ミュテリア魔法学園~魔法にょたこフォクシー~

姶良の体がワナワナと震えていた。その体からはどす黒いオーラが湧き出ているように見える。

「あいつ・・・あいつ・・・俺っちに黙って・・・美味しいもの食べる気だなぁ!!いいさ、あぁいいさ!」

姶良の体が更に震えていく。そして一呼吸置いて

「しかも、あんな男を釣ってただ飯かます気だなぁぁぁ!?うがぁあぁぁぁ!!お、お・・・・俺っちも仲間に入れろーーー!」

フォクシー達が居る場所から、数十メートル先の廊下から階段に差し掛かっていた沙羅達を見て、姶良は地団駄を踏んで大騒ぎ。
一方フォクシーは納得がいかない様な顔で階段へと消える二人を眺めていた。彼女が見た沙羅の様子は、明らかにチャラを風の男に手を引っ張られながら歩いていた。
この距離からでは沙羅の表情は分からなかったが、彼女が男を釣ったと言う風な感じには見受けられなかった。
けれど、自分が見て思ったものが全て真実と言うわけではない。沙羅という少女がこの状況を悪いものとしているかどうかなど定かではない。もしかしたら、我々はただの邪魔者になってしまう可能性もあると。

「待って!姶良!」

焦るように走り出そうとした姶良の両手を掴んで強引に引き止める。

「ぎゃふん!!」

ぎゃふんなんてギャグ的な台詞を始めて耳にしたフォクシーは少し呆然としていたが、すぐに気を取り直して沙羅に話しかける。

「ちょっと冷静に考えて見てよ!」

「だー!じゃまするなぁ!!」

「僕は沙羅との付き合いはまだ無いに等しいけれど、あのこはああいう軽い感じなの?」

「・・・・いや、軽いも何も修行時代は色恋系は禁止だったから、そう言うのには疎いはず・・・・あ」

「じゃあ、男を落としにかかる戦術とかそんなのは知らないわけだ」

「・・・・あたりまえじゃん。女人禁制をなめちゃだめよ」

「だったらさ、友人として暖かく見守るってのもありなんじゃない?」

姶良はそうフォクシーに諭され、暫く沈黙を続ける。姶良はあの時のことを思い返していた。この魔法学園への扉をくぐる前、沙羅が口にしていた決意の言葉を。
彼女らもまた、フォクシーと同じくせい転換するまでRL現象なんて言葉や知識すら知らなかった。異性として生きていく覚悟や決断なんて各々経験してきているはずだ。

「わかったよぉ・・・でも!沙羅に悪い虫に集られないように、守ってあげるのも友人の務めである!うむ!」

へぇ・・・いいこというじゃん。とフォクシーは心の中でつぶやくと、素直に感心した。これが心許せる親友と言うものなのか、と。

「というわけで、早速尾行かいしー!」

そう言うと、尾行するようにこそこそと歩き出す。あらら・・・とフォクシーは心の中でつぶやくと、素直に落胆した。まぁ、でも何かあってからじゃ遅いし。と同じようにフォクシーも尾行を開始。

「ところで、姶良ちゃん?」

「なによー?」

「尾行対象、既に見失ってるんですけどー?」

ミュテリア魔法学園の外は巨大な魔法で作られた大きな街があった。
現代の日本風にアレンジされたミュテリア魔法学園日本校の周囲に取り巻く都心部の町並みは、現実世界の日本で言うところの東京都や京都、様々な都市や名所をごった煮にしたような都市だった。
しかも、ところどころに実践訓練用の施設や森林部や砂漠があったりと、不自然極まりない構成となっていた。
そして、沙羅と魔裟斗が歩いているのは、都市部でも一番魔法学園に近い東京都にも似た街の繁華街を歩いていた。
ところどころから食欲を誘う香りが漂っていて、沙羅のお腹がぐぅ~となりそうになる。
お腹すいたな・・・飯でも食べに連れて行ってくれれば嬉しいなぁ。とかのんびりと構えていると、そんな繁華街をそのまま魔裟斗は通り過ぎていく。
あれ?と少し期待をそがれた沙羅は、腹ペコになったお腹を軽くさすって空腹を少しばかり堪えようとする。
気がつけば何処か殺風景な場所が目の前にあった。空腹に気を取られているうちに、よくわからない場所につれてこられていた。

