189 名前:
◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:33:38.24 ID:Ji74kvwo
聖達がのんびりと帰宅していた頃、この物語のもう1人の主役である藤堂 魁は上級生の面々や
2年リーダーである桃井を集めて応援団の定例会議を行っていた。
「押忍! 以下が各部活内の大まかな行動であります!!」
「・・そうか」
会議の内容は応援団の今後の行動方針や各部活内の活動内容の報告などなど非常に重要では
あるのだが簡略的に進んでおり団長である藤堂も退屈そうにしながら目を瞑って報告に耳を傾けていた。
さてこの応援団には藤堂以外にも名物がいる、鬼とは多極の位置に居るのが仏・・その姿は見るもの
全てを敬い慈悲をもたらすものだ。そんな鬼の藤堂と対を成す存在なのが応援団副団長で仏の宗像こと
宗像 巌。彼の存在があるからこそ応援団は平穏の時を過ごしていると言っても過言ではない、その名の
如く荒々しさと鬼神の雰囲気を持つ藤堂でも宗像が言葉を発せばさすがの藤堂でも一度その鞘を収める。
だから周囲・・とはいっても主に応援団内部ではあるが敬愛さと慈悲深さからこう呼ぶ、仏の宗像のと・・
そんな宗像ではあるが意外な事を口にする。
「さて・・これから言う事は議題とは脱線するとは思うが、心して聞いてくれ。お前等、3年の相良 聖については
知っているな?」
「押忍! それは勿論」
「いくら個人だとしても我々応援団に匹敵するその力・・」
「だけども・・その相良か何か?」
ざわつき始める周囲を宗像はゆっくりと抑えながらそのまま口を開く。
「まぁ、彼女の行動については知っている諸君等も居るだろうが・・この学校にいるならず者を倒しているようだ。
まぁ、ここまではこの定例会議には関係ない議題だがな」
「・・何が言いたいんだ」
さっきからだんまりを突き通していた藤堂も心なしか聖の話題になると無意識に意識が向いてしまうようだけども
本人はあくまでも応援団の事についてであって、関係ない話題・・特にこの定例会議の場で出されるのは無性に
気に喰わないようでもある。
だけども宗像はそんな事はお構いなしに話を続ける・・
190 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:35:43.62 ID:Ji74kvwo
「まぁ、落ち着け。これからが本題だ、確かにそこまでは応援団はおろか生徒会も関知する余地はない。
だが、ここ最近ではあるが彼女はその行動の場を別の所に移したようだ」
「格闘技系の部活か?」
「その通りだ、復興した柔道部を始めとして、空手部にボクシング部にテコンドー部に剣道部に
ムエタイ部と・・この学校に存在する格闘技系の部活を部員や担当教師含めて全て1人で総なめにしたようだ」
だんだんいらついてきたのか、藤堂も語気を強める。
「だからどうした? ただ単純にそいつ等が弱かっただけだろ。応援団が出る幕ではない」
「ところがそうもいかないわけだ、その後は負けた連中はどれも面子が丸潰れでどれも練習どころでは
ないらしい。これは各部活の“心”を預かる応援団としても由々しき問題でもあるし生徒会からの方でも
正式に頼まれてな、無視するわけにもいかんのだ」
「チッ・・ それにたかだか1人のために応援団が動く必要もないだろ」
「俺も最初はそう思った。いや、思わざる得なかったが・・生徒会の方が妙に強気でな、断れば応援団の
予算圧縮も辞さない考えだったぞ」
生徒会とは文字通り学校内の全てを管理、統括する機関で基本的には応援団を含めた部活も生徒会に
従うようになる、そんな宗像も最初はこの話に乗る気ではなかったようで生徒会側とは最初は拒否する
姿勢を貫いていたのだが、どうやらうまく進まなかったようだ。
「まぁ、向こうには成功した暁には予算の大幅アップと応援団の権限を広げるように要請はしておいた」
