安価「夏の終わり」

夕日が沈む海岸線を2人は歩く。そしてその前を女の子が走っていく。
「ねぇ。あなた。夏もそろそろ終わりね。」
「あぁ。そうだな。」
「思い出すわね。あの夏を。」
「あぁ。そうだな――」
あたしは海を見ながら「あの夏」を思い出していた。

うるさく蝉が鳴いている。
ジリジリと肌を焼く太陽はもう真上まで上っていた。
やっとの思いで親友宅にたどり着いた俺は貰った麦茶を一気に飲み干す。
「ご苦労様ー」
      • 涼しい顔して言いあがって。
「そりゃ、クーラーガンガンに効かせた部屋に居れば暑いわけないじゃん」
読まれてる。
ずっと一緒に居るとわかるものなのか?
俺とコイツ、良は幼馴染だ。
ウチの母さんと良の母さんが友達だから本当に小さい頃からよく遊んでいた。
      • と母さんから聞いた。ガキの頃の記憶なんてあるわけない。
何かもう余計な事考えてたら眠くなってきた。。
「俺寝るわ。おやすみ。」
「んあぁ。」
俺は良のベットにダイブし、そのまま眠りについた。



俺は夢を見た。
暗闇の中、俺と良が楽しそうに走っていくんだ。それを俺は眺めている。
でも、俺は良の隣で楽しそうに笑っているのに、俺はなぜか置いていかれた感があって淋しくなった。
わからない。何故だかはわからないけど。
つぅっと涙が俺の頬を濡らした。


「おい!起きろよ!おい!」
「・・・なにぃ?」
俺は自分が発した言葉にびっくりした。
声が高くなってる。。。
「お前!女体化してるぞ!」
      • 嘘だろ?
「ごめん。今日はもう帰るわ。」
「ん。あぁ。。」
良のその言葉を聞いて俺は亮の家を飛び出し、走ってウチに帰った。



うちに着くと階段を駆け上がり、そのまま部屋に閉じこもった。
いつかはこうなってしまうってわかってはいた。
わかってたいたけど、あまりにも突然のことだったからもう何かよくわかんない。
いいや、疲れた。
寝よう。
でも、あの夢は何だったんだろう。
とても、とても良が遠くに行ってしまうような気がした。


「おい。遊びに来たぜ。」
聞きなれた声がして目を開ける。
      • 良が目の前に。。。って!
どうしよ!あたし寝癖つきっぱなしだし!涎たらして寝てたかもしれないのに!
「ちょ・・勝手に入らないでよ!あたしにだって準備がぁ。」
「気にしない、気にしない。」
「は?何でよ?女の子の部屋に勝手に入るのは非常識だと思うんだけどぉ。」
      • 沈黙。
「ごめん。お前。女の子になったんだったな。俺、リビング居るわ。準備できたら呼んで。」
「ぅん。。」
バタン・・と音を立ててドアが閉まる。
      • あたしは良との距離を感じた。
男と女ってだけでそんなにかわるものなの?
あたし、良を傷つけちゃったかもしれない。。
せっかく心配して来てくれたのに。せっかくいつも通り接してくれたのに。
あたしは自分が情けなくて涙が出てきた。

そのとき、階段を誰かが上がってくる音がした。
バン!とドアが開き、良がいきなりあたしを抱きしめた。
「ちょっと。離して。」
「イヤだ。だって俺がいないとお前泣くだろ。」
      • なんでわかっちゃうのかな。
「俺は・・俺は。性別が変わってもお前を親友だと思ってる!」
その言葉にあたしの涙腺は決壊した。
「あたしっ、りょっうがっ・・」
「わかった、わかった。」
      • なんでコレだけは伝わらないんだろう。
あたしは良と親友じゃイヤ。もっと、確実にずっと一緒に居たい。。
「なぁ。お前は俺のこと嫌い?」
あたしは首を横に振る。
「あたしは、良が好き。さっき酷いこと言っちゃったのわぁ・・」
もう、涙であとが続かない。
良はあたしをもっとぎゅっと抱きしめる。

まぁ。。。
これから色々とあったわけで。。。
良はめでたく童貞を捨てて。あたしは良の彼女になった。
そう。。
もう少しで夏が終る。
でも、あたしの中でこの夏は一生終らない。
きっと――


「パパー!ママー!早く来て!」
娘の声で現実に引き戻される。
「はいはい。今いくわ。良。いきましょう」
「あぁ。」
良はそっけなく返事を返した。
そしてあたしの手を引いて歩く。
そう、どこまでも続く、夕日の沈む海岸線を。
いつまでも終らない「あの夏」を過ごすように。

―終―


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年04月02日 22:14
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。