1.「マジで誰もいねーのか……?」
「いるってば!シカトしないでよ!もう!」
「ご、ごめんって!そんなに怒ることないだろうぉ……」
「怒ってないよ……。ただ、誰もいないなんて寂しいこと言うから……」
「俺が言いたかったのはだなあ、その……えーと、俺と、お前以外に、誰も居ないって事だよ……」
「べ…別にあんたのために一緒にいるんじゃないんだからね!?ただ、ここを護りたいから……」
「わ、わ、分かってるよそんな事!あーつまりだな、何が言いたかっていうと……」
「何?」
「いや、その……。だぁ!今はそれどころじゃねぇ!早くココから脱出する方法を考えなくっちゃいかん。」
「分かってるわよ!」
2.「これってさ、結構やばくね?」
「やばいかもね……」
「ワリィな、俺のせいで……。さっきも感情的になりすぎた……」
「ううん、私だって。それに自分で決めてついてきたんだから、気にしないで」
「そうか……」
「……」
「やっぱり無謀だったかね」
「そうかもね」
「俺さ、ココにすげー思い入れがあるんだよ」
「うん」
「お前と初めて会ったのもここだったよな」
「そうだね。懐かしい」
「もう5年ぐらい前だっけ?」
「それぐらいかもね」
「そん時はお前、男だったしな。」
「ふふっ、そうだね。男の方が良かった?」
「さあな、どうだろう。」
「私は男の方が良かったのかも」
「なんで?」
「だってさ、最近あんまり話してくれないし。」
「そうか……?」
「そうだよ。」
「まあ、そうかもな。なんか、ちょっと照れくさいって言うか」
「今更?」
「今更だからだよ」
3.「お前、ココ来るってこと誰かに言ったか?」
「ううん。誰にも。だって、悪いことしに来たわけだし。黙って出てきたよ」
「そうだよな……。俺も誰にも言ってないな」
「私の携帯は圏外だし……」
「俺の携帯も圏外だよ」
「誰かが気付いてくれるのを待つしかないか……」
「そうだな。この穴、登れそうにもないしな」
「うん」
「登ればすぐに外なのにな」
「そうだね。でも、そういう時こそ、近くに見えるものほど、却って遠いものなんだよ」
「なんだ、随分哲学チックだな」
「そういう気分の時もあるよ。特に今は時間は山ほどありそうだし」
「確かにな」
4.「俺たちがいないって、そろそろ分かる頃だろうし、誰か見つけてくれるかもな」
「そうだといいわね」
「……」
「……」
「最近お前なにしてた?」
「学校でってこと?」
「そう。学校で」
「なにって言われても困るけど……。普通に皆と喋ったり、遊んだりしてたよ」
「女の子と?」
「そうだね。最近は女子と一緒に居るのが多くなってきたかも」
「すっかりなじんでるな」
「そうじゃないとやっていけないよ。」
「なんか、お前が女子と一緒に居ると話し掛けづらいというのもある」
「なにそれ。言い訳?」
「別にそういうわけじゃないけどな」
5.「……。今何時だ?」
「うん……。携帯の電池切れちゃった」
「俺の携帯もだ。結構時間経ってるよな?」
「そうかも。」
「誰も来ないな……」
「来ないね」
「お前さ」
「なに?」
「なんで、こんなコトに付き合ってくれたんだ?」
「言ったじゃない、私にもココが大事なところだから護りたかった。それに……」
「それに?」
「久々に誘ってもらって嬉しかったから……」
「そうか……。もっと早くちゃんとしたところに誘えば良かったな。」
「それって……」
「うん、決めた。ココでれたらどっかに遊びに行こうぜ。二人で」
「本当に……?」
「ああ、約束だ」
6.「さて、約束を守るためにはココから出なくっちゃな。さて、どうするか……」
「あっ、それならもう大丈夫」
「ん?それってどういう意味……」
「もしも~し。あっ、私。ごめん、実は今解体工事中の小学校に閉じ込められちゃってさ。助けてくれない?
うん。なんか、床が抜けちゃってさ。うん。ごめんなさい。大丈夫、怪我は無いから。うん。後で、ゆっくり怒られるから取り敢えずは……。
うん。分かった、大人しく待ってる。」
「お前……。圏外だって、電源切れたって……」
「まあ、いいじゃない。つり橋効果ってやつ?」
「おまっ!」
「さてと、出れたら約束、ちゃんと守ってよね?」
小学校を護りたかったのは本当。でも、途中で気づいちゃった。大事なのはそんなことではない。
古いものはいつかは無くなる。それは寂しいことだ。でも、それは新しいものを作るにはしょうがない。
思い出の場所はなくなってしまう。それは寂しいことだ。でも、そこでの思い出はなくならない。
昔の私とあんたの思い出が始まった場所。その最期に新しい私とあんたの思い出が始まる。
なんだか、悲しいけど。なんだか、嬉しくって。
隣でむくれている顔は昔と変わらないけれど、横でそれを見ている私の笑顔は昔より嬉しそうになっているんだろうな。
おしまい。
最終更新:2009年02月10日 11:13