1.ショーウィンドーにならんだケーキ。どれもおいしそうだなぁ・・・。
昔はお尻のポッケに入れてた財布は今やカバンの中。
取り出すと中身を確認する。
はぁーとため息。
『ケーキバイキング3,000円』
財布には千円札が二枚と小銭が少々。足りないよね・・・。
2.よだれをたらしながら、当然比喩だよ。垂らしてないよ。
ケーキをずっと見つめていていると後ろから話し掛けられる。
「よっ、どうしたの?」
金井だ。昔からの友達。私が女体化してからも変わらず接してくれる、数少ない友達だ。
3.「あぁっ、金井。」
「菅野、ケーキ屋の前でよだれたらしてどうした?」
「えっ、いやいや、よだれは垂らしてないよ!」
「そうかぁ?俺にはよだれが見えたけどな。」
「気のせいでしょうよ。」
「お前、そんなに甘いもの好きだったっけか?」
「う〜ん、女体化してから、妙に甘いものが食べたくなるようになったのよ。金井こそどうしたのさ?もう帰ったんじゃないの?」
「いや、トイレ行っててさ。気付いたら皆いなくなってんの。」
「そうかぁ。」
金井はそういうと、刈り上げの後頭部をがりがりとかきむしった。
4.野球部のマネージャーをやっている私は土曜日の試合の打ち上げで部員と一緒に焼肉食い放題に行っていた。
少し遅めのお昼として肉をたらふく食べた。
マネージャーとして会計を終えて出た私は金井と一緒で気付けば他の部員に置いていかれたようだ。
男だった時は奴らと一緒に馬鹿みたいに肉を貪り食っていたが、女体化してからは食べる量がめっきり減ってしまった。
悲しい・・・。
そういや、金井も馬鹿みたいに食ってたな。動けねぇといって後半10分はぜんぜん食べてなかった。
その関係があってトイレに行ってたのかな・・・。
5.金井は私の横まで来るとおなじようにショーウインドーを覗き込んだ。
「なんだ、菅野ケーキ食いたいのか?」
「・・・、まぁね。」
「あんだけ、肉食ってよくまだ食べようなんて思うな。」
「甘い物はべ・つ・ば・ら。てか、私はそんなに食べてないわ。」
「そうだっけか?でも、腹一杯までは食ったんだろう?」
「まぁね・・・。でも、どちらにしろ今日は無理。」
「ん?なんでだ?」
「お金。今日の打ち上げの分しか持ってこなかったんだ〜。足りないのよ。」
「ふ〜ん。」
金井は少し空を見上がると、改めて私の方を見た。
6.「金。貸してやろうか?」
「えっ・・・。いいよ別に。」
「気にすんなって。学校で返してくれれば良いし。」
「いいよ。一人で行っても寂しいし。」
「俺も行くからさ。丁度甘いもの、食べたかったんだよ。」
「・・・、そう?」
やっぱりどうしてもケーキを食べたかった私は金井と一緒に店に入った。
7.あれ?金井ってさっき動けないくらいに食べてなかったっけ?
男も甘い物は別腹だったっけか?なんか忘れちゃった・・・。
ん?そもそも金井って甘いもの好きだっけか?
前にお土産に饅頭買ってたら甘いもの得意じゃないからいらないって言ってなかったけか?よく覚えてないけど・・・。
そんなことを考えながら、私は制限時間の一時間たっぷりケーキをたらふく食べた。
金井もそれなりに食べていたが、終わり10分ぐらいにトイレに消えていった。
やっぱり無理してたんじゃないの・・・。
8.店を出ると、空は一面夕焼け空だった。
「う〜ん。食べた食べた。金井、ありがとう。おいしかったよ。」
「ああ、よかったな・・・。」
少しげんなりした様子の金井が応じる。
お腹一杯のくせにケーキを食べて、かつ気持ち悪くなるなんて・・・。
金井も随分のケーキ好きだな。
9.金井の誕生日は一ヶ月後か。
金井が女体化すれば一緒にケーキを食べに行けるな。
それはそれで楽しそうだな。
いや、違うのは、金井が望んでいるのはそういうことじゃないのは分かってるよ。
私だって、16年間は男をやっていたわけだ。
下心はみえみえ。でもそう悪い気はしないものだな。
でも、金井と私が近づくにはもう一つぐらいイベントが必要だと思わない?
10.「なぁ、菅野。」
「ん・・・なに?」
「明日、試合後だから、練習休みじゃん。」
「うん。そうだね。」
「どっかいかね?・・・、二人で。」
おお、私の考えが漏れたかな?
金井君もなかなかやるね。
夕陽が並んだ二人の影法師を重ねた。
「まあ、付き合ってやるか。その代わり、またケーキ食べに行くよ!」
うぇ、とかうめいている金井を横に明日は何のケーキを食べようかなと考える。
うん、明日が楽しみだ。
ケーキを食べるのも含めてね。
おしまい。
最終更新:2008年12月14日 00:15