「えっと・・・話って、なんですか・・・?」
上級生に体育館裏で話があると呼び出された。
これはもしや告白というものではなかろうか。
淡い期待ばかりが僕の心をよぎる。
「えっとさぁ・・・やっぱり、ここじゃちょっとはずかしいな」
彼は明後日の方を向いて恥ずかしそうに頭をかいている。
それを見ていると僕も恥ずかしくなって、地面とそんな彼を交互に見つめる。
そもそも、まだ告白だと判明したわけでもないのに。
「ちょっと場所、移動しよっか」
「え、あ、はい」
僕はなぜ場所を変えるのか、それほど疑いを持たずそれを承諾した。
ただ、恥ずかしいだけなのだと。
そして、つれて来られたのは人気のまったくない、体育館内の倉庫。
ここで何の疑いすら持たなかったのは、初めての告白?に舞い上がっていたのかもしれない。
どんなことを言われるのか。これから先に何が待つのか。
どうしようもない期待が僕の心を支配して、何の疑いの念すらも持ち合わせてなかった。
「さて、ここなら安心」
僕は彼を見る。彼は先ほどとは違い、安心した面持ちで余裕すら伺えた。
「おーい、釣って来たぜー」
「どれどれ、お、結構いいんじゃね?」
「つ~れま~すかぁ~っと」
彼の掛け声と共に物陰から二人の男子生徒が姿を現した。
「え?」
この時、僕はまだ状況を理解できないでいた。
僕が女体化したのは中学三年生の卒業前。その後卒業して郊外の高校へ進学した。
今は高校生活が始ってまだ間もない4月。
僕には女性としての危機感というものが欠けていたのだろう。
この短期間でそれを知れというのも無理からぬ話ではあるが。
後に引けない状況になってからそれを学んだのでは、何もかもが遅すぎたのだが。
「こいつにホイホイついてくるなんて、天然記念物なみ~」
軽そうな男が笑いながら彼を茶化す。
「俺、もう我慢できねーかも!」
目をギラギラさせた男が僕をなめ回すように見つめる。
「バカな"女"だな君は」
女・・・そうだ、今僕は女だ。
自分が女だから告白してくるのは男であるわけだが、こういう状況を想定しない女は居ない訳で・・・。
確かに、僕はバカだ・・・。
「え、あの・・・・」
「そのまま、大人しくしててもらおう・・・か!」
ダン!
「あぅっ!!」
と、間髪要れずに目をギラギラさせた男がのしかかってくる。
「逃がさんぞぉ!さて、下の具合はっと」
何かが僕の内股に触れ、男の手が僕の下半身に達しようとしている。
ここまできてやっと全てを理解した。
僕はこの男たちの性欲の捌け口にされようとしているわけだ。
相手の同意を得ない強制的な性行為。強姦だ。この先にあるものはなんだろうか。
ただ、犯されそのままで終わるだろうか。開放されるのだろうか。殺されるのだろうか。
頭の中が恐怖で埋め尽くされ、気が付いたら暴れていた。
「あぁぁぁぁぁ!!いやだ!いやだぁぁぁ!」
「ちっ!やべぇな・・・おい、黙らしとけよ!」
「へいへい。そりゃ!」
バン!
「ぎゃう!」
あまりに強烈な平手打ちを左頬にくらって、衝撃で視界がまどろむ。
その痛みに恐怖と悔しさを与えられて、僕の手足はそれ以上動かなくなってしまった。
「あららぁ。今までで一番素直じゃん?」
僕はもう、思考することを放棄しかけていた。
その時──
「なぁ~んだあんた?俺たちの仲間には──ぐぇっ!」
突如乱入した大柄の男に、軽く襟首を掴まれあっさり倒れた。
軽い口調の男がトレーナーを着ていたのが災いしてか、あっさりクビを占められて落されたようだ。
「あ・・・やめっ・・・」
バキッ!