「えっと・・・・どこに行くの・・・かな?」

相手の意図が読めなくなり、魔裟斗に対して少し不安げに尋ねてみた。

「ははっ、ちょっと殺風景だけど、こっちに俺達の仲間がいるんだ。遊ぶなら、多いほうがいいでしょ?」

仲間?遊ぶ?多い方がいい?仲間と待ち合わせ?と沙羅は少しでも良い方向へ考えようとする。
取り方によっては、複数の男女で楽しくワイワイカラオケにでも出かけるような言葉にも聞こえる。悪い方・・・正直考えたくなかった。集団リンチ。
いや、この場合、この体の場合、女である自分自身に訪れる最悪の事態──
考えるまでも無く、こういう事態になる可能性を想定しておくのが女性として生きていく事なのかもしれない。
何らかの施設らしき建物が並ぶ建物の間の薄暗い隙間が見える。魔裟斗が足を止めて、幾つかの隙間を探している。沙羅がここまでの考えに至る前に、どうやら目的地周辺へ到着したらしい。

「あっ、あの!!」

「ん?なに?」

「俺、帰る」

「は?何言ってんの?ここまで来てそれはなんじゃないかな?」

「け、けど!ここで何をするんだよ!」

「はぁ・・・安心しなよ。この奥にちょっとしたライヴハウスみたいなバーがあるんだよ。結構オシャレだぜ?」

「い、いい!帰る!」

逃げそうになる獲物を少しでも繋ぎ止めようと必死に安全だとアピールを続ける魔裟斗だったが、彼の中で何かがぷちっと千切れる。

「あーうぜー!元男の癖に何怖気づいてんの!?だせぇーんだよ!あたし等にしてみりゃテメェみてぇな奴は腰抜けっつぅんだよ」

乱暴な口調で自の都合を正当化する魔裟斗。

「ひっ!」

気おされるような大きな罵声に、沙羅は体をびくつかせる。
こういった乱暴で気性の荒い人間とはこれまで距離を置いて生きてきた沙羅にとっては、身を震わせ思考を鈍らせるほどの大きなショックを与えられている。
どうやって立ち向かう。いや、そんなのは無理だ。自分と違って相手はそういった事柄に慣れ親しんできたような人間だ。自分に適うわけが無い。
この女の細腕でどうしたらいい。この女の細い足でどう逃げたらいい。この状況の打開策を考え始めても、すぐに行き着く答えは。
無理──だった。
少年は動かなくなった少女の腕を乱暴に掴んで、闇の中へと引きずり込んで行った。

とある少年は見知らぬ道を歩いていた。右も左も分からず途方に暮れつつ人気の少ない路地を歩いていた。
少年はこの地の地理に疎かった。それもそのはず、彼もまたミュテリア魔法学園の新入生だったからだ。
少年の風貌はミュテリア魔法学園の男子生徒用のブレザー姿だ。一般的な日本人男性に流行している髪形とは色も形も違い、まっすぐと伸びた金髪は背中まである。
そして、そのキリリとした整った顔立ちは、時折すれ違ったOL風の女性を度々振り向かせるほどの美貌だった。
男性とも女性とも取れるその顔立ちはまさに中性的と言えるものだった。
少年はただひたすらに歩く。その肩には何やら1メートルほどの長細い物が専用の袋に仕舞割れた状態で担がれていた。
少年が一つ足を踏み出して次に地面と捕らえたときに、カチャという音が、袋の材質に阻害されて曇って聞こえてくる。
ただひたすらに歩いていた少年はついに足を止める。そしてこう言った。

「ここはどこだ?」

そんな美貌を持つ少年は正真正銘の方向音痴だった。

「参った。寮を立った時は問題なかったのだが・・・帰り道ともなると、こうまで風景が違うとは・・・・」

彼はかれこれ1時間は迷子になっていた。しかし、肩に重そうな何かを担いで歩いているのもかかわらず、彼に疲れの色はこれっぽっちも無かった。

「やはり、男性用の衣服は動きやすいように作られている。機能美とはまさにこのことか?お師匠様、なぜ今までこの私にあんな服を着せていたのか、理解に苦しみます」

淡々と、丁寧な口調の少年は明後日の方向を見上げて一人つぶやく。どうやら、彼の疲労の色を少しも見せなかったのは衣服によるものが起因しているらしい。
つくづく男は楽だ。と、そう少年が感慨に耽っていると、一つ二つ先の建物の脇あたりから、男性の罵声が聞こえてきた。
こんなところで喧嘩か?と下らないな。
と大して気に留めずそのままその場を立ち去ろうとしたとき、彼の目に足を引きずられながら建物の影へと消えていく少女の姿が見えた。
一瞬の光景だったが、彼はその鋭い眼光で一瞬で状況を判断した。
怯えた少女の顔。怒り狂った少年の顔。口喧嘩というにはあまりにも一方的すぎる状況。
少年は肩に担いだ物をぎゅっと握り締めると、嫌悪感を抱いたような声でこう言った。

