~[[青色通知]]9.0(電話口の場合)~
『…………はい』
―――もしもし。俺だけど。
『振り込め詐欺ですか?』
……陸だ。そもそも画面に俺の番号出るだろが。
『……で、何の用?』
悪ぃんだけど、明日、学校サボるわ。テキトーに誤魔化しといてくれねぇか?
どうも今日中に帰れそうにねぇ場所でよ。
『……遭難でもしたの?』
いンや、至ってフツーの住宅街。
つっても京在線の天海っつーとこらしいが。
『遠っ!? ……って、るいちゃんは?』
あぁ、今は寝てる。泣き疲れたのと、しがみつき疲れたんだろ。
『ち、ちょっと何したの!?』
相当飛ばしたし、容赦無かったもんなぁ、俺の攻め方は。
『っ、お、女の子には優しくしなよ! その、一人の時とは勝手が違うの知ってるでしょ!!』
まぁ、そうだろーけどよ。お前との時は全然大丈夫だったろーが。
『よ、よくそんな恥ずかしげもなく言えるねぇ……』
何怒ってんだよ?
いつものことだろ。男はそれくらいが丁度良いっつったのは、どこの誰だ?
『誰よ?』
……お前だろーが。
『……そんな下品なこと、私言いません』
下品? 野暮ったいコト言うんじゃねぇよ。お前も気持ちいいっつってたじゃねーか?
『減点12000点』
はぁっ!? 麻雀かっつの!!
『わざわざ告白してきた女の子に、そんなこと言うなんて最低だっ!! 陸のヘンタイっ!! 死んじゃえばかっ!!!』
おいっ、ちょっ、待て、待てっつの!!!
『―――ブツッ、ツッ、プーッ、プーッ、プーッ………』
…………切られた。
流石に、タイミングが悪かったか?
いや今のは俺、悪くねぇだろ。
単にバイクでるいを連れてった話をしただけじゃねぇか。
何怒ってんだ、初紀のヤツ……。
まさか………。
……………初潮か?
~青色通知9.0(電話口の場合)~
~青色通知9.1(陸の場合)~
迂闊だった。
『頭に血が上ったまんま行動すんな』って、中坊の頃から初紀に口酸っぱく言われてきたのに。
なんで、こんなトコに居るんだ俺は。
……いや、"俺達"は。
モトを正せば、死んじまったオヤジから譲り受けた秘蔵っ子のバイクを引っ張り出して、下道をスッ飛ばしたからなんだが。
サーキットで何度となく運転はしてっから、腕には覚えはある。
けど、それは小さな問題。
もっと大きな問題点はそこじゃなかった。
バイク、ガス欠。
財布、金欠。
間に合わぬ、明日(あす)の出欠。
……ラッパーか俺は。
阿呆なこと抜かす余裕はまだ欠いちゃいないらしいんだな、うん。そういうことにしておこう。
―――とにかく。俺の金も、るいの精神力も底を突きかけて、途方に暮れてた。
もし、るいが通知受取人の証書を持ってなかったら、マジで野宿だったかもしれねぇな……。
……上着のポケットから、あの"文庫本"を取り出す。
るいが教えてくれた、この本のタイトル。
―――群青の蝸牛。
……悪かったな、こんな字も読めなくて。活字慣れしてねぇんだよ、畜生。
もう、るいに十二分に詰られてんだ、そんな目で見んなっての。
誰かに見られてる気がして、何となく独り言い訳をしてみる。
―――兎に角、この本に書いてあったことはやっぱり事実らしい。
るいもそれを知っていたみたいだが、気が動転して、すっぽり頭から抜け落ちてたみてぇだ。良かった、俺が気付いて。
まぁ、タダで宿が取れるのは通知受取人が"10代の男を同伴した際に一個室(ダブルベッド限定)のみ"なんだが。
……端から見りゃ、そりゃエロいことするためだから泊まるんだって体裁になるのは分かるが……。だからってガン見し過ぎだろフロント。
実際にヤるわけじゃねぇんだから、ビジネスホテルだろうと問題ねぇんだし。
―――当の通知受取人は、しゃくりを上げながらベッドに横たわると、すぐに寝ちまった。
ホントの泣き寝入りなんざ初めて見た気がする。
「……ったく、髪くらい下ろしゃいいのによ」
