『お家騒動』

9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/12(木) 20:44:17.01 ID:chyYYG9J0

昔、昔とあるところに1つの国がありました。その国は先人を敬い文化を非常に大事にし謙遜を美徳としており
それなりに平和に暮らしておりました・・

今回はそんなお話。


朝廷の腐乱によって引き起こされた政権争いから起きた戦乱の世の中を彷徨いながらも何とか切り抜けつつ、
貴族になり代わり侍が政権を握ったのです。彼はその全ての頂点に位する第16代目将軍・・平塚 明人、正式
名称はもっと長いのですが物語の都合上省略させて貰いましょう。彼は明人将軍の友人でもあり側近でもある
大老の十条 英彦、彼もまた正式名称が長いので(ry

「ふぅ、朝廷との話し合いも無事に済んだようだ」

「将軍は大変だからな」

「一応は政権を握っているとはいえ朝廷の歴史はかなり長い・・こちらもある程度譲歩しなければ納得はするまい」

長きに渡る腐乱を引き起こすのは何も朝廷だけではありません、政権を獲得した侍もまた同じ道を歩みつつある
のです。この明人将軍はそのような歴史を再び起きないように英彦大老と一緒に過去の歴史を学んで反省を
活かしながら将軍になって以降は様々な政策を打ちたてて庶民の安定とと組織の腐敗撲滅に一心を注いできました。




13 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 20:47:31.90 ID:chyYYG9J0

しかし朝廷にも意地があります、かつて政権を握っていたのは他ならぬ朝廷ですしその歴史の長さは容易なる
ものではありません。

「しかし大政奉還を目論んでいた連中を幕府や藩以外の組織・・ご意見番として活用させるとはな」

「彼等とて半端な覚悟で政権をひっくり返すとは考えては居ないだろう。それに幕府に天誅を企てようとはしたとは
いえ、この国を憂う気持ちは同じだろう・・

それに下手に粛清を加えてしまえば昔の大老のような大獄を起こしてしまう」

「まぁな・・」

平塚将軍が就任する前、幕府は存続の危機が危ぶまれた時がありました。発端は後に安政の大獄と呼ばれる
出来事から始まり逸れによって粛清された人数は幕府が知る限りでも100人以上は上るといいます、その怨念が
長い年月を掛けて一気に爆発したのが大政奉還・・クーデターを目論んだのです。

しかし平塚将軍と十条大老の柔軟な発想及び幾多に及ぶ対話の末に何とかこれを抑えつつ長きの歴史に渡る
幕府の執権と権威を守り通しました。そして大政奉還を目論んだもの達は本来なら打ち首や島流し等の重罪に
しかねない考えを持つ幕府の強硬派を抑えつつ平塚将軍は幕府以外の外部組織・・ご意見番を作り上げ
そこに大政奉還を目論んだ侍や蘭学者達を投入させてひとまずの終焉を終えます。

この政策に幕府はもとより民のほうも反応は様々でこれから更なる混乱を呼びそうですが肝心の平塚将軍は
別の事を考えていました。



14 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 20:57:00.86 ID:chyYYG9J0

