3日目
今日は最悪だった。
例のアレが来たのだが、辛いのなんのって・・・。
思春期の男児が想像するピンクい世界なんて吹っ飛ぶほどのリアルが俺の体を襲っている。
仕方ないのでおばさんを助っ人に呼んで、色々手ほどきしてもらった。
今日は赤飯を炊いてくれるとの事・・・どうやら、俺の親にも連絡をつけたらしく、合同でお祝いとやらをやるらし
い。
頼むから今日は寝かせてくれよ・・・・。
予定では今日は卓美と顔を合わせる計画ではなかったのだが、晩飯の席ではち合わせとなることになった。
正直な話、計画として動いている時の俺は何か割り切っている部分があり、ちょっとした事でも恥ずかしくはなかっ
た。
がしかし、今日は計画外の出来事。
なんか恥ずかしくて卓美と目を合わせられない。
しかも、このパーティーの理由が俺のアレにある事から色々と・・・。
まったく、もっと違う意味で気を利かせてほしかった。
あぁ、グロッキー。
なんか食べられたもんじゃない。
とはいえ、せっかく作ってもらった赤飯を食べない訳にもいかず、茶碗一杯分なんとか平らげておいた。
しかし、無理が祟ったのか、さらにグロッキーに。
そのまま寝込んだ。
4日目
さらに辛いんですが。
こんなのが月1なんて不公平にも程がある。
その辺の動物みたいに、垂れ流せたらと思ってしまう。
卓美も来ないし。
お前は今日も俺のパンツでナニをナニしてるんだろうな。
バカ。アホ。
5日目
すっかり楽になった。
まだアレは外せなくてイライラする。もう嫌だ。
今日も卓美は来ない。
心配して見に来たんだ。
とか気の効いた事してくれてもいいのに。
あぁ!もう俺のアレの日覚えられた!
今頃それを想像してナニをナニしているに違いない!!
本物を差し置いて!!
6日目
日曜日だというのに親に連れられて、学校へ。手続きだのなんだの面倒臭い。
卓美に会いたい。
どうやら初日に寸法合わせした制服が出来上がったとの事でそれを取りに行った。
親に着方を教えてもらっていざチェック。
うむ。なかなか良いじゃないか。さすが制服マジック!
胸元が少しさみしいがな!!
だが、我ながらいいスタイルだ。
今日も卓美が来ないので、しびれを切らして呼びつけた。
明日から学校に行くつもりなので、いち早く卓美に見せてやった。
固まっていた。
気の利いた事を言ってほしくて少し?れていると、急にそわそわし始めた。
どうやら、そわそわしているのは?れている理由を察してもらった訳ではなく、おそらく別の理由だろう。
この変態め!いつか落してやるからな!
7日目 - その1
一緒に登校することになった。
同じクラスだったらよかったのにな。連れだって教室に入りたかった。
見せつけてやるために。
予想通り、周囲に女共が寄ってたかってきた。
彼女らの発言から推測するに、俺の容姿と今後の行動を相当警戒しているようだな。
心配するな。あんたらの意中の男共など興味すらない。
だが、それが卓美なら覚悟しておけ。
それからしばらくして、以前から浅い付き合いだった男共が寄ってきた。
当然だが、以前とは俺を見る目が違う。
こう、全身を舐めまわすように見てくる。
気持ち悪いったらなかった。どうせ頭の中で俺にぶっかけてるんだろ?
女達はいつも男たちからこんな目で見られてたのか!?
そういや、俺もそうだった気が・・・・。
まぁいい。気を取り直そう。
とにかく、このままではいかん。
周囲の人間を掻き分けてでも昼飯は卓美と・・・!!
卓美のクラスにお邪魔することにした。
だ、誰だあれは!?
健康美あふれるポニーテール少女の定番は!!
な、仲よさそうに話しを・・・俺は知らないぞあんな娘!!!
あの娘・・・まんざらでも無さそうな顔しやがってぇぇ!!
いつからだ!いつからなんだ!卓美!!
許さない許さない許さない許さない許さない!
卓美に手を出すなんて許しはしない!!
嫉妬渦巻く俺の心。
しかし、ここでボロだして大騒ぎなんてした日には、明日から卓美とぎこちなくなりかねない。
落ち着け、落ち着くんだ。まずはアレが誰なのか確認するんだ。
「たっくっみ!一緒にご飯食べよ!」
「あ!皐月!?」
なんだか、凄まじく焦っている。
ちょっと、マジなのか!?俺は三角関係なんて認めないぞ!!
