赤羽根探偵と奇妙な数日-2日目-

 ―――赤羽根探偵事務所。

 名前こそ立派だが、雑居ビルに押し込まれた狭っ苦しい部屋だ。
 入り口に直接繋がってる客間はまだしも、事務所兼寝室である奥の部屋は俺の女っ気の無さを象徴するみてぇに、トランクスやら靴下やらが乱雑に散らばっていて、他人から見れば安物ベッド以外に足の踏み場もない。
……昨日まで、そんな状態だったんだが。

 その生活が一変した。理由は言うまでもなく―――。

「……すぅ、……すぅ」

 ―――今、俺の安息の地で静かな寝息を立ててる俺の"妹"のせいだ。


 事務所の外に置いたまんま何年も新調してなかった洗濯機をフル稼働させた挙げ句、客間は客を招き入れられるような状態ではなくなった。
 好き好んで事務所を訪れた奇特な客は、漏れなく俺のトランクスと靴下で出来た何重もの暖簾トラップの餌食と仕組みになっている。未だに生乾きだから少し……いや、大分臭っせぇんだわコレが。

 煙草用の普段回んねぇ換気扇が、外の洗濯機よろしく昨日今日と終日フル稼働な理由もそれだ。

 んで、事務所にそんな大混乱を招いた当の本人は、ノラ猫みてーに毛布にくるまったまんま、今さっきまでガラス戸越しに俺を睨みつけてた。

 事務所兼寝室と客間の間には薄っぺらいガラス戸―――鍵なんて豪勢なもんはない―――しかない。プライバシーの欠片も無い。
 カラダが女になっちまった、そこそこのルックスの女子がンな状態でベッドで無防備に寝姿を晒すなんて無理がある。

 ……ちなみに、昨日もこんな感じだったな。

 今日との違いはただ一点。

 昨日は名佳も俺も、ある種の緊張状態にあったから四六時中起きてられたんだが。

「すぅ……すぅ……」

 見てのとおり、ついに体力の限界がきたらしく名佳は今さっき眠った。
 ……というよりオチた。

 ただ、俺は眠る訳にはいかねぇんだよな……別に何もする気は起きねーけどよ。
 かと言ってアイツより先にグースカ寝ちまったら、最悪、逃げられちまう可能性がある。
 契約不履行で依頼金がパァになったら、財布的にかなり痛い。
 だから、今もこうして重たい瞼を無理矢理にこじ開けてる訳だ、が。
 ……くそ、眠ぃ………。

 ……いや、まぁ、文句を垂れても仕様がねぇのは分かる。

 いきなり、見知らぬ野郎との共同生活を余儀なくされて、はい、そうですかって素直に従うバカがどこに居るかって話だ。

 くそっ、楽な仕事だと思ったのに。

 内心でボヤきながら、赤ラークに火を点ける。
 朝の一服が、睡眠を求める脳みそにガツンと来た。
 初めて重てぇ煙草吸った時のガキか俺は?

「………ふぅう」

 ゆっくり、紫煙を吐き出してから無防備な寝姿を晒す名佳を見やる。

 ―――赤羽根 名佳。
 ―――"なのか"、ねぇ。

 フルネームを尻上がりに発音すると、なんか疑問系に聞こえるな。

 ………。

 そんな下らない考えが頭をよぎったのは、ここ二日間の寝不足のせいだろう。事務所の輪郭がボヤけた視界の中で、ぼんやり、そう思った。



  【赤羽根探偵と奇妙な数日-2日目-】



 …………。

 …………。

 ………っ?

 ……やっべぇ、俺もいつの間にかオチてたらしい。
 さっきまで白むだけで、姿も見せてなかったお天道さんが、俺の座っているデスクをかなり鋭い入射角で照りつけていた。

 そこまで、ぼんやりとしたアタマで考えて、一気に血の気が引いたような音がした気がした。

 ―――今さっきまで、向こうの部屋のベッドで寝ていた筈の、名佳の姿が見当たらない。

 いつの間にか俺の身体には、アイツをくるんでた筈の毛布が掛けられてて、当の本人は蛻(もぬけ)の空。

「………クソったれがっ!」

 慌てて、イスに引っ掛けてた安物コートに羽織り、ドラマで一度は見たことがありそうな探偵のトレードマークである黒いハットを被り、俺は何重にも仕掛けられた暖簾トラップを潜り抜け、出入り口のドアノブに手を掛けようとした―――。