「しかし大政奉還には予想以上に随分と手を取られた、早急に飢饉や農民対策をせねばならん」

「未だに大塩の乱みたいな大規模な一揆は起きてはいないが確かに農村対策も考えなければな。
それに前々から考えていた商人の権限についてはどうするつもりだ?」

「今の所は根幹部分を変えるつもりはない、ただ金の貸借制度を整える。農村対策についてはご意見番を活用させて貰う」

平塚将軍は常に周りの意見を聞きながら自分が考えた政策を立て直しますが・・老中の十条はここ最近になって
ある杞憂を覚えます。

「色々考えてるのは結構だが・・息子のほうはどうするんだ? 
そろそろ家督を譲っても良い時期だとは思うんだが、いつまでもお前が将軍だと後に弊害が出るぞ」

「悪いが今の所はない、慶太は確かに能力もあるし人柄も良いが所詮はまだ青二才の若造だ。
元服したとはいえ、まだ将軍の器ではない」

「・・お前がそう言うなら仕方ない。もう暫く任せる」

将軍も決して楽ではないようです。



15 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:03:13.96 ID:chyYYG9J0

とある城下、人々は様々な理由を持ちながらこの城下で生活を営んでいます。そしてその活力源になるのが娯楽・・人々は舞妓の姿に酔いしれながら過ごしておりました。

「次は皆さまも良く知る我が国の花形であり名将の奥方様でもある・・平塚 沙織様の舞台です」

「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」」」」」」」」

この国の伝統でもある舞妓の芸、その花形を勤めるのが平塚 沙織・・現将軍、平塚 明人の奥様でもあり
結婚前は国中では知らぬものはいない超人気の舞妓さんです。明人将軍との結婚については当初はかなりの
話題となりましたが今では周知の事実で誰もが羨むおしどり夫婦として世間には認知されております。

さて、沙織姫の前職はこの通り舞妓さん・・彼女が出る舞台は常に満員御礼で今回の舞台も客席はぎっしりと
埋まっています、沙織姫は将軍の妻と言う立場にありながらもこのような舞台に立てる事に常日頃から幸せと
言うものを実感しておりました。

「皆々様方お待たせいたしました・・私、平塚 沙織の舞いをご覧下さいませ」

皆の衆、湧きあがる興奮を何とか胸の奥に押さえ込みながら沙織姫が魅せる華麗な舞いを静かに見守るのでした。

17 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:08:16.19 ID:chyYYG9J0

舞台が終わった後、沙織姫は皆の衆に別れの挨拶を済ませ舞台に出た全ての舞妓や更には裏方にまで
丁寧に挨拶をしながら裏の方へと消えていきます。沙織姫は着物もそのままに幕府が用意した籠に乗り
ながら明人将軍の待つお城へと戻ります、やはり沙織姫は幕府にとっても重要な御方・・警備の方も
かなり厳重で行動もかなり制約を強いられます、こういった舞台に立てるのは奇跡に近いでしょう。

「ふぅ、こんな立場になっても昔と変わらずに舞台が出来るのは幸せなものだ」

籠の中で揺られながら沙織姫は一息つきます、今の自分の立場は紛いなりにも一国のお姫様で昔みたいに
舞台に立っているのは本来なら許されるはずがありません。だけどもそれが出来るのは他ならぬ明人将軍が
色々なところに口利きしてくれたお陰で条件付ですが今のような環境が成り立っているわけです、まぁその
条件と言うのが姫らしく立派に振舞うと言うことですが気品の良い沙織姫なら大丈夫でしょう。

しかし沙織姫には少しばかり気がかりがあります・・

「子供達は女体化があるこのご時世・・どうやって進むのだろうな」

女体化、この世界には15、16歳位までに童貞を捨てなければ女体化してしまうという病が昔からあって
この国の人々はあまり良い感じはしておらず昔から色々偏見がありまして実はと言うと沙織姫も女体化した身で
様々な苦労を強いられていました、その現状を知っていた明人将軍は女体化の制度を色々と設けながら
少しでもこの国から昔ながら残っている女体化への偏見を取り除こうと奔走はしているのですが・・
長年続いたしがらみというのはそう簡単に解消できるはずがありません、沙織姫は一度自分の出自を
明かそうかと明人将軍に提案をして見ましたが市民の混乱を予想した明人将軍はまだ時期が早いとこの
提案を却下されました。

やはり女体化と言うのはそれだけ難しい問題のようです。

「ま、時期はまだまだと言うことだな」

無理矢理結論付ける沙織姫ではありましたが・・その口調はどこか寂しそうなものでした。

19 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:10:49.67 ID:chyYYG9J0

さてこんな夫婦にも子宝には恵まれており、一男一女の構成です。過去には大奥といった将軍様専用の
古き機関が設けられていたのですが明人将軍は世継ぎ問題や権力問題の弊害を考え長くから続いた
この仕来りを廃止致しました。

