2010 > 01 > 17(日) ID:y0iuq3U0

誰もおらん
さっき書いたのを投下する


 私はいつも空回りばっかり。
有名なお菓子屋さんの前で並んでいても私の目の前で売り切れ。
急いでいるときに限って自転車がパンク。
勇気を出して好きな男の子に告白しても、既に彼女持ち。
人生の歯車が噛み合ってないのだろう。
そして――…。



 最初は誰か分からなかった。
ただ、アイツが休んで二日後、私の知っている席にひどく小さな女の子が座っていた。
高校二年生で転校してくる人なんているわけない。
きっと一年生か、他のクラスの子なのだろうと思った。
高校生にしては小さいすぎるが、それでもうちの高校の制服を着ている。
なんでここにいるのかは知らないが。
教室に入ると、私に気が付いたのかこちらをバッと見て、チラチラと目線を泳がせている。
なんだと思い、近づき、顔を覗いてみる。

と、すぐに顔を背ける。
ますます不思議に思い、どうしたのと、声をかけてみた。
そしたら彼女は「笑いたかったら笑えよ」と、今にも泣きそうな声で言う。
少し肩が震えている。
いまひとつ状況が掴めない。
彼女が振り向く。
顔をしっかりと見たら、何となく誰か分かってしまった。


小さい頃から家が近所で一緒に遊んでいた彼。
近くにいることが当たり前で、男女とか、そういうのに関係ない親友だと私は思っている。
軽い相談や、女の子同士でしにくい相談も、いつも彼を頼っていた。
よく一緒にいるのでカップルと勘違いされていたが、ちょっと前までは彼をそういうふうに見たことは無かった。
ただの幼馴染で、これといった特別な感情は抱いたことはないと思う。

でも何故か彼が彼でなくなったと思ったら、どこか心に穴が開いた気がして、不安になる。
いままで通り、友達で、親友で、変わらない関係。
それを私は望んでいる。
なのに胸が針金に締め付けられるように痛い。

気が付いたら朝のホームルームのチャイムが鳴ったので私は自分の席にさっさと座ることにした。
担任の先生が入ってきて、適当に話をする。
もちろん私はそんな話は聞かずに、ずっと彼女を見ていた。

「あー…。昨日、一昨日と休んでいた赤塚だが、珍しくこの時期で女になってしまった。
 ほら、赤塚、前に来なさい。」

珍しい苗字だからクラスには一人しかいない。
教室が少しざわめく。
だって、皆が知っている赤塚と今呼ばれた赤塚は全然違うから。
先生がそう言うと彼女は席から立ち、小さな歩幅で教卓まで進む。
身長が縮みすぎたのか、どうなのか分からないが、髪が肩まで伸びている。
寝起きなのか、天然なのか、セットしていない髪はボサボサだ。

「えっと…。あー…女になりました。よ、よろしく。」

隣にいる先生がとても大きく見えるほど彼女は小さい。
彼の身長は170cmよりちょっと大きいくらいだったが、今教卓の前にいる女の子は140㎝程しかないだろう。
顔も小さくて、幼くて、高校の制服を着ていないと中学生、もしかしたら小学生に見えるかもしれない。
胸も服を着ていれば膨らみを確認できない。
その道の男子ならばストライクゾーンど真ん中だろう。
どこからか、「貧乳…萌え…。」「か、かわいい…。」という声が聞こえたような聞こえてないような。
きっとこのホームルームが終わればもみくちゃにされるだろう。

私はずっと彼女を見ていたが、彼女は一度も私を目を合わせることなくホームルームは終わった。
そして案の定、質問攻めが始まった。
童貞の男子が女の子になる確立は高くない。
せいぜい1%あるかないかくらい。
現在、この高校で在学中に女になってしまったのは彼女を含めて4人。
15歳から16歳にかけての間になってしまうのが普通らしい。
他の3人も高校に入学してから半年以内で全員女の子になっている。
だから彼は結構特殊なケースみたい。
だってもう高校2年生の冬、もうすぐ3年生になる頃なのだ。
しかも彼はもう17歳の誕生日を終えており、女の子になる確率は皆無に等しかった。
その珍しさというか、なんというかでクラスのほとんどが彼女の周りに集まっている。


