「そうだ、お年玉をあげよう」
俺にとって、去年まで一年にこれほど嬉しい言葉は無かったと言って良いだろう。年始のうんざりするような親戚回り、それで得られる戦果の獲得を確定するものだった。
しかし、今の俺にとってはどうにも不快感の拭えない言葉になってしまっていた。
例年通りの親戚回り、毎年のように少しの挨拶と親の長い世間話に暇そうに付き合うはずだったが、そうも行かない事態になったのだ。
晴れて15歳の誕生日を迎えた去年の9月のこと、彼女も居ない俺にそれを避けることも出来ず。あえなく女体化してしまっていた。そしてほとんどの親戚に新生俺を初お披露目というこの正月である。
「あ、ありがとうございます……」
姉と母親のスパルタ教育により表ではもうすっかり女として振舞う俺に、親戚のオッサンたちはいつにもまして顔を緩ませ話しかけてくるのだ。正直ぞっとしない。
それを俺は苦笑いで受け取るのである。お年玉袋の中身も心なしか豊かで、それ自体は喜ぶべきことのはずなのだが。
「あの凛々しかった男くんがこんなに可愛い娘になるなんて」
そんなようなことを最後にちょんと付け加えられるだけで、まるでこのお年玉が汚いお金に思えてくるのだ。例年以上に俺への接触も多い。
お茶を一緒に飲むだけだから? お話してくれるだけで? 女体化して寄ってくるようになったやつらが親戚とダブる。
「あの、すいません…お手洗い貸していただけますか…?」
仕舞いには俺はそう言ってトイレに逃げ込むのだった。
そして、残りの親戚回りを指折り数えて溜息をつく。
親戚回りが終って、私の戦果が多いことに目ざとく気づいた母親が「そのお金、預かっといてあげるわね」と、悪魔の台詞を囁いた時、私は素直にそれを差し出した。
母親は少し疑問に思ったのか「本当にいいの?」と言いたげにこちらの顔をうかがったが、俺が何も反応を見せないで居るとそれを鞄にしまい込んだ。
「はい、お年玉!」
と、小さくてファンシーな封筒を俺に渡したのは、すでに成人している姉だった。姉はにかっと笑ってその封筒を無理やり俺に握らせて囁いた。
「来年にはもう慣れてるはずだから、それまでお母さんに使われないように私が見張っといてあげる」
「ありがと……姉さん」
<了>
最終更新:2010年09月04日 21:34