さてその子供達ですが長男坊と次男坊がおられましたが次男坊の方は早くも女体化をしてしまって
今では立派なお姫様です、そのお姿は沙織姫と大変酷似していて一部の幕府関係者の中にはぞっこんに
なっている者がいるという噂です。
さてさてそんな長男坊ですが、名前は慶太・・その性格はというとかなり活発な部類に入り、親譲りの頭脳を
フルに活かしそれなりの人徳と実績を積み重ねているようです。そんな慶太様は現在日課である竹刀の
素振りを終えて一息ついておられました。

「ふぅ、日課の素振り300回終わりっと・・やっぱり侍には刀が必要なのかね」

戦が久しいとはいえ侍が天下を支配するこの時代はやはり刀が必要なようです、慶太様は明人将軍の子供と
言う立場上からある程度の警備はつけられてはいましたが、それでは限界があるのでこうやって身を守るために
幼い頃から徹底的に稽古をさせられているのです。そのお陰か自衛は勿論の事、戦に出ても文句なしのレベル
のようでそんじょそこらの忍びならば平気で倒せるぐらいです・・が、本人はあまり好戦的な性格ではないようで
地力に関してはまだまだという声もちらほらなようです。

まぁ戦に関しては一揆と除いてはここ数十年近くは大規模に発展はして居ないようなので無理もないことですが・・
何はともあれ慶太様はそれ相応に大事に育てられているようですね。

しかし慶太様には欲求不満が溜まって居るようです・・




20 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:12:28.27 ID:chyYYG9J0

「若、いつもお疲れさまでございます」

「爺やか。・・ということはまた親父か」

「左様でございます」

この老人は古くから将軍家に使える御三家の一人の者でこう見えても若い頃は元はお庭播州の隊長で裏から
幕府を支え続けておられました。彼の隠居後に慶太様がお産まれになり明人将軍から直々に慶太様の教育係に
任命されることになったのです、それ以降から彼は色々悩まされつつも慶太様の全てを教育されていました。

「しかし暇だな・・久々に城下へ繰り出すのもいいな」

「い、いけませんぞ!! 城下は未だに危険が一杯です、少しはご自分のお立場を考えてください!!!」

爺が声を荒げるのも無理はありません、城下にはいろいろな場所がありますがどれも一概に安全とは言い切れません。
それに慶太様は他ならぬ明人将軍のご子息・・警備に関してもかなり厳重で行かなければ安心とはいい切れません
し、沙織姫の巡業の場合も影ではかなりの者を動員して警備に当てています。将軍家と言うのは行動するだけで
大きいものなのです。

しかし慶太様のフラストネーションはそう簡単には収まるはずはありません、人間と言うのはやめろと言われたら
なお更やりたくなるものです。

更に慶太様は憂鬱になる理由がまだおありのようです・・

23 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:16:50.75 ID:chyYYG9J0

「そういえば來夢、もう少しであいつと私の婚約の時期ね」

「そうだね。兄貴と香織さんって許婚だったよね。どうするの?」

「どうもこうも・・従うしかないでしょ」

香織姫は既に諦めて半分、不安半分と言った表情ですが・・しかしその奥底からはどこか嬉しそうな感じがします。

「僕は2人の結婚については賛成だけど・・香織さん、いい加減素直になったら? 
本当は一刻も早く兄貴と結婚したいんでしょ」

「そっ・・そ、そんなわけないでしょ!!! だだだ、誰があいつなんかとッ――!!」

「じゃあ、兄貴が他の公家の娘さんと婚姻したらどうなの?」

「・・嫌」

見ての通り香織姫は慶太様同様に喜怒哀楽が激しいものの、それ以外では慶太様と同様に普通のお姫様で
あられました。ただ慶太様と違っていたところはその気持ちです・・香織姫は幼少の頃から慶太様と喧嘩や
口論ばかりしておられましたが、なんだかんだ言いながらも慶太様の事を誰よりも想っておられる優しいお姫様なのです。ただその性格が災いしてか慶太様の前で素直になれた事は数えるほどしかございませんが・・

