
そして追い討ちをかけるように、俺は今日のバイトに休むなとのお達しをくれやがったのだ。
曰く、学校よりも休んでしまうと迷惑がかかるから、だそうだ。
そうしてものすごく嫌々、女物の服を着て、果てしなく嫌々、バイトへと付いたと思えば、なぜか従業員がとても楽しそうに俺の新しい仕事着を持ち出して来やがった(女になったことは母が事前に連絡してくれていたらしい、流石に)
しかもその仕事着は以前の俺の物のサイズを変えたものなんかではなく、なんだか妙なフリルがついていて、なんだか長い靴下——いわゆるニーソも置いてあって、スカートがついていて、それも丈がすごい短くて……。
そうして俺はファミレスホールで働いていたがために、女になってから一日でウェイトレスなんて役職につくことになってしまったのでした。……他人事みたいにいわないとやってらんないな。うん。
そして、今の俺は不本意ではあるがなかなか可愛らしく、ウェイトレス働いていればそれなりに客の視線を集めてしまっていて、俺はその顔や胸や脚——いわゆる絶対領域に——に不躾に投げられる視線に耐えられないでいるのだった。
そうして最初の心の叫びをあげていた訳だ。
だから俺は
「なあ、大城。大丈夫か? 流石に可哀想だから休んできてもいいぞ? 仕事は変わっといてやるから」
なんて優しく声をかけてくれた同僚に、可哀想とか言うんじゃねえとか思いつつも甘えて、休憩室にてお休みしている。
だが俺は気が付いてしまった、俺に気を使ってくれた同僚の目も、どこか下心を持っていたことに。
そして今思えば俺を気遣う同僚の声がとてもキモかったことにも。
くそ、しまいにゃ泣いまうぞこの野郎。
これは新手の嫌がらせなんじゃないか? なぜか皆が皆俺が女体化したとかいう、あり得ない事態を楽しんでいやがる。嫌がっているのは俺一人。
うん。これは神様の嫌がらせだな、きっと。
くそ、ここの数年正月すら神社に行ってないのが不味かったのか?
————…………。
「…………んっ」
なんてあほらしい思考をしているうちに、どうやら俺は眠ってしまったらしい。
しかも誰かが俺にタオルケット書けてくれたようだ。少し感動したのだけれど、よく見れば紙が張ってあり、そこにはメールアドレスと電話番号+なんだか読みたくない言葉の羅列。しかもさっきの同僚の。ふむ、吐き気がするな。
俺は鳥肌をたてつつもそれを社員の連絡帳に張り付けておいてた。
ふと時計を見ればすでに十一時、慌てて携帯を取り出して、家に連絡をいれようと思えば、母から一件のメール。
——こんな時間まで何の連絡もなしなんて、もしかして朝帰り? 明日は赤飯炊いておくわね——
……………………。
俺は泣いた。
最終更新:2008年12月05日 20:30