大柄の男は彼の象徴である綺麗な顔に一発裏拳を入れて昇天させた。
「顔はやめ・・・かお・・・・ぐふぅ・・・」
そう言う状況になっているにもかかわらず、僕に覆いかぶさった男は僕の股間をまさぐることを止めない。
言いようのない嫌悪感が下半身から全身へ悪寒を走らせる。
「あぁぁぁぁぁぁ・・・・!」
「無視かよ」
大柄の男は今だ気づかぬ己の存在に腹を立てたのか、額に青筋を浮かべていた。
「そらよっと!」
目のギラギラした男は、そのまま襟首を掴まれ一本背負いを食らって昇天した。
恐怖と嫌悪感から開放された僕は、安堵感からか急に泣き出してしまった。
「うぅっ・・・ふぅ・・・・」
男だったときは安堵したからといって泣くなんて好意は恥ずかしかったものだが、この時は女であることを嬉しく思った。
「まったく、この野郎共は見境ってものをしらねぇ。おい、何もされなかったか?」
「ぅ・・・・はい・・・大丈夫です・・・」
「ちょっとこいつら始末してくるわ」
大柄の男はそう言うと、一人は担ぎ、一人は余った手で引っ張り、最後の一人は足蹴にしながら倉庫から連れて出て行った。
僕はこのまま逃げてしまえば良かったのだろうが、なにぶん腰が抜けてしまって動けずその場にへたり込んでいた。
僕を助けてくれた人は実に男らしかった。僕を襲おうとしていた相手をちぎっては投げちぎっては投げ・・・。
格好よかったなぁ・・・。それに比べて僕は・・・。
腰の抜けたままそんな思いに浸っていると、大柄の男が倉庫の中に戻ってきた。
「なんだ?まだ居たのか」
「あっ・・・」
「お前な、俺があいつらと同じような事しようとするかもしれないとか、考えなかったか?」
「えっ!あっ・・・」
とはいえ、腰が抜けて動けない。ましてや、これ程の強い男に取り押さえられてはひとたまりもない。
僕は再度恐怖を覚悟して、強く両目を閉じる。
「な、何もしねーよ!」
「え!?」
「まぁ、いいさ。たまたま俺が通りかかって、お前に覚えがあったから助けにきてやったんだからな。礼の一言くらいあってもいいと思わないか?」
「え、あ、ありがとうございます・・・その・・・すみません・・・」
ん?覚え?僕は彼に見覚えなんて・・・。
「ま、覚えてないか・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
「・・・昔、川原沿いに秘密基地にもってこいの空き地があったよな」
「──あ・・・タケシ君・・・?」
小学生の時、よく遊んでいた近所のタケシ君。あの秘密基地は僕と彼しか知らない、本当の意味での秘密基地。だとしたら、彼は本当に・・・。
「まぁ、ちゅーぼーから・・・まぁ、やんちゃやってお前とは付き合いなくなったけどな」
「うん・・・」
彼とは中学校に通い初めてから付き合いがなくなってしまった。彼が、家庭の事情から荒れ始めたって事くらいしか僕は知らなかったけど。
彼は確実に僕を避けていたようだったから、僕からは何もできなかった。
「名前、前から・・・変わったのか・・・?」
「うん・・・今はナナ・・・・」
「ナナオがナナか・・・しっくりくるんだかこねぇんだか」
「も、もう!僕は結構気に入ってるんだよ!」
「わるいわるい」
彼は昔とぜんぜん変わってなかった。どんなに悪びれて乱暴になっていても、彼は彼のままだった。
今度の事は僕にとってトラウマ同然の出来事で、男性の前ではもうマトモではいられないと思うが、彼だけは・・・特別・・・。
僕は、彼をもう昔のままの彼として見られないだろう。
昔の・・・友人としてではなく、今の彼は──
「なぁ・・・より、もどさねぇか?」
「ぷっ!それ、恋人同士が使う言葉じゃないの?」
「な!?て、てめぇ・・・!」
「あはは・・・ごめんね。タケシくん・・・本当にありがとう・・・嬉しかったよ」
「ぐぅっ・・・そ、そうか」
彼はぶっきらぼうな彼なりに僕と友達に戻りたかったらしい。
中学時代も、恐らく今も狂犬とか狼だとか言われて常に孤立していたから寂しかったのかも知れない。
「でも、僕が僕だってわよくかったね」
「そ、そりゃ・・・俺はお前のこと前から見てたからな・・・」
「え・・・」
「お前との付き合いを一方的に無かったことにしちまってから・・・その・・・やっぱ気になるだろ!」
「そっか・・・なんか嬉しいな。じゃぁ、復活しよっか!」
「そ、そうか・・・それは良かったぜ」
「でも、一つだけ良くないことがあるかも」
「な、なんだよ!?」
「もう・・・他の男の人じゃだめなんだ・・・」
「は?」
「タケシ君じゃなきゃダメみたい」
「はぁ!?」
「責任とってくれるよね?」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」
タケシ君はしばらく固まっていた。
その後──
「ごめん、待った?」
「いや・・・」
「じゃ、帰ろっか!」
「お、おう」
彼が歩き出すと自然と周囲に人気が無くなる。
彼の本質を知らない人はおのずと彼を恐怖するのだろう。
本当の彼を知ったら彼らもきっと──
いや、止めておこう。
じゃないと彼を独り占めできないから。
だから、私はそんな周囲の目なんて気にも留めないようにしている。
「私、甘いものが食べたい」
「はぁ?俺は甘い物は・・・お前も昔は・・・」
「女の舌は特別甘いものを求めるんだよ」
「ちっ・・・しゃーねーなぁ・・・」
おわり
適度どころか展開を急ぎすぎたか!?
新年ぽくない投下でごめんよ
最終更新:2010年09月04日 21:37