 ―――そん時だった。

 内側から見れば、引いて開ける仕組みのドアが俺の意志とはカンケー無しに勢い良く開き、

 ――――ゴンッ

 という鈍い音と共に、頭にヒットしたドアのせいで俺は身体ごと玄関に弾き飛ばされた。

「お……おぉ……ぅ」

 間違いなくコブが出来たな、こりゃ……。

「―――そんなトコで何悶えるんだアンタ?」
「……ヒトのドタマにドアお見舞いしといて、"何悶えてんだ"はねぇだろ……っ」

 俺にドアの一撃を放った犯人は名佳だった。
 その細い両手にはコンビニのビニール袋がいくつかぶら下がっている。

「……つーか、ドコ行ってたんだ?」
「買い物」

 事も無げに名佳は両手に持っていたビニール袋を乱雑に放り投げた。
 ……つーか事も無げに何言ってやがる。

「勝手に彷徨くんじゃねぇっつのッ!」
「……っ、オレの勝手だろ」

 ……しまった、つい声を荒げちまった。下手に名佳の機嫌を損ねたら、ここから出て行きかねねーぞ。
 それは、色んな意味でヤバい。とりあえず落ち着け、俺。

 だが、俺の危惧など知る由もなく、名佳は不満げに口を開く。

「この部屋、なんにも食べるモノがなかったんだから仕様がないだろ」
「そっちの収納棚になんかあったろーが?」

 此処に越してきてから一度として使ったことのないキッチンの横を俺が指差すと、名佳は深ぁい溜め息を吐く。

「確かにあったよ、焼きそばパン」
「そらみろ―――」
「―――カビてたけどな。……いつのだよ、アレ」
「ぐ……」

 まだ大丈夫だろーと思ってたんだがな。……確か、1ヶ月前に。

「オレの"家族"は、カビてた焼きそばパンを食べろっていうのか?
 ネグレクトっていうんだぞ、それ」
「ネグ……なんだそりゃ?」
「ネグレクト。虐待の一種。
 衣服を洗濯しなかったり、食事を与えなかったりすることだよ。今ある育児虐待の約10%を占める社会問題で―――」
「―――だぁああっ! わぁった! わぁったから、どこぞロリコン官僚みてぇなテンションで喋んな、眠くなるっ!!
 ネグレクトだかネブラスカだか知らんが俺が悪かったっつのっ!」
「……そんなの知ってて当たり前―――っ」

 嫌味を言おうとした名佳の口がフリーズして、奇妙な静寂に事務所が包まれる。

「ンだよ、急に通夜みてーな面しやがって」
「……オレ、何偉そうなコト言ってるんだ?
 そんな知識よりも、もっとずっと……覚えていて当たり前なことも、忘れてる、くせに……」

 フェイドアウト気味に言って、名佳は俺よりも一回り小さな掌で自らの額を覆う。

「―――生きてりゃ、どうにかなる」

 俺は無対象に―――半ば、自分に言い聞かせるような言葉を呟いていた。

「無責任な慰めだ、そんなの」

 不貞腐れるように、名佳はそっぽを向く。心なしか、その背中は一回りほど小さく見えた。

「可能性はあんだろーが」
「可能性? そんな絵に描いた餅をぶら下げたところで何が出来るんだよ」

 怒りというには冷たく、悟った割には苛ついた言葉が背中越しに帰ってくる。

「……はっ、それに自分が誰かを思い出したところで、今度は変わり果てたこの身体に絶望して首を括ってるかもな?」
「―――っ、てめーは考えられるだろ、動けるだろ、ふてくされられる感情があんだろっ、あぁっ!?
 思い出した所で自殺だぁっ? ふざけんのいい加減にしやがれッ!!」

 我に返ると、目の前には両腕で頭を多い隠すように縮こまる名佳の姿があった。
 俺の右手が、拳を固めて勢い良く振りかぶられていたからだ。

 ……何ガキ相手にムキになってんだ俺は。
 二日間寝てねぇだけでこうも苛つくなんてトシなのか、俺も。
 跋が悪くなって、名佳から身体ごと向きを逸らす。

「……悪ぃ、今のナシ、忘れてくれ。
 幸不幸の匙(さじ)加減なんざ、人それぞれ違ってて当然だ。
 自分の価値観を押しつけあってどーこーする方が間違ってんだ」
「………」

 名佳は俯いたまんま何も答えない。

 オイシイ仕事だと思ったが、共同生活初日からこんな調子じゃ一週間なんぞもつワケねぇよ。
 それに、コイツを守りきれる保証も無い。
 ……仕様がねーな。

「……おい」
「? ……や……っ!!?」

 俺は……意を決して、無防備に目を逸らしていた名佳を床に押し倒した。

 弾みで、昨日買った名佳用の衣服がバサバサと床に散らばる。

「なんだよっ、なんなんだよいきなりっ!!?」

 輪郭がハッキリとした綺麗な瞳が、驚きと困惑の色に染まる。
 コイツだって年頃だ、言葉を濁してはいるが"その先"のコトだって分かってんだろう。
 名佳の色白な頬が紅潮していくのが見て取れた。

「溜まってンだよ、俺。最近、オンナ抱いてねーから」
「知るか……っ、離せ、離せよっ!!」

 押さえつけた細い両腕が熱を帯びる。その心中にあんのは、怒りか、焦りか、または、無自覚な"女"としての羞恥心か。
 ……そんなコトに興味はねぇ。

「……オレなんか、興味ないんじゃなかったのかよ?」
「さぁな。気持ちと下半身は別の生きモンだろ、男だったンなら分かるだろーが?」
「サイテーだなっ、アンタ……!」
「ありがとよ」