授業の合間の休みにも、昼休みにもクラスの人間に囲まれしまって、私は話しかける時間がなかった。
幼馴染だからなのか、何なのか分からないけど私が支えてあげないといけない気がした。
彼女が開放されたのは皆が部活に行った後の放課後だった。

私自身も部活があるのだが、今日はサボることにする。
彼女も男だった頃は野球部に入っていたが、さすがにこの体になってしまえば野球はできない。
帰る人は帰って、部活がある人は部活に行っている。
いつの間にか教室には私と彼女だけが残っていた。

傾いた太陽が教室をオレンジ色に染める。
外からはサッカー部や、野球部達の声が聞こえる。
綺麗に消された黒板の端に明日の日直の名前が書いてある。

「ねぇ…。」

私はささやくほどの小さな声でそう言い、彼女の隣に座った。
少しビクッと震えたのが分かった。
顔は俯いていて、私から避けるように椅子の端っこに動く。

「身長、いくつ?」
「……142…。」

ふてくされたような言い方だった。
わざとなのかは分からないが、朝のときよりちょっと低い声。
甘い、ハスキーボイス。
以前の彼とは比べ物にならない程違いのある、女の子の声。

「そっか。そんなに小さくなっちゃったんだ…。」

私は女子にしたら高めの身長だった。
それでも彼よりは小さくて、5㎝くらい小さかった。
でも今の彼女は私より遥かに小さい。
頭は私の肩くらいまでしかないだろう。
本当に同い年なのかと、疑いたくなるほどの差。
彼女はそこまで変化してしまった。

「ふん。仕方ないだろ…。」

と、チラッと私の方を見て、またそっぽを向く。
これは彼のいつもの仕草だった。
中学生くらいからか、私をチラ見してはすぐ明後日の方を向くようになった。
高校生になってからもそれは変わらなかった。
その度に友達の女子からニヤニヤした目で見られていたが、私にはよく分からなかった。
頭の上にクエスチョンマークを出すたびに、友達からため息が出ていたのは覚えている。

「…ごめん…。」

と、彼女の口から言葉が漏れる。
私にはその意味が分からなかった。

何故、私に謝る必要があるのか分からない。

「え?どういうこと?」
「いいんだ…。もう…いいんだよ。」

ポタポタと、机には液体が落ちている。
彼女の涙腺から出て、頬を伝う。
しゃくり声を上げながら彼女は泣いていた。
我慢しようとも我慢できない…。
そんな感じで必死に声を殺そうとしながら泣く。
涙は止まらないらしい。

私はどうしたらいいか分からない。
何故、泣いてしまったのか、何が「ごめん」で、何が「もういい」のか。
それすら私には理解出来ない。

「ちょ…!?ど、どうしたの?」

そういいながら背中をさすってやる事しか出来ない。
支えにもならないし、慰めることも出来ない。
私はきっと幼馴染失格だな。
そう思うと私も悲しくなってきた。

「う…?あ…お前は悪くないんだ…。グスッ…。俺が…俺が悪いんだ。」

両手で私の肩を掴む。
正面を向いた彼女の顔は涙でクシャクシャになっている。
ひたすら自分を責め、私に謝る続ける。
本当に私は何がなんだか分からない。

そして彼女は私の目を見たと思ったら、一気に教室から駆け出してしまった。
まだ肩には掴まれていた感触が残っている。
太陽はいつの間にか顔を隠してしまった。
外からはお疲れ様という声が聞こえる。
私はただ呆然と、椅子に座ることしか出来なかった。



 次の日、いつもより早めに学校に来たら、もう彼女は自分の席に座っていた。
ノートと教科書を広げている。
覗いてみると、今日の小テストの勉強をしているようだ。
というか、今、彼女がやっているのを見て小テストがあるのを思い出した。

彼女は昔から何事にもくそ真面目に取り組んでいた。
体育の持久走も、家庭科の調理実習も、とにかく頑張っている。
そのおかげか、中学の頃からテストはいつも上位をキープしている。
とくに数学に関しては誰にも負けたくないという、よくわからないプライドがあるらしい。
学年で常にトップを維持していた。

もちろん高校でも学力はトップレベル。
国公立の大学でもハイレベルなところも狙えるらしい。
うちの高校はそこまで進学に力を入れてないし、偏差値も高くない。
本来なら進学校に行っても不思議じゃないのに、なぜか彼はこの高校に進学した。

