目指せ甲子園-番外編2

【母親の罠】


メイド服ショック(番外編1を参照)から数時間。
気力の急降下にもめげずに、クローゼットの中の整理を黙々と続け、それを終える頃にはもう夕方になっていた。

「風呂にでも入るか……」

疲れた。ただ疲れた。
せめて風呂に入って、ゆっくりとしたい。
一階に降りて、風呂場に向かう途中で母さんと鉢合わせした。

「あら、お風呂入るの?」
「そのつもりだけど、もう入れる?」
「ええ、今ちょうど沸いたところよ」

タイミングがいいことにちょうど風呂が沸いたようだ。

「んじゃ、入らしてもらうかな」

そのまま、脱衣所に入る。
シャツを脱ぎ、ふと何も纏ってない上半身を見て、気分が滅入る。
さらしを巻かなくても気づかれないんじゃないか、と思うほど薄い胸にため息が出る。
状況が状況なので、文句はないが。
それにしても、女体化初日は自分の裸体一つまともに見れなかったのに、今は普通に見る事ができる。『慣れ』って恐ろしい。
気を取り直して、着替えを続ける。
ズボンとパンツ──一応付け加えておくが、ちゃんと男性用だ──をさっさと脱いで、浴室に入る。



手早く頭と体を洗い、湯船に入る。

「ふー……落ち着く」

湯船につかってリラックスする……が、妙に気にかかる違和感。何か忘れているような気がする。
……何だったかな。何か必要な物が無いような……

「……あっ!」

声が出てしまうほど大事な物……バスタオルと着替えを忘れた。
バスタオルに関しては、使わなくても脱衣所でしばらく待っていれば体が乾くので無くても大丈夫だ。もちろん有った方が便利なのは言うまでもないが。
問題は着替えだ。
真っ裸で家の中をうろついても風邪をひいたりはしないだろうけど、さすがに家族とはいえども裸の姿を晒すのは避けたい。
今、父さんは会社で兄貴はバイト中なので、家には母さんしかいないが、そろそろ2人が帰ってくる頃だ。
部屋に戻って着替えるとしても、すでに2人が帰ってきていれば、風呂場から一歩も出られない。
さて、どうすればいいか……
俺が頭を働かせていると、脱衣所の方から扉の開く音と母さんの声が聞こえた。

「翔太、着替えとバスタオル忘れたでしょ? ここに置いておくからね」


どうやら、母さんが気がついて持ってきてくれたらしい。
俺は湯船から感謝の言葉を送った。



「さて、そろそろあがるか……」

体から湯気が出るほど浸かったし、頃合いだろう。
浴室から出て、脱衣所に置いてあったバスタオルで体を拭く。

「それにしても、助かった」

母さんが気づいてくれなかったら、真っ裸で家の中をうろつかなきゃいけないところだった。

「いやー、本っ当に助か……」

言葉はそこで止まってしまう。
服が置いてあるべきところには、予想だにしない物が置いてあった。

「こ、これは……」

俺は震える手でそれを掴み取り──



「か・あ・さ・ん!」
「あ、翔太、随分のんびりだったじゃない」

台所で、おたまでに鍋をかき混ぜていた母さんが振り返り……笑顔で頬に手を当てる。

「あら、まあ。可愛い服着てるじゃない」
「半ば無理矢理着せたくせに!」
「いいじゃない、似合ってるわよ、そのメイド服」
「嬉しくないよ!」

風呂場に持ってきた『着替え』の内容がメイド服だったとは……クローゼットの奥深くに封印してきたはずなのに、見つけるとはな、隠し方が甘かったか。
それはともかくとして、着替えの服がメイド服しか置いてない状況では、それを着ざるをえない。

「バスタオルがあるじゃない」
「着れるか! 父さんや兄貴が帰ってくるかもしれないのに!」

しかも、その格好で見つかったらメイド服よりヤバイ、色々と。

「なら、普通の服に着替えてくれば?」
「よく言えるな。俺の服隠したくせに」
「あら、人聞きが悪い。男物の服を一旦拝借しただけよ」
「それを隠したって言うんだ! 返せよ!」
「やあよ♪ 可愛いんだし、今日一日着てればいいじゃない」
「着てられるか! こ、こんな恥ずかしい格好……っ!」

そう、母さんの持ってきたメイド服はなぜか露出度が高めで、下手すると下着が見えてしまいそうなほど、スカートも短い。

「じゃあ、着替えれば?」
「だから、服が女物しかないから、男物を返せっつってんだよ!」
「ダメ。家では女の子らしくするって約束でしょ?」
「ぬぐ…………」

それを言われると反論できない。

「さあ、選びなさい。普通の女性用の服に着替えるか、それとも、そのメイド服を着たままでいるか!」

母さんは俺にビシリと指を突きつけ、言ってのけた。


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最終更新:2010年05月25日 22:23
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