 鋭利な刃物を連想させるような恨み辛みの視線が向けられる。

「そう思えるんなら、まだてめーは真っ当な神経を持ってンだろ。
 ……やっぱお前は神代ンとこで預かって貰え。その方がいい」
「………」

 名佳のマウントポジションを取ったまんまの体勢で、強姦ごっこの動きをピタリと止める。

「アイツん家はいいぜ? 広いし、こんなとっちらかった部屋とは月とスッポンだ」
「………」
「こんな破落戸と暮らすより、よっぽどいいんじゃねーのか、安全性も、精神衛生面上にもよ」

 頷いたのを確認してから、俺は名佳を拘束していた両手を離す。

「……わぁったら、さっさと支度だ。
 こっちも一応仕事だ、送り届けるまでは一緒に居る、それまでは我慢してくれ」
「………。ああ」

 ……さて、この判断が吉と出るか凶と出るか。

「……?」

 それまで黙々と荷物をまとめてた名佳が不意に作業の手を止めた。
 その白い小さな手には、古ぼけた写真。
 ……って、それっ!?

「それ俺ンじゃねーかっ!? 返せっ」

 名佳から引ったくった写真に写っているのは、まだガキだった頃の俺と、肩を組んで屈託無く笑っているもう一人の少年。

「……ホモだ」
「違うわっ!!」
「じゃあショタ趣味?」
「だから違うっつってンだろがっ!!」

 ガキの頃の写真一つでどこまで想像が飛躍すりゃ気が済むんだっつの?!

「……どーだか」

 必死扱いてホモ疑惑を否定する俺をからかい飽きたのか、名佳は気のない返事をすると再びに荷物のまとめ作業に着手した。……言っておくが俺はホモでもショタ趣味でもねーからな。ノンケだからな。

「最初から、そんなことする気なんて無かったくせに」
「………」

 低い声で名佳が何か呟いた気がするが、俺は返事をしなかった。

 ……そっから先は会話もなかった。
 ただ淡々と、ただ黙々と。
 昨日、買い揃えた衣服やら日用品やらを、嬢ちゃんがセレクトした紅色のスーツケースにまとめて。
 ついでに俺はとっちらかった部屋を片付けて。
 やたらと広くなった事務所に施錠をし。

「……んじゃ、行くか」

 名佳からの返事は無かった。
 ただ黙ったまんま、事務所への入り口を見据えていて動こうとしない。

「おい」
「………」

 最近のガキは何考えてんだかさっぱり分からん。
 ……ったく。

「野外プレイのが好みか?」
「……っ」

 俺が言うと、名佳は逃げるように先を歩き出した―――。

「……[ピーーー]ば?」

 ―――と、離れた位置で毒づいて。
 おい、ビビるのか挑発すんのかどっちかにしてくれよ、面倒くせぇ。

 ……ま、恨まれるのなら仕事柄慣れている。一々気にしてたらストレスで禿げちまうからな。

 ……兎に角、漸く俺らは委員会のあるビルへの道を歩き出した訳だが―――。

 ―――その、道中のことだった。

「―――路上喫煙は罰金刑」

 汚らしい街並みを、通夜みてぇな面をして並んで歩いてる俺達に、空気を読まずに高圧的態度と高周波な音階で話しかけてくる女の声がした。
 目を向けると、フェンダーミラーの黒塗りの車から、相変わらずの童顔と背丈、そしてハニーブラウンの長い髪を拵えた女が降りてくるのが見える。

 ……こんな時にツイてねぇ。赤ラークを堪能してるとこを厄介な奴に見つかっちまった。

「……ンだよ、"ゴロリン"か」
「―――"ゴロリン"言うな、バカバネっ!」

 端から見ればフォーマルスーツに着られた女子中高生くらいのガキが俺に突っかかって来る珍妙な構図が出来上がる。
 ……信じがたいコトだが、下手すると名佳よりも年下に見えるコイツは、新宿区警察署捜査一課の新人の女刑事だ。

 本名が言いづらいってことで、俺が"ゴロリン"ってあだ名を付けてやったんだが、気に入らないらしい。

 ―――コイツとは、交通課の頃からの知り合いで、キッカケが何だったかは忘れちまったが第一印象は最悪だった。
 それ以来、俺が何らかの仕事で出場ってくると大抵コイツが立ちふさがる―――所謂腐れ縁って間柄だ。
 普段なら、コイツの"保護者"が場を収めてくれるンだが……。

「けほっ、けほっ。あー煙い煙い」

 ……大仰に咳き込む振りをしながら俺を睨みつけるコイツを見るあたり、今は保護者不在らしい。
 相変わらずイヤミな奴だ。
 致し方なく俺はジャケットの内ポケットに仕舞いっぱなしになってたソフト携帯灰皿に、まだ半分以上残ってる赤ラークを突っ込む。
 ……あぁ、勿体ねぇ。