以前、そのことに聞いてみたことがあるが、彼は答えてくれなかった。

「また勉強してるの?」
「…あぁ。」

一瞬、ピクッと震えた。
チラッと私を見て、消え入りそうな声で答える。
ノートを覗いてみると、私より綺麗な字でまとめられていた。

「そっか。」

昨日、あんなに泣いてクシャクシャだったのに、今は綺麗になっている。
よく見てみれば、男だったときよりも遥かに肌が白い。
まぶたは二重になっていて、まつ毛も長くなっている。
栗色の髪は今日はきちんとセットされているようだ。
昨日のようにボサボサでなく、サラッとしたストレート。

「髪、自分で整えたの?」
「…姉貴にしてもらった。女の子ならもっと身だしなみに気を使いなさいだってさ。」

ふぅ、とため息をつきながら遠くを見る。
ふっくらとした唇には何もつけていないらしい。
それでも桜色で綺麗な唇。
空気が乾燥しているのか乾いているみたいだ。

「唇、何も塗らないの?」
「…化粧とか…別に…。」
「違う違う。薬用だよ。ほら、男の子でも割れないように塗ってるでしょ?」

そういいながら私はバックからポーチを取り出す。
今時の女の子ならではのグッズを机の上に並べる。

「ふーん…。」

興味を持ったのか、一つ一つ手に取って凝視する。
本当に薬用の物もあるし、女の子向けの、ピンク色のリップもある。
あとは付けまつ毛とか、マニキュアとか、さっきの話に関係ないものも手に取っている。
はじめてそういうのに触れるのか、取るというより、つまんでいる。

「女って大変なんだな…。」
「そうだよ。女の子にとって「かわいい」は命だからね!」

と、胸を張って言ってやる。
私は女として先輩だから、なんとなく面倒を見てやらないといけない気がした。
よく分からないけど、そんな気がする。
彼女はつまんでいたリップを机に戻すと、目を細めて、また遠くを見た。
どこか寂しげで、悲しそう。

私はハッとした。
よく考えてみれば、つい数日前まで男だったんだ。
それがいきなり女になってしまった。
体は女の子になっても頭の中はきっと男のまま。
そんな中で女扱いしてしまったら、きっと不快になるに違いない。
ひょっとしたらすでに機嫌を悪くしてしまっているかもしれない。

私が固まっていたら、彼女は「ありがとう」と言ってそのまま教室から出て行ってしまった。
なんとなく悪いことをした気になり、しょんぼりしながら机の上のグッズを鞄にしまう。
教室に何人か人が入ってきた。
もうそろそろホームルームが始まる時間だった。

 昼休み、私はいつものように友達とご飯を食べる。
購買で買ったパンと、お弁当。
今日はちょっと贅沢だ。

「ねぇ、あんたどうすんの?」

いきなり親しい子から話しかけられる。

「え?何が?」
「やっぱ気づいてないか…。ね、どうする?」

そう言って何人かとコソコソと話を始める。
なにがなんだか分からない私は仲間はずれにされた気分ですこしイラっとした。

  …でも喋るなって口止めされてるじゃん…
  …いや、でもそれだったらめっちゃ可哀想…
  …どうすんの?絶対気づいてないよ、あれ…
  …わかった。私聞いてくる…
  …おk…おk…おk…

「ちょっと何?私にも教えてよ。」

友達は皆私を、諦めたような、呆れたような笑顔で見た。
そしてぽんと肩を叩かれて、「ご飯、食べよか」と言われた。
一人はどっか行っちゃうし、皆哀れむような目で私を見る。
正直生きた心地がしない。

その後、昼休みが終わった後も、休み時間になると友達はいっせいにどこかに行ってしまうし、「彼女」もどこかに行ってしまった。
私はなんだか寂しさを覚えながらも部活に行くことにした。


次の日も、その次の日も、友達はコソコソ話をしながらどこかへ走り去る。
聞き耳を立てると、「許可下りた?」とか、「もう話そうよ」とか、よく分からない内容ばかり。
疎外感と苛立ちを感じる。


そんな生活が2週間も続けば私の堪忍袋は限界を超える。


我慢できなくなり、私は一番仲のいい子を放課後、呼び出した。
「彼女」と話した時みたいに教室はオレンジ色で綺麗。
でも私の心は真っ赤にどす黒く燃えている。
イライラしてしょうがない。


