大橋はでぇとの定番ということで、映画館にやってきていた。
丁度よく前からおれ……私が見たかったアクション映画がまだ上映していたので、私のほうから頼んでそれを見ようというと、
大橋は話題の純愛な恥ずかしい映画を見るつもりだったようで渋ったのだけれど、私のお願いも一つくらいは聞いてやろうと思ったのか、承諾してくれた。
代わりに映画を見る間、手をつなぎ続けるという命令が下ってしまったけれど、見たかった映画観れるということで上機嫌な私は、
しぶしぶ、もう一度言うけれど、しぶしぶその命令を受け入れて、今私の左手は大橋の手と触れ合っている。
映画を見始めてから、今まで、ずっと大橋がこちらのほうばかり見たのは流石に気になったけれど、それでも気分が悪くならなかったのは、映画の出来が良いおかげだろう。
けれど、しばらくすると面白いことが起こった。
私は知っていたのだけれど、大橋は知らなかったようで、目を白黒とさせてこちらを見ている。
それもまあ仕方ない。
スクリーンに、私の生き写しのようにそっくりな女優がうつったのだから。
その女優はまだあまり有名でないので、大橋が知らないのも無理はない。
今回の映画で初めてまともな役柄を演じることになったばかりだし、私は大橋に一度もこの話をしなかったからだ。
「なあ、由(ゆい。前は同じ字でよしと読んだ)。あれ、雪さんだよな?」
驚きを隠そうともせずに、画面に映る女優の本名を尋ねてくる大橋。
「うん、そうだよ。中姉ちゃん」
「おい、聞いてないぞ。雪さんが女優やってるなんて」
「言ってないからね」
そう、画面に映るのは私の家の二番目の姉さんで、生粋の女性。これが又びっくりするほど今の私に似ていて、下手な二卵性双生児よりも似ているくらいだ。
大橋はしばらく私が黙っていたことに文句を言っていたが、私が映画に集中したいからというと、すぐに黙ってくれた。
が! 今度は私も驚く番だった。
なんと中姉さんの演じる役の恋人役、その役名が「大橋」だったのだ。
しかも登場するなり、ぼかしてはいるけれどキスシーンに入りやがって、もう私は映画どころじゃない。
私にそっくりな人が、私にそっくりな声で、「大橋さん……」なんてなまめかしく言うのである。
当の大橋の方を見れば、顔を真赤にしてからこちらから顔をそらしてしまい、スクリーンのほうもみれなくて視線をあらぬ方向にむけている。
そんな様子を見ていると、こちらまで恥ずかしくなってしまう。
けれど、二人の出番はあまり多くなかったようで、それきり、そういう雰囲気のシーンには入らなかったのは救いだろう。
それでも空気をぶち壊すのには十分で、私はもう大橋の手なんて握れないし、映画だってあまり楽しめなかったのだけれど。
──でも、あんな風な関係に大橋となるのも悪くない……かも。
なんて、考えたのは気の迷いのはず。
でも……。
終わり
最終更新:2009年02月08日 23:33