「えっと、如月君。誰?」
は?誰だって?なんだよその、この人だれ!?見たいな二股鉢合わせシーンは!!
「あ、ごめんね、園田さん。かれ・・・あっ、彼女は村雲皐月さん。僕の幼馴染なんだ」
7日目 - その2
園田・・・?あれ?どこかで見た名前なような・・・?
「幼馴染なんだ・・・。あたし、園田咲」
この娘、「よろしく」とは言わないんだな。ふーん。
とりあえず、愛想を振りまいて笑顔で返答しておく。
「卓美。お昼ご飯」
勿論心は穏やかじゃない。つい口数が減ってしまう。
「ご、ごめん。ちょっとその・・・園田さんと話があって・・・」
お、お呼びじゃないってかよ!!
た、耐えろ!絶えるんだ俺!!
まずはあの娘の名前を確認しておくんじゃなかったのか!!
「・・・そっか・・・じゃ、一人で食べる!じゃあね!」
くっ・・・!耐え切るつもりだったが、つい口に出てしまう!
俺はそのまま卓美のクラスを後にする。
一度自分のクラスへ戻って、弁当を机に投げてそのままひとりになれる場所。
トイレの個室へ移動した。
ダン!!
個室の壁を足で蹴り飛ばす。
隣の個室から「キャッ!」という叫び声が聞こえてきた。
ふざけるなふざけるなふざけるな!!
ふざ・・・けるな・・・・!
目頭が熱くなって視界がぼやける。
目からあふれた何かが、頬を伝って口の中へ入ってきて、それが塩っ辛い。
そこで初めて、あぁ、俺泣いてるんだな。と、感じた。
泣くな、泣いている暇があったら掠め取れ!
それくらいの気持ちで行くんじゃなかったのか!
計画から外れるとこうも弱いなんて・・・。
しかし、あの娘が卓美の意中の存在であるとは限らないのだ。
いいさ、俺には卓美との長い付き合いがある。
この後、自宅に呼び出してでもその真偽を確認すればいいのさ!!
断られた!
用事があるそうだ!!
バカバカバカバカ!!!
8日目
毎朝恒例のフェイス&ヘアーチェック。
我ながら幼い顔つきだと思う。どこぞのマニアが見たら放っておかないだろう。
いや、放ってかれたほうがいいのか。誘拐とか洒落にならない。
肩までの髪を入念にチェック。
うーむ。そのまま下ろすのは捻りがないか?
ふと昨日のポニーテール娘が頭に浮かぶ。
くっ!だめだ!思い出してしまう。
馬の尻ヘアなんかがあんなに良いのか?卓美?
やっぱり今日も断られた!!
少し遅めに卓美に電話してみたが、電話すら出ない!
おばさんにも聞いて見たが、帰りは遅いらしい。
なぁ・・・卓美
せめて、昼くらい一緒したい・・・。
9日目 - その1
やっと俺の申し出に答えてくれた。
まぁ、家に来て欲しいだけだが。
二日ほどまともに話ができなかっただけなのに、どうしてこうも気持ちが焦るのだろうか。
当初は作戦通り卓美を落としにかかる予定が、今は卓美に振り回されているだけだ。
それもこれもあの女!!
卓美が悪いんじゃない!あの女が悪いんだ!
き、きた!卓美きたー!
「卓美」
「ん?」
「あの女、何?」
「え?」
「俺との誘い断って、毎日遊んでんだろ?」
「えぇ!?そ、そんなんじゃないよ!」
「ふーん。俺に隠し事するようになったんだな。俺が女になったから?壁感じてるんだ?」
「ち、ちがうよ!そんなんじゃないよぉ!な、なに怒ってるんだよぉ・・・」
「怒ってない!!」
「うぅ・・・」
「そういえば、下着が1枚足りないんだよなぁ・・・どこいったっけ・・・?」
「な、なななななんのはなし!?」
なにか怪しい。
9日目 - その2
「なぁ・・・卓美・・・」
「はへ?」
「あの女、好きなのか?」
「えぇ!?ち、違うよ違うよ!そんなんじゃないよ!」
「一緒に居るの・・・気になる・・・」
「え・・・どうして・・・?」
言わせるのか・・・まぁ、いい。言わなきゃ伝わらない事だってある。
「卓美を・・・取られたくない。それだけ・・・」
「あ・・・そっか・・・」
「だから・・・」
「ごめん、ちょっと用事思い出したんだ」
「はぁ?ど、どうして!?」
そのまま卓美は足早に帰っていった。
色々と伏線っぽいの残して帰らないで欲しいんですけど!!
