安価『ハミガキ中にイタズラ』

1.なんだか、寝苦しくて目が覚める。起き上がって時計を見るとまだ、9時前だ。
決して早い時間というわけではないが、休日の高校生が目を覚ますには早すぎる時間だ。
ベッドから身を起こすと、床に布団が敷いてある。
その上には寒そうに丸まりながら寝ている人間が一人。
そういえば、昨日、悪友が泊まりに来ていたのだった。
両親が土日を利用して、旅行に行ってしまったので、久々に二人で大騒ぎしたんだっけな。
寝たのも随分遅い時間だったはず。
道理で頭が働かないわけだ。そのくせ、目は冴えてしまって、二度寝はできそうにも無い。

2.ベッドから降りると、悪友をまたいで部屋を出る。
「寒い……」
俺の小さな呟きにも、律儀に白い息が出るぐらいに廊下は寒かった。
あまりの寒さにめげて、一度自分の部屋に戻る。
悪友は寝返りを打ったらしく、体勢が変わっていた。
起こさないように気を使いながら、靴下と上着を取り出すと着込む。
うん、防寒はこれで完璧だろう。
気合をいれると、再度廊下に出る。

3.なんとか洗面所にたどりつく。歯ブラシを取り出し、歯磨き粉をつける。
そんな時、廊下が少しきしむ音がした。
俺は気がつかないフリをして歯を磨き始める。
誰かがしのび足で歩いているらしい、音は少しずつ洗面所に近づいてくる。
わざと大きな音で歯を磨き続ける俺は去年のことを思い出していた。
丁度、今と同じ時期。今と同じような状況だったかな。

4.未だ起きる気配が無い悪友を部屋に放置したまま、洗面所で歯を磨く、俺。
『朝飯食う前に磨くのっていみなくね?』とは悪友の談。
確かに言いたいことは良く分かるが、我が家ではそれが普通のことなのでしょうがない。
いまだ冴えない頭でボーと歯を磨く。
ガラッ
洗面所のドアが開く音がする。
なんだ?振り返ると……。
俺の真正面に、この世のものとは思えない面白顔が存在している。

5.「ぶっー!」
歯磨き粉を含んだつばを盛大に吐き出す。
片方の手の指を鼻の穴につっこんで、もう片方で目を吊り上げる。
古典的ではあるが、まったく予想しない状態で見せられればそりゃ噴出もするわ。
「げっ!」
悲惨な悲鳴を上げる面白顔に思いっきりかかってしまった。
その顔をみて、またしても噴出しそうになった俺は急いで洗面台に残りを吐き出した。
「てめ、きたね……」
手で顔を拭こうとするなぞの人影にとりあえず、タオルを渡す。
といっても、今このうちに居る俺以外の人間は一人しか居ないが。
「悪ぃ、でもお前が俺を笑わすからいけないんだぞ」
「うるせぇ、いきなりつばを俺にかけるお前が悪いわ」
「あのな、それは、理不尽だ……ぞ?」
俺の言葉は不自然に途切れた。
タオルで顔を拭き終わったそいつは俺が見たことがない、美少女だったからだ。

6.足音は洗面所のすぐ近くまで来ていた。
それを耳で確認すると、静かに洗面所の隣にある浴室に移動する。
しばらくすると、洗面所のドアが開く音がする。
「あれ?」
そんな声も一緒に聞こえてきた。

7.一呼吸入れると、浴室のドアを開ける。
浴室に背を向ける形で立っている悪友の姿を目に捉えると、そのまま突撃する。
「なっ!」
驚愕したような小さな言葉を無視してそのまま羽交い絞めにする。
「てめ、離せ……」
声に合わせて体をゆすり俺の拘束から逃げようとする悪友。
しかし、今となっては力の差は歴然。
しばらくばたつくとおとなしくなった。
「相変わらず、小さないたずらが好きだな、お前は」
歯ブラシを加えながらそういってやった。
どうやら、今年は俺の勝ちだな。

8.「隠れてやがったな。汚いやつめ」
「寝たふりして、背後から忍び寄ろうとするほうが汚いだろうよ」
「……。分かったよ。悪かった。謝るから離してくれ」
「ふん。分かれば良いんだよ」
悪友を離すと、洗面台に向かう。
うがいをして歯磨きを終わらせる。
振り返ると、悪友は頬を膨らまし、むくれている。
「怒るなよ。お前が悪い。それは理不尽だ……」
俺の言葉は不自然に途切れる。
悪友の唇によって。
突然のことに固まる俺に悪友が一言。
「なに、驚いてるんだよ。へへ、今回も私の勝ちだな」

9.洗面所のドアの外には飼い猫がいる。
『朝っぱらからなにやってるんだ』とでも言うように
「にゃぁ~」
と鳴いた。
世間のことは知らないが、俺の一日は平和に始まるのだった。

おしまい。


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最終更新:2009年02月09日 01:14
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