安価『パロディ』

なんだかどうでもいい感傷に襲われたので、ちょっと昔のことを話してみようと思う。
自分でも未だにいいんだか悪いんだか分からない微妙な思い出なんだが、それなりに面白くなるように脚色どころか全身に色を塗りたくってみたので聞いてみてくれ。
誕生日が数日後に迫っていた、とある日の夜。俺――この翌日以降、せめて一人称は俺じゃなくしろとせがまれたので、しかたなく僕は今自分のことを僕と呼んでいる――はベッドに寝転がりながら、女子に告白しようなんていう甘酸っぱい決意を固めようとしていた。
ただ俺は、正直自分のこの思いが気の迷いかなにかなんじゃないかと思わずにはいられなくて、決心できずにいた。
だって仕方がないだろう。俺に向かって何の臆面もなく「萌え」なんて言ってくる――このころの僕はまだ男だし、特別女性らしい顔や体のつくりをしていた訳じゃない――ような女子に自分が好意を抱いているなんて、気の迷いとしか思えない。
それに、年中構わず、老若男女にかかわらず、不特定多数に発情しまくっている幼馴染みが、俺の告白を受け入れてくれるとは思えなかったし。
しかも根本的なとこで優柔不断な俺は、結局告白する決心も、諦める決心もつかないままメールを送るはずだった携帯を放り出し、眠ってしまったわけだ。
朝目が覚めると、昨夜の苦悩を思い出して自分の優柔不断さに自己嫌悪しつつも起き上がってから、まだ覚醒してない頭を起こそうと洗面台に向かう。
なんだかいつもと部屋の縮尺が変わっている気がしたのだけれど、決定的な部分には気が付かないまま、いつもより大きくて鏡に顔も写らない洗面台で顔を洗い終えてしまう。
けれど、これで頭が働きだしたのか壁に掛けた制服を手に取ろうとしたときに、気が付いた。
――背が縮んでる。
よく見てみれば身長どころか体格すべてが小さくなっていて、何故か胸には覚えのない微かな隆起があった。
優柔不断なだけでなく肝も小さい俺は、ものすごく恐る恐る自分の体をクローゼットに取り付けられた姿見へと映し出してみた。
そして見えた身体も顔もあきらかに以前のものではなくて、それもずっと可愛くて、ずっと眺めていたい衝動に駆られたのだけれど、僕の頭の何処かは今の状況を処理しきれなかったようで、俺は息を引き取った。
……息を引き取ったは気絶の表現する言葉の一つだ。まあ嘘だけど。
嘘だといえば何処までが嘘か曖昧なので、さっきまでに起こった事が全部嘘に聞こえるなあ、そうだったらいいなあ。なんて朦朧とした頭で現実逃避していると、頭上の辺りから声が聞こえてきた。
「ほらやっぱり期待通りに可愛いわ」
「そうだな、想像以上に可愛いな」
それは何処かで聞いた覚えのある声。というか間違いなく父さんと母さんだ。
まあさすがに息子が倒れたんだ、心配してくれているだろう――
「時に母さん、親である我々にはこの娘の全身をみる権利があると思うのだがどうだろう?」
「当然よ。我が子の裸をみるくらいの権利、親にはあるに決まってるわ」
――してないね、それどころか平然と頭のおかしな会話をしてやがる。
つうか起きねえとこいつら本気――とかいてマジと読む。いや流石に古いなこれ――で俺を剥いちまう気だ!
「うふふ、サイズの合ってない寝間着も可愛けれど、やっぱり生肌が見たいわあ」
「うむ。それでは服を脱がそうか」
「なに神妙な顔しながらふざけた台詞はいてやがんだよこのクズどもが」
「あらあら、起きてたの? まあいいわ、それじゃあお洋服ぬぎぬぎしましょうね~」
冷たい声で言い放ったつもりなのに、口からは可愛らしい声しか出ない。そのせいか、父さんは狼狽えたようだけど母さんはノーダメージだ。
――というか俺、こいつらの子供なのが恥ずかしいんだが。
――――…………
僕はどうやら息を引き取る寸前に悲鳴をあげたようで、二人とも心配して駆け付けたのだけど、僕が余りに可愛らしい女の子になっていたので気が触れてしまった。
二人の弁明をまとめるとこうなる。
気が触れてしまったとか言ってるけれど間違いなく嘘だろう。うちの親はいつもあんなものだから……悲しいことに。
そして、そう。
僕は、女の子になった。
先程落ち着いて鏡を覗いて見たけれど、間違いない。母さんや父さんの気が触れて僕が女の子に見えたとかではなく、物理的に女の子になっていた。
けれど思ったより僕は落ち着いていて、女の子になったことにあまり戸惑わなかった。
だから、母さんに「俺」なんて言うのはやめなさい。と言われれば従ったし、可愛らしい服を着るよう言われれば身につけた。