あぁぁぁん!もう!あの女の所為でろくな会話にならなかった!!
しかし、卓美の気持ちがどうこうって部分では俺の圧勝だな。
だが、災いの芽は早々に摘んでおいた方がよさそうだ。
覚悟しろ園田咲!!
10日目
今日は俺のクラスに呼び出して、昼ご飯を一緒した。
あの女、少し恨めしそうにこっち見てたっけ?ふふ、ざまあみろ。
クラスの連中が俺たちを見る目が明らかに違う。
俺たち、どんなかんけーに見えるのかな?
今日も放課後から卓美は用事があるらしい。
本人は何も話さないものだから、ここは奥の手を使わせてもらう。
おばさん曰く、"らぁめん園田"でバイト中らしい。
園田・・・通りで何処かで聞いたことある名前だと思った。
近くにある商店街のラーメン屋じゃないか。
バイトだって!?どうして俺に黙る必要がある?
なんか怪しい。
って、園田!?
あんの女!!
いいさ、今から乗り込んでやる!
あの女と話を付けにな!
状況から察するに、園田咲はあのラーメン屋の娘って所か。
んで、何らかの理由でバイトすることになった卓美は・・・よりにもよってあの女の所で・・・。
「いらっしゃい──さ、皐月!?」
「たっくっみ!おばさんから聞いてきちゃった」
「村雲さん!?」
前置きは無しだ。ちょっと面ぁかせや女。
「話・・・ね・・・」
「うん」
「あたしもアナタに話があったんだ」
へぇ~そぉなんだぁ・・・?
「アナタ、ちょっと前まで男だったよね。村雲皐月君?」
調査済みって訳か。もういい、建前とか無しでいいか。
「よく知ってるんだな。俺の事嗅ぎまわってたわけ?」
「お互い様じゃない?」
「ふん。もういいや、ハッキリ言うよ。卓美に手を出すな。それだけ」
「は?どうして?アナタにそんな事言う権利なんてないんじゃない?」
「あるから言ってるんだけど。あんたの知らないこんな事やあんな事する関係って分かる?」
「な!?何言ってるの!?」
分かってるくせに。
「ハッキリ言おうか?」
「い、いい!聞きたくない!お、幼馴染がなんだっていうの!?彼の事わかった振りとかしてるだけなんじゃない?」
焦ってるな。俺の知らない卓美を知っているとか何とか言いたいんだろうか?
「如月君が何のために頑張ってるか知らないくせに・・・」
「ふーん。それで?」
「あんた最低ね」
くっこのアマ!!
「この卑怯者!」
「な、なんで俺が!?ふ、ふざけんな!」
取っ組み合いの喧嘩が勃発した。
「実はあんたの事前から知ってたよ!いつも如月君と一緒に居たよね!本当はホモなんじゃないの!?」
「うるさい!お前に何がわかる!」
「こんなに小さくなって!如月君をロリコンなんかにしないでよね!」
「うるさい!うるさい!卓美はこんなのが好きなんだよ!」
「バカじゃない?本当の女に勝てると思ってんの?」
「!!」
俺の体が一瞬フリーズして、相手に押し飛ばされる。
俺の体があの女より一回り小さいせいもあって、あっけなく吹っ飛んだ。
「あっ・・・」
「いったぁ・・・」
「・・・うっ・・・ふぅっ・・・だから・・・女なんて嫌い・・・なんだよ・・・」
歪んだ視界で、あの女を睨み付ける。
なんか変な顔でこっちを見ていた。
でも、今はそんな事気に留めるだけの余裕はない。
まだ痛むお尻をかばいながら、その場をそのまま後にした。
女なんて嫌い、か。俺は心の中で女を嫌悪していたのだろうか。
そんな俺が、女になってしまうなんて何て皮肉。
完璧にとは言わないが、あの場は負けた気がする。
俺の弱点を突いてきた。アレは今日そこらで考えたような言葉じゃない。
やはり、あの女は卓美を・・・・!