「ふぅ………拝島は一緒じゃねぇのかよ」
「呼び捨てにすんなっ! 年上でしょ拝島さんは!!」
「少なくとも俺はてめーより年上だぞ、ほれ、敬え」
「ばっかじゃないのっ!? 誰がバカバネなんか敬うもんですか!」

 ―――誰がバカバネだ、コラ。

「それに、アタシがいつまでも拝島さんにおんぶにだっこだと思ったら大間違いなんだからねっ!」

 勢い良いゴロリンの啖呵を最後に、しばしの間、街頭ノイズが俺達三人を支配する。

「………微笑ましいな」
「……うん」

 顔を見合わせた名佳と初めて意見が一致した。

「二人してアタシが拝島さんにおんぶやだっこされてるトコを想像するなぁっ!!」

 冗談はさておいて。―――車には、拝島の姿は無い。
 ンだよ、新宿区警察イチの問題児を放ってどこ行ったんだぁ、あのオッサン。……はぁ、面倒くせ。

「んじゃな、急いでんだよ俺達は―――」
「―――待ちなさいよっ」

 ゴロリンが俺の二の腕にぴょんと飛びついて来た。身長差の関係で肩まで手が届かねーらしい。……本当に面倒くせー女だなっ。

「そっちの女の子、誰?」

 ゴロリンが、俺の腕にひっつきながら名佳を指して言う。……鬱陶しいな、てめーは俺の古女房かなんかかよ。

「……答える必要あンのかよ」
「っ、あるわよ、答えなきゃ未成年者略取、児童買春の疑いで逮捕するわよっ!?」
「うっわ、うぜぇ」
「サービスで公務執行妨害の現行犯も追加して欲しい?」

 本心を言っただけなのに、なんだこの権力の横暴は。

「……赤羽根……なの、か、です。兄が……その、いつも、お世話に……なっております」

 なんて誤魔化そうか考え倦ねていると、おずおずと名佳は口を開き、ゴロリンに頭を下げた。……ったく、そんな建て前なんざどうでもいいのに律儀な奴だな。それに、"お世話"になったことなんざねぇぞ、少なくともコイツには。

「……へぇ、妹さん?」
「は、はい」

 ゴロリンの興味のベクトルが名佳に向いてくれたお陰で、漸く、右腕の過負荷が無くなる。

「末っ子?」
「え、はい……まぁ」

 ゴロリンは名佳を嘗めるようにジロジロと見つめる。しばらくすると満面の笑みで――

「二人ともお兄さんに似なくて良かったねっ」

 ―――と、名佳の肩をパシパシと叩いて笑うゴロリン。……チッ、余計な事言いやがって。

「オイ、さらりとロリータスマイルでひでーコト言うなよ、失礼だろが」
「なっ、どっちが失礼よっ!?」
「間違いなくゴロリンだろ」
「だからゴロリン言うなぁっ!!」

 ……はあ。何が悲しくて、見た目は中高生の女刑事と路上コントまがいな事をしなきゃなんねぇんだか。

「あーもぉっ、そんな事よりっ! ……アンタ、この近くのアパートの火事があったの知ってる?」
「あン?」

 そう言うと、ゴロリンは目の前で腕を組みながら鋭い視線で訊いてくる。
 ……一昨日、この辺に設置された街頭ビジョンで見た臨時ニュースの事か? 此処から現場が近いトコだったか。

「あぁ、火事で野郎が一人おっ死んだアレだろ? おーやだやだ、焼け死になんざ痛そうじゃねーか」
「……火事……?」
「残念だけど、焼死じゃないんだよね。
 直接の死因は、……コレ」

 そう言って、ゴロリンは右手をピストルの形に見立てて自らのコメカミに突き付ける。
 おいおい、んな物騒な話をガキの前ですんなって。

「……ニュースじゃやってなかったぞ。いいのかよ、ンな機密事項垂れ流して」
「……い・い・の! どーせ、今日の夕方には正式に発表されるし」

 いや、そういう問題じゃねーだろ。
 可愛い子ぶりっ子したって誤魔化されねーぞ俺ぁ。

「……け、拳銃……?」

 ほら、名佳もビビっちまったじゃねぇか。
 でもまぁ、俺好みの―――文字通りのキナ臭さも後押ししてくるせいか、頭で考えるよりも先に口から質問が飛び出していた。

「……拳銃で撃たれた後での火事、ねぇ」

「……事故や自殺だってんなら、事件から丸二日以上経ってんのに捜査一課の刑事が熱心に聞き込みなんざする筈ねぇよなぁ?」
「―――勘違いしないで。アンタに捜査協力して欲しいなんて一言も言ってない」