青いリボンでまとめたポニーテールに触れようとして、手が止まる。なんか、今はそれに触れちゃならないような気がしたから。
るいの心身が疲れ果ててるのは見りゃ分かる。……あんな事があった後じゃ尚更だ。
一人で眠るには広いダブルベッドを横切るように、ホントに無防備な寝姿を晒す、るい。
「すぅ……すぅ……」
くそっ、気持ちよさそうな寝息立てやがって。コイツの頭には"俺に犯される"っつー危惧はこれっぽっちもねぇのかよ。
信用されてんのか、嘗められてんのか、どっちにしろ気分はよろしくはない。
―――自分がフッた野郎と一晩同じ部屋で過ごすってのによ。
もちろん、るいを犯すつもりは無い。そんな無様な真似してまで男っつう性に縋るつもりもない。
いや、そりゃ俺だって……るいとしてぇけどさ。……なんか違うんだよ、無理矢理ってのは。
でも、こうもるいが俺のことを"男"として見てくれないのは複雑だ。
今、話題の草食系男子か俺は。
いや、単にガキなだけか。恋と……その、肉体的な繋がりを、別々に考えられねぇだけの。
……はぁ、ヤメだヤメ。これ以上慣れない頭を使うと爆発して脳みそが飛び散りそうだ。
………あ、そうだ。この分じゃ明日学校には間に合いそうもねぇし、初紀に連絡しとくか。
……………………………。
一方的に電話を切られたが、何とか要件は初紀に伝わった……だろう。多分。……はぁ、何だ今日は。厄日か?
とりあえず今のところは寝よう。
今日は色々ありすぎたせいか、目は冴えている。が、このままじゃカラダが保たない気がする。
備え付けの妙に硬いソファに寝転がって、るいを見やる。……るいの少し短いスカートから綺麗な脚と白いパン……っ!!?
「だぁぁああ、もうっ!」
頭に降りかかる邪念を大袈裟な首振りで払いのけ、着ていた制服の上着を脱ぎ、それをるいの腰あたりに掛けてやる。
……ったく、無防備にも程があるだろうがっ!
頭に降りかかる邪念を大袈裟な首振りで払いのけ、着ていた制服の上着を脱ぎ、それをるいの腰あたりに掛けてやる。
……ったく、無防備にも程があるだろうがっ!
また、ソファに寝転がる、が。
何だか僅かに残っていた眠気が今の騒ぎで飛んじまったらしい。……部屋の電気を切ってみても、何度となく寝位置を変えてみても、何の効果も無かった。
―――………思えば、ここ数週間で色んなことがあったんだよなぁ。
初紀が女になったり、
俺に青色通知が来たり、
るいを好きになったり、
初紀と予行デートしたり、
初紀にエロいことされたり、
初紀に告白されたり、
るいの過去を知ったり、
るいをバイクで連れ出したり……
そして…………
……………ハルさんと出会って。
…………
………
……
「ハルさんが、い、生きてる……? て、適当なこと、言わないでよ……」
るいの震えた高い声が閑静な住宅街に消えていく。
全く"ハルさん"のことを知らない俺が言ったとしても説得力は皆無の筈なのに、だ。
それだけ、るいは"ハルさん"に依存して生きてきたんだろう、それが、つい数日前まで赤の他人だった俺にすら手に取るように分かるくらいに。
「……何を根拠にそんなこというのかなぁっ!? ねぇ、ひーちゃんッ!!!」
ヒト一人を血祭り上げられそうな眼力で俺を睨みつける、るい。
身長は、るいよりも10センチは上な筈なのに、何故か気圧されてしまう俺。
「あ、あくまでも、仮定の話だって言っただろうが! 落ち着けっての!」
「……わかったよ。確かめよう? そんな見え透いた希望チラつかせてまで私が欲しいって言うんなら!!」
「るいっ?!」
案の定、るいは頭に血が上っていた。いつもの持ち前の冷静な判断力は"ハルさん"の前じゃ何の効果もないらしい。
るいは、一目散に"ハルさん"の居たアパートへ駆け出していく。
……ある意味、そこまで人を好きになれる真っ直ぐなるいが羨ましくもあった。
……って、ンなのんびり静観してる場合か!?
