1.チェーン店である雑貨屋を出ると、外は一面の雪景色だった。
どうりで寒いわけだ。
店に居たのは一時間ほどか?思ったより時間が掛かった。
今日の戦果を思い出す。
皮のブックカバーに金属のしおり。
世間一般で言えば、値段的には対したこと無いかもしれないが、中学3年の俺には安い額ではない。
欲しかったゲーム機まで諦めて、購入したわけだから、選ぶのにも自然と真剣になっていたのだろう。
その甲斐あってか、良いものが買えた。
2.しかし、寒い。コート着てマフラーまでしてるのに寒い。
横を見れば、女子高生らしき集団が生足さらして闊歩している。
こいつら、どうやって耐えてるんだ?なんて考えていると、いつもの商店街に人だかりが出来ていた。
なんだ?とみていると、年末恒例の福引きをやっていた。
3.そういや、今日が最終日だったっけか。
3等のゲーム機がどうしても欲しくって、昨日今日と教壇に上がり、同級生から福引き券を徴収したのだ。
昨日の3回の成果は全部ポケットティッシュ。
人生そんなもんだ。
ポケットに手を入れると福引き券が一枚。
これは使う訳にはいかないな。その一枚はポケットに戻す。
財布に入っている4枚と、つい先ほど手に入れた1枚を合わせると、抽選所に向かう。
4.程なく俺の順番が回ってくる。
ぐるりと回す。また、白のポケットティシュだろうなと、思っている。
青。出てきた玉の色は青。
『おめでとう〜4等出ました〜。』
あれ?なんか当たった!?
はい、サンタセットです。と係の人に渡される。
先ほどの雑貨屋の袋。中身は女性用サンタコスチューム。
一体俺にこれをどうしろと・・・?
5.そんなこんなで、時計を見ると待ち合わせの時間が近づいていた。
俺から誘っておいて、優を待たせるわけにはいかない。
少し小走りで待ち合わせの駅に向かう。
6.駅に着くと待ち合わせ時間まで後10分ほど。
優はもうすでにそこに居た。
ブレザーにコートを羽織り、白いマフラーを巻いている。
スカートはやっぱり寒いのか足が小刻みに震えていた。
俺は少し緊張して、深呼吸から盛大に白い息を吐き出す。
ヨシッと自分に気合を入れると、優に近づいていった。
7.「よっ、ごめん少し遅くなったな。」
「あっ・・・、ううん、ぼ・・・私が早く来過ぎただけだから。」
「でも、待たせちゃっただろう?」
「いや、でも、まだ待ち合わせ時間前だし・・・。」
「そっか・・・。」
「うん・・・。」
気まずい・・・。やはり、数ヶ月のブランクはそう簡単には埋められない。
しかも、俺の優への感情は数ヶ月前とは全然違うものになっているので、尚更である。
このくそ寒い中、二人して無言で立ち尽くしていてもしょうがないので、何とか促して目的地に向かう。
8.目的地なんて、言ってもたいそうなものではない。
ただ、久々に飯でも一緒に食って帰るかと。
だた、それだけのことだ。
その、“それだけ”を誘うのに随分時間が掛かった。
しかも、きっかけを優に作ってもらったわけだから、男として情けない。
だからこそ、一年発起して慣れないプレゼントなどを購入したわけだが。
そして、ちょっとした決意も胸に秘めていたりする
9.つい先ほど通過した商店街に入る。
福引き所はまだまだ、盛況のようだ。
それを通過して目的地に向かう途中で、なにやら、変わったものが目に付いた。
10.一言で言えば、サンタだ。
ただ、ミニスカだった。
ミニスカサンタが少し寒そうにビラを配っていた。
しかも、ドでかい看板を持っている。
そこには『左近探偵事務所』と大きく書かれていた。
他の通行人も気になるらしく、
わざと近づいてビラを受け取る人と、思いっきり迂回して避ける人とに二極化している。
不思議と気になって目が離せない。
すると、いつの間にか、サンタの後ろに黒いスーツの男が立っていた。
男は有無を言わさぬ勢いで、サンタの後ろ襟をつかむ。
そして、引きずる様にサンタを連れて行ってしまった。
なんだ、アレは・・・。
少々あっけにとられて馬鹿みたいにその光景を見つめていた・・・。
11.「ふ〜ん、隆司くん、ああいう格好が好きなんだ。」
突然後ろから話し掛けられ、ビクッとする。
あれ?優さん、少しお怒りですかね・・・?