 低身長にはアンバランスなハニーブラウンのロングヘアを靡かせてゴロリンは言う。
 ……否定しないっつーことはだ。
 要するに警察はこの案件を放火殺人事件として捜査してるんだな。
 ま、コイツが俺に知恵を貸せなんざ言うわけねぇし、興味が湧いたら詳しい経緯を拝島のオッサンにでも訊いてみるか。

「そうかい。んじゃ俺にはカンケー無いね」
「そう、言い切れる?」

 話を打ち切ろうとした途端に、妙な含みを持たせた言い方でゴロリンが詰め寄ってくる。
 ……まるで、俺がその事件に関係を持ってる確信があるみてーな口振りだ。

「気を遣うのもアレだから、この際はっきり言っとく。
 今度の事件、アンタも容疑者候補の一人だから」
「はぁっ!!?」

 写真一枚で俺にホモ疑惑をかける名佳といい、ゴロリンといいなんでそんな突飛な発想に行き着くんだよ最近のガキはよっ!?

「……バカじゃねーの? つーかバカだろお前」
「一応訊いておくけど、一昨日の午前2時頃、アンタ、何処に居た?」

 人の話、聞いてねぇな。

「事務所で寝てたっつの」
「それを証明―――」
「―――出来るわきゃねぇだろっ」
「妹さんは一緒じゃなかったの?」

 不意に名佳にゴロリンの視線が向けられる。
 ……マズい。
 何度か警察とやりあってる俺ならまだしも、コイツは素人だ。
 下手な受け答えをしたら痛くもねぇ腹を探られるコトになる。

「コイツがこっちに来たのは一昨日の20時頃だから証明なんざ出来るわけねぇよ」
「……ふぅん」

 ……あっぶねぇ。
 アドリブで受け答えした割には上手くいったな。少なくともこれで名佳に疑いが掛かることはない。
 後は俺に掛けられた疑いを晴らすだけでいいだろう。

「そもそもだ、何で俺が名前も知らねーような野郎を殺さなきゃなんねーんだよ」
「……神代 宗」
「あ?」

 そこで、なんでアイツの名前が出てくるんだ?

「警察は身元不明なんて発表してるけど、とっくに身元なんて判明してる。……その情報を止めるように指示したのはアンタと関わりのある――あの人なんだよ」

 ゴロリンは、悔しそうに唇を噛み締めながら呟く。一応、キャリア組でありながら圧力や権力という言葉を嫌うゴロリンらしい反応だ。
 ……って、ちょっと待て。

 神代家がいくら凄ぇ権力を持ってたとしても、警察の発表より早く事実を知っていなければ被害者の情報なんざ、せき止めようが無い。
 つまり、だ。
 少なくとも神代は被害者が殺された事を―――または被害者に何らかの異変があった事を明るみに出る前に知っていたってことになる。

「……誰なんだよ、その殺された"被害者"って」
「言ったでしょ。その情報は警察から発表することを止められてるの。これは、お互いの組織の信頼に拘わる問題だから」

 感情を押し[ピーーー]ように、女刑事は言う。そういう顔はちゃんと大人びて見えたような気がした。
 ……流石に、公僕が特記事項を漏らすような真似は出来ねぇか。

「ま、被害者が誰かは知らねーけど、あのロリコン官僚を経由して俺が疑われてンのは分ぁったよ。……ただな、一つだけ言っとく」
「後学の為に聞いてあげる」
「てめーの正義の為だけに好き勝手動いてたんじゃ、いつかしっぺ返しを喰らうぞ」
「っ……ご忠告、どうも」

 どうやら俺は知らず知らずの内にガンを飛ばしてたらしく、ゴロリンは怯んだ自分を見せないようにそっぽを向いていた。
 ……話を切るなら今の内か。

「……行くぞ、名佳」
「あ……うん」

 俺達は、ゴロリンに背を向けて、再び委員会のあるビルの方へと歩き出した。

「………次に路上喫煙見つけたら逮捕だかんねっ!」

 背後で恨みがましい声が聞こえた気がしたが、俺は聞こえない振りをして先を急いだ。
 つーか路喫って罰金刑じゃねぇの? てめーで言ってたくせに。

 ったく、余計な道草を食っちまった。

「……なあ」
「あン?」

 仏頂面で名佳は訊いてくる。さっきまでのしおらしい態度が嘘みてぇだな。
 ………いや、十中八九嘘なんだろーけど。

「あの刑事さん、名前なんていうんだ?
 まさか……あのあだ名が本名なワケないよな?」

 あー、ゴロリンのコトを言ってんのか。勿論、本名なワケない。

「宮前 芽依(みやまえ めい)だ。言いづれぇからゴロリンって呼んでる」
「……本名となんの関係性もないあだ名だな」
「そりゃそうだろ。アイツの見た目で決めたあだ名だからな」
「……見た目?」
「"合法ロリ警官"の略だからな」
「………っ」

 ……今、名佳の奴、笑わなかったか?