妙に布面積の小さな服ばかり持ってきて、あまつさえスクール水着を持ち出してきた父さん――しかも、「父さんはロリコンなんだ」とか笑顔でほざきやがった――は殴ったけれど、全力で。
父さんと母さんの方も悲しむどころか逆に大喜びとかいう具合だし、意外と早くこの身体に馴染めるんじゃないかと思っている。
「というか、ちんこなんか要らねえんだよ。うちの子には」
「あらあら、ついていたらついていたで需要はあるんじゃないかしら?」
「む、それもそうかもしれんなあ」
とかいいながら笑いあっている両親には一生慣れられる気がしないというのにだ。
――というか誰か本当――本当と書いてマジとは、よまないね、うん――にこの親どうにかしてくれ、頼むから。
いや、何でか知らないけど女の子になった俺のサイズを予想して、サイズの合った下着と制服を持ってきてくれたことには感謝してるんだけどさ……。
――――…………
女子用の下着と制服を身につけて、通学路を一人であるく頃にはすっかり今の自分に慣れてしまっていて、僕に向けられる周囲の視線を楽しめるくらいになっていた。
うんうん。皆が僕を見つめてしまうのも分かるよ。
今の僕は百四十センチあるかないかの小さな背。小さな顔に大きな目、整った鼻に、プルンとした唇。そしてなにより、腰まで伸びた長い髪。それが今の僕の姿。
自慢だけれど、とっても可愛らしい。
そんな娘がとなりを通ったら誰だってながめてしまうものだろう。
「よお嬢ちゃん。俺らとちょっと遊ぼうぜ? こんなとこ通ってんだから、そのつもりなんだろ?」
そんなことを考えていると、いつの間にか周りには大量の不良。なんだこの量、蟻かよ?
ああそうか、この公園不良の溜まり場だったっけ。男だった時には意識してなかったから忘れてたな。
「悪いけど、僕男だよ」
元、だけれど。まあこれでこいつらはヒクだろう、多分。
「え、男なの? 本当に?」
「うん」
信じられない。と言った具合にこちらを見つめるヤンキーちゃんに、軽く答えてやる。まあ、こんな格好してりゃあ勘違いしても仕方ない。いや勘違いって訳じゃないか。
「てことはおちんちんついてんだ、こんな可愛いのに。あ、やべ、興奮してきた」「やべ、俺も」「俺も」「……俺も」
なんてふざけた事を口走ってやがるんだこの不良くんたちは……。
というか、何で僕の周りにはこう、変態ばかりが集まるんだよ……。
ふつふつと怒りが込み上げてきて、段々頭に血が昇ってくる……ぶつける相手も手近にいる。
――いまの私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!
そんな馬鹿らしいことを考えてから、怒りをぶつけようとする……と。
「萌えるロリッ娘を虐めるとは何事だぁぁあ!!」
と、聞き覚えのある声が響いて力が抜けた。
――ああ、馬鹿が一匹ふえちゃった。
なんて思ったのだけれど、新規参入した新人馬鹿は、空手や柔道やら合気道やらなにやらを駆使し、圧倒的な強さでその他の馬鹿共を次々と蹴散らしていった。流石は色々合わせて四十段。すごい強い。
最後の一人も「俺のショタっこがあぁぁ」とか言いながら逃げていく。変態ばっかりだ。そして目の前にのこった最後の変態も敏感に反応して
「え? この子男の子? うそ、こんなに可愛くて女装癖があるなんて、私を萌え殺す気?」
なんて慌ててやがる。本当に救えない変態だ。女の癖に――いや女だからなのか?
けど、まったく母さんといい父さんといい、声をかけてくる男といい……僕の好きな人といい。どうして僕の周りの人はこんなに変態ばかりなんだろう。
けど、取りあえずは目の前にいる。妙に慌てた素敵な女の子を、落ち着かせてやろう。助けてくれたお礼もあるしね。
そう考えてから声を掛けてやる。
「やあ、あきら」
「……あぁ、みずきか。萌え」
いや分かってくれたのは嬉しいんだけど、いい加減にしろ。頭撫でんな頬を引っ張るな。その上股間に手を伸ばすのは本気――とかいて(略)――でいい加減にしろ。

とまあこの辺りで回想は終わり。変態さんからお呼びがかかっちゃったからね。ああ、僕が百合とかいう(綺麗な)変態の世界に足を踏み入れるのは、もう少し先の話。


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最終更新:2008年12月14日 00:44
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