「ねぇ、なんで最近皆私を避けてるの?」
「……。」
「答えてよ!」
「ふぅ~…、避けてるっているかね…まぁ、私からは言えないわ。言っちゃいけない。」
「どういうことよ!」
「…そうね…ある程度話しておかないとアンタは気が付かないもんね。」
「は?」
「いいわ。話してあげる。そこに座りなさい。」

私は「彼女」の席に座り、友達はその隣に座る。
友達はいやに真剣な顔で、私はさっきまでの怒りがどこかへ行ってしまった。
それどころか、緊張してきた。
いつもは一緒に話して、遊んで、面白おかしくしている友達がいままで見たことも無い表情で私を見る。
その顔は怒っているみたいで、なんだか怖くなった。

「赤塚って知ってるよね?」
「あ、当たり前じゃない。あいつがどうかしたの?」
「幼稚園から一緒に過ごしてきたのにアンタって酷い女だね。
 こういうのは男の方が鈍いっていうのに。」

「言っている意味が分からないわ。」
「そりゃそうよね。いままで気が付かなかったんだもん、今さら気づくわけが無いわ。
 貴女、赤塚との約束覚えてる?」

「約束?…いつのこと?」
「貴女はそんなことも忘れたの?けどあの子はずっと覚えているわ。女の子になった今でも。
 そしてもう、その約束は果たせない。」

「…貴女、ちょっと前に佐藤先輩に告白したわよね?」
「…うん。フラれたけど。」
「皮肉なもんね。赤塚はその日に女の子になったのよ。本当に運が悪かったわ。
 あと一日でも遅かったらこんな結果にはならなかったのかもしれないのに。」
「……?」

「赤塚は貴女が佐藤先輩のことが好きだってことをかなり前から知っていたわ。
 だから動かなかった。いや、動けなかったのね。貴女のために。」
「…一体何を話しているの?」

「…貴女、赤塚に何回か呼び出されたことあったわよね?」
「ええ。なんでそんなこと知っているの?」
「そんなことはどうでもいいの。で、貴女はその時どうしたの?」
「…別に家が近所だし、言いたいことがあるならいつでもいいじゃない。
 行こうと思ったけど、部活の大会があったときもあったし、忘れていたときもあったわ。」

「それで一度も行ったことは無いのね?」
「そういうことになるわね。」
「とことん可哀想だわ。」
「だからさっきから何が言いたいの!はっきり行って頂戴!!」

「まったく…なんでわざわざ呼び出す必要があるのか考えたことはないの!?
 なんでいつも貴女の相談に乗ってあげていたのか分からないの!?
 なんで佐藤先輩のことについて知っていたのか気にならないの!?」


えっ?
なんでだろう?
え?え?
なんで?
私とアイツはただの幼馴染で、小さい頃からの友達で、それだけなハズだ。
いつもそばにいて、それが当たり前。
それがいつもの感覚。
今までも、そしてこれからも、一生変わらない距離。
変わらない関係。
私はそう思っていた。

なら彼は?
いつも何だかんだで一緒にいて、いつも私のそばにいる。
つらいときは相談に乗ってくれるし、遊ぶときも一緒。
近所に住んでいて、小さい頃からの遊び相手。

それなのに私を呼び出して言いたいことがあった。
私の好きだった人が気になる。

いや、それはない。
まさか、アイツに限ってそんなことはないよ。
だって、私とアイツはただの同級生なんだ。
ただ近くに住んでいて、それだけなのに。
ありえないよ。
でも…でも……。


先輩にフラとき、何故かそんなに悲しくなかった。
死ぬほど落ち込むと思っていたのに、全然平気だった。
なんか別にどうでもいいって感じ。
そう思ったらなんであんな先輩を好きになったのかわからない。
けど、フラれても平気だってことは、そこまで好きじゃなかったのかもしれない。
フラれてもどこかに心の支えがあって、それが崩れない限り、大丈夫。
告白するときも保険をかけていた気がする。


フラれてもアイツがいる。


そうやっていつも保険をかけて告白していたんだ。
中学生のときも高校のときも、つい最近も。
そうやっていつも心に保険をかけいたから、フラれても何も感じなかったんだ。

91 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/17(日) 23:30:02.20 ID:dVhJTUDO 
魚で性別変わるやついたよな

てかオレとっくに女になってるなorz 


だから…だから……!

