「ふへえ、あったかい」
コタツに入って丸くなり、改めて冬の寒さとコタツの偉大さを実感する。
「お前なあ、家の人より先にくつろぐなよ……」
「まあまあ、勝手知ったる他人の家、ってなあ」
「いやいや、言い訳になってねーから」
山口は口をとがらせながら、俺の向い合うようにコタツに潜り込む。
山口からミカンを受け取り、皮を剥きつつ部屋の中を見回す。
何度となく訪れた山口の家。全て見慣れた物であるはずなのだが、どうも違和感を覚える。
「しかし何だな。全ての物が大きくなった気がするよ」
「あー、やっぱそうなんだ?」
山口もミカンを口に放り込みつつ、俺のことを観察する。
「“前は”180近くあったもんな、身長。それが今は………いくつだっけ?」
「158。まさか160にもなってないと知った時は、かなりショックだったんだぜ」
溜息。
いわゆる女体化というこの現象に、もれなく俺も被害を被ったワケだ。
それに伴う肉体の変化として、俺の数少ない長所である身長を持っていかれてしまった、という事だ。
「元気出せ。ほら、ミカンをやろう」
「わーい、って。こんなんで機嫌を取る気か貴様」
「だって、好きだろ?」
真顔で聞いてくる。いや、まあ、確かに好きだが。
けれど俺が固まっているのは図星だからじゃない。山口が真っ正面から目を逸らさずに、「好きだろ?」なんて訊いてきやがるからだ。
ええっと、別に深い意味はないぞ。ちょっとその、アレだ。コイツって天然だなと感心しただけだ。
あ、そうだ。
今までは身長のせいで出来なかったが、今なら出来るのではないだろうか。
なんて思い、試しにやってみることにする。
(よいしょ……)
今まではコタツの中で足を伸ばすと、反対側に突き抜けてしまっていた。しかし今の手足ならば、コタツの中で足がゆったりと伸ばせるかもしれない。
案の定、足を伸ばしていっても一向に反対側に飛び出す気配はない。
「おお……」
これならコタツで本当のリラックスができる。
と、思った矢先に山口の足にぶつかった。
「なぁーんだ」
考えてみればそうだ。他に人がいるってのに、コタツで足を伸ばせるはずがない。仕方なく足を元の位置に戻そうとして、気づいた。
「? 山口……?」
顔を風呂上りのように真っ赤にさせて、山口は俯いていた。
「ど、どうしたんだ?」
「なん……っ、なんでもない!」
なんでもないワケないだろう。ちょっと前までは普通にミカンを頬張っていたヤツが、今はこうして茹でダコみたいな顔してるってのに。
「………、ははぁーん?」
えい。
「っ!」
つんつんとつま先で山口の足を突っつく。予想していた通り、山口の引きかけていた顔の赤みが元通りになる。いや、もしかしたらさっきより赤いかも。
「んふふふふ………」
自分でも意地悪な顔をしていると分かる。
それでも止められない。むしろ、
「えいえい」
つんつん。
「―――………っっ!! だああっっ!! 止めんかお前!!」
「おお、怒った」
「怒るわ! 貴様、自分が何してるか分かってるのか!?」
「分かんないなぁ。俺、何してるの? 教えてくれよ」
「――――ぬぅ………っ」
言い返せないようだ。
しかし、ふむ。これは良い事を知った。奴の以外な弱点。
この弱みさえ掴んでおけば、もうヤツのペースに強引に付き合わされる事もないだろう。それどころか……ふふふふ。
今から色々と楽しみだ。
最終更新:2009年02月10日 11:05