『三角』

『三角』

1.今日は中学の同窓会だ。気がつけば卒業からすでに10年の時間が過ぎている。

高校入学とともに地元を離れた僕は、あの2人と会うのも10年ぶりになる。

また3人で楽しく喋れるかな?すごく楽しみだ。


α2.人間ってのは生まれからの選択肢って言うのは意外と少ないと思う。

生まれた時点である程度の道って言うのは決まってしまっているから。

まぁ、大方のことは努力すれば何とかなる時代になっていると思う。

だけど、性別は変えられない。そう思っていた時が僕にもありました。


β2.女体化現象。どうしてそういうことが起こるかはまだ判明していないらしい。

しかし、俺には関係ない。男が女になる。その事実だけが重要である。

なんて素晴らしいことか。


γ2.女体化現象。どうしてそういうことが起こるかはまだ判明していないみたい。

でも、私には関係ない。男が女になる。その事実だけが重要なことだから。

なんて忌々しいことか。


α3.僕には幼馴染が2人居る。小さい頃からずっと3人、一緒だった。

幼稚園の頃から漠然とだが、どちらかと結婚しようと決めていた。僕はどっちも大好きだったから。

多分2人とも僕のことが好きなんだと思う。

幼稚園の頃はどっちと結婚しようかなぁなんて無邪気に考えていた。

小学校にはいると、片方としか結婚できないことが判明した。僕の考えは蚊帳の外。理不尽だよね。

そして、中学。どうやら僕には再び選択肢が与えられたようだ。


β3.幼稚園。俺は絶対アイツと結婚しようと決めていた。事実プロポーズだってしたし。

小学校。俺の想いが世間一般には容認されないことを思い知らされる。随分荒れた。

中学。チャンスが周ってきたようだ。後はあのヤローをどうにか抑えれば良いだけだ。


γ3.幼稚園。私は絶対アノコと結婚しようと決めていた。事実プロポーズだってさせたし。

小学校。あの馬鹿は結婚できない。いい気味だ。これでアノコは私のものだと思った。

中学。ヤバイ。早くアノコを私のものにし無ければ。時間はもうそんなに無い。


4.僕の誕生日まで後2ヶ月と迫った10月。いつも通り、武君と京子ちゃんと下校する。

僕の右に武君。僕の左に京子ちゃん。2人を並べておくとすぐに喧嘩し始めるからこの隊列は基本的には崩せない。

「この馬鹿。さっさとここから居なくなりなさいよ!」

「なんだとテメー!テメーこそどっか行っちまえ!」

いや、これでも喧嘩は少なくなってる方なんだよ。

中学入ってからだいぶ減った。大人になったのかな?理由は良く分からないけど。

前は2人っきりで話しているところなんて見たこと無かったけど、最近は見かけるようになったし。

まぁまぁ、と2人をたしなめつつ、家路に着く。

じゃ、僕はここで。家に着いたので、いがみ合っている2人を置いて自宅に帰る。

2階の部屋に着いたのに、まだ2人の声が聞こえる。少しずつ遠くはなっていったけど。

なんだかんだで2人とも仲良いよね。そんなことを思いつつ制服から着替えた。


5.さて、と机につくと、最近の日課となりつつある、将来のことを考える。

童貞の男は15,16歳で女体化する。

どうして、こんなことになっているのか、未だ正確には判明していないらしい。

しかし、重要なことはそこでは無い。僕は選択肢を与えられたのだ。

このチャンスはしっかり使わなければならない。


6.清水武(タケル)少しがさつなところがあるけど優しい。野球部に所属している。今はキャプテンかな。

弱いものいじめが嫌いなガキ大将タイプだ。僕がいじめられているといつも飛んできて助けてくれた。

男の中の男って感じかな?


7.佐藤京子(キョウコ)活発だけど、周りを良く見ていて気が利く。今は生徒会に所属している。副会長。

周囲をグイグイ引っ張っていくタイプだ。僕が一人で外れていると、何気なく皆の輪に入れてくれた。

姉御さんって感じかな?