その事を一番良く知っている來夢姫は何とかお2人の間を取り繕うとあれやこれやと助言をしておられました。

「兄貴は凄まじく鈍感だけど・・内心では香織さんと同じ気持ちだよ。だから頑張って」

「ありがと」

香織姫の受難はいつまで続くのでしょうか・・




24 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:18:41.09 ID:chyYYG9J0

城下、それはこの国に住む人々が営みつつも複雑に交差しあうもので一見として不思議のようにも見えますが
それも人間が持つ最大の特徴でもあります。幾多に及ぶ歴史の中で女体化に戦・・時には変革がありましたが
時代はとりあえず平穏を許しておられました。

この国の頂点に登っている明人将軍は全ての民の平穏と幸せを目指しながら日々あれやこれやと政策を
考えており、民もまたそんな明人将軍を敬い感謝しながら日々の生活を送っておられました。

「翼、今回の剣術は凄まじかったな」

「明もよくバテなかったのが凄いと思うよ」

いつものように道場からの剣術稽古から解放されて帰宅するまだ若き武士2人・・彼等の名は大前 明、鳥山 翼といいました。

「めんどい道場も終わったことだし・・翼はこれからあそこで飯食べるのか?」

「うん、つつじの家は飯屋やってるからいつものようにそこで食べるつもりだよ」

「そういやお前あそこの家で張り倒されそうになったな!!」

「やめてよ。僕だって思い出すだけで辛いんだから」

翼は飯屋を営んでいるつつじとはそれなりの仲ですがつつじの両親もとい父親は長年の歴史がある飯屋の
おやっさん。この時代には余り珍しくはない元来からの職人気質でつつじとの交際を報告しようとした翼は即座に
ボコボコニやられつつじが居なければあえなく刃物沙汰寸前までなるところでした。

このような経緯と自分の未熟さが露になったと感じた翼にとって、未だにつつじの父親は苦手なようです。



25 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:20:29.59 ID:chyYYG9J0

「悪い悪い。それにしてもお前は将来が大変そうだな」

「まぁね。明こそ元服してからは侍になるの?」

この時代は元服と言う言葉にはかなり敏感です。何せ家督が優先される時代ですから元服して大人になれば
家はともかくとして当の本人達もかなり重要になってくるからです。そのような背景がある故に女体化は
疎まれる傾向が未だにあるようですが・・翼の言葉に明は少し難色な表情を示しておりました。

「俺ん家は代々から続く商人の家系だからな。元服したらやっぱり家を継げって言われそうだ」

「でも明は剣術も真剣にやってるし・・」

「まぁ、今の将軍になってから色々改革はされてるけど今度は商人にとって厳しくなるから元服が近づいている
今になって俺に期待が掛かってるんだよ」

「明も色々と複雑なんだね・・」

「でもあの将軍のお陰で平和になってるんだからこれからも安泰さ。さてしけた話になったがお前に付き合ってやるよ」

「ハハハ」

時代は平和な世の中になったとしても人は課せられた運命と闘って行かなければならないようです。
明と翼はそれを少しずつ感じながらもつつじの家へと行くことにしました・・



26 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:32:35.73 ID:chyYYG9J0

つつじの家が営む大衆食堂、お客の方も様々な方がいらっしゃいますがその中でもお侍さんの数が
多いようです。つつじは家の手伝いをしながらたくましくも懸命にやっていました、明と翼はいつものように
適当な席に座りながらつつじが運ぶ料理に目を輝かせておりました。

「はい、翼が焼き魚定食と明君が山菜天ぷら蕎麦ね」

「いつもありがとう。つつじ」

「別にいいわよ。・・早く私達の事をお父様に認めて貰わなきゃ」

「そうだね」

翼はいつものようにつつじにお礼を言いながら焼き魚定食に手をつけます。対する明の方は一心不乱に
山菜天ぷら蕎麦を食します、どうやらそっちに関しては寂しい思いをしているようです。

「この蕎麦はうまいんだよな!!」

「明、がっつきすぎ・・」

明の姿に少し失笑しつつも翼も焼き魚定食をゆっくり食べます、その味は・・食べてみたいです。
そんな料理が沢山並ぶこの食堂はこの城下ではちょっとした人気でした、そういった店ではありますから
お客さんの出入りも激しいものです。