これは直接対決は臨まないほうがよさそうだ。口ではあの女に勝てない。
まぁ、それ以上にあの女に勝てる部分があるとすれば、俺が一番卓美に近い存在という点だ。
アドバンテージはまだ俺にある!
そういえば、一つ気になることがある。
「卓美が何の為にバイトしていると思ってる」
と、言う言葉だ。
その言葉を口走るあの女の表情は非常に悔しそうだった。
ということは俺のための何か、か?
ならば、さらに一つ俺にアドバンテージってわけだ。
今日のところは退く。いや、戦略的撤退!!負けるもんか負けるもんか負けるもんか!!
11日目
卓美くん
ああ卓美くん
卓美くん
数学の授業中にくだらない俳句が浮かんでくる。
ふぅ・・・頭の中は卓美で一色だった。
だから卓美にメールを送る。
『今日からずっと昼ご飯一緒がいい』
と、一言だけ。
卓美からの返信を待つ間、色んな女が寄ってくる。
うざいんだが。
「今誰にメール送った?」とか「男?女?」とか・・・
時々男も寄ってくる。
寄ってくる男は軽そうな奴ばかり。
「今日一緒に遊びに行かね?」とか「カラオケいこーぜ!他の女の子も来るし!」とか・・・
今まで俺が男だった事なんてお構いなし。目の色変わりすぎでこえぇよ。
普通の女なら、「誘われることに対して、自分に魅力がある」とかだとか思うのかもしれない。根拠はないけど。
男が女を誘う理由なんて、裏返せば手を出す口実をどこかで狙っているにすぎない。節操無い奴らなんだ。
けど、男はみなそういう奴ばかりでもない。逆に消極的な方がまだ可愛らしいとさえ思えてしまう。
ま、結局はみんなスケベなんだけどね。男って悲しい生き物だったな。と、今しみじみ思う。
ねぇ、むっつり卓美くん。
メールが来た!
『いいよ。でも、今日園田さんも一緒になるかも』
最悪だ。
12日目
昨日は最悪だった。
あの女、卓美にと特製チャーハンを作ってきやがった。
他にも色々出来るんだよとか何とかほざいてた。
俺もちゃんとした料理覚える!!!
心に新たな目標と信念が芽生えた瞬間だった。
今日は土曜日で学校は休み。卓美はバイトとかで家にいない。
というわけで、卓美の家でおばさんに料理の手ほどきを受けることとなった。
卓美には賄い食べて帰るなよ。と、一言メールを入れた。
なかなかセンスが良いと褒められた。
伊達に晩飯一人とか食べてなかったからな!!
まぁ、以前は豪快そのものな男料理だったがね・・・。
今回は意気込みが違う。丁寧に、細心の注意を払って・・・だ。
しかし、卓美はなかなか帰ってこなかった。
なかなか帰ってこない卓美を心配してオロオロしていた俺を見たおばさんは、そっと頭をなでてくれた。
ちょっと涙が出た。
卓美は夜の9時を回って、フラフラになって帰ってきた。しかも、賄いまで食べて。
それを聞いた俺は心身喪失状態になりかけて、へたり込んでしまった。
計画を外れるとこんなに弱いなんて、なんでだろう?あれ?おかしいな、目から汗が・・・。
ちなみに、俺のそんな様子を見たおばさんは、次の瞬間卓美を見るなり鬼の形相だった。
卓美はたっぷり絞られていた。
もういい、もういい。と止める俺を見て、さらに絞られていた。
今日はもう帰ろう・・・。
15日目
今日もおばさんと特訓。
卓美はまた今日もバイトでしたとさ。
居ない分には、帰ってきたところを驚かせるみたいな事ができるわけだが。
おばさんとワイワイ料理教室の開始。
俺の事は昔から"さっちゃん"と呼ばれている。どっちつかずの名前なので今もその呼び方は変わっていない。
料理の手ほどきの途中、急にこんな事を言われた。
「娘が出来たみたいでうれしい」とか「健気で可愛い」とか。
後者の言葉を聞いたとき、少し心が痛んだ。
当初は"利用"までしていたんだから。
ジャガイモの皮を剥きながら、自分の気持ちを再確認してみた。
最初は体よくパートナーを得ようと、不順な気持ちで卓美に手を出そうとしたのは確かだ。