8.僕の人生はこの2人が居なければ随分陰湿な人生になっていただろう。

2人にはどれだけ感謝しても足りない。

自惚れるわけじゃないけど、2人とも僕が好きみたい。

この感謝の気持ちをその気持ちに応えることで返したいんだけど、如何せん、返せるのはどちらかだけ。

しかも、15、16を超えれば男と女の選択肢は無くなる。

この2ヶ月でどちらにするかを決めなければならない。

僕にはどちらかだけを取るなんて出来ないよ・・・。


9.「いい!?楓(カエデ)はこのまま男の子でいくの。アンタはどっか、行きなさいよ!」

「何を行ってやがる。楓は女体化して女の子になるんだ。お前こそ、どっかのDQNでも見つけろや!」

僕の机の隣前後を使って三角形でお昼を食べる。それに加えて、2人の言い争いはこのクラスの日常風景となりつつあった。

中学入ってからもいじめられそうになったことが有ったけど、

2人のパワー(力)とパワー(権力)のおかげで、僕は平凡な日常を手に入れることが出来た。

2人とも本当にありがとう。この日常はいつまでも続くと思っていた。


10.そんな日常に少しのゆがみが出来たのは僕の誕生日を一週間に控えた時のこと。

20時。携帯から着信音が響く。京子ちゃんからだ。

少し慌てたように、涙声の早口で京子ちゃんが喋る。

『武が、車に引かれたって・・・。』

僕は京子ちゃんと待ち合わせると急いで病院に向かった。


11.病室に着くと、『おう、2人してどうした?』

と案外元気そうな武君が居た。足はギブスで固められていたけど。

京子ちゃんが僕の陰で涙をぬぐっていた。

「なんだ、元気そうじゃない。心配して損したわ。」

「お前に心配される筋合いは無いね。」

「自惚れないで。あんたが死んで楓が悲しんだら可哀想でしょ。」

「はいはい。そうですねぇ~。」

なんて、やり取りをしている横で武君のお母さんに状況を聞いてみた。

少し車にかすっただけで、深刻なことにはならなかったみたい。右足は骨折しちゃったけど。

おとなしく治せばまた、野球も出来るみたいで、僕は一安心した。


12.時計をみるともう22時に近くなっていた。体があまり丈夫でない僕はそろそろ寝ないと明日に障る。

2人もそれを気付いてくれたみたいで、早く帰れと言ってくれた。

京子ちゃんに一緒に帰る?と聞くと、武にもう少し話しがあるからと、言われたので先に帰ることにした。

病室を出て、階段に向かう途中でマフラーを病室に忘れたことに気付く。

外は少し寒くなっていたので取りに戻ることにした。

病室はドアが開いていて、2人の話し声が聞こえた。


13.「で、どうするのよ?」

「何がだよ・・・。」

「楓のこと。あと一週間で誕生日よ。」

「そうだな・・・。それまでには退院出来ないかもな。」

「約束したじゃない。抜け駆けは無しだって。」

「そうだったな。でも、良いぞ。このまま放っておけば女体化しちまう。それはお前の本意じゃないだろう?」

「私に卑怯者になれって言うの?」

「そういうことじゃない。まぁ、俺も楓の一週間あとが誕生日だ。楓がもう男として変わらない状態になれば、俺が女になって楓を奪えばいい話だ。」

「・・・。アンタ、野球はどうするのよ?」

「・・・。」

「甲子園にはいけなくなるわよ?それでもいいの?」

「しょうがないさ。俺には運が無かっただけの話だ。少しお前にリードされちまうが、なに、お前が相手であればすぐに挽回して見せるさ。」

「その程度だったの!?アンタの野球にかける想いって!?」

「楓の前では、それぐらい・・・。」

「・・・泣くほど悔しいんじゃン。馬~鹿。」

「お前だって泣いてるじゃんか・・・。」

「アンタに女になられるのも嫌なのよ、私は。」

「贅沢なヤローだな。・・・でも俺だって、女になんかなりたくないさ。」


14.ああ、そうか。やっぱり僕は自惚れていたんだ。僕がどちらかと付き合えば恩返しになる?