27 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:35:06.83 ID:chyYYG9J0

「いらしゃ・・あ、お來ちゃんに香織さん」

「どうも、ほら香織さん」

「え、ええ・・」

新たに店に来た2人の女性、その名はお來に香織・・見ての通り城下へお忍びに来た來夢姫と香織姫です。
それにしても2人とも町民に変装はしているとはいっても名前まで偽っている來夢姫はともかくとして名前も
そのまんまの香織姫は少しばかり危ない気もしますがそこはご都合主義という名のお約束でしょう、彼女達も
適当な席に座り料理を注文します。

「僕はきつねうどん。香織さんは?」

「そうね・・揚げ出し豆腐にしようかしら」

「きつねうどんと揚げ出し豆腐ですね。それじゃ少しお待ちください」

注文を受けたつつじはパパッとその場から立ち去ると香織姫はいつものような表情とは違って少し暗めの
表情です、どうやらまだ慶太様との婚姻について思い悩んでいるようですね。

「香織さん、まだ気にしてるの」

「だって・・あいつとのやっぱりいざ結婚とか考えると不安になるわよ」

「まぁ、大丈夫だとは思うけどね」

そうはいっても香織姫の杞憂はますます広がる一方です、そんな心境なのかか運ばれた料理にも余り喉を
通さない香織姫・・その一方で当の悩みの種である慶太様はと言うと最近流行っている牛鍋屋におられました。
慶太様はそのまま牛鍋を3杯平らげると香織姫と同じようにこれからの将来について思い悩んでおりました。



28 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:36:19.23 ID:chyYYG9J0

「全く親父も勝手に許婚を決めやがって・・母さんも面白おかしくからかいやがって」

自然と胸の内に鬱憤が堪っている慶太様の片手にはお猪口が乗っており、自然と酒が進みますが・・しかし
所詮は一人なので仕方がありません。

「なんで俺ばっかがこんな目に遭うんだよ畜生!!!」

性質の悪い酔っ払いになりつつある慶太様、しかしこの店にはつつじの店とは違って様々な客層が
いらっしゃいます。慶太様のお父上であられる明人将軍が大政奉還を収められたとはいえ、その傷跡が
未だに癒えれぬこのご時世・・代表的な攘夷志士達は幕府とは別の第三者の組織、ご意見番に
取り込まれたとはいってもその残党は職業を問わずしていろいろいらっしゃいます。

「畜生!! 我等の大義があのような形で頓挫するとは!!!」

「桂先生も桂先生だ!!! あの蛮行将軍の言いなりになるとは・・」

「この国の未来のためにも薩摩三志士の我々が立ち上がるしかない!!!!!」

言っておられる事は大層なものですが、彼等の格好は筋骨隆々で顔や身体には至るところに痛々しい傷痕が
目立ちます。彼等の職業は主に表じゃできない裏家業を生業としているもの・・当然人も何度か殺めて
おりますし、その世界で骨の髄までどっぷりと浸かっております。そもそも彼等が攘夷に参加したきっかけは
ただ単純に己の欲求を満たしたいがため・・そこには先ほど掲げた大義の真意など微塵もありません、つまり
言っている事とやっていることがバラバラなのです。



29 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:37:32.76 ID:chyYYG9J0

「我等の剣がこの国の闇を切り裂く!!」

「「オーッ!!!!」」

だんだんと血気盛んになって行く志士達、心意気は結構なことですが店の従業員からして見れば
迷惑以外の何物でもありません。それを横で聞いていた慶太様は酔いの勢いとはいえとんでもない事を口走ります。

「チッ、俺にとっちゃ・・国よりも自分の未来の方が重要なのに」

慶太様にとっては取るに足らない何気ない一言ですが、隣に居た血気盛んな志士達は仕切りをぶち破いて慶太様に声を荒げます。

「何だと!!」

「知った口を叩きおって・・」

「我等の大義が見えぬ愚か者め!!」

「うるさい!!! 俺にとっちゃ大義なんぞより目の前の現実の方がよっぽど重要だ!!!!」

酔っ払い同士の喧嘩で今までいい方向に向かった結果はあまり聞きません、周りの客は喧嘩と聞けば当人等を
囃し立て店の従業員達は当惑しながら事の成り行きを見守るしかありません。