「それぐらい当然だ。でなければ話にすらならん!!」
正直言って藤堂はこの件には首を突っ込みたくはない・・というかこの申し出は色々考えても完全に応援団の
管轄を超えている。こんな事で団長である藤堂が動けば公私混同以前にも長年築いてきた応援団の誇りに
傷がつくが、藤堂は少しばかり考えながら妥当な考えを提示する。
「・・よし、桃井! 2年の連中使って相良を取り押さえて来い!!!」
「お・・俺がですか!?」
「そうだ。不服があるのか・・?」
今まで先輩らに囲まれながら端っこの席で小さくなっていた桃井。まさか自分がこんな厄介事を任されるとは
桃井としても夢にも思って居なかっただろう、考えれば考えるだけ胃が痛くなってくる。しかも周りは桃井を除いて
全員が3年生の先輩達・・上下関係を重んじる応援団の事を考えれば今の状況下で拒否権などまずない、しかも
団長である藤堂直接の命令は勅命にも等しい・・桃井に残された選択など一つしかない。
191 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:36:06.72 ID:Ji74kvwo
「ないです・・」
「声が小さい!! 男ならしゃきっとしろッ!!!」
「お・・押忍!!!!」
「よし! この件はこれで終わりだ」
(俺・・遺書の用意してもいいよな)
自分の死期を悟る桃井リーダーであった。
192 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:36:47.30 ID:Ji74kvwo
さてその翌日、当の聖はというと狼子のクラスに遊びに来ていた、理由はただ単に本人の暇潰しである。
「あっ、聖さん!」
「元気そうだな」
「♪♪」
「刹那も相変わらずだな」
いつものように駈け寄る刹那を撫でながら聖は狼子との談笑を楽しむ、やはり聖もいくら強いとはいっても
女体化してからは普通の女の子と何ら変わりない。
「聖さん、今日はどうしたんですか?」
「ああ、暇だったからな。それにたまにはこっちに来てもいいもんだろ」
「聖さんらしいですね」
「まぁな。・・っと、それよりも刹那、お前ちょっと痩せたろ?」
「!!!!!!」
聖の一言に刹那に衝撃が走る。それもそのはずで今まで刹那は女の子らしく体重の事を気にしており、今月も
体重計で泣きを見たという経緯がある。それ以来、刹那はあらゆる雑誌や数少ない友人にダイエット方法を
聞きながらそれを実践して今に至るわけである。しかし聖の考え方は少し別のようだ・・
「まぁ、痩せることはいいもんだが・・無理なダイエットはするなよ」
「・・してない」
「強がらなくてもわかる。無理して食事制限したりしなくてもきちんと運動してれば健康になるんだぞ?」
「そうそう、聖さんの言う通りだぞ刹那」
「・・コクリ」
狼子に言われたら流石の刹那も大人しく首を縦に振るしかないものではあるがダイエットというものは
無理してしまえば自分の身体を傷める危険が伴う結果となってしまうので考え物だろう。
193 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:37:25.24 ID:Ji74kvwo
「しかし聖さんって何でそんなに体つきがいいんですか? 何か特別な事でも・・」
「・・・」
狼子の言葉に刹那も反応を示す、標準以上のプロポーションを保ちつつも並の男を寄せ付けない力を持つ
聖の秘訣を知りたいようだが、そんな期待の視線が込められる中で聖の方はあっけらかんとしながらこう答える。
「ん? 別に何にもしてねぇよ。普通に飯食って運動して・・ただそれだけだぞ」
「えっ・・それだけですか!?」
「当たり前だろ。それ以上は別に何にもしてねぇよ」
「・・」
「あのなぁ、適度に飯食って運動してりゃ人間誰だって痩せるもんだ」
聖の言う事は尤もではあるのだがそれを実践するのは簡単なようでかなり難しい、簡単に出来ればダイエットと
