『触手プレー』

「触手プレイがしたい」
「お帰りはあちらです」
 俺の返答が気に食わなかったのか、千佳はぷうっと風船みたいに頬を膨らませる。
 中身が男ってわかってるのに、こんな仕草がめちゃくちゃ似合ってる可愛い女の子には、ついつい手を出しそうになってしまう。しかも大半の女の子とは違って、この仕草が計算じゃないっていうのがまた……。
 いや、他におんなじような奴がいてもこんなふうには思えないな。
 こいつが俺の大事な彼女だからこそ、こんなやらしいことまで考えてしまうんだ。
 まぁそれはおいといて。
「なんでまたそんなこと言い出すんだか……」
 色んな感情を込めた深い溜息混じりの俺の言葉に、千佳はさらに頬に空気を————。
「おら」
「ぶっ!? っ、何するんだ!?」
 両方のほっぺたを同時に突けば思惑通りに吹き出した千佳。
「それよりも触手? なんでそんなこと言い出したんだ? 普通のじゃ満足できない身体になってしまったというのか?」
 わざと大げさに嘆いてやると。
「そんな変態みたいなこと言ってないもん!」
 などと、どの口が言うのかという答えが返ってきた。
『触手プレイ』なるものがアブノーマルでなければ、ノーマルということになり。
 そんでもってそれがノーマルということになってしまうと世の中の大半の皆さんがそれに興じていることになってしまう。
「でも、ほらあれでしょ? 僕だって元々は男だったわけだし、そういうのに興味があったって……」
 言ってて、なんとなく恥ずかしくなってきたんだろう。
 最初の勢いはどこへやら、どんどん尻すぼみになって赤くなっていく千佳は可愛くてしょうがない。
 が、それはともかく。
 ——少し……釘を刺しておくか。
 今後、あるいはよそでこんなこと言わないように。
「ちょっとここおいで」

 右手で手招きしつつ、逆の手であぐらをかいて座っている自分の足を指差す。
 その俺の仕種に応えて、千佳はちょこちょこと寄ってきて俺の膝の上に納まった。
「あのな千佳、触手ってのを軽く考えすぎてないか?」
「え……?」
 肩に顔を乗せるようにして、耳元で囁く。
 いかに、自分が軽率なことを言ったのかを思い知らせてやるために。
「両手足を絡め取られて身動きできないようにされて」
 細い手首を一まとめにして、片手で拘束してやると、びくりと千佳が震える。
 だけどもその反応をあえて無視した。
「身体中、ぬるぬるになるまで嘗め回されて」
 そして逆の手で千佳の身体を首からゆっくりとなぞっていく。
「色んなところぐちゅぐちゅにされて」
 鎖骨を、薄い胸の真ん中を通って、さらに下のほうへ手を伸ばす。
「いやだって思ってるのにどんどん、どんどん気持ちよくなっちゃうんだよな」
「そんな……っ」
 上擦ったような声に、少しだけ腹が立った。
 まるでそれを想像して、そして本気で望んでいるように思えて。
「千佳は、さ……俺じゃないのにここに出たり入ったりしてもらいたいんだ?」
「や————っ!?」
 ここ、のところで千佳の股に手を強く押し当てれば、悲鳴に似た声が上がる。
 服の上からとはいえ、かなりの衝撃になったようだ。
「千佳は、俺じゃない奴に、この中も全部ぐしょぐしょにされたいんだ?」
「ち、ちがっ! そんなこと、ないもんっ!」
「触手ってのはそういうもんだろ? 俺じゃない『何か』に犯されたいんです、ってさっき俺に向かって言ったのはおまえだよな?」
 思っていたよりも冷たくなってしまった声音。
 自分でもわかっていなかったけど、それだけ千佳の発言が頭に来ていたのだと今更になって気づかされる。
 だけどもそんな小さな驚きも、腕の中でカタカタと震えだした千佳に打ち消される。
「ちがう、もん……そんなつもりで言ったんじゃ、ないもん……」
「…………じゃ、どんなつもりだったんだ?」
 自分で追い詰めておきながら、少しばかり可哀想になってわざとしていたきつい口調を緩める。
「夢……で」
「『ゆめ』?」
 ——まさか、『将来はお嫁さん』的な意味合いでの夢じゃなかろうな?
 そんな考えが頭をよぎる。そしてそれを敏感に察知したらしい千佳はぶんぶんと首を振って。
「い、伊佐が触手になる夢を見たから……っ」
「俺が……?」
 ……触手?
「あー、それはどういったことですか?」
「僕に言われたって…! そんなのわかんないもん!」
 夢に出てくることに整合性を求めるのは間違ってるというのは重々承知のうえだが、いくらなんでも俺が触手になるっていうのはどんな————……ん?
「じゃあ、さ」
「!?」
 ぎゅっと千佳を抱きしめる。
「そんな夢を見たから……千佳は、『俺と』触手プレイをしたいって宣言したんだ?」
「——————っっ」
 耳元でからかうように告げると、みるみるうちに千佳の耳が真っ赤になっていく。素晴らしく可愛い。
「改造でもしないと触手なんか出せないから、今度似たようなことでもしようか」
「……どんなの?」
「とりあえずローションいっぱい買いに行こうな。もちろん二人で」
「………………」
 にやにやと意地悪く追い討ちをかけてみる。
 千佳からの返事はなかったけど、真っ赤なくせに腕から逃げようともしないのが何よりの返事だった。

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最終更新:2008年12月20日 18:07
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