「あー、鈴木、明日も行かないか? あそこ」
「んー、そうだな……行くか」
とある高校の2年の教室で、男二人が所在無げに教室の隅で話をしていた。
というのも、この世界の圧倒的な男女比率の差では、どうしようもないことか。
教室の約9割が女子生徒で埋まっている。それはこのクラスに限ったことではなく、
この学校、いやもっと言うと日本全体の高校で当然のように見られる光景だった。
「おいお前ら、なにこそこそ話してんだよ?」
教室の隅に縮こまっている男子生徒に近づいていくのは、さわやかな雰囲気を持つショートカットの女子生徒だった。
制服であるブレザーに身を包み、チェックのスカートを履いてはいるがミニにしている様子も無く、普通に膝下丈のスカートだ。
「あぁ、アキラか、正直お前には話したくない」
アキラと呼ばれた女子生徒は、邪険に扱われて少し目つきを鋭くし言い返す。
「何だよ、つれないなぁ、鈴木も田中も、つい先月まで友達だったじゃない?」
「って言われても、もうお前女になっちまったし、こういう言い方はあれだが、別の生き物だろ……」
別の生き物、鈴木にそう言われて頭にきたのか、アキラは机をバンと叩き、声を荒げつつ言葉を放った。
「別の生き物ってなによ!? 男が女になったらそりゃ付き合いづらいとは思うけど……ひどすぎ!」
鈴木はアキラに睨まれて少したじろぎ、ショックを受けたのか押し黙ってしまった。
すると田中は二人の間に入るようにやわらかく声をかける。
「まあまあ、鈴木も言いすぎだったし、ちょっと女には言いづらい内容なんだよ……たとえ元男でも、そう簡単じゃないしな」
「そりゃ、そうだけど……でも、こそこそ話してたら気になるじゃない?」
じゃあ、と、内緒話の前置きを言って、アキラをちょいちょいと手招きし、田中は囁くように顔を近づけた。
その時、アキラは顔を少し赤くして、それでも気にせず話を聞く体勢になった。しかし、囁かれた言葉は想像を超えるものだった。
「光源氏計画って知ってるか?」
その言葉を理解するのに、アキラは数秒を要した。
そして理解した瞬間に、口をついてつい出てしまった言葉は……。
「このロリコンどもめ!」
しかりつけるような口調で二人に、アキラは今度こそ顔を真っ赤にして言うのだった。
「だがなぁ、社会に出たら女の3割は元男だ。俺は元男と上手くやってける気がしないんだよな……特に結婚とか」
鈴木は呟いた。田中もうんうんうなずきながら同意していて。
「そんなの、やってみないとわからないじゃない……元男がダメなんて」
言いつつ、ちらちらとアキラの視線は田中に向いていた。
と、そこで鈴木は、気づいた。アキラの視線にだ。
そして、鈴木は苦笑しつつ、誰に向けるともなく呟く。
「こいつを落とすのは大変だぞ?」
<終>
最終更新:2009年03月01日 15:57