その少し怒った顔がすごく可愛らしくて、自然とニヤける俺。
12.「なに、笑ってんの!知らないから!」
ふんっと俺を無視して歩き出す優。
女体化した親友を好きになったなんて言えず、話しかけることすら出来なかった俺。
でも、こんな可愛い姿を見れるのならば、もっと早くに勇気を出して話し掛けておけば良かった。
13.「優!ごめんって、ちょっと待ってよ!」
だって、こんな俺なんかに嫉妬してくれるんだから。
きっと、俺はすごくニヤけているな。
クリスマスにこんな幸せな気分になったのは初めてだ。
14.飯を食い終って、店を出ると、薄っすらと雪が積もっていた。
「寒いけど、すごいキレイだね。」
「ああ、そうだな。」
ロケーションとしては十分過ぎる。
サンタからの贈り物かな?
サンタ事件で最初こそ機嫌が悪かった優だが、最後の方には機嫌を直してくれたので良かった。
15.さて、俺の方はこれからが本番ともいえよう。
優に告白する。
ずっとチャンスを伺っていたのだ。
この機会を逃すわけにはいかない。
16.「優。ちょっと良いか?」
「なに?隆司くん。」
「これ。つまらないものだけど。」
「なに?」
「プレゼント。クリスマスと、これまでのお詫びを兼ねて。」
「えっ・・・。いいの?」
「ああ、俺、優が喜びそうなもの一生懸命選んだからさ。受け取って。」
「・・・、ありがとう。嬉しい!」
俺がカバンから出した雑貨屋の袋を受け取る優。
その笑顔は本当に可愛くって。
これで、俺のプレゼントを喜んでくれればもっと嬉しいな。
嬉しそうな優が袋を開けている側で、俺はまたしてもニヤけていた。
17.「隆司くん・・・、これって・・・。」
「ああ、優、ずっと欲しがってただろう?」
「覚えてくれてたんだ・・・。ありがとう!」
「いやいや、好きな人のことなら、覚えてて当然だろ?」
「えっ・・・。それって・・・。」
「優。俺、ずっと言えなかったけど、お前のことが大好きだ!」
「本当に・・・?」
「ああ、本当だ!」
「隆司くん・・・。」
「なんだい?優。」
「私も、私も大好きだよ、隆司くん!」
俺の側に駆け寄る優。
静かに抱きしめる俺。
そして二人は唇をあわせる。
「こんなキレイな景色の中で、隆司くんと恋人同士になれるなんて・・・。夢見たい。」
「俺は、雪景色よりずっとキレイな優と恋人になれる方が夢みたいだよ。」
「もう、隆司くんったら!」
18.なんて、感じかな。うん、完璧。
「隆司くん・・・、これって・・・。」
「ああ、優ずっと欲しがってただろう?」
うん、うん、すごい、俺の妄想・・・もとい、想像とまるで一緒だ。
さあ、優よ俺の胸に飛び込んで来い!
19.「いや、これってどっちかというと、隆司くんが欲しがってたものだよね・・・。」
「いやいや、好きなヒ・・・えっ?」
「なに、これ。嫌がらせ?それとも、さっきの当てつけ?」
優の手には女性用サンタコスチューム。
丁度先ほどビラ配りしていた人とまるっきり同じ衣装だ。
しまった・・・。間違った・・・。
20.じゃあね、と足早に立ち去る優を全力で追いかける俺。
雪に滑ってブックカバーとしおりを盛大に撒き散らす俺。
急いで拾ってまた優を追いかける俺。
俺と優の距離が縮まらないのはやはり全面的に俺のせいみたいである。
サンタのバカヤロウ〜!!!
なぜか雪にこけまくり、いつまでも埋まらない優との距離をみると、
クリスマスが全力で俺の幸せを阻止しているように思えて、少し悲しくなったのだった。
おしまい。
最終更新:2008年12月13日 23:57