「あぁ…!あああああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ!!」

いつもの「彼」はもういない。
私の心の保険はもうない。
幼馴染の「彼」はもういない。

「彼」はいない。

そう考えただけで何故か涙が止まらない。
叫び声も止まらない。
脳裏に浮かぶ「彼」の顔。
一緒にいるのが当たり前すぎて気が付かなかった。
そばにいるのが普通で、何も疑問に思わなかった。

私はその場で崩れ落ちた。
私は友達に支えられて、その胸で泣く。

「やっと分かった?ったく、馬鹿ねぇ…。」
「あああぁぁぁ!!私…私…!!」
「でも今さら後悔しても遅いわ…。」

そうなんだ。
私の「彼」はもういない。
私のことが好きな「彼」もいない。

私の……好きな「彼」もいない。

やっと、やっと分かった。

「アンタが佐藤先輩に告白した後ね、私が赤塚に連絡しといたんだ。
 ”アイツフラれた”ってね…。そしたらさ、赤塚、なんていったと思う?」
「え…?」

「”大丈夫か?傷ついてないか?”だってさ。普通は好きな女がフラれて、心配はするけど、ちょっとは安心するもんだろ?
 俺にもまだチャンスは残ってる、って。でもそんな感情は微塵もなくってさ、敵わないよ。
 赤塚は本当にアンタのことを愛していた。ずっと、ずっと前からね。」

「う…わああああああぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「あ…、あと最近は赤塚のことで皆忙しかったんだ。トイレとか、生理用品、服装とかね。
 なんかアンタには頼れないからって、一人で頑張ろうとしてたんだよ。
 でもさ、ほっとけなくてね。それにさっきみたいなこと話していいか、とか、いろいろあったんだよね。
 だから誰も避けてなんていないよ。つらい思いさせてゴメンね。」

それから私は泣いた。
泣いて、泣いて、泣いた。
友達はそれでも私を抱きながら、頭を撫ででくれた。


外はすっかり暗くなっていて、見回りの先生がくる時間になっていた。
家に帰ると、目が真っ赤になっていたので親に心配された。
私はなんでもないと言って、部屋に入る。
そしてベッドに倒れた。

明日、アイツになんて言ったらいいんだろう。
そんなことを考えながら眠りについた。




いくら朝が来てほしくなくても、来るものは来てしまう。
今日も学校がある。
足が重い。学校に行きたくない。
それでも私は行かなくてはならない。
アイツに会わないといけない。
そして、謝るんだ。
約束を忘れていたこと、好きだってことに気がついてあげられなかったこと。
全部、しっかりと謝らないといけない。

そんことを考えていたらいつの間にか学校に着いた。
靴を下駄箱に入れて、教室に向かう。
向かう途中、胸が針金に締め付けられてような痛みに襲われたが、今はそんなことに屈している場合じゃない。
教室に入りたくなくても入らないといけない。
不安と恐怖があるけど、それでもアイツに会って、自分の気持ちを言ってやるんだ。

私は教室の扉を勢いよく開けた。
既に何人か登校しており、その中には私の知っているちっちゃい女の子もいる。
その姿をみただけで、何か重いものに胸が押しつぶされる。
締め付けられる。
痛い。
その、ちいさな背中が痛い。

ひざが笑っている。
そこまで緊張しているのだろうか。
声もうまくでない。
名前を呼んで、用があるって言って、話をするんだ。
そして謝るんだ。
心で何度もそう言って自分を奮い立たせる。

でも足は動いてくれない。
一歩が重過ぎる。
床にへばりついたみたいだ。
そうしているうちに時間が経っていく。

「はい、皆席に着いて。」

先生のその言葉を聞いて、私はようやく我に帰った。
急いで席に座る。
さっきまであんなに重かった足が驚くように動いた。
私は自分が情けなくて、泣きそうになった。
でも、「彼女」の苦痛に比べたら私のなんて屁でもないだろう。