「こんなちっぽけな店じゃ我等の怒りは収まらん!! 表に出ろ!!!」

「ああ! こっちも鬱憤が堪ってたところだからな!!」

一人の志士の言葉が発端となり4人の酔っ払い達は店を出て表へと向かいます。


31 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:39:24.38 ID:chyYYG9J0

喧嘩の発端はどうであれ慶太様も志士達も既に臨戦モードに突入しているようで酒の勢いもあってか
血気盛んになっているようです。

「小僧、我等薩摩の藩士に喧嘩を売ったのは間違いだったな!!」

「この刀の錆落としには丁度いい!!」

「誇りある攘夷志士である我等に喧嘩を売ったのだ、せめてもの情け・・小僧、名をなんと申す?」

「・・慶太」

「ぬぅ、その名は確か蛮行将軍の息子と同じ名・・だが、貴様がそんなものだとは思えん! 
同じ名の好としてその首貰い受ける!!!」

好き買って言う志士にもはや大義への誇りはありません、しかし慶太様は酔っ払いながらもつぶさながら
父上である明人将軍の政策について思い返しておられました。

「どうした? 我等が怖くて竦んでしまったか。だがそれももう遅い!!」

「うるさい!! 何が天誅だ、何も考えてないくせに・・貴様等は所詮攘夷の皮を被った野党に過ぎん」

「もう許さん。殺してやるぞ!!」

「その言葉後悔するがいい!!!!」

三人の志士達は刀を抜くと一斉に慶太様に襲い掛かります、しかし慶太様は目を瞑って一人一人ずつの
気配や癖などを瞬時に頭に叩き込むと、風の如く猛スピードで3人に切りかかりました。



32 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:40:54.23 ID:chyYYG9J0

「グハッ!」

「わ、我等が・・」

「強い・・」

「峯打ちだ。・・こんな奴等が居るとは親父も大変だな」

慶太様は刀を鞘に戻すと後はどこ吹く風・・そのまま立ち去ってしまいました。



33 : ◆Zsc8I5zA3U :2009/02/12(木) 21:45:03.54 ID:chyYYG9J0

ところ変わってこちらは明人将軍サイド、あれやこれやと政策を考えていたようですが中々いい案が
思い浮かばず十条大老と共にご意見番本部へと出向いたのです。

「ついにご意見番の真意が確かめられるな。明人将軍」

「ああ、今までの制度でも充分に意見が出るもののこうも偏った意見が出易いからな。
ご意見番の人間は一昔前に攘夷を企てたぐらいだ、俺よりも良い意見が出るに違いない」

「ではこの部屋に待機してください。代表の者を遣わせますので・・」

ご意見番本部に出向いた明人将軍と十条大老は使者の者に案内されながら用意された机へとつきます、2人は
同時にお茶を啜りながらもご意見番に対する警戒心を緩めようとはしません。ご意見番の人間は元は攘夷を
企てようとした維新志士ばかり・・明人将軍は自分の立場を考えます、いくら切腹を逃れこういった組織を立ち
上げようとも肝心の攘夷は成されなかったのですから明人将軍に対する印象は余り良いものではないでしょう。

それに2人にはある懸案事項が残っています・・




3 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/02/13(金) 14:10:40.73 ID:94V/Dql/0

「ふぅ、誰が代表になったのやら・・」

「それにしてもお前、あれについてはどう思う?」

「数日前に坂本 竜馬が行方不明になった件か。あの男が急に姿をくらますなどまずあり得ん。やはりあれは・・」

「暗殺か。坂本は自由な考えの持ち主だがそれ故に恨みを買い易く、ましてや幕府はもとより攘夷志士の間でも
厄介な存在だっただろうな」

「坂本は俺が将軍に就任した時や沙織にも海外の土産を進呈してくれたな」

「あの男は根っからの自由人だからな」

坂本 竜馬・・彼については詳しい説明は省きますがここ数日前、彼は忽然とこの国から姿を消しました。
何故彼が姿を消したのかは色々な説が浮かび上がる中で明人将軍と十条大老は何者かに暗殺されたと
推察しているようでそれを踏まえて十条大老は更なる不安が自然と口に出ます。

