安価『ひとりぼっちのクリスマス』

12/10現在。今年はクリスマスの予定がない。
去年は仲間内で済ませたし、一昨年はそれが寂しいなんて意識はなかったし、普通に家族で過ごした。
それが今年は両親は珍しくバカ夫婦を発揮して二人で出掛けると言うし、
去年の仲間は早生まれの俺を除いて軒並み女体化しているか、彼女を作ってしまっている。
あの色ボケのシスコンも愛しの姉と過ごすんだろうしなぁ…。

家が神社である俺は、宗教上の理由からそんなもので浮かれる必要はないと言い張ることもできるにはできるが、
今までがそうでなかったためにただの負け犬の遠吠えでしかなく、はっきり言って虚しい。
だからといってそのために走り回るのは惨めだし、楽しい選択とは言えないわけで。

なんだって俺はこんな考えなければそれなりに過ごせたようなことを考えているのかと言えば、
半ば定位置にまでなってしまった俺の背中の上から、亜樹名が

「喬介は今年のクリスマス、どうするの?」

なんて聞いてきたからで。
めんどくせーなーとかぼんやり考えてると、つむじを突つきながら催促された。
これで迷信から言うと俺は二三日下痢が続くことになる。

「どうなのさ?」

「突つくなよ、気持ちわりー。……どうもしねーよ。一人で家。いつもと変わらねーよ」

「で?」

「で?ってなんだよ。それで終わりだ」

「………………」

ジト目で俺を見る亜樹名。なんだってんだ。

「……そーゆーお前はどうなんだよ」

「ふーん、それを僕に聞くんだ?」

「意味がわかんねぇ」


「どこかの朴念仁と違って無予定なわけないじゃない?

飯能君のクラスのイベントにお邪魔させてもらうことになってるよ」

「さいで……って、飯能って……」

「御察しの通り、ウサミミモードの飯能君のクラスだよ。

コスチュームが可愛ければお持ち帰りされちゃうかもね」

なんて笑う亜樹名に、漠然とした不安が広がっていく。
そして、俺はその不安に名前をつけられないでいた。
だから、

「じゃ、僕は予定を詰めに行くから。いやぁ、楽しみだなぁ。あ、あの巫女服貸してね?」

と早口で捲し立てて、教室を出ていく亜樹名を無言で見送ることしかできなかった。

クリスマス当日。僕は予定通り飯能君たちとカラオケにやってきていた。
アレだけ突ついてあげたのに、あの朴念仁ときたら何も考えてないんじゃないかと思うくらいだ。

「ななみさん、のんでるれすか?」

すみっこのほうで烏龍茶を飲んでいた僕に飯能君が声をかけてきた。

「……飲んでないよ。と言うかなんで皆ナチュラルにお酒飲んでるのかな」

「こまかいことはきにしちゃいけないのれす!」

細かいかなぁ、これ……。

「……うかないかおしてます。どうかしたのれすか?」

「ううん、別にどうってことではないんだけどね」

やや自嘲気味に笑う僕。喬介に気付いてもらおうだなんて、僕の我儘でしかないんだから。

「ふふ、ななみさんは『こいするおとめ』なのれすね!」

でも、そんな我儘をぶつけ合うのが『レンアイ』ってモノなんだ。
……僕と喬介の関係がレンアイしているとは言い難いのが痛いところだけど。
でも。だから。

「うん、そんなところ。だからもう行かなくちゃ」

「おうえんしてますのれすよ!」

「ありがとう。それじゃ」

夜の十一時。雨が降っている。それはもう五月蝿いくらいに。
俺の心のざわつきを顕しているようで、心底不快だった。
そういう日に限って眠れず、しかも悪いことは重なるものだ。
眠気を誘うためにホットミルクでも淹れようかと思ったら、冷蔵庫に牛乳がない。
俺は仕方なしに今日初めて外出することにした。

雨の中を歩いていく。
うちは神社なだけに辺りは真っ暗で、足元すら覚束無い。
でも、それがかえって心を落ち着かせてくれる。
まずは本殿へ向かう。出掛けるときの習慣になっている御詣りのためだ。
神前に立ち、二礼二拍手一礼。とやったところでか細い声を俺の耳が捉えた。

「ぁ……喬、介……?」

サーセン箱の前にいたのは、雨でびしょ濡れになった亜樹名だった。
一瞬頭が真っ白になる。

「ば……バカ野郎!お前こんなとこで何やってんだ!」

「喬介ほどじゃ、ないよ」

「軽口なんか叩いてる場合か!これ羽織っとけ!」

「それじゃ喬介がかぜひいちゃうよ……」

「いいから!」

強引に来ていた上着を押し付けて、羽織ったことを確認すると亜樹名を抱え上げた。軽い。

「わ、何するのさ……!」

抵抗すらも弱々しい。こんなになるまでなんでこんなとこに……。
来た道をそのまま戻る。
何に対して向けているのか、自分でもわからない怒りが沸々とわいてくる。

「……喬介、ないてるの?」

亜樹名の手が俺の頬に触れる。違う。これは涙なんかじゃない。ただの雨だ。


「馬鹿なこと言ってんな」

「そっか、喬介は『わたし』のためにないてくれるんだ……なんかあんしんした」

「そーかよ」

「うん」

「……うちに着いたら風呂入ってこい。したらカフェ・ロワイヤルでも淹れてやる」

「へー、喬介はうちに上げた女の子におふろをすすめておさけのませるんだ」

「……ばーか」

「喬介ほどじゃないよ」

降り続いていた雨は、いつの間にかその姿を六花に変えて、夜空を舞っていた。

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最終更新:2008年12月14日 00:12
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