その彼女は前髪をいじっている。
つまらないときはいつもそうしていた。
男のときも、野球部のくせにちょっと長い前髪をいじっていた。

あくびをする。
口に手を添えずに堂々とあくびをする。
小さな口を精一杯開けて、やる気の無い声を漏らす。

彼女の仕草の一つ一つが私の心に刺さる。

その後の授業のことは覚えていない。
気がついたら昼休みで、皆、弁当を広げ始める。
彼女も自分の弁当を机の上に広げている。
いつもは仲のいい男子と食べていたが、女の子になってから一緒に食べているとこを見たことが無い。
一人で、黙々と食べている。

いつもなら気軽に声をかけれるのだが、今はそれにとんでもなく勇気がいる。
怖いのだ。
理由はよく分からないが、声をかけるのすら恐怖に感じる。
それでも私はなんとかしないといけない。
またひざが笑い出した。

ポン。
と、背中を誰かが叩く。
振り向くと私の親友とも呼べる友達がいた。

「頑張れ。」

耳元でそういうと、そのまま彼女はどこかへ行ってしまった。
そうだ。
頑張らないといけない。
頑張るんだ。

「あ…えっと、ねぇ?」

私の声に気がついたのか、こっちを向く。

「ん?」
「い、いつも一人なの?」
「ん、まぁ…。」
「じゃあさ、えっと…、一緒に食べよ?ほ、ほら皆で食べるとおいしいって言うじゃない?」

言えた。
なんとか言えた。
彼女は弁当をじっと見ながら静止している。

「だ、駄目かな?」
「…わかった。ちょっと待ってろ。」

そいうと、食べかけの弁当をババっと片付ける。
男のときより圧倒的に小さい弁当箱だ。

「で、どこで食うの?」
「えっと、屋上…でいいかな?」
「いいけど、今の時期、寒いぞ?」
「だ、大丈夫、大丈夫!」
「ふーん…。」

彼女は私を見ていたが、私はどうしても目を合わせることが出来なかった。


 屋上は誰もいなくて、風が強い。
小さい彼女ならちょっと突風がしただけでどこかに飛ばされてしまいそう。
そう思わせるほどに彼女は弱く見えた。

「寒いけど、食うか。」
「うん。」

彼女が弁当を広げるのと同時に私もお弁当を広げる。
女の子になってから買ったのか、彼女の弁当箱はオレンジ色のかわいいもの。
2段になっていて、上にはオカズ、下にはご飯がつめられている。
私にはそれだけじゃちょっと足りないくらい。
でも彼女は半分も食べないうちに箸が止まってしまう。

食欲がないのか、何か間食でもしてしまったのだろうか。
なかなか箸が進まない。

「ふぅ…。もう食えねぇ。」
「どうしたの?食欲無いの?」
「いや、なんか女になってから食べられる量が一気に減ってさ、これくらいの弁当でも食べきれない。」
「そっか…。」

ああ、どうしよう。
会話が続かない。
本当はいっぱい話したいことがあるのに。
でも、勇気を出さないと。


ふと、風が止んだ。
外は晴れていたので日光がまぶしい。
季節は冬なのにちょっとぽかぽかして暖かい。
それでも気温は低いから息は白い。

私は唾を飲み込んだ。

「あのさ…。」
「ん?」
「私のことさ、その…、好き…だったんだよね…?」
「…。」
「でもさ、私さ、そのことさ、分かんなくてさぁ…。」
「………。」
「でさ、やっとさ、気がついたんだ…。私もね…私も…」
「これ以上は言うな!」

バッと立ち上がり、ひときわ甲高い声で叫ぶ。
私の目には大粒の涙がいつの間にか、たまっていた。

「これ以上は…言うな…。」

涙声なのに気がつき、私は彼女を見上げる。
昔から私の前では泣いたことがないのに、また、ぽたぽたとこぼれ落ちる。
眉をひろめて、今にも崩れそうな表情で、私を見る。
それに触発されてのか、私も止まらない。
抑えていた感情が一気に爆発し、表に出てくる。
でもどうしたらいいか分からない。
だから涙が止まらない。
しゃくり声も止まらない。

「だって、俺は、もう…もう…、お前を好きになる資格もないんだよぉ……。
 もう約束も守れない!愛することも許されない!
 俺は…俺は女になっちまんだ…ウゥ…ヒッグ…。」

ポロポロと、とめどなく溢れ、落ちる。
それをなんとか止めようと手で拭うが、まったく効果はない。
私は立ち上がった。
ゆっくり、彼女に近づく。

「え…?」

私は抱きしめた。
本来だったら私が抱きしめてもらうはずだったのに。
でも、今の「彼」は女の子で、私よりも圧倒的に小さい。
彼女が抱いたつもりでも私に抱かれるように見えるだろう。

