そんなわけで大分気まずくなってしまったので、でぇとを意識しないように、男だったころからよく二人で来たゲーセンに。
さっそく私は鉄のこぶしの新作にコインを入れる。大橋はまだ気まずいのか、私とは別れて少し離れた所にある音ゲーをプレイしているようだ。
正直大橋に鉄のこぶしの相手をしてほしかったのだけど、あんなことがあった後では仕方がないし、おとなしくCPUを相手に高難度の魅せコンを練習する私。
前にも言ったが私の見た目はお嬢様然とした雰囲気があるので、場の雰囲気に合わないこと請け合いだろう。
しかも今日のかっこは少女趣味な感じなので、余計にどこかのお嬢様みたくみえる。
そんな私が鉄のこぶしで魅せコンを練習しているのはかなり目立つんじゃないだろうか。
──おっ、成功した。
なんて考えながら練習を続けると、コインが入る音がして、乱入者が来た。
しかもデビルボブ(通称デブ)を使っている。
かなりの強キャラだが、使いこなすにはかなりのテクがいる。とはいっても右アッパーを出しているだけでも十分強いのだけど。
けれど、実際に戦ってみるとどうやら初心者なようで、まともにコンボもできていない。
私は仕方ないなあ、とか思いつつも、二セットをとったあとは接待プレイ(なるべく気付かれないようにさりげなく手をぬく。接待の鉄則だ)でニセットを落としてから、最後は練習していた魅せコンで勝負を決めた。
私は実戦で初めてそのコンボをきめて上機嫌でいると、台の向こうから台を叩く音がした。
──台パンかよ。マナーわりいなあ。まあ私も接待しちゃったから(わざとセットを落としたことがばれると逆に腹を立てられることも多い)人のことは言えないか。
というか向かいのやつこっち来てないか? やっぱり来てるし!
絡んでくるのかよ!? 私そういうの初めてなんだけど。
明らかに起こった調子でこっちに向かってくるのは、見るからに不良という感じで、ガタイもよく、喧嘩になればかなり強そうだ。
などと考えていると、不良君はいつの間にか近寄ってきていて、なぜか私の顔を見てなぜかうろたえたあと、うれしそうな笑みを見せた。
──うわ、きもい
ガタイがよく顔の造形もゴツイ不良君は、笑うとすごく不気味に見えた。
「あれ、向かいの人随分強いなあって思ってきてみたんだけど、もしかして君?」
──俺が強いんじゃなくて、君が弱いんだけど。
とはいくらなんでも口にしない。
というより口調もきもい。ちゃら男を気取ってるんだろうけど、似合わないにもほどがある。
人にはある程度自分に合ったキャラクターってものがあるだろうに。あ、私が言えたことじゃないか。
「すごい強いね、君。もしよかったら俺に教えてくれない? あ、名前はなんていうの?」
まだこっちは何にも言ってないのに話を進めてくとか腹立つな。
こういう手合いには無視が一番いいって聞いたことあるし、スルーしてコンボの練習でもしていよう。
何て考えていると、唐突に手をひかれて肩を抱かれる。座ったままなので、なんだか不安定な体勢になった。
不良君思ったより強引だな、甘く見てたみたいだ。でもどうしよ。台パンするようなやつと一緒に鉄のこぶししたくな……あれ?
なぜか俺の隣には大橋がいた。
あ、あれ? おまえおとげーやってたんじゃないの?
もしかしていまわたしをだきよせてるのおおはし?
うわあどうしようこれすごいてれる……けどなんかうれしいかも。
「人の彼女に手え出さないでもらえます?」
いまのはつげんもおおはし?
うわあどうしようこれすごいてれる……けどなんかうれしいかも。
しかもなんかだきよせるちからがつよくなってるし……。うわ、かおちかい
……どうしようこれすごいてれる……けどなんかうれしいかも。
「んだよ、男連れかよ! つまんねえの」
──だからその口調きもい!
と、突っ込みのために意識が復活。
すごすごと去っていく不良君。君は生理的に無理なタイプの人間だ。男女関係なく。
けど、危なかった。何が危ないって私の頭の中が。
あれ、いつの間にか大橋、離れてる。ざんね……
「あ、さっきのは冗談だからな。心配するなよ」
「うえっ! なにが!?」
「だから、俺の彼女って」
「ああそれもちろんそうだとおもってたよかんちがいなんてしてないしざんねんだなんておもってないから」
「ん? なんかお前へんだな。ま、俺はまた向こう言ってくるわ」
「あっうんわかった」
よし、大橋は離れた。落ち着け俺。ああ俺じゃない私
冷静になって、冗談だと言われたときなんて思ったか考えるんだ。
……………………。
うん。間違いない。私は残念だ。と思った。その前に体が離れた時にも、そう思った。
私だって馬鹿じゃない。
これがどういうことかくらいわかる。
朝にはわざとお約束の行動をとっていたけど、ここで不良から助けられて(微妙な絡まれ方ではあったけど)云々なお約束がやってくるなんて……。
どこか仕組まれているようで納得いかないけれど、認めよう。
私は、不良から助けられて、大橋に──惚れた。
私の視界の端では、いつの間にかやられた私の使っていたキャラが、地面に転がってカウントを取られていた。
終わり
うん。安価がうまく思いつかなかったんだ。
恋心の発芽ってことで許してほしい
最終更新:2009年02月08日 23:34