「……勿体ねーな」
「……? 何がだよ」
「なんでもねーよ」
「………変な奴」

 お前にだけは言われたくねぇよ。

――――
―――
――

「申し訳ありません。只今、神代は席を外しております」

 漸く辿り着いたロリコン官僚のネグラの一階。
 そのフロントに居た受付のねーちゃんにサラリと言われ、俺はガクリと頭を垂れた。

「嬢ちゃん―――秘書の坂城 るいも居ねぇの?」
「お答えしかねます」

 受付のねーちゃんが慇懃無礼に即答する。

「……アンタが不審者みたいだから受付は答えてくれないんじゃないの?」

 そして、俺の横でサラリと毒づく名佳。

「余計なお世話だっつの。……あ。
 あーそうだ忘れてた」
「……なんだよ」
「向こうさんにも事情があるんだよ、イロイロ」
「……ふぅん」

 ……一応"私設秘書"っつー扱いで籍を置いちゃいるが、嬢ちゃんはまだ高校生だ。
 委員会は厚労省直轄の公的機関だし、嬢ちゃんの存在は世間的によろしくねぇってことで一般人には知らぬ存ぜぬを通してるんだった。
 体面を繕うのも大変だな。

 ……ま、急ぐワケでもねぇし、事務所で気まずい思いをしながらダラダラ過ごすよりはまだマシか。

「……んじゃ、気長に待たせてもらいますかね」
「……」

 拭いきれないぎこちなさを抱えたまんま、誰も座っていないフロントの長椅子に向かおうとした―――そん時だった。

「―――あれあれっ? こんなお堅い場所でなーにしてるんですか、おっふったっりさんっ!」

 飛びハネたような歩調を体現したような可愛らしさをまとった声が、入り口から飛んでくる。

「坂城……さん」

 トレードマークの青いリボンで結ったポニーテールのおかげか、遠目からも分かる。
 嬢ちゃん―――坂城るいだ。……つーか、仮にも自分の仕事場を"お堅い場所"なんて言ったら他の職員に睨まれるんじゃねーのか?
 どうやら高校の帰りらしく、制服姿で学校指定の鞄を肩から下げていて、音楽を聴いてんのか両耳にハマったイヤホンをしきりに弄っている。

「ん?」

 その嬢ちゃんの両サイドに、見慣れない男女二人の姿。

 ブリーチを失敗したみてーな斑な茶髪が痛々しい学ランのガキと、嬢ちゃんと全く同じセーラー服を着ている女子。
 ……嬢ちゃんのクラスメートかなんかか?

 そこに神代の姿はない。くそっ、相変わらず大事な時に空気を読まねぇな、あのロリコン。

「よぉ、19時間ぶりくらいか?」

 嬢ちゃんだけが俺達に駆け寄ってくる。他の二人は少し離れた場所で何かを話してるみたいだが……まぁ気にするだけ無駄か。

「……ごめん、ひーちゃん、初紀ちゃん。先に行っててっ、すぐ戻るから!」

 何かを察したのか、スカートをふわりと翻して嬢ちゃんは連れの二人を促した。
 高校生の男女二人組は顔を見合わせた後に、こくりと頷いて、奥のエレベーターに乗り込んで行く。

「……あー。あの子達は私と同じ"被験者"ですよ」

 嬢ちゃんはイヤホンを片耳だけ外しながら、俺の質問の先回りをするように平坦な口調で答えた。……曲を止めるつもりはないのか、もう片方のイヤホンとプレーヤーをしきりに気にしながら。

「いや、まだ何も言ってねぇんだが」
「目がそう言ってますよ?」

 ……まぁ、確かにフツーの高校生が役場やら病院やらをすっ飛ばして、いきなり異対(異性化疾患対策委員会)の本部に来るわけはねぇから、気になってたっつーのは事実だが。
 なるほど、嬢ちゃんと同じっつーことは、あの二人も運悪くレアな貧乏くじを引いた不幸なヤツってことか。南無。

「で、どうしたんです? 二人してクマなんて作っちゃって?
 あ、もしかして……一線越えちゃいましたか? 一戦交えちゃいましたか?」
「「越えてないし交えてないっ!」」
「あはははっ、相変わらずのシンクロ率ですねっ」

 嬢ちゃんがしたり顔で言った冗句があながち間違ってないのが怖い。例え本気じゃなかったにしても、だ。
 ……あーもうっ! 今はそんな冗談に付き合ってる場合じゃねぇだろ。
 さっさと本題を切り出そう。

「あのよ―――悪ぃがこの仕事、降りようと思ってよ。コイツも嫌がってることだしな」

 俺は努めて事も無げに言ってのけた。
 ……嬢ちゃんは、ほぼ無反応のまんま何も言わないで居る……そのまま無拍子に殴られそうで少し怖ぇ。

「ホントに?」

 漸く口を開いた嬢ちゃんの質問は、意外にも平静さを持っていて、少し驚く。
 昨日の今日だから、食ってかかられるのも覚悟のつもりだったんだが……何だか拍子抜けしちまうなぁ。