言う言葉などまず存在しないだろう。狼子と刹那は期待していた答えと全く違っていたので暫く呆然とするばかりであった・・
194 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:38:06.66 ID:Ji74kvwo
そんな彼女達が慎ましやかに楽しんでいた頃、彼氏である辰哉と翔はのんびりと屋上で過ごしていた。
「先輩、今日も平和ですね」
「そうだな。これに懲りてあいつも大人しくしてくれたらいいんだけど・・」
「ハハハ・・」
翔の言葉に苦笑混じりの表情を浮かべる辰哉であったが翔の希望が叶う見通しは万に一つもない事を
予見する、そもそも辰哉の見解ではあの超有名で様々なところから名を轟かせている相良 聖が
彼氏を作ったぐらいでそう簡単に収まるはずがないと踏んでいる。だけども先輩である翔の前では
それを口には出来ずに胸の中に閉まっておくほうが利口とも言える。
「そういや今回のテストは少し難しかったな。辰哉、結果はどうだった?」
「いや~、いつもと比べて少し悪かったです。平均も65ぐらいですかね・・先輩はどうでした?」
「あ~・・俺も少し落ちて平均88ぐらいかな?」
「すげぇ・・」
翔の点数に辰哉は思わず唖然としてしまう、平均点とはいっても頑張って60台程度・・辰哉にとって
80台は夢のまた夢だ。行動や性格はああではあるが頭脳の方はいいのだろう、今回のテストだって
結果がちゃんと出しているので証明にはなるだろう。辰哉は心なしか自分と翔を比べてしまうが
そんな辰哉の心境を察している翔はケラケラと笑いながら言葉を投げかける。
195 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:39:51.33 ID:Ji74kvwo
「おいおい、人間ってのは頭脳だけじゃねぇんだよ。辰哉だって辰哉にしかないすげぇ所はあるんだぜ?」
「でも・・やっぱり先輩には敵いませんよ」
「そう謙遜するな。お前はこの俺が認めてる人間だ、もっと自分に自信を持て!!
そしていつかこの俺をギャフンと言わせてみろ!!!」
翔の言葉に辰哉は今の自分を思い返して見る、確かに今の自分では足らない所が多すぎるがそれも
自分の持ち味だと判断する。それになによりもあの中野 翔に認められた人物、今こんなところで
腐ってしまえば自分はもとより彼女である狼子が在らぬ心配をしてしまったり、自分の未熟さから
とんでもない事に巻き込んでしまいかねない、今の自分よりも強く・・今からでは無理な話だけど
きっとこれからの自分の行動次第で何とかなるはずだ。
「だからお前も焦るなよ」
「・・はい!」
翔の言葉を元に自分を鼓舞する辰哉、きっとこれから先も色々な事があるが大丈夫だろう・・多分。
「俺もやるぞ!!」
「その意気だ。・・さていい加減に出て来いよ」
「えっ?」
思わず辰哉が振りかえると気まずそうな表情を浮かべてる人物・・もとい、応援団所属の桃井 国仁。
昨日の会議で藤堂から無謀ともいえる聖の交渉を頼まれた桃井であったがお供をしていた下級生は
聖の恐ろしさから1人、また1人と次々と辞退してしまい・・ついには桃井1人となってしまった。
前回の柔道部騒動から聖の恐ろしさを肌で実感した桃井は聖本人ではなく彼氏である翔に止めて貰おうという腹である。
「あの・・お話は終わりましたか?」
「お前は確か2年の・・」
「押忍! 応援団二年副長補佐、桃井 国仁!!」
「応援団かよ・・今回は俺は何にもしていないぞ!!!!」
応援団と聞き、急にたじろいでしまう辰哉・・前に授業中にも拘らず拉致られた一件以来どうやら応援団と言う
若干言葉がトラウマになっているようだ。
それに翔の方も応援団と聞くと柔道部の一件を思い出してしまう、あの時は破れた制服代を副団長である
宗像に立て替えてもらっているので心なしか腹の居所が悪い。
