「っ……。……はぁいっ、おしまい」
「えっ、な、なんで!?」
一糸纏わぬ姿の……見知らぬ男の子が素っ頓狂な声を上げる。……理由は簡単。私が、未だに慣れない下半身の異物感から早く解放されたいが為に――身体を彼から離したからだ。
「なんでって言われても、私の"お仕事"はもう済んだんだしね。……キミはもう、男の子でいられるでしょ? "童貞"じゃないんだから」
「……そんな……っ」
確かに私は彼を受け入れた。
それが仕事だから。けれど、その"後"までお世話をする筋合いは無いんだよ。
「あとはラブホテル備付の有線AV放送でも見て、"頑張って"ね?」
私は脱ぎ散らかした服をいそいそと身に着けながら冷たく言い放つ。
自分が頼った国の政策が、どこまでも自分本位に出来ているなんておめでたい考えだことで。
「……それとも、下に居る警察のお世話にでもなってみる? 強姦罪って結構重い刑罰だよぉ?」
「………っ」
私は努めて彼を嘲るように笑う。
それ以上はない。そう私はタカを括っているからだ。
未経験な男の子にとって、私たちの体はもちろん未知の領域だ。
映像という情報はあるとしても、それと実感とでは大きなギャップがあることに、彼らは大一番になってから気が付く。
「じゃ、コレは貰ってくねっ」
私はテーブルに置かれた青い紙切れを手中に収めると、装飾の凝った宿泊施設から立ち去る。
……裸体を露出したまんまの男の子をその場に残して。
―――なんて世の中の現実なんて、結局はそんなもの。
いくら飴や餅を吊されていたって、そんな甘ったるいコトなんか転がってるワケがない。
……ふふっ、そういう意味では、このシステムはいい社会勉強を教えてるのかもね?
「―――お疲れ様でした」
私服姿の警察官が、ホテルから出てきた私に平坦なトーンで話し掛けてくる。
一応、私担当のボディガードらしいんだけど、そう思うなら部屋の前で待機していて欲しい。
……なんか色々な人権問題でムリらしいけど。
「はいっ、お疲れ様でした。今日はこれで最後ですし、帰っちゃっていいですよ?」
「いえ、そういうワケには……」
「お堅いなぁ、そんなんじゃモテませんよ?」
「結構です」
「……空気、読んでくれませんか?」
あの手この手を駆使して、私のボディガード役の警察官は、漸く深々と頭を下げてその場から立ち去ってくれた。
まったく、面倒な人が担当になっちゃったもんだなぁ。
………。
あの人は、こんなことをずっと繰り返した生活をしていた。
今、私はあの人同じ立ち位置に居るはずなのに、あの人はもう居ない。
……ただ、私の下半身に残る嫌な違和感だけがあの人と、私をつなぎ止める共通点。
……それを受け入れられない私が悔しくて、もどかしくて。
「………っ」
……泣くもんか。涙なら、とっくに涸れた。涸れ果てたんだ。
私は独りで生きていくんだ。
そして一人でも多く、救う。この理不尽な病気から。あの人が、そうしたように。
それが私の選んだ道なんだから。
「……さぁて、明日も頑張るぞーっ! おーっ!!」
私は、夜空に向かって明日への意志を振り上げる。
……その"明日"が、私のターニングポイントなるなんて……その時の私は知る由もなかった。
最終更新:2010年05月25日 22:35