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無題 2009 > 12 > 22(火) さまのすけ

「鶴岡」
と楷書が張り付いた家の前で俺は立ち尽くしていた。その灰色の板の真下にあるインターホンに向かって指を伸ばし、程なくして垂れ下がる。それをさっきから延々と繰り返している。
これは端から見たら間違いなく不審者だよな…
しかし何と言えば良いのか、どんな顔をして会えば良いのか分からない。だから踏ん切りが付かないのだ。
そんな俺に人当たりの良さそうな声が話し掛けてきた。

「こんにちは。うちに何かご用でしょうか?」

「あ、こんにちは。えー、用事って程じゃないんですが… その…」

「『俺が田口宏紀だ』なんて言ったら斉明さんは驚きますよね?」

前述の好青年、もとい斉明さんは俺を見回している。なんか恥ずかしい。

「ああ、なんだ。やっぱりヒロ君か。」

「やっぱり? と言うか驚かないんですか?」

「驚くも何もさっきから見てりゃ分かるって。行動とかクセとか。なんか言い訳してる時とかに斜め上を見てたり。」

そんなクセあったのか?

「ああ、あとさっきの家の前だね。見ててかなり面白かったよ。」

うっ…
見られてたのか…

「それでちょっとからかってみたんだ。まあ、からかうと言うか遠目に見て雰囲気が似てるなとは思ったよ。それで顔を見たり喋ったりして確信した、ってのが正しいな。」

「さ、さいですか…」

何だろう…
この負けたような感は…

「まあ、立ち話もなんだし上がってきなよ。」

「あ、すいません。ああ忘れてt…」

「嘉成だろ? そろそろ帰って来るよ。」

「そうですか…」

「用があるんだろ?」

「えーと…」

「そう考え込むなって。いつも通りで、な?」

いつもこの人には簡単に見透かされる。

「ヒロ君は分かりやすいからね。」

駄目だ、完全に読まれてる…

「アイツが何かいらん事をしたなら僕に言うと良い。タダじゃ済まさんから。」

「それはそれは頼もしい限りです。」

笑顔で恐ろしい事を良いなさる…
別に痺れたり憧れたりはしないけど。

「アレを思い浮かべると上手く出来ると思うよ。」

アレ…だと…?
いかん、アレと言われるだけで笑いが止まらん…

「その調子なら大丈夫だ。僕もアレには噴いたよ。」

アレとは嘉成が妙な寝言を言っていた事である。

『ちょっと寝るから起こしてくれ。』と言われ、しばらく後に突然
『園長先生選挙に出馬…』
と言い、更に
『京都二区じゃ勝てんでしょ…』
と言った。

一時間くらいと言われていたので起こしてみると
『せっかく良い所だったのに何で起こすんだ!』
と、頼まれたのに怒られた話である。


鍵の開く音が聞こえる。
いよいよおいでなすったか。
少し冷めたお茶を一気に飲んで玄関へと歩みを進めていった…

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最終更新:2010年02月14日 11:49
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