「どこにもいるのだな。ああいう族は」

はぁ、とため息をつき、少年は少女が消えた暗闇に向かって一人足を踏み出した。


一方、フォクシーと姶良は途方に暮れていた。尾行対象であった沙羅が一向に見つからず、沙羅を見守ると言う彼女らの決意が早くも破綻しかけていた。

「おなかすいたね・・・・」

「あうーーー!それいうなー!」

「はぁ・・・・僕は沙羅の携帯番号は知らないしね・・・・とはいえ、電話して居所を吐かせるなんてナンセンスだよね・・・」

「お、おお!おおおおおお!その手があったぁぁ!!」

「だから、それはマナー違反っていうか、尾行にならないでしょ!」

「ちっちっち!それは違うぜセニョリータ」

フォクシーは、なにが?と眉間にシワを寄せて怪訝な顔で沙羅の顔を見つめる。

「お友達GPSアプリ~」

沙羅は、何処か聞き覚えのあるアニメキャラの口調で天高々に携帯電話を掲げた。魔法学園にそんな科学技術は、それこそナンセンスだ。と、フォクシーは思った。

「魔法で作られた空間にGPSなんて意味があるの?」

フォクシーの素朴な疑問に、あっと言葉を失う姶良。

「そんな事だろうと思ったよ。とにかく探そう?門限一時間前になっても見つからないようだったら、電話しようよ」

「むー!そんな事は無いのだ!」

名案を一瞬で潰されたのが悔しかったのか、ピポパと携帯アプリの操作を始めた。

「ビンゴ!沙羅はっけーーん!!」

そんなばかな、ありえない!とキョトンとしたフォクシーをよそに、一人沙羅の現在地を調べていく。

「おろ、ここって繁華街じゃないよね?」

と、携帯の画面をフォクシーにも見えるように傾ける。
フォクシーは、姶良に寄り添う格好で一緒に携帯電話の画面を覗き込む。
携帯の画面にはGPSアプリがしっかり起動されており、パンフレットで確認した事のある魔法学園周辺の地図が表示されていた。
そこには姶良が設定したと思われる沙羅のパーソナルマークが、その地図の中心に表示されていた。
信じられないものを見たかのように目を点にしていたフォクシーは、その真偽を確認すべく姶良から携帯を奪い取る。
更に細かく調べていくと、そこは特殊訓練施設が立ち並ぶ一帯であることがわかった。

「なにこれ、すごい。昨日確認したパンフレットの地図と一緒だ!確かここは特殊訓練区みたいだね。なんか動いてないけど」

どういうわけか、魔法空間でもGPSは機能するらしい。なんだか色々とナンセンスだが、あまり深く考えると頭がおかしくなりそうだったのでそれ以上考えない事にした。

「あれ・・・?でも、ここって授業が始らないと開放されないはずだよ?今は人も居な──」

途中まで言いかけてそのまま沈黙するフォクシー。

「ん?なに?どしたんだい?」

「なんか変じゃない?デートって言うなら繁華街周辺が相場っていうか定石じゃないかな?普通」

「え?うーん。そう・・・なのかな?」

「そうなの!」

修行寺出身の坊さんにはその類の知識は疎いらしい。エロやオタクな知識だけ一人前なようだけれども。
うーん。と考え込んだまま動かなくなる沙羅。

「怪しいよこれ!絶対に怪しい!男が人気の無いところに女の子を連れて行くなんて・・・・そんなの──」

「!!俺っち達・・・・今女の子?」

「そうだよ!ほら!」

「はうわぁ!!ななななな、何するんだよぉーー!!」

フォクシーはそう言うと、沙羅の小さな胸を乱暴に揉みしだく。エロイという程の手つきではなかったが、姶良は他人に胸を触られた事が初めてだったので、顔を赤らめて恥らう。

「ううう・・・何するんだよぉ・・・弱いんだぞ胸・・・」

恥ずかしがってばかりで何も気がつかない姶良に対し、はぁ・・・とため息をついた。

「つまり・・・・沙羅の貞操が危ないかもしれないってこと!!」

「なっ!そ、そんな!そんな!沙羅のあの綺麗な体は俺っちだけのものなんだぞ!許すまじーーー!!」

はぁ、まぁいいか・・・と、とにかく沙羅の危機に気がついた姶良を連れてGPSの発信地を目指すために走り出す。

「行こう!こんなのは許せない。絶対に許しちゃダメなんだ!」

もちろん、フォクシーとしてはこの予想が真実で無い事を祈っていた。だが、その疑念を払えず苛立っていた。彼は弱者への理不尽な暴力が何よりも嫌いだった。



建物と建物の間にある、黒い隙間の先にあった建造物の中に沙羅とツンツン頭のチャラ男、魔裟斗が居た。その部屋は確かにライヴハウスをモチーフにしたようなバーで、天井にはスポットライトやカラーボールで飾られていた。
カウンターの向こうには棚に酒瓶に似せたソフトドリンクの瓶が置かれている。魔裟斗は沙羅の腕を乱暴に掴んだまま、カウンター脇にある扉の方を見つめていた。その時間は沙羅の精神を安定させるには十分な時間だった。