慌ててバイクからキーを抜き取って、荷物入れから"あるもの"を取り出してから、上下に揺れる小さなポニーテールを追う。
……くそっ、るいの奴、野球やってただけあって足速えっ!!
「おいっ、待てっつの、バカるいっ!」
「バカって言った方がバカなんだよっ!」
はぁ、こんなんじゃ先が思いやられる。るいの奴、勢い余って誰か殺しかねねぇような形相してんもんなぁ……。
……まぁ、そうなったら俺が止めるっきゃねぇよな。これも惚れた弱みってヤツか?
だが意外なコトに、るいは一階部分の一番奥の部屋の前でキチンと俺を待っていてくれた。
一人で先走るとばっか思ってたのに。
「……なによ」
やばい。るいが喧嘩腰に睨みつけるモンだから、つい睨み返しちまった。
こんなとこまでわざわざ喧嘩しに来たわけじゃねぇだろ、落ち着けって俺。
「勝手に突っ走るかと思ったら、結構冷静じゃねーかよ」
「……ひーちゃんが居なきゃ意味ないでしょ……?
……証明してやるんだから。ひーちゃんが言ったことなんて、所詮は机上の空論なんだって、絶対証明してやるんだからッ!」
「……なぁ。まるで、ハルさんが死んでて欲しいみてぇな口振りだな」
「っ!」
俺自身は、るいを責めるつもりは毛頭無かったんだ。率直な感想を述べただけだったンだが……どうやら地雷を踏んじまったらしい。
「……だって、何でそんなことする必要があったの? 死んだって嘘吐いてまで、どうして私の前から居なくなったのっ!? 一緒だった時は……ハルさん、そんな素振り見せなかったのに……!
そんなの、納得できないよ! 納得なんかしたくないよっ!!」
るいが今にも泣き出しそうな顔をして必死に訴えてきた。……そりゃ、そうか。
るいからしてみれば"亡くなった"しか、ハルさんが自分から離れる理由が無いんだろう。彼女が生きてるとなると、新たな疑問が浮かぶ。
―――何故、るいを遠ざけたのか?
なんとなくだけど、一個だけ思いつく理由があるが、それは―――。
「―――こんなとこでウダウダしてねぇで、確かめよう。俺の考えがハズレなら、それでいい」
るいは、目頭を手の甲で乱暴に擦りながら、俺に背を向ける。
「………ここ、アパートの管理人室なんだ。管理人さんなら、もしかしたらハルさんの実家とか、お墓の場所を知ってるかもしれない」
管理人室のインターフォンボタンに、るいの細い人差し指が伸びる。あと数ミリで、事の真相が明らかになるんだ。
願わくば、るいが傷付かないことを。そう思い、俺は瞼に精一杯の力を入れて祈る。
―――その瞬間だった。
『るい………ちゃん?』
俺には、聞き慣れない女性の声が背中に響く。でも、それは、るいには聞き覚えのある声だったらしい。
るいの瞳孔が一回りも二回りも大きくなっていて。
―――そのまま、時が止まってしまったような錯覚に陥った。
~青色通知9.1(陸の場合)~
最終更新:2009年10月30日 09:53