何が起きたのか分からないのか、あどけない顔で私を見上げる。
涙と鼻水でカワイイ顔が台無しになっているが、それでも私には愛おしく感じる。

だって、こんなにドキドキしているんだから。
いつの間にか涙は枯れていて、跡だけが残っている。
胸が張り裂けそうになりながらも私は優しく彼女を抱擁する。

「ゴメン。気がつかなくて…ゴメン。」

私は耳元でささやいた。
それが引き金になったのか、彼女はまた大声で泣き出した。
私の胸に顔を押し付けて、泣きじゃくる。
制服が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっているが、どうでもいい。
今は、そんなことはいいんだ。

私はさっきよりも強く、抱きしめた。
華奢で、細くて、白くて、小さい身体。
もう少し強くしたら壊れてしまいそう。

「ねぇ…、私のお嫁さんになってよ。」
「ふぇ…?」
「だから、結婚しようよ。」
「でも、だって、だって、……!」
「ちょっと難しいけど、女の子同士でも結婚できるんだよ?それに…「約束」でしょ?
 将来結婚しようって、…ね?」

それから彼女は何か吹っ切れたのか、私に抱きつき、ひらすらに泣いた。
まるで子供みたいに泣いた。
抱く力はそこまで強くないけど、しっかり私の服を掴んでいる。

何か喋ってるみたいだが、聞き取れない。
でも、それは拒絶ではないのが何となく分かって、私も嬉しくて涙が出た。
彼女の涙もさっきとは違う、別の意味での涙なのだろう。

私もまさか女の子と結婚するだろうとは思ってもいなかった。
けどいままでずっと一緒にいて、一番近くにいる人。
やっと好きだって気がついた人と愛し合うことができるのならそれでもいい。
生活は厳しくなるかもしれなけど、一緒にいられるならそれ以上はいらない。
高校二年生だから、もう法律上は結婚できる。
私はそれに心が暖かくなる。
きっと嬉しいのだ。

「高校卒業して、大学卒業したら、式を挙げようよ。」
「うん…!うん…!」
「子供はできないからさ、養子でもいいかな?」
「いい!ずっと、ずっと一緒に…!」

昼休みが終わって、次の授業のチャイムが鳴ったけど、別にいい。
今は彼女といられれば、それだけで十分。

 私と彼女が泣き終わって、落ち着いたとき、友達が来た。
あまりにもタイミングがよかったのでずっと影で見ていたのかもしれない。
でも、それでもいいと思った。
私が気がつけたのは、まぎれもなく彼女のおかげなのだから。

私の胸にいる婚約者は泣きつかれたのか、規則正しく寝息をたてている。
屋上は寒い。
私に寄り添うように身体を丸め、身体を預ける。

「ふぅ、ようやくゴールインってことね。」
「…ありがとう。」
「どういたしまして。って、…プっ、あんたら何その顔?真っ赤じゃん。」
「え?あっ…、そう?」
「うん、そう。だから、さっさと保健室に行きな。ここは寒いし、もう授業中なんだよ?」

私はそう言われ、まだ泣き疲れている彼女をおぶった。
制服が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっているので寒い。
二つの弁当箱を持って保健室に向かうことにした。

外は快晴。
さっきよりも青空が広がっている。

やっと、歯車が噛み合った。



これで終わりだぜ
もし続きがほしかったら

百合百合しな~い?

って書き込んでください 

101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/01/18(月) 00:06:17.34 ID:26chdbQo
百合百合しな~い? 
102 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/18(月) 01:17:08.05 ID:ThfPvNco
wwwwww とりまGJ!! 
103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/01/18(月) 02:06:45.20 ID:8xKT4Js0
さて、百合百合しようか 
104 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/18(月) 02:26:23.97 ID:0IhQzQAO
百合百合しな~い? 
105 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2010/01/18(月) 12:58:58.52 ID:cC9yyqI0
おk
ならあと一週間くらい経ったら投下するわ 
106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2010/01/18(月) 23:45:50.24 ID:.mGHmAE0
百合百合!百合百合! 


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最終更新:2010年09月04日 21:46
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