「放せ!放せぇぇ!!」

冷静になった沙羅は魔裟斗の手を振り払おうとがむしゃらに腕を振り回そうとする。しかし、男性の握力は女性の腕力にも匹敵しない。魔裟斗は涼しい顔でそれをあしらう。

「ちっ!さっきまでビビってたと思ったら急に騒ぎ出しやがって・・・うぜぇ!」

と、が腕を振り上げて沙羅の頬を平手打ちで吹き飛ばそうとする。

「ひぃっ!」

沙羅は身を強張らせるが、彼の振り出される事は無かった。いや、やりたくてもできない香のようにワナワナと震えてその手を止める。

「がぁっ!な・・・!!どうして!でき・・・ない・・・・!」

「そりゃそうさ」

すると、カウンター脇の扉がキィという音と共に開かれ、その奥から身長180センチくらいの男が現れる。その姿は暗くてよく見えないが、ブレザーらしき制服を着ていた。
ブレザーのボタンは止められておらず、シャツの第一、第二ボタンははずされている。その胸元からは数珠にも似たシルバーネックレスが不適に輝いていた。その男は現れたその場で更に言葉を発した。

「そう言うように"念じた"からなぁ。ん?」

男は歩き出した。ゆっくりと。そしてその姿が更に露になる。髪の毛は黄色に近い金髪で顔立ちは黄色人種だ。耳にはなにやら細長いピアスが右耳にだけつけられていて、そのピアスの先端からは丸いわっかが複数ぶら下がっている。男が歩き出すたびにそのわっかがシャリンシャリンと小さく部屋の中で響き渡る。

「ご苦労さん、お前帰っていいぜ」

「な、渋谷さん!どういうこ──」

渋谷、そう呼ばれた男は軽く頭を振ると、ピアスの輪がシャリンと部屋に響く。

「ぐぅっ!!・・・・・は・・・い・・・」

「んあ、やっぱいいや、お前、入り口見張ってろ。邪魔が入るのも・・・シャクだからなぁ!」

はい、と歯切れ悪く魔裟斗が返事をすると、部屋の外へとフラフラしながら歩いていった。

「はいはい。邪魔者は退散退散」

前谷沙羅はその状況をずっと眺めていた。
苦しそうに何かに抗っていた様にも見えたが、渋谷と呼ばれた男の一言でいとも簡単にその言葉に従ったあの少年。
それと、あの男が扱った何かを。

「僧が使う念・・・幻術の一種・・・・」

「ふん、同業者な。さてと」

沙羅の言葉にさして興味も見せず、沙羅の方へと歩き出す。

「俺、帰ります。じゃあ」

沙羅はそう言って振り返ると、そのまま部屋を出ようとする。

「おっと、逃げらんねぇぞ。アイツには入り口見張ってろ俺の邪魔をするな。と念じてある。誰も通さねぇぜ?」

「なっ・・・・くっ!」

それでも沙羅は、渋谷の言葉を無視して出口へ向けて走り出す。

シャリーン

と、部屋に音が響き渡る。

「動くな」

その言葉を耳にした沙羅は急に動きを止める。と言うか、動かなくなった。金縛りにかかったかのように、体の自由が利かず、足はコンクリートで固められたかのように動こうとしない。

「なぁ!?うごけ・・・ない!?」

シャリーン

「そして、こちらを向け」

己の意思と反して、体が勝手に渋谷の方へ動き出す。そして、渋谷を正面に捉える角度まで振り返って体が止まる。
すると、渋谷は動かなくなった沙羅の目の前にまでゆっくりと歩いてやって来た。そして、腰を落として沙羅の顔を覗き込んできた。
沙羅の容姿を確認して何かに満足したのか、口元をにやりと歪ませた。

「いいねぇ、俺好みだわ」

そう言うと、沙羅の黒くてサラサラと伸びた髪の毛を頭の上から毛先まで指を這わせる。
その指は腰の辺りで止まり、一呼吸置いて更に腰から下へと這わせていく。

「くぅぅぅぅ!!」


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最終更新:2010年09月04日 23:08
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