安価『誕生日が大晦日』

1.今年も終わりまで後数時間。榊からの誘いの電話を切る。
去年と同じように、同じ時間に準備を終える。時間を確認すると出発の予定時刻。コレも去年と同じだ。
アイツも去年と同じように準備をしているのかな?

2.今年も終わりまで数時間。
出発予定時刻。俺の携帯が揺すって、メールの着信を告げる。
くそ寒い外に備えてフル装備の俺は動きづらい身体を何とかゆすって携帯を取り出す。
『ごめん。やっぱ、今日いけない。』
はっ?
思わず声が出そうになる。何を今更……。

3.年末の空気が漂い何処かよそよそしい教室。他の生徒に習ってカバンに教科書を詰め込む。
他にも学校で年を越させるわけにはいけないあれやこれやをカバンに入れるといつもより随分重くなった。
そんな時、俺の机の側にのんびり向かってくるやつが一人。榊だ。
アイツが静かに寄ってくる時は何かよからぬことを考えている時だけである。
少々げんなりしながら立ち上がるのを止めて到着を待つ。
「やあやあ、田嶋クン。」
「榊か……。なんか用か?」
「俺らも高校生じゃん。」
「そうだなあ。すでに7ヶ月ちょっと経ってるが。何を今更。」
「それでだ、今年の年越しは神社で年越しと洒落こまないか?」
「……。男二人で、くそ寒い境内で年越しをするということか?」
「そういうことだ!」
「嫌だ。メンドくせ。」
「まぁまぁ、田嶋クン。確かに俺ら二人では寂しいよ。でもだ、同じような女の子二人組みが居るかもしれないだろう?」
「百歩譲って、居たとしよう。それで、俺ら二人に影響があるか?」
「なんで?声かければオトモダチになれるかもよ?」
「声かけられないだろうよ。俺もお前も。」
「そうかもしれないが……。」
「ということで、却下。家でコタツで過ごすよ、俺は。」

4.なんて、やり取りが合ったはずだ。
最後はいつも通り榊がわがままを言って、俺が了承するといういつものパターンにはまったが。
12月31日の今日。これから神社に向かって出発する、はずだったのに……。
電話をいくらかけても出ない榊をメールで説得すること30分。
なんとか説き伏せると待ち合わせ時間を30分遅らせて予定通りに神社で年を越す事になった。

5.よくよく考えてみると、家で静かに年を越したかった俺がムキになっているのは何故だろうか?
コートを脱ぐのがメンドくさかったからだな。うん、そうだ。
そんな事を考えながら待ち合わせ場所にて榊をまつ。
5分。10分。
寒い。来ない。榊よ……。何をしている……。俺を凍死させる気か……。
携帯に電話をかける。やっぱり出ない。
寒さに手がかじむが、なんか、色々と意地になってかけ続ける。

6.そんな時、後ろから肩を叩かれた。
振り返ると、優しい目をした女の子が一人。
少し大きめのコート。女の子らしくないシンプルなマフラー。手袋も真っ黒。全体的に色のない格好だ。
「そんなに、電話かけなくても分かるよ……。」
見ると、右手には携帯電話。
えっ?と……。
目を凝らしてもう一度みる。コートは左が上だ。手にした携帯は見たことがある。
まさか……。

7.そんな衝撃的な年越しも去年のことか。
光陰矢のごとし。一年は早い。
大きく変わってしまった榊となにも変わっていないはずの俺との一年は、去年の一年とは少しだけ変わってしまった。
まさか、今年も年越しに誘われるとは思っても居なかった。
そして、その誘いにのりこうして同じように待っている俺はきっと、
電話をもらった勢いで来たコートを脱ぐのがメンドくさかっただけだろう。うん、間違いない、きっとそうだ。
「田嶋~!」
声に振り返ると榊がのんびりと歩いてくるところだ。
静かに寄ってくる榊をその場から動かずにまつ。
今年の年越しもなにかありそうだ。
いや、榊が何もしなくても俺が何かを起こすだろう。

来年も榊と楽しく過ごせますように。
ちょっとフライングして、願掛けをしてみた。

おしまい。

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最終更新:2009年02月10日 11:19
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