「さっきの授業でやったけど、男はXY、女はXX染色体があるわけだろ? じゃあ女体化した人はどうなんだ、って先生に聞いてみたわけよ」
行儀悪く上半身全体で俺の机に突っ伏しながら、真吾が唐突に話し出した。
「で、どうした?」
「やー、なんかちゃんと解明されたわけじゃないから鵜呑みにするなって言ってからさ……————」
ここから酷く要領を得ない説明をされたから要約してみよう。
つまり女体化者は元々XY染色体であったもののY染色体のみが変異してXX染色体になるそうだ。
ここで元々YだったX染色体のことを一時的にXaとしてみる。そうすると女体化した人の染色体はXXaになるわけだな。
「んで、そっからなんか遺伝の話になったんだよ」
頭の中でまとめ終わった途端にまた話し始めやがった。
さっきの話の続きらしく同じ言葉でまとめてみよう。
先生が言うには、女体化因子はこの元YであるXa染色体に入ってるらしい。そうなるとさっきの考え方は少し直さなくてはならない。
そう、女体化する予定の男の遺伝子は元からXaYということになるのだ。
そしてこのXaY染色体の男が女体化したらY染色体のみ変化して結局のところ女体化者は全員XaXa染色体になるのか。
そんでもってその女体化者が子供を作ったとして、『Xa』or『Xa』×『X』or『Y』になるわけで……どう転んでも男に生まれた子供には女体化因子が食い込んでくる。
女に生まれる場合はXXa染色体になるから、この女が子供を産んだ場合なら女体化の心配がない男が生まれる可能性があるという寸法になってるそうだ。
「長々と語って、結局言いたいことは何だ?」
辞書の『下手糞』の欄に例として載せたいほどガタガタだった説明の脳内要約を、手間暇掛けて済ませてから、何やらうーうー言ってる真吾に問いかける。
「………………うちの母親さ、元…男なんだ……」
……えっとつまりコイツには女体化因子が組み込まれてて?
いやいやそれ以前に、たったそれだけを言いたいがために俺にこんなに労力を使わせたのか……?
「ざまぁ」
思わず口から本音が漏れる。
「————っ!! 所詮非童貞なんて非道なのよっ!」
「座布団全部没収」
当然の突っ込みを返せば、きぃきぃと目を吊り上げながらの猛抗議が飛んでくる。
「女になりたくなけりゃさっさと童貞捨てろよ」
「へーへー! イケメン様の言うことは格が違いますねっ!」
「……わかったわかった、おまえが女体化したらちゃんと嫁にもらってやるから」
「思いあがんなっ! 土下座されたってお断りじゃ!!!」
「いやー、案外におまえのほうが俺に惚れるってパターンも」
「あると思ってんの? 自意識過剰なの? ナルシストなの?」
……とまぁ、いつの間にか真吾が女体化する前提の醜い言い争いを繰り広げてしまったわけだが。
この言い争いがなかったら、俺とコイツがその後付き合うなんてこともなかったんだろうな。
『中高の知識で考える女体化の法則』 完
最終更新:2008年12月05日 20:46