「ああ、マジもマジ、大マジ―――」
「―――"オジサン"には訊いてません」
「っ」

 ……おぉ、恐ェ。
 ……どうやら、嬢ちゃんの平静さは名佳に用意されていたものだったらしい。
 今、捕食する猛禽類の目をしてたぞ嬢ちゃん。マジで殺されるかと思った。

「ねぇ、なのちゃん。答えて?」

 名佳に視線を戻す一瞬で、嬢ちゃんはまた菩薩みてぇな優しい表情に戻る。
 ……なんつー変わり身の速さだ。

「……」
「なのちゃん、お願いだから」

 答えあぐねている名佳を見て、嬢ちゃんは優しい声色と懇願するような声で言葉を繋げる。
 ……名佳が腹の底で何を思ってんのか知る由もねぇけど、少なくとも嬢ちゃんの期待する答えが返ってきそうにないことだけは俺にも察しがつく。

「……ごめん」

 しおらしげに、一言添えて嬢ちゃんに頭を下げる名佳。
 本心かどうかさておいて、事務所での時よりはマシな反応で、俺は内心で安堵の溜め息を吐いた。

「そっかぁ……」

 ……それでも敏腕秘書サマにとっちゃあ厄介事に変わりねぇんだろう。
 悩む時の癖なのか、嬢ちゃんは前髪の指先で巻き付けながら天井を見つめている。

「……でも、坂城さんが条件を飲んでくれたらもう少し頑張ってみようと思う」

 まるで嬢ちゃんの困り果てた表情を待ってたみてぇに、名佳は間髪を入れずに口を開いた。

「―――」

 ん……何だ?
 今、名佳の奴、嬢ちゃんには見えないように、俺に何か口パクで言わなかったか?

 ………"悪い"?

「えっ、何だろ? 言ってみてっ、私に出来ることだったら協力するからさっ」

 嬢ちゃんにとって名佳の言葉は渡りに舟ってとこだったんだろう。困り果てた表情が途端に明るくなる。

「オレの質問に……答えて欲しい」

 ―――その言葉で、俺は漸く名佳の真意を悟った。あんにゃろ……俺とほぼ同じコトを考えてやがったのか。
 ……くそっ、先を越された。
 さっき名佳が口パクで言った"悪い"ってこのコトかよ!?

「質問?」

 コトの成り行きを知らない嬢ちゃんはキョトンとした表情で首を傾げてみせる。

「簡単なコトだよ。何でオレは警察とかに届けられてないんだ?」

 ……あーあ。言っちまった。

「……っ」
「どう考えても、こんなの異常だと思うんだけど」

 名佳の言う『こんなの』っつーのは、恐らく異対のとる自分への待遇のことだろう。

 組織のトップが異性化疾患に対して御執心だからっつってもだ。

 ケーサツに届けも出さずに自前の魔法のカード(金)から保護費用を捻出するとか、
 赤の他人で―――しかも男一匹で暮らしている俺を保護者に指名するとか、
 いきなり学校への編入手続きをするだとか、
 ……身も蓋もなく言っちまえば名佳の言う通り、異常そのもの。
 記憶を喪ったガキだって、ちっとアタマを使えば分かる話だ。

 ……だが、問題はその次だ。

「女になったからとか、記憶を喪ったとかじゃ、説明が追い付かないことだらけじゃないか」

 今のところ、女になったから記憶を喪ったっつー明確な根拠が無い以上、あのロリコンが……異性化疾患の"被験者"として扱うとは考えづらい。
 万一、名佳を被験者として扱う仮定で考えたとしても先程挙げたような違和感は残る。

「その理由を訊かない限り、オレは―――」

『実は、私もよく分かってないんです』
『あン?』
『いくら私設の敏腕秘書を自称しても肝心なコトは私に流れてはきません。
 ……当然、ですよね。一介の女子高生に与えられる情報量なんて、大したコト、ないんですから』

 不意にデパートでの嬢ちゃんとのやりとりを思い出す。

 ……そこに、妙な違和感を覚えた。

「なっと―――んぐっ!?」
「―――そーガッつくなよ」

 畳み掛けるような名佳の詰問を遮ることにする。……無論、物理的にだ。

「んーっ! んぅーんっ!!」

 俺の両手に塞がれた小さな口が何を言おうとしてるのかさっぱりわからんが、とりあえず俺を非難するような罵詈雑言だろう。聞くだけ無駄だ。

「悪ぃな嬢ちゃん。その質問、今は答えなくていいわ」
「は、はいっ!?」

 内心では、俺が名佳を使ってコトのあらましを聞き出そうとしてると踏んでいたのか、嬢ちゃんはオクターブ高い素っ頓狂な声をあげる。
 ……いや、正直俺も気になってたんだが今、その話をすんのは得策じゃない。

「んーぅっ!」
「ちっと黙れ。てめーの訊きたいことは後にしろっての」

 辺りを見回すがそれらしい姿は無い。
 ……クソっ、何でそこまで考えが回らなかった?