196 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:41:34.01 ID:Ji74kvwo
「相変わらず暑苦しいな。あの時の制服代だってお前等の副団長にちゃんと返したぞ!!」
「いえ、今回はその事ではないんです。実は相良さんについてなんですが・・」
「あいつがどうしたんだよ?」
「はい。実は・・」
桃井は真剣な表情を保ちながら全ての経緯を2人に話す。数分後全ての事情を把握した翔では
あったが、少し呆れながら返答する。
「事情は分かった。だけどな、俺があいつに言ったって無駄だぞ」
「なっ・・それはないはずです!!」
必死に食い下がる桃井、ここで翔との交渉に失敗すれば残るは聖と直接交渉をするしかないのだが・・まともに
聖が耳を傾けてくれるかどうかは怪しいところ、それにもし失敗すれば藤堂はもとより副団長である宗像の
叱咤も加わることだろう。宗像は仏ではあるが決して優しい男ではないことは桃井とて承知している、己の
ためや応援団の使命・・それに学園内の平和のためにも翔との話し合いは何が何でも成立させたいのだ。
「それにあいつが人の言う事を素直に聞くようじゃないってのは俺が良く知っている。
ダメ元で礼子先生に言ってみたらどうだ? 唯一礼子先生の言う事だったらあいつも素直に聞くし」
「春日先生は出張中で・・一週間は戻ってこないようなんです」
「そうか。そりゃ残念だったな」
「だからこうして中野さんにお願いをしてるんです!!!」
必死に食い下がる桃井ではあるが翔の対応は余り乗る気ではないようだ、そんな桃井を不甲斐に思ったのか
辰哉も翔に進言を試みる。
「お願いします!! もう中野さんしかいないんですよっ――!!!」
「先輩、こうして頼んでるんですから協力して上げましょうよ」
「・・わかったよ。とりあえず言ってみるだけ言ってみる」
「ありがとうございます!!」
桃井は顔を上げながらルンルン気分でそのまま屋上へと去っていく、残された翔は頭を抱えるのであった。
197 名前: ◆Zsc8I5zA3U 投稿日: 2009/04/04(土) 05:42:39.24 ID:Ji74kvwo
結局、妙案が出ないまま時間が経ち放課後・・翔は先ほどの事を聖に言おうと試みるが、気持ちが
落ち着いていないようで顔つきも少し強張っている。
「あのなぁ・・」
「何だよ? 気持ち悪い顔つきしやがって」
「お前さ、放課後に格闘技系の部活の連中をぶちのめしているんだよな」
「えっ!!」
どうやら聖も放課後の部活参りの事は翔に伝えていなかったようで動揺が広がる。
「やっぱりしてたんだな・・」
「元はと言えばてめぇが屋上に居る野郎達をぶちのめすなって言ったのが原因だろ!!
それに部活の連中なら格闘技もやっているし合法だろうが!!!」
「もう応援団が動き始めてる。そろそろ辞めt」
「応援団だと・・んなもん関係ねぇな!!
それに昨日はチア部に入れって勧誘されてムカムカしてるんだ、誰があんな所に入るかよ!!!
あぁ・・思い出すだけで余計に腹が立つッ!!!!!」
こうなってしまえば翔でさえも聖を止める事は難しい、どうやら翔の言葉で聖に火がついたようだ。
聖にして見れば翔との甘い生活は捨てきれないものの、長年から培ってきた闘争心はそう易々とは
捨てきれないもので合気道を覚えてからそれが更に覚醒してしまったようだ。
「よしッ! 今日はどこをぶちのめすかな・・」
「だからやめろって言ってるだろ!」
「うるせぇな!! この俺様の闘争心はそう簡単には抑えきれねぇんだよ!! あばよ!!!」
「お・・おいっ!!」
翔は慌てて聖を止めようとしたのだが時既に遅し・・聖は颯爽と教室を出てしまいそのまま部活塔へと向かってしまった。
「・・俺はもう知らんぞ」
嘆き気味に言葉を吐き捨てながら翔も脱力気味に教室を後にした。
最終更新:2009年05月28日 05:05