「よっしゃ決まりだ!」
「あっ・・・うん」
今度の休日の予定が決まり、いつものように今までのように、ひろが僕と肩を組んできた。
今までと変わらぬ対応に、僕は安心感を覚える。
ああ、この人は僕のこの姿を軽蔑や差別のような感情をもって接してきているわけじゃないと。
「こら!気安く体を触らないのっ!」
「え?いーじゃん別に」
「いいよ、僕も気にしてないし」
「だーめっ!!ゆうちゃんはもう女の子なんだからっ!」
「そーいわれてもなぁ、今までの感覚が抜けなくてよ」
「だから言ってるんでしょっ!は な れ な さい!!」
「いだだだだ!おいっ真菜!いてぇって!!」
真菜ちゃんは、ひろ君の方耳を掴んで僕からひっぺがす。
僕の肩にあった大きな腕が力なく抜き取られて少し寂しい。
肩に残った感触をもう一度確かめようとそっと肩に手を当てる。
しかし、その感触もだんだん薄らいできて、さらに寂しい。
男同士だったころとは比べ物にならないくらい、彼の大きな腕。
今まではごく当り前だったことも、今ではもう──。
「ほらぁ!ゆうちゃんが黙ってんじゃんっ!」
「いや、だから耳はなせって!!」
「えっ!ちっちがっ・・・」
僕がいま感じた事、その仕草に何か感じ取られたと思って少し焦った。
「わ、わかった!わかったって!わるかったって!」
「え、えぇっ!?そんなっ!真菜ちゃん!違うんだってば!」
「何が違うっていうの!?もっとはっきり言わなきゃだめだよ!警戒心を持って!」
どうやら、3人の会話が全然噛み合ってないようだ。
「警戒心って・・・ひろ君は大丈夫だよ」
「だめっ!あたしは許さない!!」
「わ、わかったよ・・・触らなきゃいいんだろ!?わかったよ、たくっ!」
僕たちの関係を否定されたような気持ちになった。
真菜ちゃんには悪いけど、僕にはそれが僕の存在を否定されているように感じられた。
だから、つい・・・
「ダメ・・・そんなのダメだよ!」
「「えぇ!?」」
二人の素っ頓狂な声が、ハーモニーとなって教室内に響き渡った。
「ちょっ・・・ちょっとゆうちゃん!?」
「そんなの僕は耐えられないよ・・・今までと一緒がいいよ・・・寂しいよ・・・」
「・・・・そ、そうだ!そうだゆう!そのとおりだ!もっと言ってやれ!お、男同士・・・?の友情はそう簡単に引き剥がせないと!!」
「なっ・・・!?なによ!二人して!ゆうちゃんはだまされちゃだめ!こいつは、合法的に女の子に・・・あんたに触りたいだけなの!」
「ひっでぇなぁ!仮にそうだったとしても、あいつがイイって言ってるんだからいいだろ!?」
「そういう問題じゃないの!!」
「い、いいよ・・・僕は・・・ひろ君だったら大丈夫だよ」
「おっ!心の友よ!いいこと言ってくれるじゃないか!」
ひろ君の顔はとてもにやけていたけど、僕はそれでもよかった。
彼がスケベなのは昔からよく知っている。
それでも、彼ならいいとさえ思った。
これは特別な感情?今だから?それとも──。
「ダメ・・・それだけはダメ!!そんなの許さない!!だってあたしは・・・!それに、横から急に卑怯よっ!」
そこから先は言わなくても何となくわかった。真菜ちゃんはひろ君の事が好きなんだと。
横から急に現れた女としての僕は、真菜ちゃんにとって邪魔な存在なのだと。
でも、僕はこのまま引き下がるつもりはなかった。
「ま、負けないよ・・・」
「なっ!?女じゃあたしの方が上なんだからね!負けないわよ!」
「「勝負!」」
決して何も起こりそうでなかった、三すくみのような関係にひびが入り、それは三角関係へと進化を遂げた。
「えっと、俺、なんだか蚊帳の外みたいで寂しいんだけど・・・」
「誰のためだと思ってんのよ!この鈍感!」
バチン!
真菜ちゃんの平手打ちが、ひろ君の頬に直撃する。
「いってぇ!!あにすんだよ!」
「真菜ちゃん!乱暴はだめだよ!大丈夫、ひろ君?」
「あ、あぁ・・・大丈夫だけど・・・」
僕はそう言って、第一戦目の勝者となるべく先手を打つ。
彼の頬を優しくさすり、心配そうに彼の顔を見上げる。
僕は知っている、彼はこういう従順で大人しい女の子が好みであると。
ならばこちらの勝算は高い。
「離れて・・・離れなさいよ!ゆう!!」
「い、イタい!なにするの!?やめてよ!」
「もう女気取り!?あたし、いくらゆうちゃんでも許さないから!!」
「だってもう女だもん!」
「えっと・・・二人とも?」
「「うるさい!!」」
「ひぃっ」
よくありがちな展開でした
最終更新:2010年09月04日 21:48