なんて傲慢な考え方だったんだろうか。

僕は病室のドアを思い切って開けた。2人は驚いたように僕を見ている。

「僕はこのまま童貞のまま誕生日を迎えるよ。」

「それは女体化したいってことじゃない。」

「稀に女体化しない個体も存在するって言うじゃない。僕は男だろうと、女だろうと生きていくよ。」

「2人とも今まで本当にありがとう。僕はいつも2人に頼りっきりだった。これからちゃんと一人でも生きていくよ。」

「だから、2人も自分のことを考えて。」

「武君。女になりたくないのはなんで?野球もあるだろうけど、本当にそれだけ?」

「京子ちゃん。本当に女になって欲しくないのは僕?もう一度考えてみて。」

僕はきょとんとしている2人を病室に残し家に帰った。


15.翌日起きると、体がだるい。やっぱり睡眠時間が足りなかったみたいだ。

風邪でも引いたのか熱もあるみたいだ。

一週間ぐらいは学校を休むことになりそうだ。それは都合がよい。

お母さんに誰がたずねてきても僕の部屋に通さないでとお願いする。

携帯の電源も切った。後は運命の日を待つだけだ。


16.誕生日空けて始めての登校。

僕の姿を見た武君。喜ぶでもなく、なんとなくよそよそしく挨拶をする。

僕の姿を見た京子ちゃん。落胆するでもなく、なんとなくよそよそしく挨拶をする。

でも、お昼には三角でご飯を食べる。その時には2人は、いや、僕も入れて3人はいつも通りになっていた。

変わっているのは僕の性別と、2人の幼馴染の距離がちょっと近くなっていることだけだ。


17.誕生日を越えても武君は男のままだった。周囲に『楓とやっちゃったのか?』と馬鹿にされている。

武君はそんなことは無いと、軽く否定する。それでも周囲からのはやしたては終わらない。

そんな時、京子ちゃんが教室に入ってくる。あんたたち馬鹿にしてるんじゃない!とたしなめる。

あんた、男に恋人とられたのね、と今度は京子ちゃんが馬鹿にされる。

僕は静かに立ち上がると大きく息を吸った。

「やめろ!2人はつきあってるんだ!そんなわけないだろう!」


18.高校はわざと遠くのところにある学校を受けた。いつまでも2人に頼りっきりな訳には行かない。

それに、僕はお邪魔虫だしね。

ホントに寂しそうにしている2人に「どうぞ、お幸せにね。」と言葉を送る。

恩返し、少しは出来たかな?


α19.会場に辿り着くと、懐かしい顔が二つ。

武君は身体も更にがっちりして、頼りがいのある男性に。

京子ちゃんはスラリとした体のラインの、キレイな女性に。

いつまでも幼児体系な僕は少し悲しくなったけど、元気に手を振って2人に近づく。


β19.楓だ。本当に久しぶりだ。

やっぱり可愛いなぁと思う。と自然に顔がニヤけ、横のヤローに睨まれる。

ゴホンと咳払いすると、手を振り返してやった。


γ19.楓だ。ホントに久しぶり。

やっぱり可愛いなぁと思い、ふと隣を見るとニヤけてやがったので睨みつける。

ゴホンとか咳払いしている馬鹿を無視して手を振り返してあげた。


20.店に入るといつものように三角に座る。近況とか報告していると、

なんで、もっとこっちに帰ってこないんだと、2人から怒られた。

だってさ、大好きな人2人がラブラブな所。やっぱり少し見るのつらいんだよと。

心の中で、大切な大切な2人の幼馴染に対して文句を言ってみた。


おしまい。

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最終更新:2009年02月10日 10:33
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