「んーぐぅっ!!」
「いっつっ!!?」

 右手の平に激痛が走る。……名佳のバカが噛みつきやがったからだ。
 おー痛ぇ……歯形がくっきり残ってら。

「けほ、けほ……っ、何する……――――!?」
「―――なぁ、嬢ちゃん。最近、その音楽プレーヤー、調子悪くねぇ?」

 抗議する名佳を無視して、俺は嬢ちゃんの片耳にハマったまんまのイヤホンを指差した。
 嬢ちゃんに思い当たる節は……あるみてーだな。
 名佳は相手されないのが不服なのか、そっぽを向いている。

「……よく、分かりましたね?」

 嬢ちゃんの持ってる音楽プレーヤーは少し古いものらしく、メインのプレーヤーにワイヤレス機器をくっつけて情報を飛ばし、小型の受信機にイヤホンをくっつけて曲を聴くっつー仕組みになっているらしい。
 その証拠に、嬢ちゃんの首にぶら下がってる機器はサイコロみてーに小さい。操作出来るのは、せいぜいアナログなスイッチのオンオフくらいだろうな。

「しきりに耳を気にしてたからな」
「へぇ、伊達に探偵さんやってませんね。ちょっぴり見直しました」
「惚れ直したの間違いだろ?」
「………。昨日からイヤホンから偶にノイズが聴こえてくるんですよ」

 俺の渾身の冗句を半周も年下の女の子にスルーされた。……いや、凹んでる場合じゃねぇんだけどよ。

「……"偶に"っつーか、主に登下校中とか、こっちに来る時だろ? それ以外はフツーに聴ける筈だ」
「そんなコトまで分かるんですか?」

 嬢ちゃんは目を丸くしている。……どうやら当たりらしい。

「……十中八九、原因は"それ"だな」
「ちょっ、赤羽根さんっ!?」

 俺は嬢ちゃんの肩から下がってる学校指定の鞄をひったくり、中身の物色を始める。

「もぉっ、何ですかいきなりっ!? プライバシーって言葉知ってますかっ!!?」
「知ってっから今、こーしてんだろーが」
「え……っ?」

 鞄のファスナー付近を調べていた指先に何か小さなものが当たる感覚。
 この感触は……ビニールテープか? 乱雑に貼り付けられたのか、そこかしこに気泡のような凹凸。
 ……兎に角、剥がしてみるか。

 ―――すると、接着面に張りついた4センチくらいの黒い長方体が白日の下に晒される。

「これ……!?」

 ……ビンゴみてーだな。

「コイツは嬢ちゃんの持ち物か?」
「……違いますね」

 その物体の正体に気付いてるのか、嬢ちゃんは嫌悪と驚きが入り混じった表情を浮かべていた。

「……なんだよ、それ」

 成り行きだけは聞いていたであろう名佳が、好奇心に負けて振り返る。……が、その正体は分からないらしい。
 ……ま、身近なトコに存在するような代物ではないから致し方無いんだが。

「いいから見てろ」

 俺はその黒い長方体を床に落とし、そのまま全体重を掛けてそいつ踏み壊す。

「な……っ!?」

 そん中から、緑色の基盤、剥き出しになった丸い機械、そして、一昔前のポケットゲームに使ったような極小のボタン電池が姿を現した。
 ……どうやら間違いなさそうだな。

「小型の盗聴器だ。
 恐らくコイツが発する電波障害でイヤホンにノイズが入ったンだろう。
 ……問題は、"いつ、どこで"そいつが仕掛けられたって話だが」
「……あっ」

 嬢ちゃんと名佳は多分同じキッカケを思い付いたんだろう。
 二人して顔を見合わせている。

 ―――デパートであった、ひったくり事件。

「盗られたモンは無かったってコトであん時スルーしちまったのがアダになったな、嬢ちゃん」
「………っ」

 流石の嬢ちゃんでも皮肉を返す余裕無しか。
 おー、嬢ちゃんが奥歯を噛み締める音がこっちにまで聞こえてくるわ。
 虚勢は張ってるが、所詮は思春期真っ只中のお子様だっつーコトか。
 まぁ、ちっと予定は狂っちまったが、あの口の堅い野郎を呼び出す手筈は整っただろう。

「さて、アタマの回転が早い敏腕秘書様なら理解してンだろ? 俺が言いたいコトが」

 嬢ちゃんは、真顔でコクリと頷く。
 ……その真横で一人、話の真意を読み取れずに、自分は蚊帳の外だと言わんばかりの名佳が不貞腐れていた。

「まぁ経緯はどうあれ、てめーの目的は達成したんだ。そーイジけんなよ。名佳」
「……イジけてなんかないっての」
「……どーだか」

 俺は名佳に言われた事をそっくりそのまま返してやった。

 さぁて、どんな裏事情が飛び出すことやら。


【赤羽根探偵と奇妙な数日-2日目-】


   完


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年09月04日 22:32
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。