「それにしてもご意見番に伺う時に何で勝殿を仲介人に出さなかった? 俺達では明らかに不利だぞ」

「仕方あるまい、あの方でさえ幕府の強硬派を抑えてもらうので精一杯だ。
それに・・あの朝廷派の岩倉との交渉だってお前が有利に話を進めてたぐらいだ、今回も期待してるぞ十条大老」

「こういう時には俺任せかよ・・」

元々十条大老は交渉の場でその手腕を発揮されます、基本的には明人将軍の黒子を勤めつつも大政奉還の
危機には岩倉 具視率いる朝廷との対談も幕府を存続させるためにあれやこれやと譲歩しつつもその存在を
外堀から揺るぎない物としたり、前将軍の頃に調和された日米修好通商条約の内容をアメリカの外交官相手に
言葉の壁を乗り越えながら粘り強い交渉を続けながら日本側に不利な部分を一部改正したりとその成果は
凄まじいものです。

4 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/02/13(金) 14:12:10.89 ID:94V/Dql/0

「ま、お前の傍にいて数十年近く・・こういった事は慣れっこだからな。お前こそしっかりしろよ将軍様」

「当たり前だ。俺はこの国の将軍だからな・・っと、どうやら無駄話はこれで終いのようだ」

明人将軍の言葉が噤まれるのと同時にご意見番の代表の者が現れたようです。部屋に現れた代表の者は
数人・・それぞれ名を伊藤 博文、桂 小五郎、西郷 隆盛、大久保 利通といいました。ついに始まった世紀の
会談、最初は出方を伺うために双方共、互いに小呼吸し合いながら相手の顔をじっと見つるといった行動が
繰り返しに見られ場の空気の方も次第にギスギスした感じになりかけておりましたが、それを察した
大久保卿の一言によって対談は始まります。

「これは明人様に十条様・・遠い所を態々伺っていただき有難うございます」

「早速だが大久保卿、話に入らせて貰おう」

明人将軍はかつての代表的な攘夷志士・・もとい、ご意見番の代表者と話し合いを進めていきました。


5 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/02/13(金) 14:13:38.77 ID:94V/Dql/0

ご意見番の方々と明人将軍の会話の内容は当初の農民対策について話しておられました。

「以上が俺達が考えた幕府側の案ではあるがご意見番の意見を素直に伺いたい」

「一つよろしいですかな」

意見を上げたのは長州側志士の伊藤博文、彼は維新志士の中では坂本竜馬に次ぐ温和な考えの持ち主です。

「農民対策は確かに重要です。ですがこれでも限りがありますのでここは一つ大きな受け皿を用意するのも得策かと」

「受け皿?」

「農業にも限界があります。工業にも選択視を広げて更なる発展が重要だと思います、この国は他の諸外国と
比べて工業の方は未発達・・これを機に考えて見ても?」

伊藤の言うようにこの国は長年の鎖国の影響か他の諸外国と比べて工業に関しては今ひとつと感じでパッとした
物が出てきません、明人将軍もそこら辺は懸念事項として考えてられました。

「だが、彼等は昔から農業をしている身・・確かに工業の方へ廻せば多少の貧困からは解決できるが彼等が
納得するとは思えん」

「それについては案が・・欧米の文化を取り入れるのです!! 長年鎖国を強いられていた国民にとって
これはかなりの衝撃でしょう」

「欧米の文明を取り入れるだと――ッ!!」

伊藤のこの提案に明人将軍と十条大老は驚きを隠せません、何せ長きに渡る国民の生活を改革しようとする
のですからその衝撃は凄まじいものでしょう。明人将軍や十条大老はは幕府から出た案や自分達の意見を
照らし合わせ考えますがこれ以上の斬新かつ良い意見が思い浮かびません。

7 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/02/13(金) 14:36:22.72 ID:94V/Dql/0

「文明開化か・・なるほどそれはいいかもしれん」

「ああ、これは使えるな。幕府には俺が手続きをしておこう」

2人の食い付きを見たご意見番側は内心ニヤリとしながらも平常を保ちつつ交渉を進めます。
次に意見を出したのは桂小五郎、このお方は別名を逃げの小五郎と呼ばれ非常に慎重な考えの持ち主であります。