二日目だってそうだ。女の色香で卓美の気を惹こうとしただけだ。
けど、今はどうだろう。
確かに、料理を覚える事で卓美の気を惹こうとしているだけかも知れない。
あの女に勝ちたいだけかも知れない。
最近卓美の笑顔とか、優しいところとか見ていない気がする。
一人で空回りしているだけなのかもしれない。
気がついたら手が止まっていた。
おばさんが、どうかした?大丈夫?と優しい言葉を投げかけてくれる。
気がついたらおばさんの胸の中に飛び込んでいた。
「どうしたの?泣いて・・・」
認めたくなかった俺は擦れた声で
「ちがうよ・・・」
と、強がってみた。
おばさんに抱きしめられた。
「まったく・・・のりちゃんってば、こんなに寂しい思いさせて・・・もう・・・」
のりちゃん。俺の母親の名前だ。
おばさんがそう言った理由は、甘える相手の事だったのか、相談相手のことだったのか。俺には分からなかった。
「ごめんね、うちの卓美が不甲斐なくて。けどね、もう少し我慢してあげてね」
何か知っているような口ぶりだった。
「ありがと、おばさん。俺、元気でた」
「いえいえ。あ、そうそう。そろそろ、"俺"って言うの止めてみたら?せっかくこんなに可愛らしいんだから、ね?」
ちんちくりん。な、だけな気もするけど。
「あ・・・んと・・・すぐには無理かも・・・」
"私"か。他人等の人前での便宜上使うことがある。そのときは何も恥ずかしくない。
ただ、素で使おうとすると何か恥ずかしいのだ。
料理はレシピ通りで作れば誰でもそれなりになる。
盛り付けや色合いなどの見栄えも合わされば更に良い。
ただ、大切な部分は気持ちだと、恥ずかしいことを色々叩き込まれた。
ところで、もう夜の9時。
昨日より遅いってどう言う事!?
先におじさんが"カレー"を平らげてしまった。
カレーを食べつつ嫁に来いと言われて、焦っているとおばさんが鬼の形相になっていた。
怖いよおばさん。
結局10時になっても卓美は帰ってこなかった。
流石に家に帰れと促され、自分で作ったカレーをひとり食べて帰る事になった。
なんか、ぜんぜん美味しくなかった。
でも、俺は諦めない。絶対に諦めない。諦めたらそこで試合終了とか偉い先生が言ってた気がする!!
明日は早朝から弁当を作るのだ。
おばさんが家に来てくれて、手伝ってくれる約束をもう取り付けてある。
卓美には内緒である。
16日目
卓美に昼を一緒しようとメールを送れなかった。
なんか、急に恥ずかしくなってどうメッセージを送ったらいいか迷ったのだ。
その上、昨日の事もあって、どうにも気まずいのもあった。
諦めないと決めたのに、どうしてこうイレギュラーにはテンパってしまうんだろうか。
しかし、昼までには約束を取り付けないと、あの女に先を越されてしまいかねない!
結局昼休みになってしまった。
とにかく、弁当を持って卓美のクラスへ向かう。
そこに卓美の姿はなかった。あの女の姿も無い。
焦りながら最悪の事態を想像する。トイレ?購買?どこに居る?
屋上なんて、ベタな場所で二人はご飯を食べていた。
何で先に伝えられなかったのかと、心の中で繰り返し悔やむ。
卓美と目が合う。あの女はしてやった。あんたには出来るのか?みたいな得意げな顔をしている。
心の奥底から、怒りや悲しみの感情があふれて来る。
反射的に手に持った弁当を投げたくなる。
けど、投げたくても投げられない。
この弁当には様々な気持ちが詰まっている。
おばさんや俺の・・・。
本来なら制御できるはずも無い衝動をかろうじて抑え、卓美の下へと歩いていく。
「お願い、食べて・・・ね」
その一言が精一杯だった。
そっと弁当を渡して、俺はその場を後にした。
そして、また後悔した。
空気など読む必要はない、どんな状況であろうともあの場に残って一緒に食べればよかったのだ。
卓美は嫌だ何て一言も言ってない。言葉のキャッチボールすら交わしてなかったのに。
最終更新:2010年09月04日 22:17