安価『柚子湯』
高校に入って初めての冬休み。新しい私になってから初めておじいちゃん家に遊びに来た。
私を一目見たおじいちゃんの悲しそうな顔は忘れられない。初孫で、結局一人っきりの孫になっちゃったもんね。しょうがない。
のんびりお湯につかりながら手を動かすとごとりと柚子にぶつかった。去年はなんで食べ物を風呂に浮かべなきゃならないのかと真剣に考えたものだ。
今は冷え症に効果があると聞けば去年と比べて、すっかり冷たくなった私の末端組織のためにいつまでもお湯に入っていたい気分だった。私が風呂を出たくないのはそれだけが理由ではないけど。
今年の誕生日を迎えてからすっかり長くなった入浴時間をさらに倍にした時間を入浴にあてて風呂を後にする。
脱衣所の時計を見れば、大分遅い時間で、おじいちゃんはもう寝てるかな?と少し安堵する。
パジャマに着替えて居間に入ると、そこは真っ暗で、やはりおじいちゃんはすでに寝てしまっているようだ。
電源が切れているこたつに入って深くため息をつくと、さすが東北らしく、室内でも息が白かった。
湯冷めしない内に寝なければと、こたつを出ようとすると上座のおじいちゃんの席に置いてある湯のみから湯気が立って居ることに気がついた。
一口飲んでみると懐かしい味がした。
柚子湯だ。小さい頃私が泣くと決まっておじいちゃんが作ってくれた。いつも無愛想に私に突き付けてくるだけだったけど。
昭和生まれの不器用さに少し小さく笑うと、なぜか涙が出てきた。
おじいちゃんのためになにが出来るかな?祖父不幸の孫に出来る最大の恩返し。それが思い付いてから寝よう。私は静かにこたつの電源を入れた。
おしまい。
最終更新:2008年12月20日 13:40