「更に今後の備えとして軍隊の設立を提案します。海外では非常に統制の取れた軍隊が存在していると
聞きます・・この際我が国でも取り入れてはいかがでしょうか?」

「おいどんもそれには賛成でごわす。いくら条約が回避されたとはいえこの国の力は非常に無力、わしも同意ですぞ」

桂を援護するように意見するのが西郷 隆盛、彼はこの維新志士の中では武道派で確固たる意見の持ち主では
ありますが明人将軍と十条大老は西郷の動向に注意しておられました。

(あれが薩摩の西郷 隆盛か。どう見る、将軍様?)

(見たところ我々幕府の人間に近い感じがするが・・先ほどの言論から見て坂本の件に関わってるのは間違いなさそうだ)

(お前もそう見るか。西郷から見て奔放な意見の持ち主である坂本の存在はよくないからな)

(それにここ最近は長年の幼馴染でもある大久保卿とも距離を取っているようだ。この意見がまとまったら奴の動きには注意しろ)

(了解だ、俺から手配しておく)

互いに目配せをしあいながらご意見番との交渉は進みます・・

8 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/02/13(金) 14:37:58.99 ID:94V/Dql/0

旦那様達がお仕事をして入る中で沙織姫は一人、今回の婚約について考えておられました。

「考えて見れば慶太と香織ちゃんが結婚する歳になったか・・時代が経つのは早いものだ」

沙織姫は久々の休養を楽しみながら2人の事を思い浮かべます、沙織姫にとっては慶太様はもとより
香織姫も実の子供同然ですので感慨深いものです。

「あの2人はもとより、問題は來夢か・・嫁ぎ先は問題ないとして後は体の問題か」

実は來夢姫には重要な秘密があります、元々來夢姫は産まれたときから体がとても弱く生命の危機が
危ぶまれていたところですが本人の強さもあってか何とか健気にたくましく生きておられましたが、女体化と
いう現象という何気ない現象が來夢姫の身体を蝕む事になります。元体が弱い來夢姫は女体化をしたのは
いいものの身体への負担がかなり大きく、将軍家代々に使える名医でもその命はいつ持つかはわからないと
言うぐらいです。
嫁ぎ先に関しては問題ないもののこれからの将来についてが危ぶまれます。とはいいつつも來夢姫は男の時から
容姿については沙織姫の遺伝子をフルに受け継ぎ、ときたま女の子と間違われるぐらいで女体化した事により
それがかなり強調されて幕府の中には隠れファンがいるほどです。

しかしながら母親として沙織姫は來夢姫の事を考えるばかり常に心配事がつきません・・


9 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/02/13(金) 14:41:41.07 ID:94V/Dql/0

「ま、こればかりは子供達の未来に任せるしかないか・・それにしても香織ちゃんは大きくなったものだ」

香織姫のお母様・・すなわち今は亡き十条大老の奥様、真菜香姫は生前から香織姫を更に凄くした性格を持ち
ながらも沙織姫とは姉妹のように仲が良く、それはそれは睦まじいものでした。しかし真菜香姫はこれまた來夢姫と
同じように生まれつき体が弱く、香織姫を産んだ事によってその生命はまさに風前の灯・・それでも真菜香姫は
死出に旅立つ寸前には沙織姫はまだ生まれたばかりの香織姫を託すように亡くなれました。

これ以降沙織姫は舞台や本業であるお姫様の役職の傍らで慶太様や來夢姫、それに香織姫の面倒を一生懸命
見ながらこれまでやってきました。

「さて当分は舞台では舞えないだろうし・・姫様らしくしないとな」

とはいいつつも沙織姫は日頃から仕事はきちんとやっているのでこれといってやることはあまりありません。
ちゃちゃっとやる事をやった沙織姫は余暇を持て余しながらも今後の舞台については子供達の将来・・そして
自分達の将来を考えながらのんびりと過ごしていたのでした。

強引におわり

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最終更新:2009年05月28日 04:57
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